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㉕賭けの代償−1
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マキシム卿には人を脅かしたい時や獲物を確認するのに空を飛んで行くという癖がある。
鳥型獣人にはよくある事だそうだ。
「だからって、誘き出されてホイホイ飛んでいくなんて……」
「本人は腕っぷしに自信があるからな」
「でも一人になった所であっさりと捕まっちゃったよ?」
「あいつらは人攫いの腕がいい」
「……」
(ねぇ、それって本当に冒険者なの? ロクを攫った人たちみたいな冒険者崩れなんじゃない?)
そう思ったけれど聞くのが怖いので訊かないでおく。
「それにしても、本当に引き返しちゃったね!」
マキシム卿を攫われて取り返そうとしたのはヨカナーンだけで、見事に他の兵は背を向けた。
「軍の規律で、上官を捕虜に取られた時は戦わなくていい事になっているからな」
「それって判断を下す人がいないからって事?」
「そうだ。下っ端に余計なことをされるよりも、後から交渉した方が良いという事だ」
ロクの言葉にちょっと吃驚する。
それがこの世界の常識なんだろうか?
それとも俺が知らないだけで、元いた世界でもそういうものなのかな?
まあ、ヨカナーン一人が残ったことは好都合で、彼を連絡係にするらしい。
(連絡係ってなんの? 勿論、王国側とのだ)
「でも、王族なんて攫ったら重罪でしょう? バレたら死刑になるんじゃない? それに俺の世界では誘拐ってまず成功しないんだよ」
「そうなのか? こちらの世界では誘拐は商売として成り立っているんだが」
え、マジ? 誘拐ってビジネスなの? しかも子供じゃなくて大人を攫うのもアリなの?
そんなの益々成功するのが難しそうだよ。
「それは交渉の腕と、身代金の額次第だな。大人しく要求されたものを渡してしまった方が、早くて安全な場合もある」
「安全……」
「まともな人攫いは人質を傷付けない。恨まれたり、深追いされる原因になるからな」
「『まともな人攫い』」
それって言葉としておかしくないか?
「私たちは顔を出さないが、代わりに要求を出して貰う」
「兵を追い払っただけじゃ駄目なの? 身代金も取るの?」
それって本当の犯罪じゃん、と怯む俺にロクは平然と頷いた。
「身代金として、王家に伝わる秘薬を要求する」
「ブッ!」
俺は思わず噴いた。
「それって、お代が大き過ぎない?」
「ハヌマーンが『不死薬を返せ』と口走ったのは多くの兵に聞かれているし、それが “王家に伝わる秘薬” かもしれないとマキシム卿がバラしている。そういう物があると世間に知られた事が、まず王家の弱みになる。そして詳しい事情も知られたくない筈だ」
「もしかして、誘拐が公になれば良いと思ってる?」
「なるさ。六百人の口を塞ぐことは出来ない」
「そっか、兵士の口から直ぐに拡がるよね」
彼らは正当な理由があって隊を離脱したのだと、逃げたのではなく軍規に従って引いたのだと自らを弁護する為に大々的に喧伝するだろう。
「随分な醜聞だけれど、王家は秘薬を差し出すと思う?」
「いいや、惚けるだろう」
「ははぁ……」
王家としてはあくまでも公式には認めないか。
それに出したくても秘薬はもう無いもんね。
「流石に愛想が尽きて人質を見殺しにしたいところかもしれないが、それも外聞が悪い。大金を出して、なるべく早く片を付けようとしてくるだろう」
そのロクの見込み通り、王家はヨカナーンを窓口にして思い切った金額を提示してきた。
秘薬に関しては案の定、知らないふりをした。
「このままマキシム卿を帰すの?」
「いいや、それでは本人が懲りないだろう? 陛下に謹慎させられたとしても懲りずに復帰を目指すだろうから、そんな気が起きないようにしてやる」
怖ぁ……。
これってやっぱり私怨が入ってるよ。
「でもさぁ、やり過ぎて国王の方の恨みを買わない?」
「何をしても恨めない相手がいるだろう?」
「え?」
キョトンとするばかりの俺がロクの企みを知るのは、金と引き換えにマキシム卿を帰した後の事だった。
鳥型獣人にはよくある事だそうだ。
「だからって、誘き出されてホイホイ飛んでいくなんて……」
「本人は腕っぷしに自信があるからな」
「でも一人になった所であっさりと捕まっちゃったよ?」
「あいつらは人攫いの腕がいい」
「……」
(ねぇ、それって本当に冒険者なの? ロクを攫った人たちみたいな冒険者崩れなんじゃない?)
そう思ったけれど聞くのが怖いので訊かないでおく。
「それにしても、本当に引き返しちゃったね!」
マキシム卿を攫われて取り返そうとしたのはヨカナーンだけで、見事に他の兵は背を向けた。
「軍の規律で、上官を捕虜に取られた時は戦わなくていい事になっているからな」
「それって判断を下す人がいないからって事?」
「そうだ。下っ端に余計なことをされるよりも、後から交渉した方が良いという事だ」
ロクの言葉にちょっと吃驚する。
それがこの世界の常識なんだろうか?
それとも俺が知らないだけで、元いた世界でもそういうものなのかな?
まあ、ヨカナーン一人が残ったことは好都合で、彼を連絡係にするらしい。
(連絡係ってなんの? 勿論、王国側とのだ)
「でも、王族なんて攫ったら重罪でしょう? バレたら死刑になるんじゃない? それに俺の世界では誘拐ってまず成功しないんだよ」
「そうなのか? こちらの世界では誘拐は商売として成り立っているんだが」
え、マジ? 誘拐ってビジネスなの? しかも子供じゃなくて大人を攫うのもアリなの?
そんなの益々成功するのが難しそうだよ。
「それは交渉の腕と、身代金の額次第だな。大人しく要求されたものを渡してしまった方が、早くて安全な場合もある」
「安全……」
「まともな人攫いは人質を傷付けない。恨まれたり、深追いされる原因になるからな」
「『まともな人攫い』」
それって言葉としておかしくないか?
「私たちは顔を出さないが、代わりに要求を出して貰う」
「兵を追い払っただけじゃ駄目なの? 身代金も取るの?」
それって本当の犯罪じゃん、と怯む俺にロクは平然と頷いた。
「身代金として、王家に伝わる秘薬を要求する」
「ブッ!」
俺は思わず噴いた。
「それって、お代が大き過ぎない?」
「ハヌマーンが『不死薬を返せ』と口走ったのは多くの兵に聞かれているし、それが “王家に伝わる秘薬” かもしれないとマキシム卿がバラしている。そういう物があると世間に知られた事が、まず王家の弱みになる。そして詳しい事情も知られたくない筈だ」
「もしかして、誘拐が公になれば良いと思ってる?」
「なるさ。六百人の口を塞ぐことは出来ない」
「そっか、兵士の口から直ぐに拡がるよね」
彼らは正当な理由があって隊を離脱したのだと、逃げたのではなく軍規に従って引いたのだと自らを弁護する為に大々的に喧伝するだろう。
「随分な醜聞だけれど、王家は秘薬を差し出すと思う?」
「いいや、惚けるだろう」
「ははぁ……」
王家としてはあくまでも公式には認めないか。
それに出したくても秘薬はもう無いもんね。
「流石に愛想が尽きて人質を見殺しにしたいところかもしれないが、それも外聞が悪い。大金を出して、なるべく早く片を付けようとしてくるだろう」
そのロクの見込み通り、王家はヨカナーンを窓口にして思い切った金額を提示してきた。
秘薬に関しては案の定、知らないふりをした。
「このままマキシム卿を帰すの?」
「いいや、それでは本人が懲りないだろう? 陛下に謹慎させられたとしても懲りずに復帰を目指すだろうから、そんな気が起きないようにしてやる」
怖ぁ……。
これってやっぱり私怨が入ってるよ。
「でもさぁ、やり過ぎて国王の方の恨みを買わない?」
「何をしても恨めない相手がいるだろう?」
「え?」
キョトンとするばかりの俺がロクの企みを知るのは、金と引き換えにマキシム卿を帰した後の事だった。
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