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62.新たな甘味と引き寄せられたモノ―1
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高原のように涼しい気候から、時折焼け付くような日差しが降り注ぐ季節になった。
日本よりも乾燥しているからずっと過ごしやすいが、それでも直射日光はキツイ。
「獣人の人たちにこの日差しは厳しいんじゃない?」
「ええ。ですが夏毛に変わりますので、人間が思うよりも暑くはないのですよ」
「ふぅん……」
俺はウィリアムの鬣をマジマジと見た。
確かに少し軽やかになっている気がする。
しかもサイドの毛をお洒落に編み込みにしている。
「なんかさぁ、みんなお洒落になったよね……」
「それはお館様があの通りですからね。仕える者が恥ずかしい格好は出来ません。それに寝癖直しにより毛並みが艷やかになりましたから、飾り甲斐があるのです」
鼻高々なウィリアムが微笑ましい。
「でも、中央では馬鹿にされるんじゃないの? だって獣人は強い方が偉いって風潮だろう?」
「勿論、肉体の頑強さがベースになくてはいけません。その上で魅せるのです」
キラリと光った白い歯が眩しい。
ウィリアムは少し性格が変わったんじゃないだろうか?
「まあ、身なりに気を付けるのは悪いことじゃないしね」
「そうです。それに中央社交界でも寝癖直しは大流行していますから、先を行っている私達を馬鹿になど出来ません」
(う~ん、売れてるのは知ってたけどね……)
寝癖直しも軟膏も生産が追い付かないほどに売れている。
安くて目に見える効果があるんだから、売れて当然だろう。
「やっぱり生産力が問題だよな~」
毎日アホみたいに神薬を作っていたら、レベル一の薬なんて一気に百本くらい作れるようになったけれど、所詮は俺一人で作っているので限界がある。
「中級と下級の需要も増えてるし」
この国では大きな戦争は起こっていないが、国境線の小競り合いくらいはあるし、何よりも動植物が獰猛なので駆除している冒険者や役人がよく怪我をする。
彼らはこの世界の不思議植物を使った生薬を使っていて、俺が思ってたよりもそれはずっと効き目があるんだけど高いし処方するのが難しい。
問答無用で病気や怪我を治してしまう神薬が持て囃されるのは当然の帰結と言えた。
「お陰で信徒の数は急激に増えたけど、領外にもっと広める為には神薬の数が足りないよなぁ」
今は生薬で事足りる怪我や病気には神薬を使わないようにしている。
それでも足りないのだ。
俺がうんうんと頭を捻っていたら、羊の血を引くメルが自分を弟子にして貰えないかと言ってきた。
「弟子?」
「私なんかが烏滸がましいかもしれませんが、学んで覚えられるならば死ぬ気で覚えます。ですからどうぞ、イチヤ様の弟子にして下さい」
そう言って再び床に頭を擦り付けるメルを止めながら、それもありかもしれないと思う。
流石に誰でもは無理だろうけど、もしかしたら適性のある人がいるかもしれないし、レベル一の薬でも作れるようになってくれたら助かる。
「適性が……いるかもしれないけど」
「その適性というものが、私には無いでしょうか?」
不安そうに俺を見つめてくるメルの黄色い目を見返す。
(白妙、どう思う?)
『ムリ。でも仮免許なら与えられる』
(は? 仮免許?)
吃驚して聞き返したら、神薬作りは資格のある者が神に直接伝授されて初めて作れるようになるのだという。
けれど神薬を作れる者が仮免許を発行し、権能の一部を使わせることが出来るらしい。
『仮免許を取り上げたら、作れなくなる』
なるほど。それがいつでも取り上げられる力だから仮免許なのか。
「メル、どうやら俺の力の一部だけは貸してあげられるみたい」
「本当ですかっ! きっとイチヤ様のお力になってみせますから、どうかご伝授下さいっ!」
メルの熱意に圧され、俺は白妙に聞きながら仮免許を発行する。
と言っても難しいことは何もなくて、ただ額に指で自分の名前をサインするだけだ。
「ああっ! 頭の中に作り方が浮かんできました!」
「うん。きっと最初はレベル一の薬しか作れないと思うけど、練習したらレベル二までは作れるようになると思う。頑張り次第ではレベル三までいくかも」
「はいっ! 精進いたします!」
「余り思いつめないでね」
倒れるまで作り続けそうで怖いけど、メルが上手くいったら人を増やす事も考えよう。
エミールに相談して、信心深い人から選んでも良いし、仕事を探している人に頼んでもいい。
(これで少しは賄えるでしょ)
俺はホッとして、やっと一息つけると思っていたら頭の中に例のチャイムが鳴り響き、次いで大神の声が聴こえてきた。
『信仰心の強化を認める。約束の褒美を与えるので受け取るが良い』
(やった! 甘味だ!)
俺は喜び勇んで案内役を務める蜂たちに付いて行く。
その後を慌ててウィリアムが追ってくる。
「イチヤ様! お館様に断りませんと!」
「ウィリアムから伝えておいて!」
メープルシロップは死ぬほど嬉しかったけれど、量が圧倒的に足りない。
今度は沢山採れるものだといい。
出来れば栽培して増やせるものだと尚良い。
俺が祈りながら息を切らせて走り続け、やっと目にしたものを見て飛び上がりそうになった。
日本よりも乾燥しているからずっと過ごしやすいが、それでも直射日光はキツイ。
「獣人の人たちにこの日差しは厳しいんじゃない?」
「ええ。ですが夏毛に変わりますので、人間が思うよりも暑くはないのですよ」
「ふぅん……」
俺はウィリアムの鬣をマジマジと見た。
確かに少し軽やかになっている気がする。
しかもサイドの毛をお洒落に編み込みにしている。
「なんかさぁ、みんなお洒落になったよね……」
「それはお館様があの通りですからね。仕える者が恥ずかしい格好は出来ません。それに寝癖直しにより毛並みが艷やかになりましたから、飾り甲斐があるのです」
鼻高々なウィリアムが微笑ましい。
「でも、中央では馬鹿にされるんじゃないの? だって獣人は強い方が偉いって風潮だろう?」
「勿論、肉体の頑強さがベースになくてはいけません。その上で魅せるのです」
キラリと光った白い歯が眩しい。
ウィリアムは少し性格が変わったんじゃないだろうか?
「まあ、身なりに気を付けるのは悪いことじゃないしね」
「そうです。それに中央社交界でも寝癖直しは大流行していますから、先を行っている私達を馬鹿になど出来ません」
(う~ん、売れてるのは知ってたけどね……)
寝癖直しも軟膏も生産が追い付かないほどに売れている。
安くて目に見える効果があるんだから、売れて当然だろう。
「やっぱり生産力が問題だよな~」
毎日アホみたいに神薬を作っていたら、レベル一の薬なんて一気に百本くらい作れるようになったけれど、所詮は俺一人で作っているので限界がある。
「中級と下級の需要も増えてるし」
この国では大きな戦争は起こっていないが、国境線の小競り合いくらいはあるし、何よりも動植物が獰猛なので駆除している冒険者や役人がよく怪我をする。
彼らはこの世界の不思議植物を使った生薬を使っていて、俺が思ってたよりもそれはずっと効き目があるんだけど高いし処方するのが難しい。
問答無用で病気や怪我を治してしまう神薬が持て囃されるのは当然の帰結と言えた。
「お陰で信徒の数は急激に増えたけど、領外にもっと広める為には神薬の数が足りないよなぁ」
今は生薬で事足りる怪我や病気には神薬を使わないようにしている。
それでも足りないのだ。
俺がうんうんと頭を捻っていたら、羊の血を引くメルが自分を弟子にして貰えないかと言ってきた。
「弟子?」
「私なんかが烏滸がましいかもしれませんが、学んで覚えられるならば死ぬ気で覚えます。ですからどうぞ、イチヤ様の弟子にして下さい」
そう言って再び床に頭を擦り付けるメルを止めながら、それもありかもしれないと思う。
流石に誰でもは無理だろうけど、もしかしたら適性のある人がいるかもしれないし、レベル一の薬でも作れるようになってくれたら助かる。
「適性が……いるかもしれないけど」
「その適性というものが、私には無いでしょうか?」
不安そうに俺を見つめてくるメルの黄色い目を見返す。
(白妙、どう思う?)
『ムリ。でも仮免許なら与えられる』
(は? 仮免許?)
吃驚して聞き返したら、神薬作りは資格のある者が神に直接伝授されて初めて作れるようになるのだという。
けれど神薬を作れる者が仮免許を発行し、権能の一部を使わせることが出来るらしい。
『仮免許を取り上げたら、作れなくなる』
なるほど。それがいつでも取り上げられる力だから仮免許なのか。
「メル、どうやら俺の力の一部だけは貸してあげられるみたい」
「本当ですかっ! きっとイチヤ様のお力になってみせますから、どうかご伝授下さいっ!」
メルの熱意に圧され、俺は白妙に聞きながら仮免許を発行する。
と言っても難しいことは何もなくて、ただ額に指で自分の名前をサインするだけだ。
「ああっ! 頭の中に作り方が浮かんできました!」
「うん。きっと最初はレベル一の薬しか作れないと思うけど、練習したらレベル二までは作れるようになると思う。頑張り次第ではレベル三までいくかも」
「はいっ! 精進いたします!」
「余り思いつめないでね」
倒れるまで作り続けそうで怖いけど、メルが上手くいったら人を増やす事も考えよう。
エミールに相談して、信心深い人から選んでも良いし、仕事を探している人に頼んでもいい。
(これで少しは賄えるでしょ)
俺はホッとして、やっと一息つけると思っていたら頭の中に例のチャイムが鳴り響き、次いで大神の声が聴こえてきた。
『信仰心の強化を認める。約束の褒美を与えるので受け取るが良い』
(やった! 甘味だ!)
俺は喜び勇んで案内役を務める蜂たちに付いて行く。
その後を慌ててウィリアムが追ってくる。
「イチヤ様! お館様に断りませんと!」
「ウィリアムから伝えておいて!」
メープルシロップは死ぬほど嬉しかったけれど、量が圧倒的に足りない。
今度は沢山採れるものだといい。
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