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68.番の役割−2
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「団長殿にこのような情けない姿を見られるくらいならば、いっそ殺せ!」
興奮して物騒なことを叫ぶヨカナーンをどうしたものかと思う。
白妙の呪いで眠らせていたにしても、こんなに長時間目を覚まさなかったのは身体が余程に弱っていたからだ。
ゆっくりと療養して貰いたいけれど、そんな申し出を彼が受け入れるとも思えない。
本当にどうしよう?
「ヨカナーン、少し落ち着け。そんな身体では何処にもいけまい」
あっ、馬鹿! ロクの奴、ヨカナーンが見られたくないって言ってるのに姿を見せたりして……。
「来ないで下さいっ!」
血を吐くようなヨカナーンの叫びに、俺は意を決して部屋に乱入した。
「ロクッ! 待って! 俺が話をするからっ!」
「チヤ? 来るなと言っただろう」
顔を顰められて腰が引けたけれど、ここで引き下がる訳にはいかない。
「ヨカナーンは俺に会いに来たんだからっ、俺が相手をする! ロクは引っ込んでてっ!」
フーッフーッと肩で息をする俺を、ウィリアムや侍従たちが吃驚したように見ている。
俺が強く言うのはそんなに珍しいかよ。
「しかしお前はこいつに襲われたんだぞ?」
「だから誤解だって! 俺が王都に来たと知って会いに来てくれたの! 余り話をしないうちに倒れちゃったから、取り敢えずここに連れてきたの! ほら、みんな出てってよ。お茶の仕度をしてきて」
俺はシッシッと手を振って人払いをし、むっつりと俺を睨んでいるロクを睨み返した。
「チヤ、ヨカナーンが恨んでいるのは私だ。お前が責任を感じる必要はない」
「違うね。ヨカナーンはあんたのことを恨んだりしていない。そんなこともわからない奴に、彼を任せたり出来ない」
「チヤ!」
苛立つロクの肩の辺りがチリッとして、オーラみたいのが立ち昇っている。
そんな風に、ロクに敵意みたいなものを向けられるのは初めてで凄く怖い。
ロクが俺を傷付ける筈はないとわかっていても、厳しい顔をされているだけでも胸が痛い。
でも折れる訳にはいかない。
「……」
「……」
睨み合って動けなくなった俺とロクの間で、ヨカナーンが床に崩れ落ちた。
「私を、見ないで……」
襤褸切れのように床に這いつくばって涙を流しているヨカナーンを見たら、ロクも毒気を抜かれたらしい。
ヨカナーンのことを知らない侍従を一人付けて部屋から出ていった。
俺はホッとして、侍従にヨカナーンをベッドへ寝かせるよう頼んで彼が落ち着くのを待った。
「勝手に連れてきてごめんね」
「……」
返事はない……か。
まぁ、それでも続けるけどね。
「でも、ヨカナーンが元気になるまでいて貰うから」
「冗談じゃないっ!」
やっと反応したヨカナーンに、俺はにこりと笑う。
「あなたに拒否権はないよ。関わって欲しくないなら、なんで俺の前に出てきたの? そっちから姿を見せておいて、殺せとか見るなとか好き勝手を言わないでよ」
「ならばどうしろとっ!?」
激高したヨカナーンに俺は落ち着いた態度で答える。
「ちゃんと元気になって、俺たちに心配をさせないでよ」
「……心配? そんなものをして貰う必要は――」
「するよ。ロクのことを好きな人だもん。幸せになって欲しい、少なくとも不幸にはなって欲しくないと思うよ」
「どうして……」
「さぁ、なんでだろうね」
ロクを好きになることで不幸になってしまうなんて嫌のかもしれないし、ロクに振られて切ない人を見てると罪悪感を感じてしまうのかもしれないし、ロクが嘗ての部下のことを大事に思ってるのを知ってるからロクの為にヨカナーンには元気でいて欲しいのかもしれない。或いは同情なのかもしれない。
「わからないけど、放っておけないんだから仕方ないでしょ。ロクと喧嘩してまで引き留めたんだから、あなたには俺の味方をして貰うよ」
「そんな無茶苦茶な――」
「でも少しは感謝してるでしょ?」
「……ふん」
ヨカナーンはぷいっと横を向いたけれど否定しなかった。
(よしよし、ロクからは遠ざけて顔を合わせないようにしよう)
俺はもしかしたら、ロクさえ絡まなければヨカナーンと仲良くなれるかもしれないと思っている。
まぁ、時間は必要かもしれないけどね。
「兎に角、今のあなたは俺たちを振り切って出ていくことも出来ないんだから、悔しいのは我慢して身体を治して下さい」
「団長殿にはお会いしないからな」
「はいはい、捕らわれている癖に偉そうだなぁ」
「だったら解放しろ!」
「だから無理でしょって」
俺はヨカナーンの言い分に呆れながらも、承知させたことをひっそりと喜ぶのだった。
興奮して物騒なことを叫ぶヨカナーンをどうしたものかと思う。
白妙の呪いで眠らせていたにしても、こんなに長時間目を覚まさなかったのは身体が余程に弱っていたからだ。
ゆっくりと療養して貰いたいけれど、そんな申し出を彼が受け入れるとも思えない。
本当にどうしよう?
「ヨカナーン、少し落ち着け。そんな身体では何処にもいけまい」
あっ、馬鹿! ロクの奴、ヨカナーンが見られたくないって言ってるのに姿を見せたりして……。
「来ないで下さいっ!」
血を吐くようなヨカナーンの叫びに、俺は意を決して部屋に乱入した。
「ロクッ! 待って! 俺が話をするからっ!」
「チヤ? 来るなと言っただろう」
顔を顰められて腰が引けたけれど、ここで引き下がる訳にはいかない。
「ヨカナーンは俺に会いに来たんだからっ、俺が相手をする! ロクは引っ込んでてっ!」
フーッフーッと肩で息をする俺を、ウィリアムや侍従たちが吃驚したように見ている。
俺が強く言うのはそんなに珍しいかよ。
「しかしお前はこいつに襲われたんだぞ?」
「だから誤解だって! 俺が王都に来たと知って会いに来てくれたの! 余り話をしないうちに倒れちゃったから、取り敢えずここに連れてきたの! ほら、みんな出てってよ。お茶の仕度をしてきて」
俺はシッシッと手を振って人払いをし、むっつりと俺を睨んでいるロクを睨み返した。
「チヤ、ヨカナーンが恨んでいるのは私だ。お前が責任を感じる必要はない」
「違うね。ヨカナーンはあんたのことを恨んだりしていない。そんなこともわからない奴に、彼を任せたり出来ない」
「チヤ!」
苛立つロクの肩の辺りがチリッとして、オーラみたいのが立ち昇っている。
そんな風に、ロクに敵意みたいなものを向けられるのは初めてで凄く怖い。
ロクが俺を傷付ける筈はないとわかっていても、厳しい顔をされているだけでも胸が痛い。
でも折れる訳にはいかない。
「……」
「……」
睨み合って動けなくなった俺とロクの間で、ヨカナーンが床に崩れ落ちた。
「私を、見ないで……」
襤褸切れのように床に這いつくばって涙を流しているヨカナーンを見たら、ロクも毒気を抜かれたらしい。
ヨカナーンのことを知らない侍従を一人付けて部屋から出ていった。
俺はホッとして、侍従にヨカナーンをベッドへ寝かせるよう頼んで彼が落ち着くのを待った。
「勝手に連れてきてごめんね」
「……」
返事はない……か。
まぁ、それでも続けるけどね。
「でも、ヨカナーンが元気になるまでいて貰うから」
「冗談じゃないっ!」
やっと反応したヨカナーンに、俺はにこりと笑う。
「あなたに拒否権はないよ。関わって欲しくないなら、なんで俺の前に出てきたの? そっちから姿を見せておいて、殺せとか見るなとか好き勝手を言わないでよ」
「ならばどうしろとっ!?」
激高したヨカナーンに俺は落ち着いた態度で答える。
「ちゃんと元気になって、俺たちに心配をさせないでよ」
「……心配? そんなものをして貰う必要は――」
「するよ。ロクのことを好きな人だもん。幸せになって欲しい、少なくとも不幸にはなって欲しくないと思うよ」
「どうして……」
「さぁ、なんでだろうね」
ロクを好きになることで不幸になってしまうなんて嫌のかもしれないし、ロクに振られて切ない人を見てると罪悪感を感じてしまうのかもしれないし、ロクが嘗ての部下のことを大事に思ってるのを知ってるからロクの為にヨカナーンには元気でいて欲しいのかもしれない。或いは同情なのかもしれない。
「わからないけど、放っておけないんだから仕方ないでしょ。ロクと喧嘩してまで引き留めたんだから、あなたには俺の味方をして貰うよ」
「そんな無茶苦茶な――」
「でも少しは感謝してるでしょ?」
「……ふん」
ヨカナーンはぷいっと横を向いたけれど否定しなかった。
(よしよし、ロクからは遠ざけて顔を合わせないようにしよう)
俺はもしかしたら、ロクさえ絡まなければヨカナーンと仲良くなれるかもしれないと思っている。
まぁ、時間は必要かもしれないけどね。
「兎に角、今のあなたは俺たちを振り切って出ていくことも出来ないんだから、悔しいのは我慢して身体を治して下さい」
「団長殿にはお会いしないからな」
「はいはい、捕らわれている癖に偉そうだなぁ」
「だったら解放しろ!」
「だから無理でしょって」
俺はヨカナーンの言い分に呆れながらも、承知させたことをひっそりと喜ぶのだった。
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