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㉞天国と地獄は隣り合わせ−2
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「チヤ、興奮しすぎだ」
「だっ、て……」
だって敵地で人目を盗んでいしている、と思ったら妙に興奮しちゃってなんだか止まらない。
抜くくらいはしてもいいかななんて思っちゃう。
「チヤ、甘くない食べ物は?」
「えっと、血の味のするステーキ……」
じゅるっと唾液を啜ったが血の味はしない。
ただロクの生々しい舌の感触が俺の身体を疼かせるだけだった。
「ロク、もっと擦って……舌を絡めて」
黒い毛を掻き毟るようにロクの後頭部に手を滑らせたら、口の中を掃除機みたいにムチューッと吸われた。
「ロクッ!」
「こら、ぼんやりとしている暇はないぞ。甘味を許してくれるどころか、異世界から取り寄せているのがばれて咎められるかもしれないんだからな」
「そっ、そうだね。俺だってロクだって、無事に済む保証なんてないもんね」
大神が下界の人に興味がなくても、異世界人である俺や、神格を獲得しつつあるロクには興味を持つかも知れない。
神に興味を持たれるなんてろくなものじゃないのは想像につく。
「師も味方まではしてくれまい」
「うん。俺たちを陥れるとは思わないけど、過度の期待はしない方がいいよね」
お師匠様は何故か弟子を取って神を増やしたいみたいだけど、それにどういうメリットがあるんだかわからない。
ハヌマーンみたいに天界に馴染まなかったら失格みたいだし、決めつけるのは良くないけど馴染める気もしない。
それとも単なる趣味なんだろうか?
「チヤ、ここで色々と考え込んでも仕方がない。足元を掬われないよう慎重に行こう」
「うん」
俺たちはもう一度だけ軽いキスを交わし、それからミロクの名を呼ぶまでもなく直ぐに彼らを見つけて近付いていった。
なんだかお師匠様とハヌマーンの間が険悪な気がするのは、俺の気の所為だろうか?
「え~っと、話は出来た?」
「お師匠様は不死薬をもう作るなと言うのだ!」
「えっ?」
前置きも何もないハヌマーンの言葉に驚く。
こいつは不死薬が作れるから天界に来たんだろうに、いきなりそんな事を言われちゃったらそれは腐るよな。
「ハーレムを作らなきゃいいんじゃないの? ただの滋養強壮剤なら、お師匠様だって駄目とは言わない――」
「駄目です。下界で不死薬を飲み続けると、人の手に負えなくなります」
「……」
それは、強すぎる力が自由意思なんて持ってたら危険かもしれないけどさぁ。
「お師匠様、冷たすぎませんか?」
俺だって別にハヌマーンの色欲を肯定する訳じゃないけどさ、落ち込んでるのとかウキウキしてんのとか近くで見ちゃってるから余りにもきっぱりと言い渡されて可哀想に思っちゃう。
「そう思うなら、そなたが神格を備えてこの先何千年もハヌマーンの尻拭いをしますか?」
「やっぱりネクタルもアンブロシアも天界だけで使われるべきですよね」
何千年も下の緩いアホの尻拭い、と思ったら同情心も見事に消し飛んでしまった。
どうしても不死薬を作りたければ天界に帰ればいいんだし、やっぱり何でも自分の思う通りにはいかないよね。
「イチヤ! 酷いではないか!」
「だって理由があるんだからしようがないじゃないか」
「ならお師匠様、イチヤに修行を付けるのと同時に、俺にも下界で作ってもいい不死薬の作り方を教えてくれ」
「いいでしょう。但しそれには時間が掛かるかもしれませんよ」
「構わん! 俺には千年もあっという間だ」
う~ん、なんだか嬉しそう。
天界は苦手でも、お師匠様と修行をするのは嫌じゃないのかもね。
「そなたたちも、大神と会う前に修行が必要です。そのままではお声を聞くことも口を利くことも出来ませんから」
「わかりました。ただ、俺たちはハヌマーンと違ってそれほど時間がありません。なるべく短い時間で済むようにお願いします」
「いいでしょう」
図々しい俺の申し出をお師匠様は快く聞き入れてくれた。
でもだからって調子に乗っちゃ駄目だ。
神がどんな所で怒るかなんて、人にはわかりっこないんだから。
「では修行場に行きましょう。暫く帰ってなかったので、荒れていないと良いのですが」
お師匠様の言葉を聞いて、天界で荒れる場所などあるのだろうかと思いつつ着いて行った。
そして案内された場所を見て、俺は何かの間違いじゃないかと思った。
「あの~、血の池とか、針の山が見えるんですけど……」
「修行場ですから」
「修行って言うより、拷問みたいですけど」
「辛くなければ修行になりません」
「辛い以前に死ぬ! 死んじゃうから!」
「大丈夫です。人は天界で死にません」
お師匠様がにっこりと笑いながら言った。
そして修行場の奥から、わらわらと棍棒を持った鬼が現れたのだった。
「だっ、て……」
だって敵地で人目を盗んでいしている、と思ったら妙に興奮しちゃってなんだか止まらない。
抜くくらいはしてもいいかななんて思っちゃう。
「チヤ、甘くない食べ物は?」
「えっと、血の味のするステーキ……」
じゅるっと唾液を啜ったが血の味はしない。
ただロクの生々しい舌の感触が俺の身体を疼かせるだけだった。
「ロク、もっと擦って……舌を絡めて」
黒い毛を掻き毟るようにロクの後頭部に手を滑らせたら、口の中を掃除機みたいにムチューッと吸われた。
「ロクッ!」
「こら、ぼんやりとしている暇はないぞ。甘味を許してくれるどころか、異世界から取り寄せているのがばれて咎められるかもしれないんだからな」
「そっ、そうだね。俺だってロクだって、無事に済む保証なんてないもんね」
大神が下界の人に興味がなくても、異世界人である俺や、神格を獲得しつつあるロクには興味を持つかも知れない。
神に興味を持たれるなんてろくなものじゃないのは想像につく。
「師も味方まではしてくれまい」
「うん。俺たちを陥れるとは思わないけど、過度の期待はしない方がいいよね」
お師匠様は何故か弟子を取って神を増やしたいみたいだけど、それにどういうメリットがあるんだかわからない。
ハヌマーンみたいに天界に馴染まなかったら失格みたいだし、決めつけるのは良くないけど馴染める気もしない。
それとも単なる趣味なんだろうか?
「チヤ、ここで色々と考え込んでも仕方がない。足元を掬われないよう慎重に行こう」
「うん」
俺たちはもう一度だけ軽いキスを交わし、それからミロクの名を呼ぶまでもなく直ぐに彼らを見つけて近付いていった。
なんだかお師匠様とハヌマーンの間が険悪な気がするのは、俺の気の所為だろうか?
「え~っと、話は出来た?」
「お師匠様は不死薬をもう作るなと言うのだ!」
「えっ?」
前置きも何もないハヌマーンの言葉に驚く。
こいつは不死薬が作れるから天界に来たんだろうに、いきなりそんな事を言われちゃったらそれは腐るよな。
「ハーレムを作らなきゃいいんじゃないの? ただの滋養強壮剤なら、お師匠様だって駄目とは言わない――」
「駄目です。下界で不死薬を飲み続けると、人の手に負えなくなります」
「……」
それは、強すぎる力が自由意思なんて持ってたら危険かもしれないけどさぁ。
「お師匠様、冷たすぎませんか?」
俺だって別にハヌマーンの色欲を肯定する訳じゃないけどさ、落ち込んでるのとかウキウキしてんのとか近くで見ちゃってるから余りにもきっぱりと言い渡されて可哀想に思っちゃう。
「そう思うなら、そなたが神格を備えてこの先何千年もハヌマーンの尻拭いをしますか?」
「やっぱりネクタルもアンブロシアも天界だけで使われるべきですよね」
何千年も下の緩いアホの尻拭い、と思ったら同情心も見事に消し飛んでしまった。
どうしても不死薬を作りたければ天界に帰ればいいんだし、やっぱり何でも自分の思う通りにはいかないよね。
「イチヤ! 酷いではないか!」
「だって理由があるんだからしようがないじゃないか」
「ならお師匠様、イチヤに修行を付けるのと同時に、俺にも下界で作ってもいい不死薬の作り方を教えてくれ」
「いいでしょう。但しそれには時間が掛かるかもしれませんよ」
「構わん! 俺には千年もあっという間だ」
う~ん、なんだか嬉しそう。
天界は苦手でも、お師匠様と修行をするのは嫌じゃないのかもね。
「そなたたちも、大神と会う前に修行が必要です。そのままではお声を聞くことも口を利くことも出来ませんから」
「わかりました。ただ、俺たちはハヌマーンと違ってそれほど時間がありません。なるべく短い時間で済むようにお願いします」
「いいでしょう」
図々しい俺の申し出をお師匠様は快く聞き入れてくれた。
でもだからって調子に乗っちゃ駄目だ。
神がどんな所で怒るかなんて、人にはわかりっこないんだから。
「では修行場に行きましょう。暫く帰ってなかったので、荒れていないと良いのですが」
お師匠様の言葉を聞いて、天界で荒れる場所などあるのだろうかと思いつつ着いて行った。
そして案内された場所を見て、俺は何かの間違いじゃないかと思った。
「あの~、血の池とか、針の山が見えるんですけど……」
「修行場ですから」
「修行って言うより、拷問みたいですけど」
「辛くなければ修行になりません」
「辛い以前に死ぬ! 死んじゃうから!」
「大丈夫です。人は天界で死にません」
お師匠様がにっこりと笑いながら言った。
そして修行場の奥から、わらわらと棍棒を持った鬼が現れたのだった。
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