【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

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㊵妄想シチュエーション−1

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 俺がレベル四の薬を作れるようになった頃、ハヌマーンがお師匠様に連れられてやってきた。

「イチヤ、とうとう万能薬を作れるようになったぞ!」
「えっ、早かったね!」
「薬作りは慣れたものだからな」
 鼻の穴を膨らませて偉そうに言っているが、彼の手付きはちっとも慣れているようには見えなかった。
 但し作れるようになった薬のレベルは俺よりも高い。

「イチヤは他の薬も作れるようになったのか?」
「うん。再生薬を教えて貰った」
「よし、俺もそれを覚えるぞ!」
 そう言うハヌマーンの目標は、不死薬の代わりになる薬を作れるようになる事だったけれど、再生薬で代わりになるのか?
 まぁ、ボサボサしちゃった毛を生え変わらせる為にも、自分で覚えとくといいかもね。

「ハヌマーンはそなたに置いていかれたくない一心で頑張りました。褒めてあげましょう」
 珍しくハヌマーンに優しい言葉を掛けるお師匠様に、調子に乗ったハヌマーンがだったら緊箍児を外してくれと言った。

「それはなりません。ここは下界とは違いますから」
「もう暴れねえよ!」
「そういう問題ではありませんよ」
 何を言っても暖簾に腕押しといったお師匠様の態度は流石で、ハヌマーンが苛立っている。
 全く……そんな直ぐにカッカしてたら信用して貰えないだろうし、何よりもお師匠様はハヌマーンの為に付けさせているという気がする。

(だって、緊箍児が嵌っているのを見たら神々は安心するだろうし、むやみに警戒されないのってハヌマーンの為になると思うんだ)
 まあ、そんな気がするってだけだし、こんな事を言ってもハヌマーンには理解されないだろうけど。

「そういう事です」
 お師匠様が小さく笑って呟いた。
 怖えぇ……。神様って人の頭の中まで読めるのか?
 いや、俺がわかりやすいだけだろう。きっとそうだ。
 俺は自分の心の平穏の為、そう思っておく事にした。


「チヤとハヌマーンが薬を作っている間に、天界を案内して貰ってもいいか?」
 唐突にロクがお師匠様に訊ねた。

「構いませんが、もう随分と駆け回ったのではありませんか?」
 ロクのお願いをお師匠様は遠回しに断った。
 でもロクはそんな言葉は無視してストレートに訴えた。

「いいや全く。どれだけ駆けても天界は広く、闇雲に走り回っても無駄だという事しかわからなかった」
「何か目当てでも?」
「それを教えて欲しいのだ」
「……」
 珍しくお師匠様が言い淀み、態度を決めあぐねているように見えた。

 お師匠様は敵ではないけど味方でもない。
 ただ自分の役に立つかもしれないから少し力を貸してくれているだけだ。
 そして見放されたら、俺たちにやり直しのチャンスはない。

(わかってるんだけど、一々心臓に悪いよな)
 こうして相手の懐に踏み込む時は、いつもドキドキする。
 言われた通りに修行をしているだけなら問題はないんだけど。

「……見つかるかは、その方次第ですよ」
(通った!)
 お師匠様の譲歩を引き出した。
 そう思って俺は思わずついて行くと口を挟んだのだけど、二人が許してくれなかった。

「お前は修行をしていろ」
「そうです。そなたはそなたの仕事をすべきです」
 俺をハブにする時ばかり気の合う二人が憎い。

「わかってるけど、じっとしていられないんです! ロクばっか、働かせて……」
 俺だって頑張ってるけど、どうしてもロクだけが大変な所を引き受けてるような気がするんだよ。

「神格を得ていないからですか?」
 お師匠様が穏やかな声で訊いてきた。
 俺は黙ったままこくりと頷く。

「神格、神格と言い過ぎましたか……」
「えっ?」
「神格を得て欲しいとは思っていますが、そなたの役目はそれが全てではありません。そなた自身が特殊ゆえ、天界にも変化をもたらすのではないかと思いました」
「それって、俺がトラブルメイカーって事?」
「それはわかりませんが、珍しい事が起こるのは間違いありません」
 まさか起爆剤の役目を期待されていたとは。
 いやいや、お師匠様が言ったことが全て本心とは限らないけどな。

「だったら、ロクと一緒に行ったっていいでしょう? 俺がいたら何か起こるかもしれませんよ?」
「ですが――」
「チヤ、お前に危ない目に遭って欲しくない」
 ロクがお師匠様の言葉を遮ってそう言った。

「俺は神格も得たし、お前のお陰で肉体も強化されている。だがお前は特殊ではあっても脆弱なままだ。天界で危ない事には近づいて欲しくない」
「危ないって思ってるならロクも止めろよ」
「俺には他に出来ることがない」
「……」
 わかってる。ロクが俺の隣でただじっとしているだけ、ただ何かが起こるのを待っているだけで我慢できる奴じゃないのはわかってる。
 でも俺だって心配なんだ!
 絶対に引かないつもりで拳をギュッと握り締めたら、タイミングを見計らったようにお師匠様が口を挟んだ。

「イチヤ、恐らくそなたがいない方がロクサーン侯は安全です」
 お師匠様がズバリと容赦なく言いやがった。

「酷い!」
「事実です」
 取り付く島もないお師匠様の様子に俺は深い息を吐いた。

(きっとお師匠様の言うことが正しいんだ。苦しいけど仕方がない、諦めよう)
 俺が行かない方がロクの安全性が上がるなら、我慢すべきだ。

「……レベル、今日中に上げて見せます」
「期待していますよ」
 お師匠様の満足げな淡い笑みを見て、俺はもう一度溜め息を吐いた。
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