【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

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㊷真の敵−1

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「神霊の姿が見えませんが、帰ったのですか?」
 お師匠様の第一声に、俺は意外な思いで聞き返す。

「あれ? 気配を感じ取れませんか?」
「此処にいるのですか? 姿はともかく、気配がありませんが……」
 へぇ、お師匠様にも気配がわからないんだ。
 やっぱりロクの影の中にいるから?

「そうですね。その方の神気で隠れてしまうようです」
 ロクの神気の方が神霊の気より強いって事?
 だとしたら凄いな。

「あ、じゃあもしかしたら大神に会う時も影に入れておいたら平気かな?」
「それは止めた方がいいでしょう。もしも見つかったら大騒ぎになります」
 そっか。じゃあやっぱり何処かに隠れていて貰おう。

「それでお師匠様、レベル五の薬を作れるようになったので、約束通り大神に会わせて下さい!」
「それは構いませんが、何か策は考えていますか?」
「策?」
 キョトンとする俺にお師匠様が思わぬ事を言い出した。

「大神は下界にも人にも興味がありません。それは此処までやってきたそなたであっても同様でしょう。大神に願いを聞き届けて貰う為には、まずは興味を持って貰わなくてはいけません」
 チェッ、会うだけではスタートにも立ててないって事か……。

「でもお師匠様、大神に興味なんて持たれて面倒臭い事になりませんか?」
 異世界人だって事がバレても拙いし、俺の特異体質に気付かれて実験とかされても嫌だし。
 交渉相手にはなって欲しいけど、俺自身の事は放っておいて欲しい。

「何をどう頑張ってもそなたは無事ではいられませんよ」
「……は?」
 余りにもサラッと言われたので反応が遅れた。
 は? なんだって?

「大神に自分の言葉を撤回させる事はまず無理でしょうが、もしも適った時には間違いなくそなたを代わりに所望するでしょう」
「ちょ、所望ってなんだよ!」
「大神の手元に置かれるだろうと言うことです」
 待って待って、俺はそんなつもりじゃなかった。
 元々、ただ一人の甘味じゃ俺が危ないから、後こっちの世界で生きていくって決めたのに甘味がなきゃ辛すぎるから甘い物の解禁を神様にお願いしにきただけだ。
 俺はいわば自分のエゴの為に甘味を取り戻したかったんであって、自分の身を犠牲にしてもなんて気持ちは欠片も無いからね?

「やはりわかってなかったのか」
 ロクに呆れたように言われてますます焦る。

「えっ、ロクは俺がヤバイ立場になるって知ってたの?」
「当然、代わりは求められるだろう。但し私も共に行き、一緒に逃げるつもりだった」
「逃げる……」
「神から逃げる為に神格を得る必要があった」
 そっか。ロクは対抗手段として神格を得たかったのか。
 俺はお師匠様に言われるままにやってるか、ただ単に俺に付き合ってくれてるんだと思ってたよ……。

「逃げるのは得策ではありませんね」
 お師匠様が眉宇を顰めながらそう言った。
 この神は性別がないけれど、見た目は飛び切り美しいのでそういう表情も様になる。
 人間しかいない元の世界ではさぞモテるだろうに、ちょっと勿体ないな。

「でも、ずっと大神のところにいるのは嫌です」
 大神のところで一体何をさせられるんだかわからないけど、神に仕えるなんてごめんだ。
 だって相手は絶対的な強者で、自分をどうとでも好きに出来ると思うと気が休まらない。
 対等とは言わなくても、せめてノーと言えるくらいの関係ではありたいよね。

「もしも大神がそなたに興味を持ち、そなたが天界にいたら今暫くは此処に留まるでしょう。その間に、甘味が解禁になった下界が目に見えて進歩したら大神も思い直すかもしれません」
 なんかあちこち丸く収まって凄く良い話に聞こえるけど、でもそれって神のスパンなんだよね?
 神の言う『暫く』ってのは数十年単位だったりするし、『下界が目に見えて進歩』するのに数百年は必要だったりしませんか?

「お師匠様は、どうしてそんなに大神にいて欲しいんですか? いなくてもお師匠様には影響ありませんよね?」
「影響はあります」
 え、あるの?

「私は神から人を救う存在だと言ったのを覚えていますか?」
「うん? あ~、そんな事を言ってたっけ?」
 その割にはちっとも役に立ってない――事もないのか? 俺は助けて貰ってるし。
 でもやっぱり納得できないと思っていたらお師匠様が言った。

「大神が天界から去ったら、獣神が戻ってきます。そして獣神は神霊を一族に迎え入れるでしょう」
「……え? 神霊を迎え入れるって、神にするって事?」
 ハヌマーンみたいに、獣人が神に格上げされちゃうの?

「獣人を神にするのではありません。獣人から神霊を取り上げ、切り離し、己の眷属とするのです」
「んん? 神霊を切り離すって――」
「記憶か自我か生存本能か帰属意識か……何を失うのかは失ってみなければわかりません。けれども魂の一部を奪われて無事でいられるとは思いません」
「…………」
 俺は長いこと沈黙し、それから叫んだ。
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