【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

文字の大きさ
上 下
59 / 194

㉙見放された土地−2

しおりを挟む
「え~と、午前中はハヌマーンから話を聞くから、ウィリアムさんには午後からお願いしてもいい?」
「私も同席させて頂きます」
「えっ、忙しいのにそれは悪いよ」
 侍従長というのが何をする役目なのかよく知らないけど、きっと忙しいに決まってる。
 だってこのでっかい城を維持しているんだもん。やる事だって、気を付ける事だって山ほどあるだろう。
 でもそんな俺の気遣いも虚しく、ウィリアムはこれも仕事なのだと言った。

「ハヌマーンとイチヤ様が会う時は同席するようにと仰せつかっております。私は護衛としても使えますので」
「護衛……」
 ハヌマーンは確かに横暴で乱暴で理解できない所も多いけど、だからってそこまで警戒する必要がある?
 いざとなれば緊箍児でキュッと出来るし、そんなに心配しなくてもいいと思うんだけどなぁ。

「イチヤ様、それでお館様が満足されるならお安いものです」
 ……なるほど。ロクが集中して仕事が出来た方がお得なのかぁ。

「じゃあ悪いけど宜しくお願いします」
 俺はウィリアム同席の元、ハヌマーンから話を聞くことになった。


「一人にしてごめんな。寂しかったか?」
「アホかっ! 千年も一人で生きてきて、今さら寂しいも何もあるかっ」
「千年!?」
「正確には千三百二十年ほどか」
 千三百二十年も一人で生きてきたの?
 そりゃあ、途中で人に不死薬をあげたりハーレムを築いたりしてるから厳密にはずっと一人ではないんだろうけどでも。

「仲間は――他に堕ちてきた神はいなかったの?」
「いないな」
「君みたいに追放された神はいないって事?」
「ああ。神を降ろされる事はたまにある」
「その神たちは何処に行ったんだよ」
「そのまま天界で修行を積み直す」
「修行?」
「他の神の下働きのような事をして、引き上げて貰えるのを待つんだ」
 それって大物歌手に気に入って貰えるように媚びを売る付き人みたいだね。
 或いはワンマン社長にすり寄るサラリーマンとか?

「君は下働きも許されないくらいの罪を犯したの?」
 確か色欲に溺れて追放されたんだよね? と訊いたら庇ってくれる神がいなかったのだと答えた。

「誰も俺を下働きで使おうとはしなかったし、色狂いの猿など側には置けないと撥ね付けられたわ」
「そ、れは……」
 それは性犯罪者を雇用しろって言われたら二の足を踏むのもわかるけど、でもハヌマーンはそこまで見境なくは見えない。
 緊箍児だって嵌めてるし、彼だけ罰が重すぎるとは誰も思わなかったのだろうか。

「俺も天界なんて向いてないからそれはいい。ただ仙桃と甘露が手に入らないのは困る。俺は堕ちても滅多に死なないままだし、うんと長く生きる。だが不死薬を作れないのはなぁ」
 う~ん、神々であっても身体を若く保つ為に、コンディションを整える為に仙桃と甘露は必要でハヌマーンもそれは一緒って事か。

「地上で代わりになるものは無かったんだね?」
「無かった」
「それって、甘い物が下界に存在しない事と関係がある?」
「……わからん。元々天界の物は天界にしか無い。下界に甘い物が存在しないのは、大昔に神々がそう決めたからとしか俺は知らん」
「神々が決めた……それって罰って事?」
 これだけ皆が甘味を求めているのに取り上げたのなら、何かの罰とか嫌がらせって事だよね?

「だとしても、何の罪かわからんぞ」
「うん、罪状もわからずに罰だけを押し付けられている――理不尽だ」
 だって罪の在処がわからなかったら、償う事だって出来ないじゃん。
 挽回するチャンスも与えられずに罰だけを受け続けるなんて理不尽だ。

「神様って物凄く理不尽で横暴だね」
「そうとも、神とは理不尽なものよ」
 あっさりと肯定されてしまった。
 地球でもギリシャ神話の神は嫉妬深かったり見栄っ張りだったりするから、まあこの世界の神もそうなんだろう。

「そういう理不尽な存在なら、逆に気紛れに救ってくれるって事もあるんじゃない?」
 これまたギリシャ神話を例に出すなら、神々に寵愛を受ける人間がちょいちょい出てくる。
 こっちだって気紛れを起こす神が一柱くらいはいてもいいだろう。
 そう期待を籠めて訊いたのに、ハヌマーンはあっさりと首を横に振った。

「ないな。神々はすっかり下界に興味を失っている。手を差し伸べるどころか、視線を向けもしないだろう」
「えぇぇ、そんなのってあり?」
 酷い。興味がないなら罰を撤回しておいてくれればいいじゃん。
 誰も助けてくれなんて言ってないだろ?
 呪うなって言ってるだけだろう?

「それは下界の人も神に興味がないから仕方がない」
「えっ? 信仰ってないの?」
 チラリとウィリアムを振り返ったら頷いてから教えてくれた。

「私たち獣人は自分の神霊を大事にしています。信じるべきは神霊なので、神は不要です」
 神は不要って、ロクと同じような事を言うなぁ。
 あ、でも待って。

「じゃあ人間は? 人間には神霊がいませんよね?」
「……人間が、何を拠り所にしているのかはわかりません」
 ウィリアムの哀しそうな目の色に、俺はこの世界の人間と獣人の断絶の深さを見たような気がした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

処理中です...