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㉔冒険者の得意な事−1(R-15)
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ハヌマーンから天幕内の様子を聞いていた俺は、ロクになんと声を掛けて良いかわからなかった。
まさかこんなにもはっきりと、しかも悪辣にヨカナーンが裏切るとは思わなかった。
(ロクの事を本気で尊敬しているように見えたのに……どうして?)
あれは演技だったのかと悲しくなる。
「チヤ、そんな顔をするな。主君替えや裏切りは騎士にとっては日常茶飯事だ」
「……そうなの?」
「ああ。より仕え甲斐のある主人を求めることは騎士にとって当たり前だし、第一に私は既に団長を退いているからな。ヨカナーンが今の長に誠実であろうとした結果だろうよ」
「でも、あの計画は悪質過ぎるじゃん! 反乱組織の本拠地だなんてでっち上げて、土地を取り上げようだなんて――」
「まあ、まるきり根拠のない話ではない」
「え?」
俺はロクの言葉にパチパチと目を瞬いた。
「我が領では人間の雇用を積極的に勧めているし、保護も手厚い。ここに来るまでも獣人と人間が一緒にいたのを見ただろう? 領内はもっと人間の数が多いし、反乱組織の人間が紛れ込んでいてもおかしくはない」
ロクの言葉にそういえばと通ってきた街の様子や城内の光景を思い出して比べる。
城の中には本当に人間の数が少なかった。
「差別はやっぱりあるんだね」
「出来ることが違うだけなのだが、強い方が偉いという風潮は無くならないな」
「きっと王家が獣人なのもあって、血が尊いのは獣人って事になってるんでしょ?」
「長生きをした三代目の叡智王の事もあり、王族は神の血を引いていると言われているからな」
溜め息混じりにそう言ったロクを見て苦笑する。
ロクはそう思っていない、寧ろ苦々しく思っているってところだね。
「権威付けを否定はしない。一国を治めるには必要なことだからな。だが権威を使う側が呑み込まれてはいけない」
ロクがそんな王室批判めいた事を言うのは初めてだった。
それを指摘したら上手いことやっているつもりだったのだと言った。
「ロクサーン侯爵として上手く貴族をやれていると思っていた。けれど実際には騎士団長の肩書を外されてもこれで自由に動けると喜び、私は身勝手なままだった。ヨカナーンに見限られるのも仕方がない」
「もしかして、ヨカナーンを助けられなかった事を気にしてる?」
「私の所為だからな」
重々しく頷いたロクを見て意外に思った。
自分でいうほどは薄情じゃ無かったって事か。
(いや、あの時も激高してたから意外じゃないんだろうけどさ)
「助けられなかったのは残念だけど、でもそれはロクの所為じゃないよ。犯罪はそれを犯した人、指示した人の罪であって、助けられなかった人の罪じゃない。そんな風に自分が悪いと思い込むのは、思い込ませた奴の思うつぼだからダメ!」
人の善意に付け込んで罪の在処をすり替える。そういう事をする人っていっぱいいる。
例えばほんの少しのお金で助かる人がいるからってタカったり、あなたにしか出来ないことだからと無茶を言ったり、誰かに迷惑が掛かると脅して言うことを聞かせようとする。
でもさ、自分のお金や労力や時間や気持ちを何にどう使おうがその人の自由じゃない。
ほんの少しなら奪っていいって事にはならないし、能力があるからといって他人の為に使わなくちゃいけないなんて理屈はない。
誰だって悪人にはなりたくないから、それをしないのは凄く悪い人みたいに言われるとついつい折れてしまうけれど、悪くないから。
そもそも悪事を働く側が言うセリフじゃないから。
盗人猛々しいんだよ。
「では、マキシム卿にしようと思っている事も必要ないか? 単なる私的制裁に過ぎないか?」
「そういう気持ちもあるのかもしれないけど、でもそれは領主としてやるべき事だよね? だって領民だってロクだって、このまま黙って踏み潰されてやる義理なんて無いじゃない。正当防衛だよ」
かなり悪質な相手なんだから、とちょっと興奮しつつロクの顔を見たらぺろりと口を舐められた。
「ロク?」
「怒っている時はどんな味がするのかと思ってな」
「もうっ、こんな時に!……それで、どんな味だった?」
「よくわからなかった」
「じゃあもう一度、しっかりと確認してよ」
俺は口を開けてロクの舌を迎え入れた。
近くにハヌマーンもいたのだけど、幸い分身体が見聞きする事に夢中になっていてこちらには注意を払っていない。
俺はロクに口の中を舐られ、軽く牙を立てられて鼻声を漏らす。
まさかこんなにもはっきりと、しかも悪辣にヨカナーンが裏切るとは思わなかった。
(ロクの事を本気で尊敬しているように見えたのに……どうして?)
あれは演技だったのかと悲しくなる。
「チヤ、そんな顔をするな。主君替えや裏切りは騎士にとっては日常茶飯事だ」
「……そうなの?」
「ああ。より仕え甲斐のある主人を求めることは騎士にとって当たり前だし、第一に私は既に団長を退いているからな。ヨカナーンが今の長に誠実であろうとした結果だろうよ」
「でも、あの計画は悪質過ぎるじゃん! 反乱組織の本拠地だなんてでっち上げて、土地を取り上げようだなんて――」
「まあ、まるきり根拠のない話ではない」
「え?」
俺はロクの言葉にパチパチと目を瞬いた。
「我が領では人間の雇用を積極的に勧めているし、保護も手厚い。ここに来るまでも獣人と人間が一緒にいたのを見ただろう? 領内はもっと人間の数が多いし、反乱組織の人間が紛れ込んでいてもおかしくはない」
ロクの言葉にそういえばと通ってきた街の様子や城内の光景を思い出して比べる。
城の中には本当に人間の数が少なかった。
「差別はやっぱりあるんだね」
「出来ることが違うだけなのだが、強い方が偉いという風潮は無くならないな」
「きっと王家が獣人なのもあって、血が尊いのは獣人って事になってるんでしょ?」
「長生きをした三代目の叡智王の事もあり、王族は神の血を引いていると言われているからな」
溜め息混じりにそう言ったロクを見て苦笑する。
ロクはそう思っていない、寧ろ苦々しく思っているってところだね。
「権威付けを否定はしない。一国を治めるには必要なことだからな。だが権威を使う側が呑み込まれてはいけない」
ロクがそんな王室批判めいた事を言うのは初めてだった。
それを指摘したら上手いことやっているつもりだったのだと言った。
「ロクサーン侯爵として上手く貴族をやれていると思っていた。けれど実際には騎士団長の肩書を外されてもこれで自由に動けると喜び、私は身勝手なままだった。ヨカナーンに見限られるのも仕方がない」
「もしかして、ヨカナーンを助けられなかった事を気にしてる?」
「私の所為だからな」
重々しく頷いたロクを見て意外に思った。
自分でいうほどは薄情じゃ無かったって事か。
(いや、あの時も激高してたから意外じゃないんだろうけどさ)
「助けられなかったのは残念だけど、でもそれはロクの所為じゃないよ。犯罪はそれを犯した人、指示した人の罪であって、助けられなかった人の罪じゃない。そんな風に自分が悪いと思い込むのは、思い込ませた奴の思うつぼだからダメ!」
人の善意に付け込んで罪の在処をすり替える。そういう事をする人っていっぱいいる。
例えばほんの少しのお金で助かる人がいるからってタカったり、あなたにしか出来ないことだからと無茶を言ったり、誰かに迷惑が掛かると脅して言うことを聞かせようとする。
でもさ、自分のお金や労力や時間や気持ちを何にどう使おうがその人の自由じゃない。
ほんの少しなら奪っていいって事にはならないし、能力があるからといって他人の為に使わなくちゃいけないなんて理屈はない。
誰だって悪人にはなりたくないから、それをしないのは凄く悪い人みたいに言われるとついつい折れてしまうけれど、悪くないから。
そもそも悪事を働く側が言うセリフじゃないから。
盗人猛々しいんだよ。
「では、マキシム卿にしようと思っている事も必要ないか? 単なる私的制裁に過ぎないか?」
「そういう気持ちもあるのかもしれないけど、でもそれは領主としてやるべき事だよね? だって領民だってロクだって、このまま黙って踏み潰されてやる義理なんて無いじゃない。正当防衛だよ」
かなり悪質な相手なんだから、とちょっと興奮しつつロクの顔を見たらぺろりと口を舐められた。
「ロク?」
「怒っている時はどんな味がするのかと思ってな」
「もうっ、こんな時に!……それで、どんな味だった?」
「よくわからなかった」
「じゃあもう一度、しっかりと確認してよ」
俺は口を開けてロクの舌を迎え入れた。
近くにハヌマーンもいたのだけど、幸い分身体が見聞きする事に夢中になっていてこちらには注意を払っていない。
俺はロクに口の中を舐られ、軽く牙を立てられて鼻声を漏らす。
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