【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

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57.自作自演−1

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 分厚い繻子織りの生地がまるで真珠のように光っている。
 アルテミス嬢は白く輝く身体に百合の花のような細身のドレスを身にまとい、金糸の刺繍とダイヤモンドの装飾がそれを上品に引き立てていた。
 本当に吃驚するくらい綺麗で、俺よりも年下の女の子だなんて思えなかった。

「こんなに綺麗だと、求婚者がいっぱい寄ってきそうだね」
 モテてモテて男をあしらうのが大変だろうと言ったら、アルテミス嬢は花が咲くようにニッコリと笑った。

「そのくらい上手く躱せなくては、伯爵令嬢など務まらないわ」
 なるほど。彼女たちにとってはどの家に嫁ぐかで未来が変わってくるんだから、ちょっと男にチヤホヤされたくらいで浮かれたりはしないんだね。
 寧ろ手玉に取って、操れるくらいじゃないと貴族の令嬢とは言えないのかもしれない。

「寝癖直しに関しては、値段も安いし手に入れやすいから殆どの令嬢が使っていました。男の方も、馬や獅子の方などは使われていたようだわ」
 それは多分、恥ずかしいとか軟弱と受け取られないかなどまだ迷いがあるんだろう。
 元々女より男の方がナルシストが多いって言うし、孔雀でもライオンでも派手に飾り立てて雌の気を引く習性があるんだから男どもが手を出すのも時間の問題だ。

「甘味の方はどう?」
「イチヤ様の考案されたサクサクメープルクッキーというのは凄いわね。大の男がすっかり蕩けていたわよ」
 俺はアルテミス嬢の言葉にプッと噴き出した。
 なんでもお茶会に持っていったクッキーを、厳格で知られたその家の主が相好を崩しながら食べていて驚いたそうだ。
 俺の世界では男は甘い物を好まない、女子供が喜んで食べるもの……ってイメージを植え付けられていたけど、こっちでは男の方が好むみたいだ。
 まあ、俺みたいなすんごい甘党もいたし、どっちがどうって決め付けるのは良くないかもしれない。

「ただ、予想外の使われ方もしているのでどうしようかと……」
 そう言葉を濁したアルテミス嬢からなんとか聞き出したところによると、何人かの男性は甘い匂いに誘発されて性的興奮を示していたらしい。
 つまり食欲が性欲に直結した奴らが、甘い匂いをさせている女を見つけると欲情する。それでその性質を利用した女性たちがいた。

「その、男性に求められるのは自分の魅力を再確認出来て嬉しい、という気持ちはわかるのよ」
 え、わかるんだ? 十代の女の子が男に求められると嬉しいんだ? 流石異世界、流石獣人。

「でも社交の場で手軽に誘われては困るし、手を出させておいて責任を取れだなんていうたちの悪い方々もいるみたいなの」
「うっわ、それって美人局じゃん」
 貴族がやることじゃないだろうとげんなりする。

「美人局?」
「女の人を餌にして誑かして、後から怖いお兄さんが出てくること」
「ええ、正にそれだわ」
 どうせ前からあったことではあるんだろうけど、俺が流行らせちゃうのは寝覚めが悪い。
 注意喚起くらいはしておいて貰おう。

「それで肝心の神教の方なんだけど、少しは覚えて貰えたぁ? 教会に寄付をしたらメープルシロップがお礼に貰えるって知られてる? 教会が何処にあるのか、どういう教えを説いているのか……少しは興味を持って貰えてる?」
「ええ。ビラも配っているし、会話に『大神の思し召しです』とか『大神のご加護に感謝します』というフレーズを差し挟むようにしているから、寛容で人に与える神だと思われているみたい」
 人に物を与える神。それはそれで良いんだけど、次の段階では神に背いたら罰を与えられることもあるって教えなくちゃな。
 人が何をしてもどうせ許して貰える、なんて見縊られちゃ困るんだよ。

「病気の相談とかはされない?」
「それはまだ……神薬の存在を余り知られていないようね」
 ふむ。教会の診療所に来るのなんて貧乏人ばかりだからね。
 それでなくても貴族が庶民を頼ろうだなんて思うわけがないし。

「神教でなきゃ駄目だと思わせるには、絶対的な奇跡を見せつける必要がある。難病、それか手の施しようがない大怪我、そう言ったものを劇的に鮮やかに治して見せる。人々が感心するやり方で、心酔する一幕を作りたい」
「奇跡の演出……」
 アルテミス嬢は難しい顔をして黙り込んだ。

(まぁ、そんなに都合よくはいかないよね)
 そう思って急がなくていい、と言おうとしたらアルテミス嬢が硬い表情で言ってきた。
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