【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

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⑮だから黙っていたのに−2(R−18)

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 目を覚ましたら目の前に男前の顔があったので、よじよじとにじり上がって寝ぼけ眼で口を目指す。

「ごはんん……」
「待て、それは飯じゃない」
「やぁ、昨日食べてない……」
「こら、甘い匂いを出してもいいのか?」
 そう言われてはたと二人きりじゃなかった事を思い出す。

「……レオポルトは?」
「少し前に気配が遠ざかったから、顔でも洗いに行ってるんじゃないか」
 それじゃあ残念ながら直ぐに戻ってくるだろう。
 夢中になっている時にでも戻って来られたら困るので、甘い物は諦めた。
 一晩眠ってもやっぱりレオポルトの事は許せないし、正直にいってもう奴を見たくないと思う。
 でも帰れと言っても素直に帰らないだろうし、ロクに訳も言わずに帰してくれと頼んだって駄目だろう。
 だったらなるべく接点のないように、もう隙を見せないように過ごすしかない。
 絶対に一人きりにはならず、あいつと二人にもならないように常にロクと一緒に過ごす。
 俺よりもロクの方がレオポルトの事を警戒していたから、それは簡単なことに思えた。
 でも実際には、ロクが一人でしなくちゃいけない事が度々あって、その度に俺は不安になりながらもどうする事も出来なかった。


「イチヤ、何もしないからここにいろ!」
「そんなの信用できない!」
 危ないから一緒にいろと言われたって、何をされるかわからないのに側になんていられるものか。
 俺は二人きりになるとレオポルトから少しでも離れたくて逃げたし、その度にレオポルトは少し傷付いた顔をして俺を追ってきた。

「触んなっ!」
 腕を掴まれて枯れ葉の上に押し倒される。
 追い掛ける事で興奮するのか、レオポルトはよくフゥフゥと荒い息を吐きながら俺を抱き竦めた。

「やだっ、嫌い! やだっ! やだっ!」
 嫌だ嫌だと言いながら暴れようとするけれど、レオポルトの身体はびくともしない。
 ロクだと嬉しい力強さが、この時は恐怖でしか無い。

「ロク……ロク、助けて……戻ってきて……」
 目に涙を滲ませながら俺がそう言うと、レオポルトの締め付けが益々強くなる。

「あいつを、呼ぶな……」
「だったら離せよっ!」
「逃げないと約束したら離す」
「逃げないから離せ!」
「やっぱり無理だ。せめてこうして触らせろ」
 ふんふんと匂いを嗅がれてぶわっと涙が出てくる。

(嘘つき! 嫌だって言ってるのに勝手に触って、力尽くで自分の好きにして!)
 触るだけならいいだろうって話じゃない。
 それにこいつの事だから、一つ許したらその次も……って言い出すに決まっている。

「止めないと、ロクに言うからなっ!」
 先生に言いつける子供みたいでこれだけは言いたくなかったんだけど、他に牽制する手段がない。
 レオポルトもロクには敵わないようだから効き目があるかと思ったんだけど、レオポルトは逆に冷静に訊いてきた。

「前回は何故、言わなかった? 直ぐに言えば良かっただろう?」
「だって、本当に腕を切るかもしれないし……」
「俺の腕が切られたって、お前が気にする事じゃない」
「気にするよっ! 当たり前だろう!?」
 レオポルトの事は許せないが、だからと言って腕を切られてもいいとまでは思えない。
 勿論、じゃあ黙ってヤられてもいいのかと言えば絶対にそんな事はないんだけど、でも。

「お前の自業自得だって突き放せるほど、割り切れるほど俺はこういう事態に慣れていない。人が傷付く事に免疫がないんだ」
「つまり俺が好きって事か?」
「どうしてそうなるんだよっ!」
 もう本当こいつ嫌だ。話が全く通じない。

「イチヤ、本気で俺から逃げたいなら少しも優しくするな」
(え? なんで俺が窘められてんの?)

「ほんの少しも、一欠片も望みがないように振る舞わなければ俺は諦めない」
(いや、そうしてるつもりだけど? なんで強気?)

「お前が俺の腕の中に収まっている限り、吸って欲しいとばかりに涙を見せる限り俺はお前を諦めない」
(やだよ諦めろよ)

「抱いたらきっとお前は俺を好きになる」
(うん、わかったもういい。ロクに言いつけよう)

「ロクぅぅぅぅ! 犯されるぅぅぅぅ!」
 思いっきり叫んだら、ものっすごいスピードでロクが遠くから駆け付けてきた。

「チヤ!」
 ロクが腰のホルダーからナイフを抜き様に身を捻り、ブンッと巨大な独楽でも回るように身体が翻って俺の上からレオポルトが吹っ飛んだ。

(ぎゃああああ! 血が出てるうぅぅっ!)
 ガタガタと震える俺の前にロクが跪く。

「チヤッ、怪我は無いか!」
「ない、けど……血が、レオポルトから、血が……」
「見た目ほど深くはない。それより見せてみろ」
 プルシアンブルーの瞳が真っ直ぐに俺を見つめてきて、怪我はないか、何処か害されてはいないかと真剣に探っている。それを見ていたら震えが止まった。

「ロク、俺は大丈夫。ありがとう」
「本当に平気か?」
「うん。あんたが助けてくれた」
「間に合って良かった」
 ホッと気を緩めたロクに、俺は昨日あった事を正直に全て話した。
 そうしたらロクは真っ先に俺に謝った。

「気付いてやれなくて、済まなかった」
「……うん」
 俺は大丈夫、あんたの所為じゃないって言いたかったんだけど、グッと顎を引いて頷くのが精一杯だった。
 そしてみっともない事にロクに抱き着いて泣いてしまった。
 泣いてばかりで、頼ってばかりで無力で本当にみっともない。

「レオポルトを殺すか?」
「ううん、いい。でももう会いたくない」
「わかった。少し待っていろ」
 ロクはそっと俺の腕を解くとレオポルトに近付いていき、何事かを囁いた。
 それが何かはわからないけど、その場に置いていってもレオポルトは俺たちを追い掛けて来なかった。

「嫌いじゃなかったんだけどな」
 ポツリと呟いたら頭を撫でられた。

「俺は子供じゃない」
「知ってる。知っているよ」
 フッと小さく笑われて、ああこの男が好きだなぁと思った。
 好きにならない訳がないじゃんと思った。
 でもそれは口に出す事は出来ない想いだった。
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