66 / 194
㉝お師匠様がやってきた−1
しおりを挟む
あれからハヌマーンと何度も話し、お師匠様を呼び出す方法や緊箍児を壊す方法を考えたけれどどうにも上手くいかなかった。
「もうっ、いっそあんたの頭を切るか?」
「アホウ、死んでしまうだろっ!」
「死んだら気付いて貰えるんだろ? 一度死んで生き返らせて貰えば?」
「無茶を言うなっ!」
そんな乱暴なやり取りにもすっかり慣れ、俺はちょっとばかりハヌマーンに情が移っていた。
(お師匠様とやらも、こいつが修行を終えた時に緊箍児を外してやれば良かったのに。あ、でも結局は色欲が過ぎて天界を追われたんだから、外さなくて正解だったのか? でも自分の都合で人を縛るのはなぁ、やっぱり良くないよなぁ)
「それ、どうやったら外れるんだろうなぁ。外れろって言ったら外れたりしないかなぁああああっ!?」
ヤバイ、本当に外れてしまった。
「イチヤ! 凄いぞ!」
「こんなんで外れるなよっ!」
俺は思わず文句を言い、顔を青褪めさせていたが窓の外が俄に明るくなっていよいよドキドキする。
「まさかもう?」
「お師匠様は光を背負っているからな」
「神々しいな!」
一体どんな神だ、と戦々恐々とする俺の前でロクが部屋に駆け込んできた。
「チヤッ、何があった!」
「緊箍児が外れた!」
「まさか!?」
「それが外れろって言ったら外れちゃったんだよ」
「そうか……」
ロクもそれ以上は何も言わなかった。
そもそも俺に緊箍児を操れる理由だってわかってないんだ。
「それより外が不自然に明るい。来るぞ」
「うんっ!」
俺はロクに背後に庇われながらお師匠様が来るのを待った。
空の一際明るい一角からたなびく雲が近付いてきて、チャンカチャンカとシタールや鐘の音が響いてくる。
スルスルと気持ちの悪い動きで近付いてきた雲は、煙を漂わせながら俺たちと同じ目線になるよう窓の外に留まった。
雲の上には白い子像に乗った美形の僧侶がいて、なるほどハヌマーンが女と間違えても仕方がないと思える線の細さだった。
「ハヌマーン、緊箍児が外れたのですね。おめでとう」
「はっ、お師匠様、ありがとうございます」
「外したのは……そなたですね?」
ラクダみたいに長い睫毛をバサバサと扇がせながらの流し目を送られ、俺はロクの背中からそっと出ながらキャラが濃いぃなと思った。
流石はハヌマーンのお師匠様だ。
「ええっと、初めまして。柚木一哉と言います。何故か外れてしまいました」
「ふむ、そなたは人間ですね?」
「そりゃあ――」
「純血種の人間ですね?」
「……はい」
そう言えばこっちの人間は獣人との混血で、殆ど純血種はいないと言っていた。
俺が異世界人ってのもばれちゃうかなぁ。
「ハヌマーンに襲われませんでしたか?」
「えっと、俺は男なんでぇ……」
「ハヌマーンなら性別など気にしないでしょう」
「お師匠様、俺は男に興味はありませんぜ!」
ハヌマーンが流石に苦情を言った。
だがこのお師匠様、ハヌマーンの事をよくわかっていらっしゃる。
「ハヌマーン、私の目は節穴ではありませんよ。興味のない者の側にお前が留まる筈はないでしょう」
「興味は、ある」
「襲ったのですね?」
「襲ってねえっ!」
「襲われてませんっ!」
俺とハヌマーンがほぼ同時に叫んだ。
このお師匠様、ちょっと面倒臭くなってきた。
「それよりも、ハヌマーンが堕神となったのは知っているか?」
ロクが淡々と口を挟んだら、お師匠様は素気ない視線をチラリと向けた。
「知っています。私のところにも話は伝わってきましたから」
「止めようとは思わなかったのか?」
「止める理由がありません。神になるのも、下界に降りるのも、全てはハヌマーンの運命です」
「運命っていうか、自業自得?」
「そうとも言います」
ハハッ、いい性格をしているなぁ。
「お師匠様、俺は天界に未練はありません。しかし不死薬が作れないのは辛い」
「ハーレムの為にですか?」
「何故それをっ!」
「私はお前の師ですよ。そのくらいのことはわかります」
えー、もしかしてどっかで見てたんじゃないの?
なんか怖ぇ。
「ハヌマーン、あなたが下界に落とされた本当の理由は、色欲に溺れたからではありません。あなたが天界に馴染もうとしなかったから、あのまま天界で神として過ごすのは向いていないと判断されたのです」
「ですが、改心するまで天界に戻ることまかりならぬと――」
「それはけじめというものです」
あっ、ハーレムはハーレムでやっぱり怒ってたんじゃないかな?
お師匠様の笑顔がちょっと怖い。
「もうっ、いっそあんたの頭を切るか?」
「アホウ、死んでしまうだろっ!」
「死んだら気付いて貰えるんだろ? 一度死んで生き返らせて貰えば?」
「無茶を言うなっ!」
そんな乱暴なやり取りにもすっかり慣れ、俺はちょっとばかりハヌマーンに情が移っていた。
(お師匠様とやらも、こいつが修行を終えた時に緊箍児を外してやれば良かったのに。あ、でも結局は色欲が過ぎて天界を追われたんだから、外さなくて正解だったのか? でも自分の都合で人を縛るのはなぁ、やっぱり良くないよなぁ)
「それ、どうやったら外れるんだろうなぁ。外れろって言ったら外れたりしないかなぁああああっ!?」
ヤバイ、本当に外れてしまった。
「イチヤ! 凄いぞ!」
「こんなんで外れるなよっ!」
俺は思わず文句を言い、顔を青褪めさせていたが窓の外が俄に明るくなっていよいよドキドキする。
「まさかもう?」
「お師匠様は光を背負っているからな」
「神々しいな!」
一体どんな神だ、と戦々恐々とする俺の前でロクが部屋に駆け込んできた。
「チヤッ、何があった!」
「緊箍児が外れた!」
「まさか!?」
「それが外れろって言ったら外れちゃったんだよ」
「そうか……」
ロクもそれ以上は何も言わなかった。
そもそも俺に緊箍児を操れる理由だってわかってないんだ。
「それより外が不自然に明るい。来るぞ」
「うんっ!」
俺はロクに背後に庇われながらお師匠様が来るのを待った。
空の一際明るい一角からたなびく雲が近付いてきて、チャンカチャンカとシタールや鐘の音が響いてくる。
スルスルと気持ちの悪い動きで近付いてきた雲は、煙を漂わせながら俺たちと同じ目線になるよう窓の外に留まった。
雲の上には白い子像に乗った美形の僧侶がいて、なるほどハヌマーンが女と間違えても仕方がないと思える線の細さだった。
「ハヌマーン、緊箍児が外れたのですね。おめでとう」
「はっ、お師匠様、ありがとうございます」
「外したのは……そなたですね?」
ラクダみたいに長い睫毛をバサバサと扇がせながらの流し目を送られ、俺はロクの背中からそっと出ながらキャラが濃いぃなと思った。
流石はハヌマーンのお師匠様だ。
「ええっと、初めまして。柚木一哉と言います。何故か外れてしまいました」
「ふむ、そなたは人間ですね?」
「そりゃあ――」
「純血種の人間ですね?」
「……はい」
そう言えばこっちの人間は獣人との混血で、殆ど純血種はいないと言っていた。
俺が異世界人ってのもばれちゃうかなぁ。
「ハヌマーンに襲われませんでしたか?」
「えっと、俺は男なんでぇ……」
「ハヌマーンなら性別など気にしないでしょう」
「お師匠様、俺は男に興味はありませんぜ!」
ハヌマーンが流石に苦情を言った。
だがこのお師匠様、ハヌマーンの事をよくわかっていらっしゃる。
「ハヌマーン、私の目は節穴ではありませんよ。興味のない者の側にお前が留まる筈はないでしょう」
「興味は、ある」
「襲ったのですね?」
「襲ってねえっ!」
「襲われてませんっ!」
俺とハヌマーンがほぼ同時に叫んだ。
このお師匠様、ちょっと面倒臭くなってきた。
「それよりも、ハヌマーンが堕神となったのは知っているか?」
ロクが淡々と口を挟んだら、お師匠様は素気ない視線をチラリと向けた。
「知っています。私のところにも話は伝わってきましたから」
「止めようとは思わなかったのか?」
「止める理由がありません。神になるのも、下界に降りるのも、全てはハヌマーンの運命です」
「運命っていうか、自業自得?」
「そうとも言います」
ハハッ、いい性格をしているなぁ。
「お師匠様、俺は天界に未練はありません。しかし不死薬が作れないのは辛い」
「ハーレムの為にですか?」
「何故それをっ!」
「私はお前の師ですよ。そのくらいのことはわかります」
えー、もしかしてどっかで見てたんじゃないの?
なんか怖ぇ。
「ハヌマーン、あなたが下界に落とされた本当の理由は、色欲に溺れたからではありません。あなたが天界に馴染もうとしなかったから、あのまま天界で神として過ごすのは向いていないと判断されたのです」
「ですが、改心するまで天界に戻ることまかりならぬと――」
「それはけじめというものです」
あっ、ハーレムはハーレムでやっぱり怒ってたんじゃないかな?
お師匠様の笑顔がちょっと怖い。
0
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。
みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。
生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。
何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-
ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。
断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。
彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。
通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。
お惣菜お安いですよ?いかがです?
物語はまったり、のんびりと進みます。
※本作はカクヨム様にも掲載しております。
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜
N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。
表紙絵
⇨元素 様 X(@10loveeeyy)
※独自設定、ご都合主義です。
※ハーレム要素を予定しています。
【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。
ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。
幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。
逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。
見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。
何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。
しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。
お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。
主人公楓目線の、片思いBL。
プラトニックラブ。
いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。
2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。
最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。
(この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。)
番外編は、2人の高校時代のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる