134 / 194
67.煌びやかな世界-1(R-15)
しおりを挟む
「国王陛下のご入場です!」
侍従によって国王の来場が知らされ、人々が一斉に頭を下げた。
余り頭を下げる習慣のないこちらの世界では、一種異様な光景に見えた。
「面を上げよ」
その一言によって今度は一斉に頭を上げ、国王が玉座に着くのを待つ。
まるで鎧のように武張った衣装を着た国王が椅子に収まると、やっと人々は会話やダンスに戻った。
「国王も寝癖直しを使ってるんだね」
俺がコソッと囁いたら、強請られたのだと教えてくれた。
「寝癖直しも軟膏も、神薬も特級こそ出していないが上級まで献上させられた」
「それは……予想通りだね」
「ああ」
王家に神薬を献上することは元々折り込み済みだった。
評判が広がれば目を付けられることはわかっていたから、後ろ暗いところはありませんよと証明する為にもこちらから提出するつもりだったのだ。
ただ向こうからとなると動きが早い。
「薬は使ってみたのかな?」
「勿論、試しただろう。だが、上級は一つしか渡していないからな。なるべくなら取っておきたいだろう」
いざという時の為、国王の為に大事に保存されるのだろうが――。
「近いうちに追加を強請られるかもね」
「それも想定内だ」
献上された物だけでよしとするには、神薬の効果が強すぎる。
権力者なら、もっと手に入れたいと欲を掻くのが当然だった。
それでも定期的に納めろと言ってくるならまだ可愛いもので、最悪の場合は作り方を教えろと言い出すかもしれない。
本来なら、王家が国家権力を楯に何でもかんでも教えろと無理強いしたりはしない。
臣下と言えども領主は自分の土地持ちで、一国一城の主だから背かれると厄介なのだ。
普通は互いの体面と立場を慮って、領主は製法や技術を秘匿するし、国もそれを見逃してやる代わりに貢ぎ物を受け取る。
けれど今回ばかりは、黙って見逃すには神薬の効き目がヤバすぎるんだ。
(でもなぁ。そもそも神薬は、俺か仮免許を与えた者にしか作れないしね)
まさかそんな秘密をバラす訳にはいかない。
「砂糖も納めたの?」
「メープルシロップと共に少量だがな。苗はまだ少ないからと渡していないが、探せば他でも見つかるとは言ってある」
「うん。大神が解禁にしたから、よく探せばある筈だよ」
褒美として俺に与えられたものみたいに、纏まって生えてはいないかもしれない。
それでも、下界に存在を許された以上は何処かに生えている。
「甘味は拡がって欲しいから、他の領地に隠す気はないけど、でももう少し増やしてからでないと、他所に回せない」
「わかっている。他の領主との調整は私が行っている」
「うん。ありがとう」
ここに来る前は領主の仕事を他の人に任せて自分は俺のサポートをするんだなんて言ってたけど、やはりロクにしか出来ない仕事というものがある。
他領との兼ね合いや駆け引きなんかは、幾らジェスやウィリアムが優秀でも務まらない。
「結局、ロクに負担を掛けるな。せめてもう一人、優秀な人を雇えたらだいぶ違うんだろうけど……」
俺が思わずウンウンと唸っていたら、見覚えのある牧羊犬を見つけた。
「あ、モリスさんだ。彼が来てくれたら助かるよなぁ~」
思わずふらふらとそっちへ行き掛けたところを、ロクに腰を引き寄せられて止められる。
「人目がある場所では近付かない方がいい。後で改めて機会を設ける」
「わかった。けど……ねぇ、近いよ」
人前で腰を抱かれ、薄い生地を通して感じるロクの手の感触が妙に生々しくてドキドキする。
ロクが俺を抱き寄せた所為で、周囲の人たちがざわめいているのも気になる。
「認めさせる為に来たのだから、このくらいはしておかないとな?」
「そうだけど……」
こんな、公開プレイみたいなことになるとは思っていなかったんだって。
それでも恥ずかしさに耐えつつロクの腕の中にいたら、国王の側近のような人が近付いて来て俺とロクを王の元へ連れて行った。
そして改めて鷲型獣人と対面し、猛禽類の黄色い目で見据えられて震えそうになる。
「ロクサーン侯爵、それがその方の番か? 何処かで見た覚えがあるな」
「は、国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく――」
「挨拶など良い。それよりもその人間をもそっと近くへ」
俺は国王に呼び寄せられ、ロクの背中に隠れるようにしながら一歩、二歩と近付いた。
しかし尖った嘴が……見れば見るほどに怖い。
侍従によって国王の来場が知らされ、人々が一斉に頭を下げた。
余り頭を下げる習慣のないこちらの世界では、一種異様な光景に見えた。
「面を上げよ」
その一言によって今度は一斉に頭を上げ、国王が玉座に着くのを待つ。
まるで鎧のように武張った衣装を着た国王が椅子に収まると、やっと人々は会話やダンスに戻った。
「国王も寝癖直しを使ってるんだね」
俺がコソッと囁いたら、強請られたのだと教えてくれた。
「寝癖直しも軟膏も、神薬も特級こそ出していないが上級まで献上させられた」
「それは……予想通りだね」
「ああ」
王家に神薬を献上することは元々折り込み済みだった。
評判が広がれば目を付けられることはわかっていたから、後ろ暗いところはありませんよと証明する為にもこちらから提出するつもりだったのだ。
ただ向こうからとなると動きが早い。
「薬は使ってみたのかな?」
「勿論、試しただろう。だが、上級は一つしか渡していないからな。なるべくなら取っておきたいだろう」
いざという時の為、国王の為に大事に保存されるのだろうが――。
「近いうちに追加を強請られるかもね」
「それも想定内だ」
献上された物だけでよしとするには、神薬の効果が強すぎる。
権力者なら、もっと手に入れたいと欲を掻くのが当然だった。
それでも定期的に納めろと言ってくるならまだ可愛いもので、最悪の場合は作り方を教えろと言い出すかもしれない。
本来なら、王家が国家権力を楯に何でもかんでも教えろと無理強いしたりはしない。
臣下と言えども領主は自分の土地持ちで、一国一城の主だから背かれると厄介なのだ。
普通は互いの体面と立場を慮って、領主は製法や技術を秘匿するし、国もそれを見逃してやる代わりに貢ぎ物を受け取る。
けれど今回ばかりは、黙って見逃すには神薬の効き目がヤバすぎるんだ。
(でもなぁ。そもそも神薬は、俺か仮免許を与えた者にしか作れないしね)
まさかそんな秘密をバラす訳にはいかない。
「砂糖も納めたの?」
「メープルシロップと共に少量だがな。苗はまだ少ないからと渡していないが、探せば他でも見つかるとは言ってある」
「うん。大神が解禁にしたから、よく探せばある筈だよ」
褒美として俺に与えられたものみたいに、纏まって生えてはいないかもしれない。
それでも、下界に存在を許された以上は何処かに生えている。
「甘味は拡がって欲しいから、他の領地に隠す気はないけど、でももう少し増やしてからでないと、他所に回せない」
「わかっている。他の領主との調整は私が行っている」
「うん。ありがとう」
ここに来る前は領主の仕事を他の人に任せて自分は俺のサポートをするんだなんて言ってたけど、やはりロクにしか出来ない仕事というものがある。
他領との兼ね合いや駆け引きなんかは、幾らジェスやウィリアムが優秀でも務まらない。
「結局、ロクに負担を掛けるな。せめてもう一人、優秀な人を雇えたらだいぶ違うんだろうけど……」
俺が思わずウンウンと唸っていたら、見覚えのある牧羊犬を見つけた。
「あ、モリスさんだ。彼が来てくれたら助かるよなぁ~」
思わずふらふらとそっちへ行き掛けたところを、ロクに腰を引き寄せられて止められる。
「人目がある場所では近付かない方がいい。後で改めて機会を設ける」
「わかった。けど……ねぇ、近いよ」
人前で腰を抱かれ、薄い生地を通して感じるロクの手の感触が妙に生々しくてドキドキする。
ロクが俺を抱き寄せた所為で、周囲の人たちがざわめいているのも気になる。
「認めさせる為に来たのだから、このくらいはしておかないとな?」
「そうだけど……」
こんな、公開プレイみたいなことになるとは思っていなかったんだって。
それでも恥ずかしさに耐えつつロクの腕の中にいたら、国王の側近のような人が近付いて来て俺とロクを王の元へ連れて行った。
そして改めて鷲型獣人と対面し、猛禽類の黄色い目で見据えられて震えそうになる。
「ロクサーン侯爵、それがその方の番か? 何処かで見た覚えがあるな」
「は、国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく――」
「挨拶など良い。それよりもその人間をもそっと近くへ」
俺は国王に呼び寄せられ、ロクの背中に隠れるようにしながら一歩、二歩と近付いた。
しかし尖った嘴が……見れば見るほどに怖い。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※番外編を公開しました(10/21)
生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
※4月18日、完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる