【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

文字の大きさ
上 下
130 / 194

65.王都再来-1(R−15)

しおりを挟む
「なぁ、本当にこれが普通なのか?」
 今回のお披露目の為に特別に仕立てた薄物を纏わされた俺は、その妖しさにドン引きだった。
 オーロラみたいに輝く布は煌々しく高級そうなんだけど、うっすらと肌が透けて見えるのがまるで裸で歩いているようで恥ずかしい。
 正直に言って、性に対してオープンなこっちの人たちに、こんな淫靡な衣装を作れるなんて思っていなかった。

「人間のデザイナーが作っていますからね。やはり獣人に見初められるのは出世なので、獣人の気を引く衣装は研究されているのですよ」
「やだやだ、本当に売り物みたいだね」
 俺はロクに見せ物になってもいいとは言ったが、実際にそういう用途の服を身に着けると気分が下がった。
 この格好で鷲型獣人の国王や貴族たちの前に出なきゃいけない。
 正式に番の許可を得る為だから、一度は仕方がないと納得しているけど憂鬱だ。

「チヤ、その上から身体が隠れる布を被ってもいいんだぞ」
「どっかの国じゃそういう習慣もあるそうだけどね、でも流石にそれは不味いでしょ。いいよ、俺は何もわかりません、何も出来ませんって顔でロクにくっついてるから」
「必ず、守る」
「うん。信じてるよ」
 誰かに不埒な真似をされたり、国王に目を付けられてもロクがなんとかしてくれる。
 こっちは王家に対する忠誠心は無くてもこの国に所属しているメリットはあるので、出来れば敵対せず上手く躱して穏便な関係を築きたい。
 だから多少のことは我慢するつもりだ。

「でも、実は俺よりもロクの方がヤバイ感じだよね」
「そうか? 確かに身体は大きくなったが、そんなに変わってないだろう?」
「なに言ってんの? 獣神みたいに神々しいって、あんたの姿を後ろから拝む人が跡を絶たないじゃん」
 ロクの自分の容姿に対する自己評価の低さは本当にどうにかして欲しい。
 神格を得て一回り大きくなった堂々たる体躯は、強いものに無条件で惹かれる獣人たちの羨望を一身に集めている。
 それに神通力は無いと本人は言っているが、千里眼や身体強化や超感覚を身に着けたロクは一種の超人で、ただ人とはオーラが違う。
 そんなロクの治める領地が、メープルシロップや砂糖、神薬など見たことのないものを売りに出した。
 しかも売れている。
 注目度は抜群に違いない。

「ロクにそんな気が無くても、ロクを見た人は勝手に色んな想像をするよ」
 何故こんなに姿が良くなったのか、新しい作物や商品を次々と出している秘訣は何か、中央政治から急に手を引いたように見えるけれど本気なのか?
 ロクの変化が様々な憶測を呼ぶのはまず間違いがない。

「それでなくても、これだけ色々とやらかしているんだから、周りが騒ぐのは仕方がないけどね」
「わかっている。それでも一度は姿を見せて、はっきりと害意無しと言えば、ある程度は抑え込める」
「その姿勢を打ち出す為にも行くんだもんね?」
「一番はお前に公的な立場を与える為だ」
「ふふん。わかってるよ」
 俺は顔を上げてロクの顎下にチュッと口付けた。
 公式な場所で俺を番だと紹介すれば、国王だって簡単には手を出せない。
 気にせずやりそうなマキシム卿は既に処理している。

「レオポルトは無視しろよ」
 ロクに低い声で警告され、俺はそう言えば王城にはそんな獣人もいたなと思い出す。

「よせよ、もう忘れてたんだから」
「向こうは忘れていまい」
「そんな訳ないって。あれから何ヶ月も経ってるんだぜ?」
「だがお前のそんな姿を見てはな」
「じゃあ、もう少し厚手の服にして――」
「却下だ。せっかく似合っているのだから、それがいい」
 予想外に俺の格好を気に入ったらしいロクが、フンフンと鼻息も荒く首筋や耳の後ろに鼻を擦り付けてくる。
 ロクに似合うと言われて、俺も悪い気はしない。

「じゃあ、帰ってきたらこの格好でしようか?」
「それはいいな。そうしよう」
 俺はロクの鼻息がくすぐったくて、クスクスと笑った。

「お館様、イチヤ様、そろそろ出発されませんと、後の予定が詰まっております」
「ああ、わかった。直ぐに出るよ」
 俺は普通の格好に着替えてロクと天馬に乗った。
 いつもなら馬車で移動するのだが、今回は少しでも早く着けるよう天馬を利用することにした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

処理中です...