【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

文字の大きさ
上 下
28 / 194

⑭油断大敵!−1

しおりを挟む
「タンサンスイってなんだ?」
「炭酸水じゃなくて炭酸泉。俺の世界にはよくある温泉って奴だな」
「オンセン?」
 頭の上に?マークをいっぱい浮かべているレオポルトを見て苦笑する。

「つまり、お前の国には聖水が溢れているんだな?」
 ロクに訊かれて俺は慎重に頷いた。

「全く同じものかはわからないけど、ナトリウムとかカリウムとか炭酸ガスが含まれていて、適量を飲むと身体に良いって言われている。俺の国では大体が熱湯だから、それを溜めておいて浸かる習慣がある。腰痛とか冷え性なんかに効くんだよ」
「浸かるのか。贅沢だな」
「温泉――あんたたちの言う聖水が豊富に湧いている国なんだ」
「素晴らしい国だな」
 確かに、温泉が全部聖水だと考えたら凄いよね。

「あ、こっちの世界では温泉で卵を茹でたり野菜を洗ったりもするんだぜ。温泉の流れ込んだ濠に魚が泳いでいるのを見たこともある」
「それは王族に供されるのか?」
「いやいや、普通のおっちゃん・おばちゃんが食べてるよ」
「凄まじく豊かだな」
「んー、かもね」
 この世界にはない甘味も溢れているし、見方によってはとても豊かな国だろう。
 そこに獣人も神霊もいないけれど。

「お前の国でその温泉が湧く理由はなんだ?」
「俺も詳しい仕組みはわからないけれど、地面に染み込んだ雨水が地下に溜まって、それが温められて地表に噴き出してくるんだって。蓄えられた水にはミネラルが溶け込んでいるから、人には薬になったり毒になったりする」
 物凄くざっくりと適当な説明をした。
 だって突っ込まれても俺には答えられないしね。

「つまり、長い年月を掛けて地下に蓄えられた水。自然物なんだな?」
「うん。呪術とか神秘の力とかじゃない」
「そうか。では私たちの参考にもならないな」
 落胆するロクに待ったを掛ける。

「いや、そうとばかりも言えない。俺が飲んだ時、ちょっとだけ甘味を感じたんだ。ロクも飲んでみてよ」
 俺が手で水を掬って差し出したら、猫のようにべろりと舌を出して舐めた。
 ちょっと可愛いと思ったのは内緒だ。

「む……。確かに少し甘いな」
「俺もっ! 俺にも飲ませて!」
 シャキッと手を上げたレオポルトを軽く睨む。

「あんたは今まで何処にいたんだ? 話が難しすぎて電源を切っていたの? どうせならその便利なスイッチをずっと切ってなよ」
「イチヤ、早く早く!」
 全く人の話を聞かないレオポルトに溜め息を吐いてから聖水を飲ませた。
 レオポルトは甘い甘いと大はしゃぎをして、ついでに俺の手をベロベロと舐めた。
 それを見たロクがレオポルトに詰め寄る。

「レオポルト、腕を切り落とされたいのか?」
「聖水を舐めただけだって!」
 凄んだロクの前でレオポルトがキュンキュンと頭を縮めた。
 どうやら地位と権力を抜きにしても、レオポルトはロクに敵わないようだ。

「じゃあ今度は自分たちの手で掬って飲んでみて」
 二人が俺の指示に従って飲んでみたが甘くないと言う。

「ん~、やっぱり俺からこう何かエキスが出てるって事?」
「そうだな。聖水が変化したのではなく、単にお前から移っただけだろう」
 それでは大量に確保出来ないので意味がない。

「ところで、温泉についてはモリスに報告しても構わないのか?」
「え、全然構わないけど?」
 わざわざ断る必要なんて無いのに、と思ったら小さく笑われた。

「聖水が湧く謎を解き明かしたのは結構な大事なんだが、全くわかっていないな」
「解き明かしたって程では……」
「少なくとも呪術ではない、単なる自然現象だと判明した事は大きい」
「そうかな?」
「そうとも」
 ロクの宝石みたいな目で見つめられて俺は少し恥ずかしい。

「あのさぁ、ここが空振りだった時のことって考えて無かったんだけど……」
「まずはレオポルトを帰す。それから侯爵領に行って――」
「え? まだ調査は終わってないじゃないか。本命はハヌマーンだろう?」
「ハヌマーン?」
 レオポルトの言葉にロクの顔を見上げたら、見事なポーカーフェイスで黙り込んだので騙されるところだったと気付いた。

「ロク、聖なる泉は最初からフェイクだね?」
「フェイクではない。伝説は本当だし、聖水も湧いていただろう」
「でも危険だって言ってたのに、ここはちっとも危険じゃなかった」
「そんな事は――」
「なぁなぁ、早くハヌマーンを探しに行こう」
 ちっとも空気を読まないレオポルトが無邪気にそう言った。
 今はKY大歓迎だぜ。

「ロク、レオポルトもいる今がチャンスじゃん。城の警備をしているくらいだから強いんだろ?」
「……こいつは一つの命令しか聞けないぞ」
「十分だよ」
 きっとGoだけ聞けて、Stopが効かないんだろうけどそこはまぁこっちで何とか考えるしかない。
 駄目なら逃げてしまえばいい。

「……ハヌマーンの正体は本体が死んでも残った神霊とか、凶暴化した大猿だとか言われているが誰も確かめた者はいない。ただ大猿は不死の薬を持っていて、薬を振る舞われた人の話が幾つか残っている」
「不死の薬ねぇ……」
 もしもそんなものが本当にあるなら、俺よりももっと貴重だし味も気になる。

「ただしハヌマーンは邪悪で、大概の人は出会ったら屠られて餌になってしまう」
「え、食べるの?」
 流石に食人は想定していなかった。
 俺は一気に腰が引けてしまう。

「多分、柔らかくて美味そうなお前が真っ先に狙われるな」
「ヒィィィ! 俺に硬くて棘の付いた鎧を下さい!」
「馬鹿者。そんなものを身に着けたら動けないだろう」
 わかってるよ、言ってみただけだもん。
 鋼の鎧なんて付けたら重量で俺は動けなくなる。

「それでも行くか?」
「うぅぅ、行く」
 きっと逃げていたってネクタルなんて見つからない。
 だったら怖いけど行ってみるしかない。

「イチヤのことは俺が守るからなっ!」
 レオポルトのわかりやすいアピールに俺は思わず笑ってしまった。
 最初は吃驚したけれど、裏がないってのはある意味で楽だし付き合いやすい。
 きっといい友達にならなれると思うんだけど、それには食欲と性欲がネックなんだよね。

「チヤ、余り獣人を甘く見ない方が良いぞ」
 俺の心を見透かしたようなロクの忠告に肝が冷える。
 甘く見てるつもりはないけれど。

「いつまでも構えてんのとか、苦手なんだよ」
 確かに前は敵だった。
 でも今は違う。違うんじゃないかって思いたい。

「お前のそういう所が心配だ」
「……」
 何故だろう。俺はその言葉に傷付いていた。
 心配だと言いつつ責められているような気がしたからだろうか。
 それともロクにガッカリされたからだろうか。

「平気だよ」
 結局そんな風にしか言えなくて、俺はロクから逃げるようにレオポルトのところへ行った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

処理中です...