【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

文字の大きさ
上 下
121 / 194

60.山を降りる日―2

しおりを挟む
「俺はあんたの言うことには全て従うつもりだ。だが、どうせならやろうとしていることをちゃんと理解したい。大神は獣人が嫌いなのか?」
 う~ん、俺はアーロンのことを単細胞だと思っていたけど、案外と本質を掴んでいるのかもしれない。
 アーロンの懸念はきっと獣人全てが思うことだろう。

「嫌い、まではいかないだろうけど複雑な心境かもね。神霊は獣神を思い出させるし」
「神霊は悪いものか?」
「悪くないよ。君たちの魂の一部で、影で、心のありようなんだと思う」
「では獣神とどう違う?」
 そう訊かれてちょっと戸惑った。
 全然違うけれど、どう違うかと訊かれると説明が難しい。

「俺は神霊を持っていないし、獣神を見たこともないから違いを説明するのは難しい。でも、神霊は神秘的な存在ではあっても神じゃないし、獣神は正真正銘の神だ。その差はきっと大きい」
 神格を得たハヌマーンやロクは人よりもずっと大きな力を持っているけど、それでも神とは比べ物にならない。全く違う存在だと言える。

「神というのは、きっと人の延長線上にはない存在なんだ。全く違う場所に、殆ど関わりなんてないように存在してる。でも誰も無縁ではいられない」
 それは神が創った世界で暮らしているからかもしれないし、神が人を創ったからかもしれない。兎も角、こちらからは殆ど関われないのに向こうの進退はこちらに影響を及ぼす。仕方がない。神ってのはそれだけ大きな存在だし、誰もその影響から逃れられないって意味では等しく厄介だ。

「だからあんたは利用することにしたのか?」
「……利用する? そう見える?」
「ああ」
 う~ん、神を利用するなんて大それた真似をするつもりはなかったけど……結果的にはそうなってるかもしれない。

「一方的に利用しているつもりはないよ。大神だって自分たちに利がなければ俺の提案を蹴っただろうからね。こういうのはwin-winの関係――どっちも満足した取り引きってやつだ」
「では俺もあんたに損をしたと思われないように、満足して貰えるように頑張ろう。山を降りる者は俺以外に何人くらい集めたらいい?」
「えっ、君一人でいいよ。大勢にお願いしたいことがある時は連絡するし」
「本当にそれでいいのか? もっと役に立ちたいのだが」
 真顔で言い募るアーロンを見て苦笑する。
 口先だけで盛大にありがたがってお礼を言う人もいるのに、彼からは誠意しか感じられない。

「君たちが恩に着てくれるなら、神薬の生成を可能にした大神に感謝して欲しいね。何にでも効く薬なんて、加護でもなければ作れないもの」
「奇跡だということはわかっている」
 うん、ほんと。不治の病も呪いも、老衰すら一時的には治せるなんて滅茶苦茶だよね。
 これを無制限にばら蒔いたらとんでもない事になるのはまぁわかる訳で。

「アーロン。薬はこの世の全ての人に行き渡る訳じゃない。それに強盗とか人殺しを助けるのもイヤだ」
 俺は神の使徒を名乗ってるけど、全然慈悲深くないんだ。

「だから奇跡が行えても、行えるのに儘ならなくて悔しい時もあるかもしれない」
 俺が脅すようにそう言ったら、アーロンはニヤリと笑った。

「俺がこれまでどれだけ悔しい思いをしてきたと思う? 儘ならない。そんな事は当たり前だ。それでも俺は生きる」
「……そっか」
 アーロンなら大丈夫そうだ。

 俺はコンドルたちに寝癖直しを幾つか与え、ブラッシングを教えて、経典を元に大神の教えを説き、甘味の存在を教えて、布教活動をする為に人を派遣することを許して貰った。
 いつの日か彼らを、王家を抑える為の僧兵として使う日がくるかもしれない。
 戦争なんてする気はないけれど……。

「チヤ、心配するな。私がいる」
 深い声でそう請け負われ、青い瞳で見下ろされて気持ちが軽くなる。
 そうだ、俺が世界を背負っているような気分になる必要はない。
 きっとロクが助けてくれるし、なんなら俺を攫って逃げてくれる。

「酷いことにならない為に頑張るんだ。それを忘れそうになったら、思い出させてくれる?」
「いつでも」
 耳を噛むように囁かれて、ジン……と身体の奥が痺れた。
 いつでも俺を抱いてくれる。
 身体の奥から滅茶苦茶に掻き回してくれる。壊してくれる。
 そんな存在がいるだけでなんて心強いんだろう。

「ロク、約束だよ」
 俺はそう囁き返してロクの首筋を撫でた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~

兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。 そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。 そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。 あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。 自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。 エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。 お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!? 無自覚両片思いのほっこりBL。 前半~当て馬女の出現 後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話 予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。 サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。 アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。 完結保証! このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。 ※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

処理中です...