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㊲お供が出来た- 1
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「その方は神格を得たようです」
お師匠様はロクを見てそう言った。
どうやら仙果を食べた俺と致したのが最後のひと押しになったらしい。
「ロク、おめでとう。でも神格を得て、何か変わった?」
そりゃあ、黒い毛皮は輝くばかりに光って、立派な体躯も猛々しい顔も武神みたいな神々しさだけどさぁ、でもロクはロクだし。神様というのとはちょっと違う気がする。
「実のところ、千里を駆けられるような気はしている」
「えっ、マジ!?」
ロクの話によると、神通力は無いかもしれないが色々な事が出来そうだと言う。
例えば千里を駆け、斬られても死なず、齢を重ねず長く生きる。
ついでにちょっとした風を起こしたり、空気まで操れそうだって言うんだから凄い。
「凄い。もしかして、やろうと思えば国盗りも出来るんじゃないの?」
「興味はない。出来るからしたい、という事もないだろう」
「そうだけど、国に知られたら放っておいてくれないよ?」
「そうだな。身の振り方は考えねばならん」
ロクの落ち着いた態度を見て、もしかしたらもうずっと前から元には戻れない事を覚悟していたのかもしれないと思った。
俺という爆弾を抱え、自分も身体が変わり、今ではとうとう神格なんてものまで得てしまった。
これで今までと同じように暮らすのは無理がある。
「チヤ、そんな顔をするな。私はなるべくしてなったと思っている」
「うん……」
元々ロクは一貴族なんかで収まる器じゃなかった。それはわかる。
ただ彼を主と仰ぐ人々――ウィリアムやジェスが、がっかりするだろうなと思うと申し訳なくなる。
どう考えてもお屋敷は出ることになるだろうから。
「そなたの方は、まだ香りが弱いですね」
「香りって、甘い匂い?」
「ええ。それではまだ人参果とは言えません」
言わなくて良いよ。
俺はロク専用の食べ物にはなっても、果物にジョブチェンジをする気はない。
「俺が仙果を沢山食べたら匂いは強くなる? でも、ハヌマーンは一口しか食べちゃダメだって言ってたな。食べたら拙い事があるんですよね?」
心配する俺に、お師匠様は隠すことなく教えてくれた。
「それは、天上の食べ物を余り食べると地上に戻れなくなるからです」
「戻れなくなる? でもハヌマーンを堕としたように、神すら降ろせるなら――」
「自力では戻れなくなりますよ」
……そっか。格上の神たちが堕とそうと思わなければ、帰る手段が無くなるのか。
「ハヌマーンはそなたたちを仲間のように思っているのでしょう。けれどそなたたちは、下界に戻らない方が安全なのではないですか?」
お師匠様の言葉に俺はガビーン! とショックを受ける。
確かに、ロクさえいれば良いと思っている俺は、別に下界に戻らなくたって良い訳だ。
天界に元の世界のような甘味はないしガツンとくる食べ物もないけど、代わりに仙果万桃(天界の果実の総称)があるし。
どうせこっちには友達だっていないし、何より戻らないなら下界に甘味を取り戻す必要もなくなる。
(でも本当にそれでいいのか?)
一見、都合が良い事だらけのこの案には穴があるような気がする。
それも大きな穴だ。
「師よ、ハヌマーンを見てもわかるように、神に生まれなかった者が神になるのは難しい。長い寿命や刺激の少ない生活は人には耐えられない。例え神格を得て普通の人とは違っていても、天界では暮らせない」
「そうですか。或いはあなたたちならばと思ったのですが……」
さほど残念そうには見えなかったが、期待はしていたらしい。俺はズバリとお師匠様に訊いてみた。
「お師匠様はどうして神を増やそうとしているのですか? 確かに元々の神は少なそうだけれど、天界が過疎化していて寂しいからなんて理由じゃありませんよね?」
「当たらずとも遠からず、でしょうか。神はもう増えないから、人工的に増やすしかないのです」
人工的っていうか、神工的?
そんな馬鹿なことを考えつつ、俺は増えなくても減らないんだから良いのではないかと言った。
「いえ、大神は――一部の神々はこの地をいずれ去るでしょう」
「え、去るって何処に?」
天界以外にも界層があるのかと吃驚したが、そうではなく全く別の場所だという。
「別の場所? えっと、異世界ってこと?」
俺がいた世界に来られたら迷惑だなと思いつつ訊いたら、お師匠様は首を横に振った。
「異世界には異世界の神がいるので、恐らくは宇宙の涯――別の星系に行くのでしょう」
うぅん、話がわからなくなってきた。
俺は理系じゃないんだよ。
「他の星系にも生命がいるの?」
「命は無くても構いません。エネルギーがあれば良いのです」
エネルギー……なら宇宙にはいっぱいありそうだ。
「お師匠様は着いていく気はないの?」
「私は神といっても少々成り立ちが違うのです。人の為に生まれた、人を救う神なのです。ですから人のいない所に行っても意味がありません」
存在意義を失うと言われたが、その割りには人を救ってくれる気が見えないなと思う。
「解釈の違いです。人から人を救いはしません。神から人を救うのです」
「だったら甘味を取りあげたのを咎めてよ!」
「残念ながら、それは神の業務範囲です」
なんだよその天界ルール! 納得がいかない!
ムカつくけど、神にルール違反を訴えるのは、今やってるゲームのルールを変えてくれって言うに等しい。
(だとしても、引っくり返すしかないんだけどな)
大神が甘味を地上から取り上げた理由がわかれば、どうにかする方法も思い付くかもしれない。
うん、やっぱり会って話をする必要がある。
お師匠様はロクを見てそう言った。
どうやら仙果を食べた俺と致したのが最後のひと押しになったらしい。
「ロク、おめでとう。でも神格を得て、何か変わった?」
そりゃあ、黒い毛皮は輝くばかりに光って、立派な体躯も猛々しい顔も武神みたいな神々しさだけどさぁ、でもロクはロクだし。神様というのとはちょっと違う気がする。
「実のところ、千里を駆けられるような気はしている」
「えっ、マジ!?」
ロクの話によると、神通力は無いかもしれないが色々な事が出来そうだと言う。
例えば千里を駆け、斬られても死なず、齢を重ねず長く生きる。
ついでにちょっとした風を起こしたり、空気まで操れそうだって言うんだから凄い。
「凄い。もしかして、やろうと思えば国盗りも出来るんじゃないの?」
「興味はない。出来るからしたい、という事もないだろう」
「そうだけど、国に知られたら放っておいてくれないよ?」
「そうだな。身の振り方は考えねばならん」
ロクの落ち着いた態度を見て、もしかしたらもうずっと前から元には戻れない事を覚悟していたのかもしれないと思った。
俺という爆弾を抱え、自分も身体が変わり、今ではとうとう神格なんてものまで得てしまった。
これで今までと同じように暮らすのは無理がある。
「チヤ、そんな顔をするな。私はなるべくしてなったと思っている」
「うん……」
元々ロクは一貴族なんかで収まる器じゃなかった。それはわかる。
ただ彼を主と仰ぐ人々――ウィリアムやジェスが、がっかりするだろうなと思うと申し訳なくなる。
どう考えてもお屋敷は出ることになるだろうから。
「そなたの方は、まだ香りが弱いですね」
「香りって、甘い匂い?」
「ええ。それではまだ人参果とは言えません」
言わなくて良いよ。
俺はロク専用の食べ物にはなっても、果物にジョブチェンジをする気はない。
「俺が仙果を沢山食べたら匂いは強くなる? でも、ハヌマーンは一口しか食べちゃダメだって言ってたな。食べたら拙い事があるんですよね?」
心配する俺に、お師匠様は隠すことなく教えてくれた。
「それは、天上の食べ物を余り食べると地上に戻れなくなるからです」
「戻れなくなる? でもハヌマーンを堕としたように、神すら降ろせるなら――」
「自力では戻れなくなりますよ」
……そっか。格上の神たちが堕とそうと思わなければ、帰る手段が無くなるのか。
「ハヌマーンはそなたたちを仲間のように思っているのでしょう。けれどそなたたちは、下界に戻らない方が安全なのではないですか?」
お師匠様の言葉に俺はガビーン! とショックを受ける。
確かに、ロクさえいれば良いと思っている俺は、別に下界に戻らなくたって良い訳だ。
天界に元の世界のような甘味はないしガツンとくる食べ物もないけど、代わりに仙果万桃(天界の果実の総称)があるし。
どうせこっちには友達だっていないし、何より戻らないなら下界に甘味を取り戻す必要もなくなる。
(でも本当にそれでいいのか?)
一見、都合が良い事だらけのこの案には穴があるような気がする。
それも大きな穴だ。
「師よ、ハヌマーンを見てもわかるように、神に生まれなかった者が神になるのは難しい。長い寿命や刺激の少ない生活は人には耐えられない。例え神格を得て普通の人とは違っていても、天界では暮らせない」
「そうですか。或いはあなたたちならばと思ったのですが……」
さほど残念そうには見えなかったが、期待はしていたらしい。俺はズバリとお師匠様に訊いてみた。
「お師匠様はどうして神を増やそうとしているのですか? 確かに元々の神は少なそうだけれど、天界が過疎化していて寂しいからなんて理由じゃありませんよね?」
「当たらずとも遠からず、でしょうか。神はもう増えないから、人工的に増やすしかないのです」
人工的っていうか、神工的?
そんな馬鹿なことを考えつつ、俺は増えなくても減らないんだから良いのではないかと言った。
「いえ、大神は――一部の神々はこの地をいずれ去るでしょう」
「え、去るって何処に?」
天界以外にも界層があるのかと吃驚したが、そうではなく全く別の場所だという。
「別の場所? えっと、異世界ってこと?」
俺がいた世界に来られたら迷惑だなと思いつつ訊いたら、お師匠様は首を横に振った。
「異世界には異世界の神がいるので、恐らくは宇宙の涯――別の星系に行くのでしょう」
うぅん、話がわからなくなってきた。
俺は理系じゃないんだよ。
「他の星系にも生命がいるの?」
「命は無くても構いません。エネルギーがあれば良いのです」
エネルギー……なら宇宙にはいっぱいありそうだ。
「お師匠様は着いていく気はないの?」
「私は神といっても少々成り立ちが違うのです。人の為に生まれた、人を救う神なのです。ですから人のいない所に行っても意味がありません」
存在意義を失うと言われたが、その割りには人を救ってくれる気が見えないなと思う。
「解釈の違いです。人から人を救いはしません。神から人を救うのです」
「だったら甘味を取りあげたのを咎めてよ!」
「残念ながら、それは神の業務範囲です」
なんだよその天界ルール! 納得がいかない!
ムカつくけど、神にルール違反を訴えるのは、今やってるゲームのルールを変えてくれって言うに等しい。
(だとしても、引っくり返すしかないんだけどな)
大神が甘味を地上から取り上げた理由がわかれば、どうにかする方法も思い付くかもしれない。
うん、やっぱり会って話をする必要がある。
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