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㉗事後の態度−1
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ハヌマーンが戻ってきた時、俺はロクの上着に包まれて抱っこされてスヤスヤと眠っていた。
ロクが俺の身体に負担を掛けると言った通り、結構な無茶をされてもうボロボロだったんだよ。
いや、お陰で助かったんだけどね?
元の世界に帰されること無くこうしていられるんだから文句はないけどね?
でもあれはちょっと――当分はもういいや。遠慮させて貰うよ。
「イチヤは死んでいるのか?」
失礼なハヌマーンの言葉も今の俺には届かない。
代わりにロクが素っ気なく答えた。
「少し疲れただけだ。人間は獣人よりも疲れやすく体力がない」
「それにしたってそいつは弱すぎじゃないか? ツルッとしてて、ちょっと神に似ているのに」
「……天界の神か? しかしお前も堕天する前は神だったのだろう?」
それにしてはイチヤと似ていないじゃないかと指摘するロクに、ハヌマーンがあっさりと答える。
「俺は他の純正の神とはルートが違う。獣から引き上げられた神だからな」
「獣から……。なら獣人や人間から神になった者もいるのか?」
「それはいない。人は駄目だと言っていた」
「誰がだ?」
「偉い奴だ」
要領を得ないハヌマーンの説明によると、神様にもランクって奴があるらしい。
そしてごく一部の力のある神は神の前にも滅多に姿を見せず、雲の上の存在として君臨している。
なんだか、それは――。
「まるで人のようだな」
「そうか? 全く違うぞ」
「私の目にはよく似ているように見える。少なくとも、理解不能ではない」
「獣人ごときが神を愚弄するなぁ!」
「愚弄? 何処がだ?」
「……何処がだろう?」
思わず首を傾げたハヌマーンを見て、ロクが溜め息を吐いた。
「とにかく、私は天界に興味はない。しかし王家と事を構えた以上は知っておいた方が良い。私は領地に戻るが、お前も来るか?」
「イチヤが行くなら当然、俺も行く!」
「……何故だ? 緊箍児を操れるチヤの近くにいるのは不安じゃないのか?」
幾ら天界への手掛かりがありそうだと言っても、自分をいつでも苦しめる事が出来る存在の近くにいるのは嫌ではないのかと訊ねるロクに、ハヌマーンはキョトンとした表情を曝す。
「操るのがお前なら絶対に行かないが、イチヤならば構わん」
「だから何故そんなに?」
信頼関係を築ける程の時間も付き合いも無かったのに、どうしてそんなにイチヤを気に入っているのか。
「なんとなくだ」
そう答えてハヌマーンはそれ以上は何も話さなかった。
***
俺が目を覚ました時、二人の雰囲気はちょっと微妙だった。けどロクと初めて最後までシたばかりの俺はそれどころじゃなかった。
恥ずかしいし、汗とか匂いとか感触とか色んなのを事あるごとに思い出しちゃうし、身体だってまだ疼いたままだし。
それにロクの領地はもうすぐそこで、アホな事を言った所為で俺は勝手に緊張していた。
俺は最中に『ロクのお嫁さんになりたい』なんてアホな事を口走ってしまった。
(幾ら気持ちが盛り上がっていたからって、『お嫁さんになりたい』はないだろうよ……)
せめて側にいたいとか、恋人にして欲しいとか、もっと別の言い方があっただろうと自分でも思う。
それにどうしてもロクと離れたくなくてこっちに残ると決めたけれど、元の世界に全く未練が無い訳ではない。
特に甘味が、甘い食べ物が無い事はロクとのあれやこれやが十分に甘い事を差し引いても辛かった。
(そこで、俺としてはハヌマーンだよ!)
地上に甘い物が存在しないのは大昔に神々が決めたからだと言う。
だとしたら神様にその方針を変えて貰うか、天界から入手するしか無い。
甘い物は下界で手に入るようにした方が種類も増え、自分の口に入る機会も増えるから出来れば方針を変えて貰えるのがベストだ。
その為にはハヌマーンから取れる限りの情報を取って、なんとかその無謀な望みを叶えたい。
(それに子供が産めなくても、侯爵家の役に立つような事をすれば認めて貰えるかもしれないし)
そんな打算的な思惑もガッツリとあった。
あとこっちで生きていくなら自分以外の甘味を見つけないと危険だし。
俺は幾重にも甘味を地上に取り戻す理由がある。
ロクが俺の身体に負担を掛けると言った通り、結構な無茶をされてもうボロボロだったんだよ。
いや、お陰で助かったんだけどね?
元の世界に帰されること無くこうしていられるんだから文句はないけどね?
でもあれはちょっと――当分はもういいや。遠慮させて貰うよ。
「イチヤは死んでいるのか?」
失礼なハヌマーンの言葉も今の俺には届かない。
代わりにロクが素っ気なく答えた。
「少し疲れただけだ。人間は獣人よりも疲れやすく体力がない」
「それにしたってそいつは弱すぎじゃないか? ツルッとしてて、ちょっと神に似ているのに」
「……天界の神か? しかしお前も堕天する前は神だったのだろう?」
それにしてはイチヤと似ていないじゃないかと指摘するロクに、ハヌマーンがあっさりと答える。
「俺は他の純正の神とはルートが違う。獣から引き上げられた神だからな」
「獣から……。なら獣人や人間から神になった者もいるのか?」
「それはいない。人は駄目だと言っていた」
「誰がだ?」
「偉い奴だ」
要領を得ないハヌマーンの説明によると、神様にもランクって奴があるらしい。
そしてごく一部の力のある神は神の前にも滅多に姿を見せず、雲の上の存在として君臨している。
なんだか、それは――。
「まるで人のようだな」
「そうか? 全く違うぞ」
「私の目にはよく似ているように見える。少なくとも、理解不能ではない」
「獣人ごときが神を愚弄するなぁ!」
「愚弄? 何処がだ?」
「……何処がだろう?」
思わず首を傾げたハヌマーンを見て、ロクが溜め息を吐いた。
「とにかく、私は天界に興味はない。しかし王家と事を構えた以上は知っておいた方が良い。私は領地に戻るが、お前も来るか?」
「イチヤが行くなら当然、俺も行く!」
「……何故だ? 緊箍児を操れるチヤの近くにいるのは不安じゃないのか?」
幾ら天界への手掛かりがありそうだと言っても、自分をいつでも苦しめる事が出来る存在の近くにいるのは嫌ではないのかと訊ねるロクに、ハヌマーンはキョトンとした表情を曝す。
「操るのがお前なら絶対に行かないが、イチヤならば構わん」
「だから何故そんなに?」
信頼関係を築ける程の時間も付き合いも無かったのに、どうしてそんなにイチヤを気に入っているのか。
「なんとなくだ」
そう答えてハヌマーンはそれ以上は何も話さなかった。
***
俺が目を覚ました時、二人の雰囲気はちょっと微妙だった。けどロクと初めて最後までシたばかりの俺はそれどころじゃなかった。
恥ずかしいし、汗とか匂いとか感触とか色んなのを事あるごとに思い出しちゃうし、身体だってまだ疼いたままだし。
それにロクの領地はもうすぐそこで、アホな事を言った所為で俺は勝手に緊張していた。
俺は最中に『ロクのお嫁さんになりたい』なんてアホな事を口走ってしまった。
(幾ら気持ちが盛り上がっていたからって、『お嫁さんになりたい』はないだろうよ……)
せめて側にいたいとか、恋人にして欲しいとか、もっと別の言い方があっただろうと自分でも思う。
それにどうしてもロクと離れたくなくてこっちに残ると決めたけれど、元の世界に全く未練が無い訳ではない。
特に甘味が、甘い食べ物が無い事はロクとのあれやこれやが十分に甘い事を差し引いても辛かった。
(そこで、俺としてはハヌマーンだよ!)
地上に甘い物が存在しないのは大昔に神々が決めたからだと言う。
だとしたら神様にその方針を変えて貰うか、天界から入手するしか無い。
甘い物は下界で手に入るようにした方が種類も増え、自分の口に入る機会も増えるから出来れば方針を変えて貰えるのがベストだ。
その為にはハヌマーンから取れる限りの情報を取って、なんとかその無謀な望みを叶えたい。
(それに子供が産めなくても、侯爵家の役に立つような事をすれば認めて貰えるかもしれないし)
そんな打算的な思惑もガッツリとあった。
あとこっちで生きていくなら自分以外の甘味を見つけないと危険だし。
俺は幾重にも甘味を地上に取り戻す理由がある。
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