【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

文字の大きさ
上 下
36 / 194

⑱偽装関係−1(R−18)

しおりを挟む
 翌朝、俺達の前に現れたハヌマーンはマントを被ってはいたが、とても人には見えなかった。
 獣人にすら見えない。なんと言っても迫力があり過ぎたし、不気味な雰囲気を隠せていない。

「ハヌマーン、君は分身を作れるって言ってたのに変装も出来ないの?」
「人に偽装するなど屈辱極まりない!」
「え、でもハーレムは好きなんだよね? 人の女に興味はあるんだよね?」
「俺の性欲を甘く見るな!」
 うわぁ、最悪。下界人を低く見ている癖に、自分の性欲だけは満たしたいってか?
 だったら獣とか植物を相手にしていればいいじゃん。性欲を満たせたらなんでもいいんだろう?
 俺が自分を汚物でも見るような目で見ている事に気が付いたのか、ハヌマーンがゲフンと咳払いをしてから言い訳のように付け足してきた。

「女は別だ。人間も獣人も美しい姿をしている」
「……」
 それを聞いて俺は益々引いた。
 女性が綺麗で魅力的だという意見に反論はないけれど、奴は性的な目でしか見ていない。
 それは俺だって若くて健全な男だからエッチな目で見てしまう事はあるけど、女性なら誰でもいい訳ではない。それに――。

(今はロクの身体にしか反応しないもん)
 俺は男に興味はなかった筈だけれど、こっちの女性には尻込みしてしまうし、それで少しでも優しくしてくれる獣人に逃げ込んじゃったのかなと思う。でもロクが優しいのは仕事だからだし、可愛がってはくれるけど恋愛的な意味で好かれている訳じゃないし、俺ばっかり好きでムカつくし悔しい。
 いっそ身体だけでもいいのに頑なに最後は拒むし。

(この野郎、どういうつもりだよ?)
 考えていたらなんだかムカムカしてきた。
 それで八つ当たり気味にハヌマーンに好き放題を言ってしまう。

「それで、あんたの方は女たちにどう思われてんの? 不死薬がないと相手にもして貰えないとか、そんな訳はないよね?」
「俺の如意棒さえ見せればイチコロなのだが……」

(そんな訳あるか)
 俺は溜め息を吐き、そしてここに突破口があるかもしれないと思う。

「人の雄に変装出来れば、不死薬がなくても近付く事が出来るんじゃないの?」
「そっ、そうか! それでは変装術も覚えなくてはな!」
「うん、獣人に偽装出来ればバッチリだよ。毛は多い方が良いからね」
「毛なら任せておけ!」
「そうだね、その禍々しさを消して地面に付いてる腕の長さを調整して、悪相をなんとかして怪しい緊箍児を隠して――後は眼、かな」
「眼?」
「レオポルトも眼だけは宝石みたいに綺麗だったから……」
 あの金色の瞳を思い出すと恐怖しか浮かばないってのは、本当に残念だと思う。
 あんなに綺麗な眼を持っているのに。

「チヤ……」
「あ、俺が一番綺麗だと思ってるのは、あんたのプルシアンブルーの瞳だからね」
 ロクの眼は、地球みたいな青で本当に綺麗だ。
 束の間、いい雰囲気で見つめ合っていたら空気を読めないハヌマーンが何の遠慮もなく口を開いた。

「では目の色を青く変えれば良いのか? しかし青い色というのは難しい。本来、獣人に現れる色じゃないからな」
「えっ、そうなの?」
 驚く俺に向かってハヌマーンが得々と話す。

「そうは見えないかもしれないが、俺は獣人に性質が近いから――」
「そっちじゃない。獣人に青い目が珍しいって、本当?」
 素気なくハヌマーンの話を遮ったら拗ねたので、代わりにロクが答える。

「獣人は激しやすい性質を表すように赤や金色の眼が多い。穏やかだと茶色や灰色、珍しくて緑の眼だな」
「青は理性的?」
「内に秘めた色だと言われている」
 そっかぁ……。だから他の獣人よりも我慢強くて、甘い物も嫌いだったりするのかな?

「ロクの眼もロクサーン侯爵家の血筋?」
「そうだ。必ずしも青い眼が生まれる訳ではないがな」
 でもその珍しい眼の色は、ロクがロクサーン侯爵家の人だって一目でわかるんだよね。
 本人が望もうが望むまいが、それは隠しようがないくらい明らかな事で。

(ロクにはその血を繋げる義務がある)
 今まで貴族だなんだって言われても俺には馴染みがないしピンとこなかったけど、こうして絶滅危惧種みたいに言われちゃうと彼の責任重大さがわかる。
 他の誰かに変わって貰う事は出来ない。血を繋げるのは自分一人しかいない。その責任から逃げられない。
 例え意に染まなくても、それがロクサーン侯爵家に生まれついたロクの務めだ。

「獣人の結婚相手って、同じ種から選ぶの?」
「いいや、子をなすのに同族である必要はないし、親のどちらかの性質を受け継ぐのが一般的だからな」
 そう言えば人間も獣人も純血種はもう殆どいないって言ってたね。
 獣人は恋愛に対して情熱的だから、家格の釣り合いも余り考えずに好きな人を選べるのかな。
 ロクのお嫁さんかぁ……。

「ロクもそろそろ結婚しろって言われないの? もういい年だろう?」
 三十代そこそこなら元の世界では結婚していなくてもおかしくないけど、貴族で親兄弟のいないロクは少しでも早い方が良いだろうに。

「私は一度拐われて、市井に出た男だからな。そのような得体のしれない男、気持ちが悪いだろうよ」
「でも、ロクの血統は疑いようがないし、凄く立派な黒豹だし――」
「慰めてくれているのか?」
「別に、そういう訳じゃない」
 ただ、俺だったらこんなに格好良い黒豹を放っておかないのにって、世のお嬢さん方に物申したいだけだ。

「私を格好良いと思うのは恐らくお前くらいだ」
「えっ、そんな筈無いよ!」
「私は酷く怖がられているからな」

(ロクが怖い? それは、俺も初めて会った時は余りの迫力にびびっちゃったけど……)
 俺は背の高いロクを見上げて口元に手を伸ばす。

「あんたの胸に響く低い声も、天鵞絨みたいな毛並みも、しなやかな身体も……全部、うっとりしちゃうけどな」
「うっとり?」
 スルリと腰を抱き返されて甘ったるい気分になる。

「だって、こんなに綺麗な生き物は見たことがない。俺、食べられちゃいそうでドキドキする。あんたになら食べられても良いって、食べられたいって思っちゃうんだ」
「チヤ……」
 口が合わさってきてピチャピチャと口腔内を舌で掻き回され、俺は一瞬でジンと身体の芯に熱が灯る。
 ロクに食べられる事に慣れ過ぎて、どこもかしこも啜られて舌を挿れられるのに慣れ過ぎて、俺はすっかり堪え性のない身体になってしまった。
 いつだってロクとグチャグチャに溶け合いたいし、甘くて気持ちいい事がしたい。
 ゾッとするような急所への口付けだってロクがしたいならしてくれて構わないし、少しくらい痛い事も恥ずかしい事も我慢できる。
 だってロクは本当に酷い事はしないし、俺が嫌なこともしない。つまりはどんな痴態だって俺が望んでいるって事だ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

処理中です...