131 / 194
65.王都再来-2(R−15)
しおりを挟む
「絶対に落とさないでね!」
俺はみっともなく天馬にしがみつきながらロクにそう言った。
天界に行く時に雲に乗ったけれど、その時とは全く違う。
高いところが怖いって言うよりも、足が浮いていると安定感が無くて落ち着かない。
「チヤ、そんなにしがみつかなくても大丈夫だ」
「大丈夫じゃないよっ!」
だって幾らロクだって空は飛べないじゃないか!
「そんなに怖いなら、気を逸らせてやろうか?」
「ど、どうやって?」
「お前が他の事を考えられないくらい夢中になることはなんだ?」
「俺が、夢中にって……」
ロクに後ろから抱え込まれながら訊ねられ、そんなのは一つしか無いと気付く。
「ちょうど自分から足を開いているしな?」
「ちがっ、馬に跨るのにしようがないだろっ!」
「抵抗できない言い訳か?」
「違う!」
「じゃあここで気持ちよくなったりしないな?」
「くふんっ!」
グリグリと尻の間を指で押されてムズムズしたものが這い上がってくる。
こんなに不安定な場所で、こんなに怖いのに。なのに刺激されると直ぐに緩む後ろが恥ずかしい。
「ロクッ、危ないから、ヤダ……」
「どうしてだ? こんな状況で感じたりしないんだろう?」
(もうっ! ロクの意地悪!)
俺はよく動くロクの指から逃れるように腰を浮かせてしまい、そうするとますます強く蕾を押されてナカが疼き出す。
欲しくてヒクヒクと蠢いてしまうけど、こんなところでそれは危険だし怖い。
「ロク、お願い。怖いよぅ」
泣きながら頼んだらギュッと深く抱き締められた。
「済まない、戯れが過ぎたな。怖がっているお前が可愛くて、つい意地悪をしたくなった。もうしないから、許してくれ」
「いいよ。着くまでずっとこうしててね」
頬や身体がギュッとロクに密着していたら大丈夫。怖くない。
それどころかもう着いてしまったのか? なんて思ってしまったことは内緒だ。
「お披露目のパーティーは夕刻だから、それまでロクサーン侯爵邸で休んでいるといい」
「ん~、教会の様子を見に行きたいんだけど……」
「明日でも良いだろう」
それはそうなんだけど、ロクだけ働いてると思うと、俺も出来ることはしたいなって思うんだよ。
「エミールから話を聞いているから心配は無いんだけど、どうせなら一度自分の目で見ておきたいと思って」
直に見たら何か思い付くかもしれないしね。
「だが、丁度いい護衛がいない」
「護衛なんていいよ。誰か道案内を付けてくれたら十分だって」
「いや、そういう訳にはいかない。既にお前のことは一部の貴族に知られていると思っていい」
まあ、ロクの領地を調べさせたら、見慣れない人間がいる――くらいのことはわかっちゃうよね。
それに別の線からも情報は漏れているかもしれない。
「手を出してくると思う?」
「まだそこまでの確信はないだろう」
ロクの言葉に頷く。
俺が異世界人だとか、甘い匂いがするとかバレていても、まだ犯罪を犯してまで手に入れる価値があるとは思われていない筈だ。
「きっと、そのうち本当に外歩きが難しくなる。だから今のうちに動きたい」
「……わかった。但しお供に警戒させてくれ。いざという時には蜂毒で敵を倒すんだ」
「うん。約束する」
俺はしっかりとロクに頷いた。
蜂たちはゴブリンみたいな餓鬼を難なく倒すくらいだから、人なんて楽勝だろう。
それに街中でも目立たないのがいい。
『白妙も、役に立つ』
ひょろっと白蛇が袖口から出てきてそう主張した。
『主様、我も闘うでござる』
「金鍔、ありがとう。でも君たちはちょっと目立つかな」
ロクサーン侯爵領ならまだしも、王都で人目に付くのは避けたい。
あっという間に噂になっちゃいそうだし。
『では我らは密かに守るでござる』
「うん。頼むね」
いざとなったら金鍔に变化して貰って、ロクに助けを求めに行かせよう。
「チヤ、決して一人になるなよ」
「はいはい、心配性だな」
俺は笑いながらロクに頷いてみたけど、まさか本当に襲われるとは思っていなかった。
それも全く予期せぬ人に、予期せぬ理由で。
俺は何事もなく教会の視察を終え、お守りのペンダントやステッカーが売れているのを見て満足したところだった。
そろそろ新しい商品を増やさなくちゃな、なんて思いながら歩いていたら案内役の姿が消えた。
「あれっ? 何処に行ったの?」
曲がり道なんてあったっけ? と踵を返したら、目の前でブンッと風切り音がした。
「え?」
強い風に煽られてぺたりと尻餅をつく。
それから何か重量のあるものが通り抜けたのだと気付き、ゾッとした。
「ちょ、転ばなきゃ当たってたじゃん!」
危ないなぁもう、と文句を言う俺の周りで蜂たちが攻撃態勢に入っている。
俺の許可さえあれば、直ぐにでも相手を殺しそうだ。
でも許可なんて出せる筈はなかった。相手は見知った人間だった。
俺を憎々しげに見つめていたのは――ロクを裏切った嘗ての部下だった。
俺はみっともなく天馬にしがみつきながらロクにそう言った。
天界に行く時に雲に乗ったけれど、その時とは全く違う。
高いところが怖いって言うよりも、足が浮いていると安定感が無くて落ち着かない。
「チヤ、そんなにしがみつかなくても大丈夫だ」
「大丈夫じゃないよっ!」
だって幾らロクだって空は飛べないじゃないか!
「そんなに怖いなら、気を逸らせてやろうか?」
「ど、どうやって?」
「お前が他の事を考えられないくらい夢中になることはなんだ?」
「俺が、夢中にって……」
ロクに後ろから抱え込まれながら訊ねられ、そんなのは一つしか無いと気付く。
「ちょうど自分から足を開いているしな?」
「ちがっ、馬に跨るのにしようがないだろっ!」
「抵抗できない言い訳か?」
「違う!」
「じゃあここで気持ちよくなったりしないな?」
「くふんっ!」
グリグリと尻の間を指で押されてムズムズしたものが這い上がってくる。
こんなに不安定な場所で、こんなに怖いのに。なのに刺激されると直ぐに緩む後ろが恥ずかしい。
「ロクッ、危ないから、ヤダ……」
「どうしてだ? こんな状況で感じたりしないんだろう?」
(もうっ! ロクの意地悪!)
俺はよく動くロクの指から逃れるように腰を浮かせてしまい、そうするとますます強く蕾を押されてナカが疼き出す。
欲しくてヒクヒクと蠢いてしまうけど、こんなところでそれは危険だし怖い。
「ロク、お願い。怖いよぅ」
泣きながら頼んだらギュッと深く抱き締められた。
「済まない、戯れが過ぎたな。怖がっているお前が可愛くて、つい意地悪をしたくなった。もうしないから、許してくれ」
「いいよ。着くまでずっとこうしててね」
頬や身体がギュッとロクに密着していたら大丈夫。怖くない。
それどころかもう着いてしまったのか? なんて思ってしまったことは内緒だ。
「お披露目のパーティーは夕刻だから、それまでロクサーン侯爵邸で休んでいるといい」
「ん~、教会の様子を見に行きたいんだけど……」
「明日でも良いだろう」
それはそうなんだけど、ロクだけ働いてると思うと、俺も出来ることはしたいなって思うんだよ。
「エミールから話を聞いているから心配は無いんだけど、どうせなら一度自分の目で見ておきたいと思って」
直に見たら何か思い付くかもしれないしね。
「だが、丁度いい護衛がいない」
「護衛なんていいよ。誰か道案内を付けてくれたら十分だって」
「いや、そういう訳にはいかない。既にお前のことは一部の貴族に知られていると思っていい」
まあ、ロクの領地を調べさせたら、見慣れない人間がいる――くらいのことはわかっちゃうよね。
それに別の線からも情報は漏れているかもしれない。
「手を出してくると思う?」
「まだそこまでの確信はないだろう」
ロクの言葉に頷く。
俺が異世界人だとか、甘い匂いがするとかバレていても、まだ犯罪を犯してまで手に入れる価値があるとは思われていない筈だ。
「きっと、そのうち本当に外歩きが難しくなる。だから今のうちに動きたい」
「……わかった。但しお供に警戒させてくれ。いざという時には蜂毒で敵を倒すんだ」
「うん。約束する」
俺はしっかりとロクに頷いた。
蜂たちはゴブリンみたいな餓鬼を難なく倒すくらいだから、人なんて楽勝だろう。
それに街中でも目立たないのがいい。
『白妙も、役に立つ』
ひょろっと白蛇が袖口から出てきてそう主張した。
『主様、我も闘うでござる』
「金鍔、ありがとう。でも君たちはちょっと目立つかな」
ロクサーン侯爵領ならまだしも、王都で人目に付くのは避けたい。
あっという間に噂になっちゃいそうだし。
『では我らは密かに守るでござる』
「うん。頼むね」
いざとなったら金鍔に变化して貰って、ロクに助けを求めに行かせよう。
「チヤ、決して一人になるなよ」
「はいはい、心配性だな」
俺は笑いながらロクに頷いてみたけど、まさか本当に襲われるとは思っていなかった。
それも全く予期せぬ人に、予期せぬ理由で。
俺は何事もなく教会の視察を終え、お守りのペンダントやステッカーが売れているのを見て満足したところだった。
そろそろ新しい商品を増やさなくちゃな、なんて思いながら歩いていたら案内役の姿が消えた。
「あれっ? 何処に行ったの?」
曲がり道なんてあったっけ? と踵を返したら、目の前でブンッと風切り音がした。
「え?」
強い風に煽られてぺたりと尻餅をつく。
それから何か重量のあるものが通り抜けたのだと気付き、ゾッとした。
「ちょ、転ばなきゃ当たってたじゃん!」
危ないなぁもう、と文句を言う俺の周りで蜂たちが攻撃態勢に入っている。
俺の許可さえあれば、直ぐにでも相手を殺しそうだ。
でも許可なんて出せる筈はなかった。相手は見知った人間だった。
俺を憎々しげに見つめていたのは――ロクを裏切った嘗ての部下だった。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる