125 / 194
62.新たな甘味と引き寄せられたモノ―2
しおりを挟む
「やった! サトウキビだ!」
なんでメープルシロップが採れるような涼しい地方でサトウキビが生えてるのかは謎だけど、ここは異世界なのでそういうものだと思うことにする。
俺はちゃんと甘いか確認する為に節を折ろうと手をかけ、途端にブシュッ! と中から爆ぜるように飛び散ったデロデロの液体まみれになる。
「うぇええ~、なんだよこれ~」
トロミのある大根おろしみたいな白い物が、頭からも肩からもボタボタと落ちる。
気持ちが悪いとは思ったけど、それを掬って口に含んでみたら確かに甘かった。
「収穫方法を考えなくちゃいけないけど、確かにサトウキビみたいだ」
これで砂糖が出来る。
農耕栽培が出来ればいずれは誰でも食べられるようになる。
「お菓子とか、甘い飲み物とか、シロップ漬けとか……思い出せるものは全部作るんだ」
砂糖さえあれば、これでもう俺の目標の半分は達せられた気がする。
ロクがいて、甘い物があったら他には何もいらない。元の世界になんて帰らなくてもいい。
(こんなに順調で良いのかなぁ……)
俺はなんだか急に怖くなってブルッと震えた。
もっと大変だと思ったのに、順調に信徒は増えているし少なかった生産量を増やす目処も立った。
探していた甘味は見つかったし、後は強欲そうな鷲型獣人の王様の手に落ちないように気を付ければいい。
獣神の侵攻を事前に防ぎ、人間への差別を少しでも無くし、より良い社会を作って俺たちもそこに暮らす。
言葉にすれば本当に簡単だけれど――。
(でもそんなに上手くいく?)
俺は決して悲観的な性格じゃないけれど、どうしても疑わずにはいられない。
上手く行きすぎていると落とし穴があるんじゃないかと思ってしまう。
騙されているようで気持ちが落ち着かない。
(これが考えすぎ、夢にまで見た砂糖が手に入る事が信じられなくて――とかならいいんだけど)
俺が煮え切らない態度でじっと立ち尽くしていたら、駆け付けてきたロクが俺の姿を見て鼻を引くつかせ、直ぐに抱え上げて館の方に走り出した。
「ちょ、ロク!? どうしたの? サトウキビを見つけたから、採取して調べなくちゃ――」
「後だ!」
ロクは吠えるようにそう言うと俺が目を開けていられないくらいのスピードで走り、急に止まった。
「ぐえっ!」
神様の加護はあっても肉体の脆弱な俺はロクの肩の上で目を回していた。
猛スピードでの移動と、急停止って勘弁して欲しい。
「チヤ、目を瞑ってしがみついていろ」
「えっ、なに?」
「お前のその甘い匂いを嗅ぎ付けて集まってきた」
「なにが――」
俺はロクの言っている事がわからずにふらつく頭を押さえながらそろそろと後ろを向いた。
するとそこには化け物としか思えないような緑の小鬼が涎を垂らして歯を剥いていた。
「ゴッ、ゴブリン!?」
まさかゲームの世界で有名な雑魚キャラを目にするとは思わなかった。
それにこの世界に魔物はいないと思ったのに、ゴブリンって魔物だよね?
「ゴブリン? 随分と可愛い呼び方だな。あれは餓鬼だ」
「餓鬼……」
「人間を好んで喰う獣だ。しかも甘い物が好物らしく、メープルシロップが発見されてから多数の目撃証言が集まっていた。この国の餓鬼が一斉にこの地方を目指しているらしい」
「聞いてないよっ!」
俺はロクにも神様にも文句を言いたい気分だった。
そんな厄介なモノがいるなら事前に教えて欲しかった。
「甘い物が好物だなんて誰も知らなかった」
「ウッ、これまでは無かった事態だからか……」
新たな発見には新たなトラブルが付き物だ。
物事は良い側面ばかりじゃない。それが俺の不安の原因だった。
「人間って邪魔な毛とか牙とか角がなくて、柔らかくて食べやすいのかなぁ」
「おまけに味付けまでされているしな」
ふわふわのスポンジに甘くてとろりとしたクリームが掛かっていたら俺だって武者振りつくもの……って、俺はケーキじゃない!
「あいつらって強いの?」
「三匹いたら普通の人間ならやられる。冒険者でも対応できるのは四匹までだな」
チッ、ゲームでは雑魚キャラだったのに、こっちの世界じゃ結構強いじゃないか。
「俺、生きたまま食べられるのはヤダよ?」
なんとかしっかりしようと思うんだけど目に涙が滲んでしまう。
ロクの事は信用してるけど、それでも怖いもん。
「大丈夫だ。しっかりと掴まって、俺が良いと言うまで目を閉じていろ」
「うん。わかった」
俺はロクの首にギュッとしがみつき、涙で濡れた目をきつく瞑った。
ギシギシという軋んだような鳴き声が辺りに充満し、ゴブリン――餓鬼が無数に集まってきているのがわかった。
俺たちは絶体絶命のピンチだった。
なんでメープルシロップが採れるような涼しい地方でサトウキビが生えてるのかは謎だけど、ここは異世界なのでそういうものだと思うことにする。
俺はちゃんと甘いか確認する為に節を折ろうと手をかけ、途端にブシュッ! と中から爆ぜるように飛び散ったデロデロの液体まみれになる。
「うぇええ~、なんだよこれ~」
トロミのある大根おろしみたいな白い物が、頭からも肩からもボタボタと落ちる。
気持ちが悪いとは思ったけど、それを掬って口に含んでみたら確かに甘かった。
「収穫方法を考えなくちゃいけないけど、確かにサトウキビみたいだ」
これで砂糖が出来る。
農耕栽培が出来ればいずれは誰でも食べられるようになる。
「お菓子とか、甘い飲み物とか、シロップ漬けとか……思い出せるものは全部作るんだ」
砂糖さえあれば、これでもう俺の目標の半分は達せられた気がする。
ロクがいて、甘い物があったら他には何もいらない。元の世界になんて帰らなくてもいい。
(こんなに順調で良いのかなぁ……)
俺はなんだか急に怖くなってブルッと震えた。
もっと大変だと思ったのに、順調に信徒は増えているし少なかった生産量を増やす目処も立った。
探していた甘味は見つかったし、後は強欲そうな鷲型獣人の王様の手に落ちないように気を付ければいい。
獣神の侵攻を事前に防ぎ、人間への差別を少しでも無くし、より良い社会を作って俺たちもそこに暮らす。
言葉にすれば本当に簡単だけれど――。
(でもそんなに上手くいく?)
俺は決して悲観的な性格じゃないけれど、どうしても疑わずにはいられない。
上手く行きすぎていると落とし穴があるんじゃないかと思ってしまう。
騙されているようで気持ちが落ち着かない。
(これが考えすぎ、夢にまで見た砂糖が手に入る事が信じられなくて――とかならいいんだけど)
俺が煮え切らない態度でじっと立ち尽くしていたら、駆け付けてきたロクが俺の姿を見て鼻を引くつかせ、直ぐに抱え上げて館の方に走り出した。
「ちょ、ロク!? どうしたの? サトウキビを見つけたから、採取して調べなくちゃ――」
「後だ!」
ロクは吠えるようにそう言うと俺が目を開けていられないくらいのスピードで走り、急に止まった。
「ぐえっ!」
神様の加護はあっても肉体の脆弱な俺はロクの肩の上で目を回していた。
猛スピードでの移動と、急停止って勘弁して欲しい。
「チヤ、目を瞑ってしがみついていろ」
「えっ、なに?」
「お前のその甘い匂いを嗅ぎ付けて集まってきた」
「なにが――」
俺はロクの言っている事がわからずにふらつく頭を押さえながらそろそろと後ろを向いた。
するとそこには化け物としか思えないような緑の小鬼が涎を垂らして歯を剥いていた。
「ゴッ、ゴブリン!?」
まさかゲームの世界で有名な雑魚キャラを目にするとは思わなかった。
それにこの世界に魔物はいないと思ったのに、ゴブリンって魔物だよね?
「ゴブリン? 随分と可愛い呼び方だな。あれは餓鬼だ」
「餓鬼……」
「人間を好んで喰う獣だ。しかも甘い物が好物らしく、メープルシロップが発見されてから多数の目撃証言が集まっていた。この国の餓鬼が一斉にこの地方を目指しているらしい」
「聞いてないよっ!」
俺はロクにも神様にも文句を言いたい気分だった。
そんな厄介なモノがいるなら事前に教えて欲しかった。
「甘い物が好物だなんて誰も知らなかった」
「ウッ、これまでは無かった事態だからか……」
新たな発見には新たなトラブルが付き物だ。
物事は良い側面ばかりじゃない。それが俺の不安の原因だった。
「人間って邪魔な毛とか牙とか角がなくて、柔らかくて食べやすいのかなぁ」
「おまけに味付けまでされているしな」
ふわふわのスポンジに甘くてとろりとしたクリームが掛かっていたら俺だって武者振りつくもの……って、俺はケーキじゃない!
「あいつらって強いの?」
「三匹いたら普通の人間ならやられる。冒険者でも対応できるのは四匹までだな」
チッ、ゲームでは雑魚キャラだったのに、こっちの世界じゃ結構強いじゃないか。
「俺、生きたまま食べられるのはヤダよ?」
なんとかしっかりしようと思うんだけど目に涙が滲んでしまう。
ロクの事は信用してるけど、それでも怖いもん。
「大丈夫だ。しっかりと掴まって、俺が良いと言うまで目を閉じていろ」
「うん。わかった」
俺はロクの首にギュッとしがみつき、涙で濡れた目をきつく瞑った。
ギシギシという軋んだような鳴き声が辺りに充満し、ゴブリン――餓鬼が無数に集まってきているのがわかった。
俺たちは絶体絶命のピンチだった。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる