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㉗事後の態度−2
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「チヤ、大丈夫か?」
ロクに身体を気遣われてカーッと頬に血が上る。
もう本当に最後の無茶は凄かった。
あんな事を自分がされたなんて信じられない。
「えっと、平気。平気だってばぁ!」
大丈夫だって言ってるのに、ロクは俺を地面に下ろしてくれない。
それどころか痛かったら薬を塗るから見せてみろと言い出した。
「ばっ、見せる訳ないだろう!?」
それは俺は見られて興奮しちゃうような男だけど今はダメだ。
今は自分がされた事を思うと恥ずかしくって恥ずかしくって絶対に無理。
「しかし私と違って治りが遅いから――」
「怪我はしてない!」
「でも腫れてるかもしれない」
「そんなのあんたが気にしないでくれよっ!」
「気にするに決まってるだろう!」
少し怒ったように言われ、俺は無駄にトキメイてしまう。
畜生、なんだってこう格好良いんだかなぁ。
「……恥ずかしいから、お願いだから少しだけ放っておいて。暫くしたら、ちゃんと落ち着くから。お願い」
俺は羞恥を堪えて正直にロクにお願いした。
思い出して恥ずかしいなんて気持ちをロクがちゃんと理解してくれたかは怪しかったけど、取り敢えずはわかったと頷いてくれた。
それで俺はロクに抱えられたままだったけど、肩に顔を伏せてギュッと目を瞑って熱が冷めるのを待った。
でも、ロクとくっついているので余り効果はなかった。
ロクに抱っこされての移動だってので、結果的にとても早くロクサーン侯爵領へと着いた。
石畳を敷き詰められた街並みはとても綺麗だったし、人も多くて活気があった。
善政を敷いているんだなぁ、流石はロクだなぁと感心する。
「いや、領地経営は家のものに任せっきりだ。大きな方針は父の代から変えてないし、大事な書類を私が決済するだけで、うちのものは優秀だからどんどん栄えている」
「そうなの? 優秀で任せられる部下がいるってのは良いね」
俺は勝手に大手企業のCEOみたいなものなのかなと想像する。
それかアメリカ合衆国の高官で、実家が裕福な地主なの。だからロクの仕事は王城内で政務を執る事なんだけど、沢山の小作を抱える一家の主でもある。なんてね。
「家によっては横領や造反もあるから、私は恵まれているんだ」
「きっとロクの人徳だよ」
そう言うと俺はやっと地面に下ろして貰い、グッと伸びをしてから頭からローブを被ったハヌマーンに話し掛けた。
「さっきからおとなしいね」
「お前が街中では口を利くなと言ったんだろう!」
「だって君には前科があるからねぇ」
マキシム卿の姿を見て頭に血が上ったとはいえ、街に着いた途端に飛び出して行ったのは誰だよ。
あれは本当に吃驚したんだからね!
「仕方があるまい。仇敵を目にしたのだ」
「だからあんたを騙した獣人とマキシム卿は別人!」
「しかしよく似ていた」
全く悪びれないハヌマーンを見て呆れる。
(ダメだ、こいつはちっとも反省してない)
まあ、それでも復讐を果たして溜飲を下げたようなので、今は落ち着いていると信じよう。
俺は念の為、もう一度ハヌマーンに注意しておく。
「変装術もまだ不完全だし、勝手にフードをとったり歩き回っちゃダメだからね!」
「わかっている。それよりも、あそこに若い娘たちが――」
「はい、急ぐよ~」
俺はハヌマーンを急かせてさっさと歩いた。
自分のことだけでいっぱいいっぱいなのに頭が痛い、と思っていたらあっという間にロクの生家に着いてしまった。
予想はしていたけれど、間近で見たデカさにビビる。
「ちょ、これじゃお城じゃん!」
いや、王城よりも小さいことはわかっている。わかっているんだけど、これを家とは呼べない。
だって玄関に石段の付いている家なんて見たことないもん。
「古いがそう暮らしにくくはないぞ。母が嫁いできた時に改修したからな」
「そういう事を言ってるんじゃない!」
俺はロクがお城に住む貴族だって事にビビってんの!
『お嫁さんにして』なんて言っちゃったけど、本当は俺が側にいていい人じゃないんだって現実が一気に見えてしまった。
「お館様!」
バタバタと駆け付けてきた執事や召使いがシュッとしてスタイリッシュな獣人なのも、俺の気後れに拍車を掛ける。
軍用犬みたいな黒い犬型獣人と、栗毛が綺麗な馬型獣人、そして豪奢な銀髪にミステリアスな灰色の瞳の猫型獣人。
「ベルモント兄様、おかえりなさい!」
そう言ってしなやかな腕をロクの首に巻き付けようと伸ばしてきたのをロクがスルリと避ける。
「アルテミス、私たちはそんなに親しい挨拶をする間柄ではないよ」
「まあ、兄様ったら、相変わらずお硬いのね」
少し婀娜っぽく流し目を送るのも慣れていて、とっても色っぽい女性だった。
(ちょっと聞いてないよ! ロクにそんなに親しい女性がいるなんて!)
俺は思いっきり慌てたけれど、その人にちろりと視線を流されて慌てて目を逸らせた。
こういう圧の強そうな人は苦手なんだって。
「ベルモント兄様、こちらは?」
「二人とも私の大事な客だ。君は近付かないように」
ロクはかなり強くそう言ったが、アルテミス嬢はどう見ても納得していなかった。
不安に思いつつも、俺とハヌマーンはロクサーン侯爵家に世話になる事になったのだった。
ロクに身体を気遣われてカーッと頬に血が上る。
もう本当に最後の無茶は凄かった。
あんな事を自分がされたなんて信じられない。
「えっと、平気。平気だってばぁ!」
大丈夫だって言ってるのに、ロクは俺を地面に下ろしてくれない。
それどころか痛かったら薬を塗るから見せてみろと言い出した。
「ばっ、見せる訳ないだろう!?」
それは俺は見られて興奮しちゃうような男だけど今はダメだ。
今は自分がされた事を思うと恥ずかしくって恥ずかしくって絶対に無理。
「しかし私と違って治りが遅いから――」
「怪我はしてない!」
「でも腫れてるかもしれない」
「そんなのあんたが気にしないでくれよっ!」
「気にするに決まってるだろう!」
少し怒ったように言われ、俺は無駄にトキメイてしまう。
畜生、なんだってこう格好良いんだかなぁ。
「……恥ずかしいから、お願いだから少しだけ放っておいて。暫くしたら、ちゃんと落ち着くから。お願い」
俺は羞恥を堪えて正直にロクにお願いした。
思い出して恥ずかしいなんて気持ちをロクがちゃんと理解してくれたかは怪しかったけど、取り敢えずはわかったと頷いてくれた。
それで俺はロクに抱えられたままだったけど、肩に顔を伏せてギュッと目を瞑って熱が冷めるのを待った。
でも、ロクとくっついているので余り効果はなかった。
ロクに抱っこされての移動だってので、結果的にとても早くロクサーン侯爵領へと着いた。
石畳を敷き詰められた街並みはとても綺麗だったし、人も多くて活気があった。
善政を敷いているんだなぁ、流石はロクだなぁと感心する。
「いや、領地経営は家のものに任せっきりだ。大きな方針は父の代から変えてないし、大事な書類を私が決済するだけで、うちのものは優秀だからどんどん栄えている」
「そうなの? 優秀で任せられる部下がいるってのは良いね」
俺は勝手に大手企業のCEOみたいなものなのかなと想像する。
それかアメリカ合衆国の高官で、実家が裕福な地主なの。だからロクの仕事は王城内で政務を執る事なんだけど、沢山の小作を抱える一家の主でもある。なんてね。
「家によっては横領や造反もあるから、私は恵まれているんだ」
「きっとロクの人徳だよ」
そう言うと俺はやっと地面に下ろして貰い、グッと伸びをしてから頭からローブを被ったハヌマーンに話し掛けた。
「さっきからおとなしいね」
「お前が街中では口を利くなと言ったんだろう!」
「だって君には前科があるからねぇ」
マキシム卿の姿を見て頭に血が上ったとはいえ、街に着いた途端に飛び出して行ったのは誰だよ。
あれは本当に吃驚したんだからね!
「仕方があるまい。仇敵を目にしたのだ」
「だからあんたを騙した獣人とマキシム卿は別人!」
「しかしよく似ていた」
全く悪びれないハヌマーンを見て呆れる。
(ダメだ、こいつはちっとも反省してない)
まあ、それでも復讐を果たして溜飲を下げたようなので、今は落ち着いていると信じよう。
俺は念の為、もう一度ハヌマーンに注意しておく。
「変装術もまだ不完全だし、勝手にフードをとったり歩き回っちゃダメだからね!」
「わかっている。それよりも、あそこに若い娘たちが――」
「はい、急ぐよ~」
俺はハヌマーンを急かせてさっさと歩いた。
自分のことだけでいっぱいいっぱいなのに頭が痛い、と思っていたらあっという間にロクの生家に着いてしまった。
予想はしていたけれど、間近で見たデカさにビビる。
「ちょ、これじゃお城じゃん!」
いや、王城よりも小さいことはわかっている。わかっているんだけど、これを家とは呼べない。
だって玄関に石段の付いている家なんて見たことないもん。
「古いがそう暮らしにくくはないぞ。母が嫁いできた時に改修したからな」
「そういう事を言ってるんじゃない!」
俺はロクがお城に住む貴族だって事にビビってんの!
『お嫁さんにして』なんて言っちゃったけど、本当は俺が側にいていい人じゃないんだって現実が一気に見えてしまった。
「お館様!」
バタバタと駆け付けてきた執事や召使いがシュッとしてスタイリッシュな獣人なのも、俺の気後れに拍車を掛ける。
軍用犬みたいな黒い犬型獣人と、栗毛が綺麗な馬型獣人、そして豪奢な銀髪にミステリアスな灰色の瞳の猫型獣人。
「ベルモント兄様、おかえりなさい!」
そう言ってしなやかな腕をロクの首に巻き付けようと伸ばしてきたのをロクがスルリと避ける。
「アルテミス、私たちはそんなに親しい挨拶をする間柄ではないよ」
「まあ、兄様ったら、相変わらずお硬いのね」
少し婀娜っぽく流し目を送るのも慣れていて、とっても色っぽい女性だった。
(ちょっと聞いてないよ! ロクにそんなに親しい女性がいるなんて!)
俺は思いっきり慌てたけれど、その人にちろりと視線を流されて慌てて目を逸らせた。
こういう圧の強そうな人は苦手なんだって。
「ベルモント兄様、こちらは?」
「二人とも私の大事な客だ。君は近付かないように」
ロクはかなり強くそう言ったが、アルテミス嬢はどう見ても納得していなかった。
不安に思いつつも、俺とハヌマーンはロクサーン侯爵家に世話になる事になったのだった。
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