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59.万能薬は万能だった―2
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「長老! メリッサ様を治せるかもしれない人たちを連れてきた!」
「なんてことを!」
長老は掟破りだと叫んだが、一族最後の女性を助けられるかもしれないと聞いて口を噤んだ。
それはどうせ滅びるからとかそういうことじゃなくて、純粋にメリッサさんを助けたいからみたいだった。
「ご領主様っ!? 一体どうして――」
長老がロクの姿に気付いて再び騒ぎ出しそうになったけど、俺はそれよりも病人に会いたいと割って入った。
俺は文系の学生で、医療知識なんて持ち合わせていない。
それでも病人や怪我人を見ると何となく、神薬で治せる治せないがわかるようになってきた。
だから医者でもないのに自信ありげな態度で会わせてくれと頼んだ。
「どうしてわしらを助けようとする? どうせ滅びゆく一族なのに」
長老の自虐的な言葉に俺はごく簡単に答える。
「だって、まだ間に合うじゃん」
そりゃあ、生きながら死を待つような心持ちで暮らしてきたのかもしれない。
でも今回は間に合った。少なくともメリッサさんはまだ生きているし、これからだって生きられるかもしれない。そこにどうせ一族としての未来はない、なんてことは関係ないんじゃないの?
「本気でそう思うのか?」
「うん。生きてさえいれば、諦めなければ道はまだ閉ざされていないよ」
だから諦めずに足掻こうぜ、と言ったら長老は溜め息を吐いた。
「年をとると今さら頑張ろうとは思えなくなる。だが、あの子には死んで欲しくない。生きて、もう一度笑って欲しい。だからどうか頼む。あの子を助けて下さい」
「うん。死なない初めてのコンドルの女性にしよう」
俺は奥の部屋に寝かされていたメリッサさんに会わせて貰った。
枯れ木のように手足が細く、背骨が曲がり、息をしているかどうかも怪しい。
(これじゃ呪いだって思われてもしようがないな)
こんな風に死んでいくのを見るのは、周りも辛かっただろうなと思う。
女性ばかりが死ぬんじゃ、何者かが一族を滅ぼそうとしているとしか思えなくても仕方がない。
これが遺伝病なのか本当に呪いなのかはわからないけど、俺に解くことが出来るのかもわからないけど――。
「飲んで。これが呪いでも薬は効くから、飲んで」
飲み込む力すら最早なさそうな女性の口に、万能薬を流し込む。
ほんの少しでも吸収されたら。
「ッ!」
吃驚するくらい真っ白い光がフラッシュのように焚かれて、完全に健康な身体を取り戻した女性がパチリと目を開いた。
「メリッサ様ぁああああっ!」
「治ったのかっ!」
周りが激しく騒ぐ中、女性が静かに呟いた。
「……そんな、馬鹿な。息ができるなんて、そんな馬鹿な。瞬きも、羽根を動かすことも自分の意思で出来るなんてそんなまさか!」
信じられないと目を見開く女性の手を、男や長老が泣きながら握った。
アーロンなど吃驚しすぎて呆けている。
「姉さん、本当に生きているのか?」
「ここが死後の世界でないならね」
「ああ、この口の利き方は姉さんだ。本当に助かったんだ!」
やっと実感が湧いてきたのか、アーロンがメリッサに抱きついた。
ってか、メリッサはアーロンの姉だったのか。知らなかったよ。
「あなたは神の使いなのか?」
長老に問われて一拍置いて頷く。
「大神はこの地に人を生み出した。けれども人はあとから来た獣神の方を受け入れ、大神を忘れた。大神は人に見切りをつけ、この星から去ろうとしているけど……まだ間に合う。今からでも大神を信じることが出来たら、人を守って取り上げた甘味も少しずつ戻してくれる。俺はその為に動いてる」
「人の為に?」
「人の為に」
獣神が戻ってきて脅威に晒されるのは獣人だけに見えるかもしれない。けど、俺はそうじゃないと思う。
きっと人間だけが安泰だなんてことはない。
神ってのはそんなに生やさしい存在じゃない。
「わしらにもその手伝いが出来るだろうか?」
「うん。味方になってくれたら助かる」
俺はへらりと笑って手を差し出した。
多分、彼らにだって打算はある。
命の恩人だからって無条件に受け入れられたなんて思うほど俺もおめでたくはない。
でも俺の話を聞いてくれるなら、言葉が届くならそれだけで本当にありがたい。
「まずはこの集落に伝わっている話を聞かせて貰おうかな」
俺は今の王族に対抗して破れた彼らに興味があるのだった。
「なんてことを!」
長老は掟破りだと叫んだが、一族最後の女性を助けられるかもしれないと聞いて口を噤んだ。
それはどうせ滅びるからとかそういうことじゃなくて、純粋にメリッサさんを助けたいからみたいだった。
「ご領主様っ!? 一体どうして――」
長老がロクの姿に気付いて再び騒ぎ出しそうになったけど、俺はそれよりも病人に会いたいと割って入った。
俺は文系の学生で、医療知識なんて持ち合わせていない。
それでも病人や怪我人を見ると何となく、神薬で治せる治せないがわかるようになってきた。
だから医者でもないのに自信ありげな態度で会わせてくれと頼んだ。
「どうしてわしらを助けようとする? どうせ滅びゆく一族なのに」
長老の自虐的な言葉に俺はごく簡単に答える。
「だって、まだ間に合うじゃん」
そりゃあ、生きながら死を待つような心持ちで暮らしてきたのかもしれない。
でも今回は間に合った。少なくともメリッサさんはまだ生きているし、これからだって生きられるかもしれない。そこにどうせ一族としての未来はない、なんてことは関係ないんじゃないの?
「本気でそう思うのか?」
「うん。生きてさえいれば、諦めなければ道はまだ閉ざされていないよ」
だから諦めずに足掻こうぜ、と言ったら長老は溜め息を吐いた。
「年をとると今さら頑張ろうとは思えなくなる。だが、あの子には死んで欲しくない。生きて、もう一度笑って欲しい。だからどうか頼む。あの子を助けて下さい」
「うん。死なない初めてのコンドルの女性にしよう」
俺は奥の部屋に寝かされていたメリッサさんに会わせて貰った。
枯れ木のように手足が細く、背骨が曲がり、息をしているかどうかも怪しい。
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こんな風に死んでいくのを見るのは、周りも辛かっただろうなと思う。
女性ばかりが死ぬんじゃ、何者かが一族を滅ぼそうとしているとしか思えなくても仕方がない。
これが遺伝病なのか本当に呪いなのかはわからないけど、俺に解くことが出来るのかもわからないけど――。
「飲んで。これが呪いでも薬は効くから、飲んで」
飲み込む力すら最早なさそうな女性の口に、万能薬を流し込む。
ほんの少しでも吸収されたら。
「ッ!」
吃驚するくらい真っ白い光がフラッシュのように焚かれて、完全に健康な身体を取り戻した女性がパチリと目を開いた。
「メリッサ様ぁああああっ!」
「治ったのかっ!」
周りが激しく騒ぐ中、女性が静かに呟いた。
「……そんな、馬鹿な。息ができるなんて、そんな馬鹿な。瞬きも、羽根を動かすことも自分の意思で出来るなんてそんなまさか!」
信じられないと目を見開く女性の手を、男や長老が泣きながら握った。
アーロンなど吃驚しすぎて呆けている。
「姉さん、本当に生きているのか?」
「ここが死後の世界でないならね」
「ああ、この口の利き方は姉さんだ。本当に助かったんだ!」
やっと実感が湧いてきたのか、アーロンがメリッサに抱きついた。
ってか、メリッサはアーロンの姉だったのか。知らなかったよ。
「あなたは神の使いなのか?」
長老に問われて一拍置いて頷く。
「大神はこの地に人を生み出した。けれども人はあとから来た獣神の方を受け入れ、大神を忘れた。大神は人に見切りをつけ、この星から去ろうとしているけど……まだ間に合う。今からでも大神を信じることが出来たら、人を守って取り上げた甘味も少しずつ戻してくれる。俺はその為に動いてる」
「人の為に?」
「人の為に」
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きっと人間だけが安泰だなんてことはない。
神ってのはそんなに生やさしい存在じゃない。
「わしらにもその手伝いが出来るだろうか?」
「うん。味方になってくれたら助かる」
俺はへらりと笑って手を差し出した。
多分、彼らにだって打算はある。
命の恩人だからって無条件に受け入れられたなんて思うほど俺もおめでたくはない。
でも俺の話を聞いてくれるなら、言葉が届くならそれだけで本当にありがたい。
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