104 / 194
52.光るあなた―1
しおりを挟む
傷薬の軟膏を、最初に顔に塗ろうと思った女性は凄いと思う。
再生薬から作ってるから、そりゃあ顔に塗ったら綺麗にはなるけどね。神様たちだって美容目的で使ってるし。
でも下界では薬として売り出したのにねぇ。
「とにかく凄い売れ行きで……」
「値段も安いですからね」
販売係に雇った二人の人間が口々にそう言った。
人間と間近に接するのは久し振りで、ちょっと緊張する。
「肝心の怪我や肌荒れの人はいる? 勿論、人間だけじゃなくて獣人も含めて」
「獣人は余りいません。毛に付くのが嫌みたいです」
クリーム色っぽい金髪をしたノルンがそう答えた。
「クリームタイプか、ミストで寝癖直し~みたいのがいいのかな?」
「寝癖? 確かに獣人は毛並みを気にしますね。でも寝癖って」
俺の言葉にキャラキャラと笑ったのは褐色の髪色をした少年でマリクといい、この二人は兄弟だった。
「おい、失礼だぞっ!」
兄のノルンが弟のマリクの態度を嗜めた。
生真面目だなぁとちょっと呆れる。
「ま、冗談はともかく、獣人だって皮膚病になったり、怪我はするだろう? 効き目があるとわかれば使ってくれると思うんだけどな」
俺は動物を飼ったことがないのでよくわからないけど、毛があってもその下の皮膚が健康とは限らないよな?
人間みたいに皮膚病や肌荒れ、アレルギーもあるんじゃないの?
「人間にしか効かないと思われているのかもしれませんね。それか効果が出るまで塗り続けるのはしんどいとか……」
そうか! 一回だけならともかく、ベタッとして塗り心地の悪いものを治るまで何度も付けるのが嫌になっちゃうのか。
それに人間と違って肌が見えていないから、例え効果があったとしても周りに伝わらないんだな。
(かといって剃り上げる訳にはいかないし……)
汗疹のできた犬じゃあるまいし、毛を剃らせてくれる獣人なんて存在しない。
それは人間に真っ裸で歩けって言うようなものだ。
「イチヤ様、寝癖直しとして売ったらいいんですよ」
マリクがあっけらかんとそう言ってきた。
それをノルンが慌てて諌める。
「おい――」
「寝癖直しって言い訳があればきっと買いますよ!」
「……ん?」
俺はマリクの言葉に首を傾げる。
「それは、軟膏を買うのは体面が悪いとかそういうこと?」
「はい。人間たちが付けてるベタベタを、自分たちが付ける訳にはいかない。そう思う獣人は多いと思います」
う~ん、そんなつまらない見栄を張るかなぁと俺は半信半疑だったけど、実際に使い心地は悪いのだろうから改良の余地はある。
「じゃあジェフに言って、ミストかスプレータイプを作って貰うよ。それで館の人たちにも試して貰おう」
俺は早速、試作品を作らせてロクのところに持っていった。
***
「ロク! ブラッシングをさせて!」
「ブラッシング? 私には必要ないぞ」
馬型獣人のように鬣があったり、長毛種の犬型獣人でない限りはブラッシングなんてしない。知ってる。でも。
「再生薬をスプレーして豚毛のブラシで梳かしたら、綺麗になると思うんだよ。確認したいんだってばぁ!」
「……言っておくが、身体を撫で擦る行為は愛撫に当たるぞ」
「え? もしかしてエッチな気分になっちゃうの?」
一応、教会で売るのにそれはマズイ。
「こっちでは、グルーミングの習慣ってないの?」
「無くはないが……相手次第だな」
ニヤリと笑われて顔が熱くなる。
なんだよ、俺がロクをエッチな目で見てるって言うのかよ。
まぁ、見てるけどさ。
「多分さぁ、再生薬だからハゲ――薄毛の人にも効くと思うんだよ。勿論、レベル一を薄めてるから即効性はは無いと思うけど」
「即効性がなければ付けないんじゃないか?」
「だからどうなるか試させてって」
俺は勝手にロクの耳の後ろの毛を掻き分けてシューッとスプレーを吹き掛ける。
それから地肌を揉み込むように指先を滑らせた。
“グルルッ……”
ロクの喉からゴロゴロとした音が聴こえ、ロクが気持ち良さそうに目を瞑る。ちょっと可愛い。
「んっと、まずは全体に付けていくね」
そう言って俺は首の後ろを通って肩や背中にも広げていく。
邪魔なシャツは剥ぎ取った。
(ロクの筋肉って凄いんだぁ)
ピタリと張り付いたような毛のうねりからも筋肉質な肉体は見て取れるんだけど、触るとまたムキッと盛り上がった感触が凄い。
(でも筋肉マッサージじゃないからね。今回は地肌を撫でるだけ)
俺は手を滑らせてロクの腰の触れるところギリギリまで薬を塗り込む。
ちょっと妖しい気分になってしまったのは内緒だ。
再生薬から作ってるから、そりゃあ顔に塗ったら綺麗にはなるけどね。神様たちだって美容目的で使ってるし。
でも下界では薬として売り出したのにねぇ。
「とにかく凄い売れ行きで……」
「値段も安いですからね」
販売係に雇った二人の人間が口々にそう言った。
人間と間近に接するのは久し振りで、ちょっと緊張する。
「肝心の怪我や肌荒れの人はいる? 勿論、人間だけじゃなくて獣人も含めて」
「獣人は余りいません。毛に付くのが嫌みたいです」
クリーム色っぽい金髪をしたノルンがそう答えた。
「クリームタイプか、ミストで寝癖直し~みたいのがいいのかな?」
「寝癖? 確かに獣人は毛並みを気にしますね。でも寝癖って」
俺の言葉にキャラキャラと笑ったのは褐色の髪色をした少年でマリクといい、この二人は兄弟だった。
「おい、失礼だぞっ!」
兄のノルンが弟のマリクの態度を嗜めた。
生真面目だなぁとちょっと呆れる。
「ま、冗談はともかく、獣人だって皮膚病になったり、怪我はするだろう? 効き目があるとわかれば使ってくれると思うんだけどな」
俺は動物を飼ったことがないのでよくわからないけど、毛があってもその下の皮膚が健康とは限らないよな?
人間みたいに皮膚病や肌荒れ、アレルギーもあるんじゃないの?
「人間にしか効かないと思われているのかもしれませんね。それか効果が出るまで塗り続けるのはしんどいとか……」
そうか! 一回だけならともかく、ベタッとして塗り心地の悪いものを治るまで何度も付けるのが嫌になっちゃうのか。
それに人間と違って肌が見えていないから、例え効果があったとしても周りに伝わらないんだな。
(かといって剃り上げる訳にはいかないし……)
汗疹のできた犬じゃあるまいし、毛を剃らせてくれる獣人なんて存在しない。
それは人間に真っ裸で歩けって言うようなものだ。
「イチヤ様、寝癖直しとして売ったらいいんですよ」
マリクがあっけらかんとそう言ってきた。
それをノルンが慌てて諌める。
「おい――」
「寝癖直しって言い訳があればきっと買いますよ!」
「……ん?」
俺はマリクの言葉に首を傾げる。
「それは、軟膏を買うのは体面が悪いとかそういうこと?」
「はい。人間たちが付けてるベタベタを、自分たちが付ける訳にはいかない。そう思う獣人は多いと思います」
う~ん、そんなつまらない見栄を張るかなぁと俺は半信半疑だったけど、実際に使い心地は悪いのだろうから改良の余地はある。
「じゃあジェフに言って、ミストかスプレータイプを作って貰うよ。それで館の人たちにも試して貰おう」
俺は早速、試作品を作らせてロクのところに持っていった。
***
「ロク! ブラッシングをさせて!」
「ブラッシング? 私には必要ないぞ」
馬型獣人のように鬣があったり、長毛種の犬型獣人でない限りはブラッシングなんてしない。知ってる。でも。
「再生薬をスプレーして豚毛のブラシで梳かしたら、綺麗になると思うんだよ。確認したいんだってばぁ!」
「……言っておくが、身体を撫で擦る行為は愛撫に当たるぞ」
「え? もしかしてエッチな気分になっちゃうの?」
一応、教会で売るのにそれはマズイ。
「こっちでは、グルーミングの習慣ってないの?」
「無くはないが……相手次第だな」
ニヤリと笑われて顔が熱くなる。
なんだよ、俺がロクをエッチな目で見てるって言うのかよ。
まぁ、見てるけどさ。
「多分さぁ、再生薬だからハゲ――薄毛の人にも効くと思うんだよ。勿論、レベル一を薄めてるから即効性はは無いと思うけど」
「即効性がなければ付けないんじゃないか?」
「だからどうなるか試させてって」
俺は勝手にロクの耳の後ろの毛を掻き分けてシューッとスプレーを吹き掛ける。
それから地肌を揉み込むように指先を滑らせた。
“グルルッ……”
ロクの喉からゴロゴロとした音が聴こえ、ロクが気持ち良さそうに目を瞑る。ちょっと可愛い。
「んっと、まずは全体に付けていくね」
そう言って俺は首の後ろを通って肩や背中にも広げていく。
邪魔なシャツは剥ぎ取った。
(ロクの筋肉って凄いんだぁ)
ピタリと張り付いたような毛のうねりからも筋肉質な肉体は見て取れるんだけど、触るとまたムキッと盛り上がった感触が凄い。
(でも筋肉マッサージじゃないからね。今回は地肌を撫でるだけ)
俺は手を滑らせてロクの腰の触れるところギリギリまで薬を塗り込む。
ちょっと妖しい気分になってしまったのは内緒だ。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
異世界転移で、俺と僕とのほっこり溺愛スローライフ~間に挟まる・もふもふ神の言うこと聞いて珍道中~
兎森りんこ
BL
主人公のアユムは料理や家事が好きな、地味な平凡男子だ。
そんな彼が突然、半年前に異世界に転移した。
そこで出逢った美青年エイシオに助けられ、同居生活をしている。
あまりにモテすぎ、トラブルばかりで、人間不信になっていたエイシオ。
自分に自信が全く無くて、自己肯定感の低いアユム。
エイシオは優しいアユムの料理や家事に癒やされ、アユムもエイシオの包容力で癒やされる。
お互いがかけがえのない存在になっていくが……ある日、エイシオが怪我をして!?
無自覚両片思いのほっこりBL。
前半~当て馬女の出現
後半~もふもふ神を連れたおもしろ珍道中とエイシオの実家話
予想できないクスッと笑える、ほっこりBLです。
サンドイッチ、じゃがいも、トマト、コーヒーなんでもでてきますので許せる方のみお読みください。
アユム視点、エイシオ視点と、交互に視点が変わります。
完結保証!
このお話は、小説家になろう様、エブリスタ様でも掲載中です。
※表紙絵はミドリ/緑虫様(@cklEIJx82utuuqd)からのいただきものです。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる