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㊱仙果万桃−1
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お師匠様に連れて来られたのは低木メインの果樹園で、手の届く所に美味しそうな桃が成っていた。
「これって、仙桃ですか?」
「そうです。仙桃だけでなく、此処には色々な果物が成っています。あちらを御覧なさい。あれは女仙に人気のある仙果です」
なにそれ、と思ったけれどサクランボみたいなアセロラみたいな赤い実を見たら妙に胸がソワソワし出した。
凄く美味しそうに見える。
「あの、一つ食べてみちゃ駄目ですか?」
「構いません。但し責任は取れませんよ」
お師匠様の薄い笑みを見たら怖くなってしまった。
それでも食べてみたいって気持ちは無くならないし、ハヌマーンも一口だけにしろって言ってたからには一口なら平気な気がする。
俺は勇気を出して仙果をもいでみた。
「チヤ、待て。私が先に食べる」
ロクにそう止められたけど、ここは俺が確かめた方が良い。
ロクはもうだいぶ神格が上がったみたいだし、人間が食べたらどうなるか確認したいし。
こじつけのようにそう思い、俺は我慢できずにひょいと口に入れてしまった。
「くぅ~ッ!」
久し振りの甘い果肉に身体が震えちゃう。
あ~、全然違うよ。おいっしい!
「チヤッ、平気か!?」
「ん~、サクランボとも桃とも違う最高級果物って感じで美味しい! なんだろ、ネクターとも葡萄ともグミとも違うな。でも美味しいよう~」
あ~、もっと食べたい。たった一口でも凄い満足感があったけど、毎食食べれたら幸せだよなぁ。
「身体はっ? どこも変化はないか?」
「ん~、なんとも無いよ」
「本当か?」
「うん」
神々の糧だから人間である俺に影響がない訳はないんだけど、本当に信じられないくらい美味しい以外の特筆すべき点なんてない。
「そなたはちょっと鈍いのかもしれませんね」
「えっ……」
俺はお師匠様の言葉にショックを受けた。
特別だなんて言われていい気になっていたのが、急に冷水を浴びせられた気分だ。
「鈍いというのは、食べ慣れていて効かないという意味です」
「食べ慣れて?」
確かに、信じられないくらい美味しいけど元の世界には色んな味の甘味があって、前までの俺だったら『美味しいけどただのフルーツだよね』って思ったかもしれない。
そのくらい、俺のいた世界の甘味は豊かだった。
「でも、寿命が伸びる食べ物なんて、食べたことが無いです」
「そうですか」
やんわりと頷いたお師匠様の様子からは、嘘だと思っているようにも見えず、かといって説明してくれるつもりも無さそうだった。
だから俺は勝手に推測するしかない。
こっちの人と俺は身体の作りが違うのかなとか、神のご利益が及ばないのかなとか。
或いは俺に直接効かなくても、俺を啜った獣人に及ぼす効果が大きくなっているのかもしれない。
(確かめてみたい)
俺はロクの役に立てるかも、と思ったら食べて欲しくて堪らなくなった。
それでその秘密だけ、お師匠様に話す事にした。
「お師匠様、俺は体液が甘く、啜った人の身体能力や治癒力を上げるようです」
「遠い世界には人参果というものがあると聞いたことがあります」
「人参果、ですか」
「人の形をして、立って喋る仙果だそうです。そなたも何処かの果樹園から抜け出して来たのですか?」
「俺は果物じゃありません!」
流石に果物扱いは酷いんじゃないかな。
人間の両親もいるし、人間として暮らしてきたし。
「食べても無くならず、栽培も容易ならとても便利ですね」
「だから栽培って言わないで!」
そりゃあ俺はロクに世話を焼かれっぱなしだけどさ。
何から何まで面倒を見られて甘えっぱなしだけどさ。
連れ歩いて世話をしているのは俺が異世界人だから、利用価値があるから……ってちょっとくらいは思った事もあるけど……さ。
俺が俯いてウジウジと拗ねていたら、ロクにぽんと頭を叩かれた。
「お前の疑いを晴らすため、禁欲をするか?」
「ロク……」
そうだ。我慢できないのは俺の方だし、利用されているんじゃなく少しでも役に立てる事があったって嬉しかったんだ。
して貰った事の方がずっと多かったのに、一瞬でも不信感を持つなんて俺っては心が汚い……。
「チヤ、何故ますます落ち込む?」
何処か慌てたようにロクが俺の機嫌を取ってきて、顔を撫でたり顎下を擦ったり濡れた鼻を付けてきた。
「ロク、疑ったりしてごめんね。俺はあんたに感謝しかない筈だったのに、触れて貰うのは嬉しい事でしかないのに……ごめん、いなくならないで」
キュッとロクの指を握ったら、笑ってその指先で唇を撫でられた。
「指を舐めて、ナカを触らせたら許してやる」
「……指だけ?」
俺はハァハァと想像だけで息を荒げながら訊ねた。
「他に何が欲しい?」
「言えない……」
舐めてとか、先っぽでもいいから挿れて欲しいなんて言えない。
本当は奥までロクのが欲しいなんて、はしたなくって自分からは言えない。
「師よ、チヤの身体を確かめてきてもいいだろうか?」
「構いません。仙桃ほどではありませんが、熟しているようですし」
熟す……。
俺はロクとお師匠様のやり取りが恥ずかしかったが、熟した身体は啜って貰わなくちゃどうにもならないと知っていた。
だからお師匠様が姿を消してすぐ、俺は自分から服を脱いでロクが拡げてくれた敷物の上に横たわった。
「これって、仙桃ですか?」
「そうです。仙桃だけでなく、此処には色々な果物が成っています。あちらを御覧なさい。あれは女仙に人気のある仙果です」
なにそれ、と思ったけれどサクランボみたいなアセロラみたいな赤い実を見たら妙に胸がソワソワし出した。
凄く美味しそうに見える。
「あの、一つ食べてみちゃ駄目ですか?」
「構いません。但し責任は取れませんよ」
お師匠様の薄い笑みを見たら怖くなってしまった。
それでも食べてみたいって気持ちは無くならないし、ハヌマーンも一口だけにしろって言ってたからには一口なら平気な気がする。
俺は勇気を出して仙果をもいでみた。
「チヤ、待て。私が先に食べる」
ロクにそう止められたけど、ここは俺が確かめた方が良い。
ロクはもうだいぶ神格が上がったみたいだし、人間が食べたらどうなるか確認したいし。
こじつけのようにそう思い、俺は我慢できずにひょいと口に入れてしまった。
「くぅ~ッ!」
久し振りの甘い果肉に身体が震えちゃう。
あ~、全然違うよ。おいっしい!
「チヤッ、平気か!?」
「ん~、サクランボとも桃とも違う最高級果物って感じで美味しい! なんだろ、ネクターとも葡萄ともグミとも違うな。でも美味しいよう~」
あ~、もっと食べたい。たった一口でも凄い満足感があったけど、毎食食べれたら幸せだよなぁ。
「身体はっ? どこも変化はないか?」
「ん~、なんとも無いよ」
「本当か?」
「うん」
神々の糧だから人間である俺に影響がない訳はないんだけど、本当に信じられないくらい美味しい以外の特筆すべき点なんてない。
「そなたはちょっと鈍いのかもしれませんね」
「えっ……」
俺はお師匠様の言葉にショックを受けた。
特別だなんて言われていい気になっていたのが、急に冷水を浴びせられた気分だ。
「鈍いというのは、食べ慣れていて効かないという意味です」
「食べ慣れて?」
確かに、信じられないくらい美味しいけど元の世界には色んな味の甘味があって、前までの俺だったら『美味しいけどただのフルーツだよね』って思ったかもしれない。
そのくらい、俺のいた世界の甘味は豊かだった。
「でも、寿命が伸びる食べ物なんて、食べたことが無いです」
「そうですか」
やんわりと頷いたお師匠様の様子からは、嘘だと思っているようにも見えず、かといって説明してくれるつもりも無さそうだった。
だから俺は勝手に推測するしかない。
こっちの人と俺は身体の作りが違うのかなとか、神のご利益が及ばないのかなとか。
或いは俺に直接効かなくても、俺を啜った獣人に及ぼす効果が大きくなっているのかもしれない。
(確かめてみたい)
俺はロクの役に立てるかも、と思ったら食べて欲しくて堪らなくなった。
それでその秘密だけ、お師匠様に話す事にした。
「お師匠様、俺は体液が甘く、啜った人の身体能力や治癒力を上げるようです」
「遠い世界には人参果というものがあると聞いたことがあります」
「人参果、ですか」
「人の形をして、立って喋る仙果だそうです。そなたも何処かの果樹園から抜け出して来たのですか?」
「俺は果物じゃありません!」
流石に果物扱いは酷いんじゃないかな。
人間の両親もいるし、人間として暮らしてきたし。
「食べても無くならず、栽培も容易ならとても便利ですね」
「だから栽培って言わないで!」
そりゃあ俺はロクに世話を焼かれっぱなしだけどさ。
何から何まで面倒を見られて甘えっぱなしだけどさ。
連れ歩いて世話をしているのは俺が異世界人だから、利用価値があるから……ってちょっとくらいは思った事もあるけど……さ。
俺が俯いてウジウジと拗ねていたら、ロクにぽんと頭を叩かれた。
「お前の疑いを晴らすため、禁欲をするか?」
「ロク……」
そうだ。我慢できないのは俺の方だし、利用されているんじゃなく少しでも役に立てる事があったって嬉しかったんだ。
して貰った事の方がずっと多かったのに、一瞬でも不信感を持つなんて俺っては心が汚い……。
「チヤ、何故ますます落ち込む?」
何処か慌てたようにロクが俺の機嫌を取ってきて、顔を撫でたり顎下を擦ったり濡れた鼻を付けてきた。
「ロク、疑ったりしてごめんね。俺はあんたに感謝しかない筈だったのに、触れて貰うのは嬉しい事でしかないのに……ごめん、いなくならないで」
キュッとロクの指を握ったら、笑ってその指先で唇を撫でられた。
「指を舐めて、ナカを触らせたら許してやる」
「……指だけ?」
俺はハァハァと想像だけで息を荒げながら訊ねた。
「他に何が欲しい?」
「言えない……」
舐めてとか、先っぽでもいいから挿れて欲しいなんて言えない。
本当は奥までロクのが欲しいなんて、はしたなくって自分からは言えない。
「師よ、チヤの身体を確かめてきてもいいだろうか?」
「構いません。仙桃ほどではありませんが、熟しているようですし」
熟す……。
俺はロクとお師匠様のやり取りが恥ずかしかったが、熟した身体は啜って貰わなくちゃどうにもならないと知っていた。
だからお師匠様が姿を消してすぐ、俺は自分から服を脱いでロクが拡げてくれた敷物の上に横たわった。
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