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㉝お師匠様がやってきた−2
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「ならば今来てくれたのは――」
「緊箍児を外した者に会いに来ました」
俺? ハヌマーンには悪いけどチャンスだ。
「俺は何故か緊箍児を操れます。それで偶然、外すことも出来ました」
「そなたがこれの正体を知っていたからでしょうが、そんな事はどうでも宜しい。そなたは私の弟子となって、神格を得るつもりはありますか?」
「おおっ! 俺の弟弟子か!」
いやいやいや、なんでそうなるんだよ?
俺は呆れて首を振った。
「俺はハヌマーンと違って通力とかも無いし、修行したところで神様になれるとは思えません」
「いえ、資格はあります。そなた自身が特殊ですから」
そう言って、お師匠様はアルカイックスマイルとでも言うのか、よく仏像が浮かべているような薄い笑みを浮かべた。
(う~ん、ハヌマーンの師匠だからって事でちょっと舐めてたんだけど、駄目だ。勝てる気がしない)
俺はなんとか利用できないかと思っていた気持ちを放棄した。
「この世界に甘味がないのは、神がそう決めたからだと聞きました。昔なにがあったのかは知りませんが、今も、この先の未来もずっと甘味を取り上げられたままって不公平だと思うんです。なんとか偉い神様に執り成して貰う事って出来ませんか?」
殆ど熱意と勢いだけの俺の言葉を、お師匠様は何も感じてないような顔で聞いていた。
そして暫くしてから頷いた。
「いいでしょう。但しそなたが天界に来て、自分の口から頼むのです。その為の口利きはしましょう」
「おっ、俺っ!?」
いや、そりゃあ神頼みをする気でいたけどさ。
なんとか天界に繋がる方法を探そうって思ってたんだけどさ。
まさかこんなに簡単に行けちゃうとは思わないじゃん?
だからこの場で尻込みをしてもしようがないんんだって思っていたら、ロクが俺の肩を抱いてお師匠様に申し出た。
「イチヤを一人で行かせる事は出来ない。私も一緒に行く」
「獣人は流石に難しいですね」
「ハヌマーンと見た目は大して変わらないだろう」
「ですがハヌマーンは神には向かないと――おや? その方は自力で神格を得つつあるようですね」
お師匠様の言葉にギクリと身を竦める。
心当たりなんて一つしか無い。
「二千年近く変化のなかった下界が大した変わりようですね。それとも、神が見逃していたのでしょうか?」
お師匠様はつまらないもの、気に掛ける価値も無いものとしてすっかり見放していた下界にとんだ拾い物があったと喜んだ。
神様って結構、明け透けって言うか、人に気を遣う必要なんてないんだろうけど言葉を飾らないよね。
思ったことをそのまま言うからドン引きだよ。
「では両名とも、私の弟子として天界に連れて行きましょう。さあ、雲にお乗りなさい」
「えっ、今すぐ!?」
「今すぐです」
なんて短気なんだ、と思ったけどロクはさらさらっと書き置きだけして直ぐについて行こうとした。
「待って待って領地は良いのかよっ!」
「チヤ、チャンスというものは掴める時に掴まねば二度は無い」
あ~、うん。そういう諺もあったよね。
でもいいの?
「領地は他の者に任せられる。しかしこれは私でないと出来ない」
「……ありがとう」
俺は素直に甘える事にした。
この世界で俺が本当に頼れるのはロク一人しかいない。
「おいっ、俺も行くぞ!」
すっかりお師匠様に見放された体のハヌマーンが慌てて声を上げた。
「しかしお前は天界には向きません。それに改心もしていない」
「だがイチヤとの縁をここで切るのは嫌だ! お師匠様は出会いを大事にしろと言ったではないか!」
「イチヤは男ですよ?」
「そんなのはわかってる!」
「……良いでしょう。お乗りなさい。但し緊箍児はもう一度嵌めて貰います」
お師匠様は折角外れた緊箍児を再びハヌマーンに嵌めた。
神秘もクソもなく手でスポッと置いたので、簡単に取れそうに見えたけどハヌマーンが慌てて引っ張っても取れなかった。
流石は神様と言ったところか。
「雲に乗れるってファンタジーだよな」
俺は綿を踏み締めたような感触にヒヤヒヤした。
何故かロクとハヌマーンは平然としていたが、きっと俺の方が想像力が豊かなんだろう。
それからヒューッと滑るように空を飛んでいき、真っ白いガスのような雲の中を突き抜けて気が付いたらもう天界に着いていた。
「此処が天界?」
俺はキョロキョロと辺りを見回して、白くガスっている山裾のような景色を眺めた。
少し風が流れると風景が変わり、空にぽっかりと浮かんでいるような門が見えた。
「此処は天界の外れ、神々の地です。心して通りなさい」
そう言って優しげに微笑んだお師匠様の顔がなんだか怖くて、俺はロクのシャツをギュッと握り締めた。
「チヤ、必ず守る」
「……うん。頑張ろう」
俺はゴクリと唾を飲み込み、門の前に立った。
「緊箍児を外した者に会いに来ました」
俺? ハヌマーンには悪いけどチャンスだ。
「俺は何故か緊箍児を操れます。それで偶然、外すことも出来ました」
「そなたがこれの正体を知っていたからでしょうが、そんな事はどうでも宜しい。そなたは私の弟子となって、神格を得るつもりはありますか?」
「おおっ! 俺の弟弟子か!」
いやいやいや、なんでそうなるんだよ?
俺は呆れて首を振った。
「俺はハヌマーンと違って通力とかも無いし、修行したところで神様になれるとは思えません」
「いえ、資格はあります。そなた自身が特殊ですから」
そう言って、お師匠様はアルカイックスマイルとでも言うのか、よく仏像が浮かべているような薄い笑みを浮かべた。
(う~ん、ハヌマーンの師匠だからって事でちょっと舐めてたんだけど、駄目だ。勝てる気がしない)
俺はなんとか利用できないかと思っていた気持ちを放棄した。
「この世界に甘味がないのは、神がそう決めたからだと聞きました。昔なにがあったのかは知りませんが、今も、この先の未来もずっと甘味を取り上げられたままって不公平だと思うんです。なんとか偉い神様に執り成して貰う事って出来ませんか?」
殆ど熱意と勢いだけの俺の言葉を、お師匠様は何も感じてないような顔で聞いていた。
そして暫くしてから頷いた。
「いいでしょう。但しそなたが天界に来て、自分の口から頼むのです。その為の口利きはしましょう」
「おっ、俺っ!?」
いや、そりゃあ神頼みをする気でいたけどさ。
なんとか天界に繋がる方法を探そうって思ってたんだけどさ。
まさかこんなに簡単に行けちゃうとは思わないじゃん?
だからこの場で尻込みをしてもしようがないんんだって思っていたら、ロクが俺の肩を抱いてお師匠様に申し出た。
「イチヤを一人で行かせる事は出来ない。私も一緒に行く」
「獣人は流石に難しいですね」
「ハヌマーンと見た目は大して変わらないだろう」
「ですがハヌマーンは神には向かないと――おや? その方は自力で神格を得つつあるようですね」
お師匠様の言葉にギクリと身を竦める。
心当たりなんて一つしか無い。
「二千年近く変化のなかった下界が大した変わりようですね。それとも、神が見逃していたのでしょうか?」
お師匠様はつまらないもの、気に掛ける価値も無いものとしてすっかり見放していた下界にとんだ拾い物があったと喜んだ。
神様って結構、明け透けって言うか、人に気を遣う必要なんてないんだろうけど言葉を飾らないよね。
思ったことをそのまま言うからドン引きだよ。
「では両名とも、私の弟子として天界に連れて行きましょう。さあ、雲にお乗りなさい」
「えっ、今すぐ!?」
「今すぐです」
なんて短気なんだ、と思ったけどロクはさらさらっと書き置きだけして直ぐについて行こうとした。
「待って待って領地は良いのかよっ!」
「チヤ、チャンスというものは掴める時に掴まねば二度は無い」
あ~、うん。そういう諺もあったよね。
でもいいの?
「領地は他の者に任せられる。しかしこれは私でないと出来ない」
「……ありがとう」
俺は素直に甘える事にした。
この世界で俺が本当に頼れるのはロク一人しかいない。
「おいっ、俺も行くぞ!」
すっかりお師匠様に見放された体のハヌマーンが慌てて声を上げた。
「しかしお前は天界には向きません。それに改心もしていない」
「だがイチヤとの縁をここで切るのは嫌だ! お師匠様は出会いを大事にしろと言ったではないか!」
「イチヤは男ですよ?」
「そんなのはわかってる!」
「……良いでしょう。お乗りなさい。但し緊箍児はもう一度嵌めて貰います」
お師匠様は折角外れた緊箍児を再びハヌマーンに嵌めた。
神秘もクソもなく手でスポッと置いたので、簡単に取れそうに見えたけどハヌマーンが慌てて引っ張っても取れなかった。
流石は神様と言ったところか。
「雲に乗れるってファンタジーだよな」
俺は綿を踏み締めたような感触にヒヤヒヤした。
何故かロクとハヌマーンは平然としていたが、きっと俺の方が想像力が豊かなんだろう。
それからヒューッと滑るように空を飛んでいき、真っ白いガスのような雲の中を突き抜けて気が付いたらもう天界に着いていた。
「此処が天界?」
俺はキョロキョロと辺りを見回して、白くガスっている山裾のような景色を眺めた。
少し風が流れると風景が変わり、空にぽっかりと浮かんでいるような門が見えた。
「此処は天界の外れ、神々の地です。心して通りなさい」
そう言って優しげに微笑んだお師匠様の顔がなんだか怖くて、俺はロクのシャツをギュッと握り締めた。
「チヤ、必ず守る」
「……うん。頑張ろう」
俺はゴクリと唾を飲み込み、門の前に立った。
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