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㉙見放された土地−1
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食堂に行ったら既に一仕事終えたロクが朝食を摂っていて、俺は遅れたことを詫びた。
「もっと寝ていて良かったんだぞ」
「でもロクはちっとも休んでないじゃん」
「そんな事はない。しっかり眠った」
確かに野営している時よりはよく眠れているのかもしれないけどねぇ、休んでいる姿を見ていないからちょっと心配だよ。
俺は側に控えていた侍従長のウィリアムさんにロクがちゃんと休んでいるのかと訊いてみた。
「以前よりはお休みになられてます。お食事も規則的に摂られていますし」
「えっ、まさか食事を抜いたりしてたの?」
「冒険者は食べたい時に食べれば良いのだと仰ってました」
すまし顔でそう答えたウィリアムに、ロクが苦い顔で文句を言う。
「いつの話をしているんだ! お前たちに言われて直しただろうが」
「それでも度々お昼は抜かれていましたが」
「えっ、いつもちゃんと食べてたよね?」
「チヤに食事を抜かせる訳にはいかないだろう」
ロクの言葉からどうやら俺の為に規則的に食事を摂り、睡眠をとっていたのだと知る。
そう言えば、ロクは俺が眠っている時に色々と活動していたみたいだものな。
「別に俺に合わせる必要はないけど、一日二食で足りるの?」
相撲取りなんかは一日二食のドカ食いだって聞いたことがあるけど、ロクもその方式なんだろうか?
「集中しているとどうしても決まった時間に食事をするのが煩わしくてな。手が空いた時に食べるようにしている」
「それは貴族らしくありません」
すかさず文句を言ったウィリアムにロクがうんざりとした顔で答える。
「だから城にいる時は合わせるようにしている」
「お館様が臨機応変の利く方で良かったです」
「お前たちに厳しく躾けられた成果だろう」
「おや、そうでしたか?」
ウィリアムがしれっとした顔をしているのがおかしい。
主従の間に信頼関係があるみたいでなによりだ。
「お館様は本日もご公務でしょうか?」
「ああ。夕方には一旦手が空くと思うが――チヤ、相手を出来ずに済まない。何かしたい事は無いか?」
ロクに訊かれて俺は優先順位は何かと考える。
①天界への手掛かりを探す事。
②ロクとのエッチに慣れる事。
③ロクとの関係を認めて貰う事。
後は……なんだろう?
「えっと、ハヌマーンと話して出来る事が無いか探すでしょう? それから、あれば天界についての文献とか、お伽噺も読んでみた方が良いのかなぁ。あっ、でも俺ってこっちの字を読めるの? 言葉は召喚の時に話せるようにしてるって聞いたけど……」
「文字までは無理だな。ウィリアム、頼めるか?」
「お任せ下さい」
どうやらウィリアムが知識を授けてくれるらしい。
ついでにロクの事も色々と聞いてやろう。
そう思いつつウィリアムに頭を下げた。
朝食後、直ぐに執務室へと戻ってしまうロクの背中をおとなしく見送った。
城を出てからずっと一緒にいたから、少しの間でも離れるのが淋しい。
そんな俺を見て、ウィリアムが慰めを口にする。
「お館様はイチヤ様と朝食をご一緒される為に時間を合わせたのですね」
「え?」
「お館様は十分もあれば食事を終えられます。それが座して三十分もあなたを待った。起こしてこいと命じられる事もなくです」
「……ロクってば、起こせばいいのに」
「あの方は例え一時間掛かっても黙ってお待ちになったでしょう」
俺は顔が熱くなる。ロクのそういうところはとても嬉しいけど、俺は甘えてちゃいけないんだろうな。
俺の仕事はロクの負担を減らす事だ。
「次からは一緒に起きます」
「お館様はあなたが無理をされる事を望まないのでは?」
「ええっと、別の方法で甘えるから大丈夫です」
ロクが優しいのは知ってるし、最初に負い目があったからかやたらと俺を甘やかす癖がある。
だから止めさせようとは思わないけど、ロクの負担にならない形を考えなくちゃいけない。
例えば減ってしまった二人の時間を少しでも持ちたいって言ったらどうだろう?
朝だったらそのままやり過ぎないだろうし、適度にイチャ付けて俺も嬉しいから一石二鳥だ。
「明日からはちゃんと朝食の時間に来ますね」
「はい。ですが無理をされなくても良いのですよ」
「大丈夫。もうすっかり元気になったからね」
流石に昨日から沢山寝て疲れも取れたし、身体の違和感もだいぶ無くなった。
ここだけの話、お尻がゾワゾワするのが落ち着いたらロクに対する過剰な照れも治まった。
奴を見るとお尻がムズムズしちゃうのがいけなかったらしい。
良かった良かったと単純な俺は胸を撫で下ろした。
「もっと寝ていて良かったんだぞ」
「でもロクはちっとも休んでないじゃん」
「そんな事はない。しっかり眠った」
確かに野営している時よりはよく眠れているのかもしれないけどねぇ、休んでいる姿を見ていないからちょっと心配だよ。
俺は側に控えていた侍従長のウィリアムさんにロクがちゃんと休んでいるのかと訊いてみた。
「以前よりはお休みになられてます。お食事も規則的に摂られていますし」
「えっ、まさか食事を抜いたりしてたの?」
「冒険者は食べたい時に食べれば良いのだと仰ってました」
すまし顔でそう答えたウィリアムに、ロクが苦い顔で文句を言う。
「いつの話をしているんだ! お前たちに言われて直しただろうが」
「それでも度々お昼は抜かれていましたが」
「えっ、いつもちゃんと食べてたよね?」
「チヤに食事を抜かせる訳にはいかないだろう」
ロクの言葉からどうやら俺の為に規則的に食事を摂り、睡眠をとっていたのだと知る。
そう言えば、ロクは俺が眠っている時に色々と活動していたみたいだものな。
「別に俺に合わせる必要はないけど、一日二食で足りるの?」
相撲取りなんかは一日二食のドカ食いだって聞いたことがあるけど、ロクもその方式なんだろうか?
「集中しているとどうしても決まった時間に食事をするのが煩わしくてな。手が空いた時に食べるようにしている」
「それは貴族らしくありません」
すかさず文句を言ったウィリアムにロクがうんざりとした顔で答える。
「だから城にいる時は合わせるようにしている」
「お館様が臨機応変の利く方で良かったです」
「お前たちに厳しく躾けられた成果だろう」
「おや、そうでしたか?」
ウィリアムがしれっとした顔をしているのがおかしい。
主従の間に信頼関係があるみたいでなによりだ。
「お館様は本日もご公務でしょうか?」
「ああ。夕方には一旦手が空くと思うが――チヤ、相手を出来ずに済まない。何かしたい事は無いか?」
ロクに訊かれて俺は優先順位は何かと考える。
①天界への手掛かりを探す事。
②ロクとのエッチに慣れる事。
③ロクとの関係を認めて貰う事。
後は……なんだろう?
「えっと、ハヌマーンと話して出来る事が無いか探すでしょう? それから、あれば天界についての文献とか、お伽噺も読んでみた方が良いのかなぁ。あっ、でも俺ってこっちの字を読めるの? 言葉は召喚の時に話せるようにしてるって聞いたけど……」
「文字までは無理だな。ウィリアム、頼めるか?」
「お任せ下さい」
どうやらウィリアムが知識を授けてくれるらしい。
ついでにロクの事も色々と聞いてやろう。
そう思いつつウィリアムに頭を下げた。
朝食後、直ぐに執務室へと戻ってしまうロクの背中をおとなしく見送った。
城を出てからずっと一緒にいたから、少しの間でも離れるのが淋しい。
そんな俺を見て、ウィリアムが慰めを口にする。
「お館様はイチヤ様と朝食をご一緒される為に時間を合わせたのですね」
「え?」
「お館様は十分もあれば食事を終えられます。それが座して三十分もあなたを待った。起こしてこいと命じられる事もなくです」
「……ロクってば、起こせばいいのに」
「あの方は例え一時間掛かっても黙ってお待ちになったでしょう」
俺は顔が熱くなる。ロクのそういうところはとても嬉しいけど、俺は甘えてちゃいけないんだろうな。
俺の仕事はロクの負担を減らす事だ。
「次からは一緒に起きます」
「お館様はあなたが無理をされる事を望まないのでは?」
「ええっと、別の方法で甘えるから大丈夫です」
ロクが優しいのは知ってるし、最初に負い目があったからかやたらと俺を甘やかす癖がある。
だから止めさせようとは思わないけど、ロクの負担にならない形を考えなくちゃいけない。
例えば減ってしまった二人の時間を少しでも持ちたいって言ったらどうだろう?
朝だったらそのままやり過ぎないだろうし、適度にイチャ付けて俺も嬉しいから一石二鳥だ。
「明日からはちゃんと朝食の時間に来ますね」
「はい。ですが無理をされなくても良いのですよ」
「大丈夫。もうすっかり元気になったからね」
流石に昨日から沢山寝て疲れも取れたし、身体の違和感もだいぶ無くなった。
ここだけの話、お尻がゾワゾワするのが落ち着いたらロクに対する過剰な照れも治まった。
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良かった良かったと単純な俺は胸を撫で下ろした。
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