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67.煌びやかな世界-1(R-15)
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「国王陛下のご入場です!」
侍従によって国王の来場が知らされ、人々が一斉に頭を下げた。
余り頭を下げる習慣のないこちらの世界では、一種異様な光景に見えた。
「面を上げよ」
その一言によって今度は一斉に頭を上げ、国王が玉座に着くのを待つ。
まるで鎧のように武張った衣装を着た国王が椅子に収まると、やっと人々は会話やダンスに戻った。
「国王も寝癖直しを使ってるんだね」
俺がコソッと囁いたら、強請られたのだと教えてくれた。
「寝癖直しも軟膏も、神薬も特級こそ出していないが上級まで献上させられた」
「それは……予想通りだね」
「ああ」
王家に神薬を献上することは元々折り込み済みだった。
評判が広がれば目を付けられることはわかっていたから、後ろ暗いところはありませんよと証明する為にもこちらから提出するつもりだったのだ。
ただ向こうからとなると動きが早い。
「薬は使ってみたのかな?」
「勿論、試しただろう。だが、上級は一つしか渡していないからな。なるべくなら取っておきたいだろう」
いざという時の為、国王の為に大事に保存されるのだろうが――。
「近いうちに追加を強請られるかもね」
「それも想定内だ」
献上された物だけでよしとするには、神薬の効果が強すぎる。
権力者なら、もっと手に入れたいと欲を掻くのが当然だった。
それでも定期的に納めろと言ってくるならまだ可愛いもので、最悪の場合は作り方を教えろと言い出すかもしれない。
本来なら、王家が国家権力を楯に何でもかんでも教えろと無理強いしたりはしない。
臣下と言えども領主は自分の土地持ちで、一国一城の主だから背かれると厄介なのだ。
普通は互いの体面と立場を慮って、領主は製法や技術を秘匿するし、国もそれを見逃してやる代わりに貢ぎ物を受け取る。
けれど今回ばかりは、黙って見逃すには神薬の効き目がヤバすぎるんだ。
(でもなぁ。そもそも神薬は、俺か仮免許を与えた者にしか作れないしね)
まさかそんな秘密をバラす訳にはいかない。
「砂糖も納めたの?」
「メープルシロップと共に少量だがな。苗はまだ少ないからと渡していないが、探せば他でも見つかるとは言ってある」
「うん。大神が解禁にしたから、よく探せばある筈だよ」
褒美として俺に与えられたものみたいに、纏まって生えてはいないかもしれない。
それでも、下界に存在を許された以上は何処かに生えている。
「甘味は拡がって欲しいから、他の領地に隠す気はないけど、でももう少し増やしてからでないと、他所に回せない」
「わかっている。他の領主との調整は私が行っている」
「うん。ありがとう」
ここに来る前は領主の仕事を他の人に任せて自分は俺のサポートをするんだなんて言ってたけど、やはりロクにしか出来ない仕事というものがある。
他領との兼ね合いや駆け引きなんかは、幾らジェスやウィリアムが優秀でも務まらない。
「結局、ロクに負担を掛けるな。せめてもう一人、優秀な人を雇えたらだいぶ違うんだろうけど……」
俺が思わずウンウンと唸っていたら、見覚えのある牧羊犬を見つけた。
「あ、モリスさんだ。彼が来てくれたら助かるよなぁ~」
思わずふらふらとそっちへ行き掛けたところを、ロクに腰を引き寄せられて止められる。
「人目がある場所では近付かない方がいい。後で改めて機会を設ける」
「わかった。けど……ねぇ、近いよ」
人前で腰を抱かれ、薄い生地を通して感じるロクの手の感触が妙に生々しくてドキドキする。
ロクが俺を抱き寄せた所為で、周囲の人たちがざわめいているのも気になる。
「認めさせる為に来たのだから、このくらいはしておかないとな?」
「そうだけど……」
こんな、公開プレイみたいなことになるとは思っていなかったんだって。
それでも恥ずかしさに耐えつつロクの腕の中にいたら、国王の側近のような人が近付いて来て俺とロクを王の元へ連れて行った。
そして改めて鷲型獣人と対面し、猛禽類の黄色い目で見据えられて震えそうになる。
「ロクサーン侯爵、それがその方の番か? 何処かで見た覚えがあるな」
「は、国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく――」
「挨拶など良い。それよりもその人間をもそっと近くへ」
俺は国王に呼び寄せられ、ロクの背中に隠れるようにしながら一歩、二歩と近付いた。
しかし尖った嘴が……見れば見るほどに怖い。
侍従によって国王の来場が知らされ、人々が一斉に頭を下げた。
余り頭を下げる習慣のないこちらの世界では、一種異様な光景に見えた。
「面を上げよ」
その一言によって今度は一斉に頭を上げ、国王が玉座に着くのを待つ。
まるで鎧のように武張った衣装を着た国王が椅子に収まると、やっと人々は会話やダンスに戻った。
「国王も寝癖直しを使ってるんだね」
俺がコソッと囁いたら、強請られたのだと教えてくれた。
「寝癖直しも軟膏も、神薬も特級こそ出していないが上級まで献上させられた」
「それは……予想通りだね」
「ああ」
王家に神薬を献上することは元々折り込み済みだった。
評判が広がれば目を付けられることはわかっていたから、後ろ暗いところはありませんよと証明する為にもこちらから提出するつもりだったのだ。
ただ向こうからとなると動きが早い。
「薬は使ってみたのかな?」
「勿論、試しただろう。だが、上級は一つしか渡していないからな。なるべくなら取っておきたいだろう」
いざという時の為、国王の為に大事に保存されるのだろうが――。
「近いうちに追加を強請られるかもね」
「それも想定内だ」
献上された物だけでよしとするには、神薬の効果が強すぎる。
権力者なら、もっと手に入れたいと欲を掻くのが当然だった。
それでも定期的に納めろと言ってくるならまだ可愛いもので、最悪の場合は作り方を教えろと言い出すかもしれない。
本来なら、王家が国家権力を楯に何でもかんでも教えろと無理強いしたりはしない。
臣下と言えども領主は自分の土地持ちで、一国一城の主だから背かれると厄介なのだ。
普通は互いの体面と立場を慮って、領主は製法や技術を秘匿するし、国もそれを見逃してやる代わりに貢ぎ物を受け取る。
けれど今回ばかりは、黙って見逃すには神薬の効き目がヤバすぎるんだ。
(でもなぁ。そもそも神薬は、俺か仮免許を与えた者にしか作れないしね)
まさかそんな秘密をバラす訳にはいかない。
「砂糖も納めたの?」
「メープルシロップと共に少量だがな。苗はまだ少ないからと渡していないが、探せば他でも見つかるとは言ってある」
「うん。大神が解禁にしたから、よく探せばある筈だよ」
褒美として俺に与えられたものみたいに、纏まって生えてはいないかもしれない。
それでも、下界に存在を許された以上は何処かに生えている。
「甘味は拡がって欲しいから、他の領地に隠す気はないけど、でももう少し増やしてからでないと、他所に回せない」
「わかっている。他の領主との調整は私が行っている」
「うん。ありがとう」
ここに来る前は領主の仕事を他の人に任せて自分は俺のサポートをするんだなんて言ってたけど、やはりロクにしか出来ない仕事というものがある。
他領との兼ね合いや駆け引きなんかは、幾らジェスやウィリアムが優秀でも務まらない。
「結局、ロクに負担を掛けるな。せめてもう一人、優秀な人を雇えたらだいぶ違うんだろうけど……」
俺が思わずウンウンと唸っていたら、見覚えのある牧羊犬を見つけた。
「あ、モリスさんだ。彼が来てくれたら助かるよなぁ~」
思わずふらふらとそっちへ行き掛けたところを、ロクに腰を引き寄せられて止められる。
「人目がある場所では近付かない方がいい。後で改めて機会を設ける」
「わかった。けど……ねぇ、近いよ」
人前で腰を抱かれ、薄い生地を通して感じるロクの手の感触が妙に生々しくてドキドキする。
ロクが俺を抱き寄せた所為で、周囲の人たちがざわめいているのも気になる。
「認めさせる為に来たのだから、このくらいはしておかないとな?」
「そうだけど……」
こんな、公開プレイみたいなことになるとは思っていなかったんだって。
それでも恥ずかしさに耐えつつロクの腕の中にいたら、国王の側近のような人が近付いて来て俺とロクを王の元へ連れて行った。
そして改めて鷲型獣人と対面し、猛禽類の黄色い目で見据えられて震えそうになる。
「ロクサーン侯爵、それがその方の番か? 何処かで見た覚えがあるな」
「は、国王陛下におかれましては、ご機嫌麗しく――」
「挨拶など良い。それよりもその人間をもそっと近くへ」
俺は国王に呼び寄せられ、ロクの背中に隠れるようにしながら一歩、二歩と近付いた。
しかし尖った嘴が……見れば見るほどに怖い。
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