【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

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㊼説得と嘘―2

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「お館様の了承も頂いてませんのに……」
 ウィリアムがブツブツと文句を言っているが聞き流す。
 大体、ロクに言ったら反対される気がする。

「神霊を呼べなくても、なんとなく来そうだなとかわかるでしょう? 積極的にそういう気持ちになってみてよ」
 俺はウィリアムにふんわりとした指示を出す。
 神霊は自分自身でもあるんだから、メンタルコントロール的なことである程度どうにかなるんじゃないかってのが俺の予想だ。

(それに今日は餌だってあるしな)
 そう思って待つこと数十分、透き通っていてちょっと幽霊みたいだけど優美なサラブレッドがトコトコと近付いてきた。

「そんなっ!」
 ウィリアムは鬣が逆立つほどに吃驚していたけれど、俺はこの結果を予測してた。
 神霊が甘えるように顔を寄せてきたので、俺は軽く叩いて応えてやる。

「あのね、俺は獣人にとって美味しいんだよ。良い匂いがするし、食べると甘いし力がつく。それに魂を強くするから、神霊にも効くんだよ」
「……では私もお館様のようになれるということですか?」
「いや、それは難しいと思う」
 そう言って目を逸した隙にウィリアムがスッと近付いてきて、俺の匂いを嗅いだ。

「確かに、甘い匂いがするとは思っておりました」
「神の加護があるからね」
「ですがそれを二人きりのこの場で話してしまっても良いのですか? 私があなたを襲うとは思わないのですか?」
 ウィリアムからブワッと不穏な気配のようなものが湧き上がり、俺は出てこようとする白妙と金鍔をグッと押さえた。
 蜂たちは前もって天界に素材を採りに行かせている。

「あなたには出来ない」
「それはどうでしょう」
 ウィリアムの荒い鼻息が首に掛かり、肩を押さえられて大きな身体が圧し掛かって来る。
 怖い。でも引けない。
 それから何秒か経ち、ドキドキする俺の肩からストンと手が外れて溜め息が聴こえた。

「駄目です、人間相手にその気になれません」
 ……フゥ。やっぱりね。城で俺を検査してくれたお姉さんたちがそうだったように、ツルッとした身体や顔に忌避感を覚える獣人は多いと思った。
 ロクとかレオポルトが特殊なんだよ。

「俺はいつでも甘い訳じゃなくて、甘い気持ちになれないと駄目なんです。それに恐怖を覚えると味が消える。だから相手はロクじゃないと駄目だし、ロクの為だけの特典です。狡いと思いますか?」
「……いえ。私ではなかったんだとしか思いません」
「良かった。じゃあ戻りましょうか」
 俺がそう言って踵を帰したら、ウィリアムが俄に慌てだした。

「神霊はもういいのですか?」
「うん。ウィリアムの神霊に会ってみたかっただけだからね」
 それに必ずしも獣人と神霊の行動が一致する訳じゃないってこともわかった。
 俺は多分、殆ど全ての神霊から好まれるだろう。

(もしかしたら、それはいざという時に使えるかもしれない)
 俺がわざわざ危険を犯してまで確かめたかったのはそのことだった。

「しかしお館様にどう申し開きをすれば良いのか……」
 ウィリアムの呟きを耳にして思わず足が止まる。

「んっ? まさかロクに話す気!?」
「隠し事は主からの信頼を失います」
 それはそうだけど、それはそうだけどーっ!

「ええっと、出来れば俺に喋らせて貰えないかな?」
「それは構いませんが、私を庇うのはお止め下さい。事実をありのままにお話し、後はお館様のご判断に従います」
 おおーぅ、神霊が来てくれるか試してみたってそこだけ話すつもりだったけど、ウィリアムのこの様子じゃ俺を襲おうとしたとか余計なことを話しちまいそう。

「あのさ、実際に何もなかったんだし、そんなに大事にしなくて良いんじゃないかな」
「ですがお館様の大切な方に無体を働こうとしました」
「いやいや、自分で『人間相手にその気になれない』って言ったじゃん。ウィリアムは俺の言葉に乗せられただけだよ。だから本当に気にしなくていいって」
「ですが――」
「それにさ、ウィリアムが要注意人物だと思われて近付けなくなったら、仕事がまともに出来なくて本当に困るんだよ。だから今回はロク以外の獣人の神霊も姿を現してくれるのか確認したかったって、それだけ伝えよう。ね、頼むよ」
 俺が何度も説得し、拝み倒して漸くウィリアムが頷いてくれた。

(ホッ、良かった)
 きっとこの話を聞いて怒られるのはウィリアムじゃなく俺だからね。
 しかも結構、本気で怒られる予感がする。
 だから俺はなんとか隠し通したかったんだけど、あっさりとバレてしまった。
 ロクの “千里眼” とかいうふざけた能力によって。

「自分の敷地内くらいならば誰が何処で何をしているのかわかる」
「そんなの聞いてないっ!」
「領地に戻ってきてから発現したし、余り趣味の良い力ではないから使わないようにしていた」
「だったらどうして――」
「お前を見ないようにするのは難しい」
 要はずっとじゃなくても、チョイチョイ見てたって事だろう?
 プライバシーの侵害じゃないかよ!
 腹を立てる俺の顎をロクが掴み、グッと目を合わされた。

「見ていた事は謝る。だがお前は、私に謝ることはないか? ん?」
「……ごめん。自分を賭けたりして悪かったよ」
「いいや、許さない」
「はあぁっ!?」
「他の男に触らせたりして、許せないな」
 低く囁かれてゾクゾクした。
 畜生、こんなの狡い。我慢できないに決まってる。

「……お仕置き、して」
 俺は自分からそう言ってロクの首にしがみついた。
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