【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

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㊻変身術―1

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 どうもウィリアムに避けられているみたいだ。
 昨日の話を聞いた後だから仕方がないけど、代わりにジェスに付きまとわれている。

「イチヤ様、神薬は薄めることは出来ないのでしょうか? オーバースペックでは勿体ないですし、薄められたら本数も増やせます」
 並々ならぬ熱意でジェスにそう訊ねられた。

「えーと、薄めるのはやめた方がいいと思う。効果を弱めた薬なら作れるから、特級、上級、中級、低級……くらいにわければいいんじゃない? ジェスに昨日渡したのが特級だね」
「なるほど。上級と中級と低級もご提供を頂けますか?」
 俺は練習でたくさん作った中からレベル四、三、二をジェスに渡す。因みにレベル一はほぼ効果がないので廃棄している。

「再生薬の方は、低級はミツロウと混ぜて肌に擦り込むようにしたらいいかも。でも、もしかしたら俺以外の人が加工したら効果が消えるかもしれないから、確認してみてくれる?」
「はい、わかりました」
 ジェスは格好よい耳をピルピルッと震わせて出ていった。とても楽しそうだ。
 まさかあんなに実験の好きな人だとは思わなかったと意外な反応に驚いていたら、スルスルと袖口から白妙が顔を出した。

『クスリ、ミツロウと混ぜてもヘイキ』
「あっ、白妙に聞けば良かったのか。次からは白妙に教えて貰うね」
『任せて』
 チルチルッと先が二股に分かれた舌を出されて、可愛いらしいなと頭を撫でていたら首元のファーに擬態していた金鍔が狐に戻って床に降りた。

『我も主殿の役に立つでござる』
「勿論、金鍔にも期待してるよ。でも、俺はまだ妖術が使えないからね~」
 結局、天界で俺は神格を得る事が出来なかったから、妖術も使えないままだ。
 お師匠様曰くレベル自体は上がってるから、このまま神薬を作りお供を使役し続けていればいずれは妖術も使えるようになるって話だったけど……本当かね?

『変身術はどうでござろう?』
「変身術?」
『葉っぱがあれば、主殿もできるでござるよ』
「葉っぱ?」
 金鍔が一枚の葉っぱを咥えて寄越した。

『それを頭に載せるでござる』
 おお、まるきり昔話の狐と狸の化かし合いみたいだな。

『我は人に化けまするが、主殿は四つ足に化けるでござる』
 俺は金鍔に教わって手印を結び、パチリと目を閉じて変身術を発動させる。

「わっ!」
 ボフン! と葉っぱが破裂して煙が身を包み、俺の目の前にはフロックコートを着た面長の紳士――つり目で目尻に赤い化粧まで入ったどうみても狐の青年――がいた。

「金鍔って、美人さんだったんだね~」
 俺が感心していたら、やんごとなき高貴そうなお声で金鍔が喋った。

「主殿は失敗でござった」
「えっ、黒豹になれてない?」
 俺はパタパタと自分の頭や身体を叩いた。

「んっ、これ……なんだろう?」
 頭を触った左手に、羽根のような柔らかな感触。
 指先でちょっと揉んでみたら極上のメガネ拭きみたいで、ぽわんと和んでしまった。

「主殿、呆けている場合ではござらん。それは耳でござるよ」
「耳? じゃあ少しだけ変身したってこと?」
「爪や尻尾はござらんか?」
「んんっ……尻尾はあるね」
 一部の獣人以外に尻尾はないから、俺は四つ足の獣になる途中だったという事になる。

「失敗したけど、術自体は発動したから、練習すれば使えるようになるのかな?」
「そうでござる。でも変身術を連発するのは身体に悪いから、暫くはそのままでござる」
「そうなの?」
 確かに、身体自体を変えちゃうんだから立て続けに使用するのは良くないかもしれない。

「どのくらいこうしていればいいの?」
「主殿は慣れてござらんゆえ、陽が沈む頃までは術を解かぬが良いでござる」
「金鍔は?」
「我は二尾なので、問題ないでござる」
 少し得意気にそう言った金鍔が可愛い。
 流石は俺の妖術の先生だねと金鍔を褒めてから不意に気付く。

(もしかして、この格好をロクにも見られちゃうんじゃない!?)
「金鍔、まずいよ! ロクにこんな中途半端なコスプレみたいな格好を見られるのは恥ずかしい!」
 本物の獣人にケモミミ姿を見られるのは、人として物凄く恥ずかしい。
 異世界人の性癖が物凄く偏ってるって思われたらどうしよう?
 それでなくても俺はロクにはみっともないところばかり見られているのに。

「こすぷれ? わかりませぬ」
 しょん、と悄気てしまった金鍔を見て慌てて手を振る。

「ごめんごめん、金鍔の所為じゃないよ。え~と、術を失敗した姿を見られるのが恥ずかしいなって」
「それならば問題ござらん。我が主殿に化けるでござるよ」
 そう言うと金鍔は止める間もなく葉っぱを取り出して二度目の変身術を使った。
 ボフン! という煙幕の後で現れたのは、俺の親戚の子……くらいには似てるかなって少年だった。

「ちょ、俺のこと幾つだと思ってるのさ! 半ズボンなんて穿かないし、それじゃあ中学生だろう!」
「よく似てると思うでござるが……」
「遠目には誤魔化せるかもしれないけど、ロクくらい親しい人は無理だね。直ぐにバレちゃうよ」
「お役に立てず、申し訳ないでござる」
 狐に戻ってモゾモゾと俺の足の間に入ってきて身を伏せた金鍔が可愛い。
 彼らはどうも俺とくっついていたがる節がある。
 勿論、ロクと仲良くする時は出ていて貰うけど、気が付くとぴたりとくっついている。

「君たちや獣人には、人間の見分けが難しいのかもしれないね」
 俺はそう言って金鍔を持ち上げて抱っこした。
 金鍔はすんすんと俺の匂いを嗅いで身体の緊張を解いた。

『主殿は誰よりも綺麗でござる』
「それはないよ」
 贔屓目にも程がある。

『チヤ様、キレイ』
『ブンブン!』
 白妙とハチたちにも擁護されて面映ゆい。

「ありがとう。そう言って貰えると、少しは自信が持てるよ」
 ジェスとウィリアムを見て自信を喪失していたから、慕ってくれるお供たちの存在は地味に嬉しい。
 俺はそれでもロクにこの格好を見られないように、バレないようにとなんとか逃げ回っていたんだけどジェスと話している所に踏み込まれてしまった。


「チヤ、ずっと私を避けていたようだが、何かあったのか?」
「何もないよ。もう少し薬を作っておいた方がいいかと思って、一人で作ってただけ」
「もういいのか?」
「出来ればもうちょっと……」
 あとちょっとで完全に陽が沈む。

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