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㊴名付けとレベルアップ−1
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淡い緑のカーテンに遮られた世界で、俺はロクと口付けを交わして心ゆくまで戯れる。
素肌の上を、ロクの天鵞絨のような体表がサラサラと流れていくのが心地好い。
「チヤ、寝てるのか?」
目を瞑っていたら顎下を撫でられた。
すっかり猫扱いだ。
「ううん、起きてるよ。気持ち良くて、なかなか目を開けられなかっただけ。そろそろ服を着て薬を作るよ」
「手伝うか?」
「今日はいい。ロクは天界を見ておいでよ」
「わかった。面白そうなものがあったら報告する」
「うん。気を付けて」
俺はロクを見送ってからもそもそと服を着込んで、薬作りの練習に取り掛かる。
現在の俺の作った薬のレベルは二。
お師匠様に指示されたレベル五になる日は遠い。
(レベルなんて、簡単に上がると思ってたんだよなぁ)
だからお師匠様にそんなんで良いのかなんて言っちゃった訳だが、これがなかなか難しい。
作っても作っても進歩しているという実感はないし、白蛇に見て貰っても一度上がったきりで変わらない。
では作り方が間違っているのかと思い、お師匠様に訊いてみたが手順はあっているという。
「寧ろ、レベルは低くても直ぐに作れた事の方が驚きです」
適性は十二分にあるのだと言われて、喜ぶべきなのだろうけど出てくるのは溜め息ばかりだ。
わかってる。ゲームのレベル上げと違って現実は簡単じゃない。
「文句を言ってる間にひとつでも多く作るかぁ」
俺は万能薬と再生薬をせっせと作った。
容器は土からガラス質を集めて二尾が造ってくれた。
こいつも何気に有能で、蜂がふかふかの羽毛みたいなものを集めてきたら袋に詰めて布団を作ってくれたりもした。
妖術で物を変化させたり造るのが得意らしい。
「二尾から妖術を習えば、俺の神格も上がると思うんだけど……わかってるよ。俺にはまだ早いって言うんだろ?」
そう、狐も尻尾が増えて漸く妖術を使い始めるように、俺も神格がある程度上がらないと習ったところで使えない。
かと言って、神格があってもロクには適性がないから妖術は使えないらしい。
神格って何なんだろうね?
お師匠様は魂の輝きだとか言ってたけど、目に見えない物を言われても困る。
「なんかソッコー性のある方法って無いかなぁ……」
アホみたいに大量に作った薬をしまいながらそうボヤいたら、白蛇がやってきてチョロチョロと舌を出して俺に訴えてきた。
「ん? なんだ?」
『ナマエ』
「名前? 名前を付けたら良いのか?」
白蛇が肯定するように身をくねらせた。
俺はなんとなくだが白蛇と二尾の考えている事を理解する事が出来た。
だから彼らに名前を付ける必要があるのだとわかる。
「ん~、白蛇は俺の好きな洋菓子屋さんの名前で白妙、二尾は金鍔、蜂は全部まとめてぶん鳴堂で」
全部お菓子繋がりだけれどまぁ良いだろう。
『チヤ様、ありがとう』
『ありがとうでござる』
『ブンブン』
いや、最後のブンブンって何? それより二尾――金鍔の口調! どこから出たの?
白妙はいつの間にか俺の事を『チヤ様』って呼んでるし、まぁ可愛らしい幼児みたいな声だから他のことはどうでもいいっちゃいいんだけど。
「名付けをしたから、意思の疎通が出来るようになったのか?」
お師匠様は命じるだけでいいんだって言ってたけど、思ってることが通じるならその方が便利だよね。
名前を付けて良かった。
「早速だけど白妙、俺の調薬レベルが上がらない理由ってわかる? いや、どうしたら上がるかって訊いたほうがいいかな」
『チヤ様、ダレのため?』
「え? 誰ってこともないけど――」
もしかしたら、相手を想定して作った方が良いんだろうか。
例えばロクが相手だと俺が甘くなるように、誰かの為に作った薬はその人に効くように出来上がるのだろうか。
「取り敢えず、ロクが流行病に罹った時用と、怪我をした時用に薬を作ってみるね」
ロクは病気になんて罹らないけど、もしも罹っちゃったら困るし。
強いし神格も得たから怪我なんてしそうにないけど、しても直ぐに治せるように。
俺は彼のお嫁さんになるんだから、ちゃんと面倒を見てあげなくちゃいけないんだ。
フンフンと鼻歌を歌いながら万能薬と再生薬を作り、白妙に見て貰う。
『レベル三』
「やったあ!」
俺は思わず拳を突き上げた。
お供に名前を付けたのが良かったのか、それとも白妙のアドバイス通りにロクを思い浮かべながら作ったのが良かったのか、やっとレベルがもう一つ上がった。
『チヤ様、もっと上げられる』
「えっ、どうやって?」
『チヤ様、怖い病気いっぱい知ってる。酷い怪我、知ってる』
「あ~、もっと重病に効くように想定するのか」
確かに俺は流行病よりも怖い病気も、酷い怪我も知ってる。
元の世界には情報が溢れ返っていたから、俺はぬくぬくとした場所にいたけど世界の悲惨さを知っている。
「これは……元の世界でも使えるのかな」
一瞬だけ。ほんの一瞬だけ、俺が元の世界に戻ったら少しだけでも世界がマシになるだろうかと思った。
勿論そんな事はないし、俺に帰るつもりはない。
「よし、頑張ってレベル五を目指すぞ!」
俺は頑張って想像して、細かく効き目を考えて、飲んだ人の病気が治るように、怪我が治るようにと願いながら薬を作り続けたがその日はそれ以上レベルが上がらなかった。
素肌の上を、ロクの天鵞絨のような体表がサラサラと流れていくのが心地好い。
「チヤ、寝てるのか?」
目を瞑っていたら顎下を撫でられた。
すっかり猫扱いだ。
「ううん、起きてるよ。気持ち良くて、なかなか目を開けられなかっただけ。そろそろ服を着て薬を作るよ」
「手伝うか?」
「今日はいい。ロクは天界を見ておいでよ」
「わかった。面白そうなものがあったら報告する」
「うん。気を付けて」
俺はロクを見送ってからもそもそと服を着込んで、薬作りの練習に取り掛かる。
現在の俺の作った薬のレベルは二。
お師匠様に指示されたレベル五になる日は遠い。
(レベルなんて、簡単に上がると思ってたんだよなぁ)
だからお師匠様にそんなんで良いのかなんて言っちゃった訳だが、これがなかなか難しい。
作っても作っても進歩しているという実感はないし、白蛇に見て貰っても一度上がったきりで変わらない。
では作り方が間違っているのかと思い、お師匠様に訊いてみたが手順はあっているという。
「寧ろ、レベルは低くても直ぐに作れた事の方が驚きです」
適性は十二分にあるのだと言われて、喜ぶべきなのだろうけど出てくるのは溜め息ばかりだ。
わかってる。ゲームのレベル上げと違って現実は簡単じゃない。
「文句を言ってる間にひとつでも多く作るかぁ」
俺は万能薬と再生薬をせっせと作った。
容器は土からガラス質を集めて二尾が造ってくれた。
こいつも何気に有能で、蜂がふかふかの羽毛みたいなものを集めてきたら袋に詰めて布団を作ってくれたりもした。
妖術で物を変化させたり造るのが得意らしい。
「二尾から妖術を習えば、俺の神格も上がると思うんだけど……わかってるよ。俺にはまだ早いって言うんだろ?」
そう、狐も尻尾が増えて漸く妖術を使い始めるように、俺も神格がある程度上がらないと習ったところで使えない。
かと言って、神格があってもロクには適性がないから妖術は使えないらしい。
神格って何なんだろうね?
お師匠様は魂の輝きだとか言ってたけど、目に見えない物を言われても困る。
「なんかソッコー性のある方法って無いかなぁ……」
アホみたいに大量に作った薬をしまいながらそうボヤいたら、白蛇がやってきてチョロチョロと舌を出して俺に訴えてきた。
「ん? なんだ?」
『ナマエ』
「名前? 名前を付けたら良いのか?」
白蛇が肯定するように身をくねらせた。
俺はなんとなくだが白蛇と二尾の考えている事を理解する事が出来た。
だから彼らに名前を付ける必要があるのだとわかる。
「ん~、白蛇は俺の好きな洋菓子屋さんの名前で白妙、二尾は金鍔、蜂は全部まとめてぶん鳴堂で」
全部お菓子繋がりだけれどまぁ良いだろう。
『チヤ様、ありがとう』
『ありがとうでござる』
『ブンブン』
いや、最後のブンブンって何? それより二尾――金鍔の口調! どこから出たの?
白妙はいつの間にか俺の事を『チヤ様』って呼んでるし、まぁ可愛らしい幼児みたいな声だから他のことはどうでもいいっちゃいいんだけど。
「名付けをしたから、意思の疎通が出来るようになったのか?」
お師匠様は命じるだけでいいんだって言ってたけど、思ってることが通じるならその方が便利だよね。
名前を付けて良かった。
「早速だけど白妙、俺の調薬レベルが上がらない理由ってわかる? いや、どうしたら上がるかって訊いたほうがいいかな」
『チヤ様、ダレのため?』
「え? 誰ってこともないけど――」
もしかしたら、相手を想定して作った方が良いんだろうか。
例えばロクが相手だと俺が甘くなるように、誰かの為に作った薬はその人に効くように出来上がるのだろうか。
「取り敢えず、ロクが流行病に罹った時用と、怪我をした時用に薬を作ってみるね」
ロクは病気になんて罹らないけど、もしも罹っちゃったら困るし。
強いし神格も得たから怪我なんてしそうにないけど、しても直ぐに治せるように。
俺は彼のお嫁さんになるんだから、ちゃんと面倒を見てあげなくちゃいけないんだ。
フンフンと鼻歌を歌いながら万能薬と再生薬を作り、白妙に見て貰う。
『レベル三』
「やったあ!」
俺は思わず拳を突き上げた。
お供に名前を付けたのが良かったのか、それとも白妙のアドバイス通りにロクを思い浮かべながら作ったのが良かったのか、やっとレベルがもう一つ上がった。
『チヤ様、もっと上げられる』
「えっ、どうやって?」
『チヤ様、怖い病気いっぱい知ってる。酷い怪我、知ってる』
「あ~、もっと重病に効くように想定するのか」
確かに俺は流行病よりも怖い病気も、酷い怪我も知ってる。
元の世界には情報が溢れ返っていたから、俺はぬくぬくとした場所にいたけど世界の悲惨さを知っている。
「これは……元の世界でも使えるのかな」
一瞬だけ。ほんの一瞬だけ、俺が元の世界に戻ったら少しだけでも世界がマシになるだろうかと思った。
勿論そんな事はないし、俺に帰るつもりはない。
「よし、頑張ってレベル五を目指すぞ!」
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