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⑬悪い男ほど魅力的で−2
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「随分と時間がかかったなっ!」
「そうか? いつもと変わらないが」
「このっ!」
ロクに抗議を聞き流されて悔しそうな顔をするレオポルトに、俺は割りと真面目に言い聞かせる。
「あのさ、俺と付き合うってこういう事だよ? 俺は体力がないし、色々と面倒臭いし、常識だって習慣だってあんたたちとは大きく違う。そりゃあそんなの全部無視して甘いのだけ持っていけばいいじゃんって思うかもしれない。或いは薬でも飲ませてずっと寝かせとけばいいじゃんって思うかもしれない。でもさ、それじゃあ俺はこんな風にならなかったと思うんだ。誰かの為の食べ物みたいな、こんな身体にはならなかったよ」
「……そうか?」
「そうだよ」
レオポルトに話しかける体で自分に言われていると気付いたロクが応じ、俺は力強く頷いた。
「何の事を言っているんだ?」
レオポルトには全く話が通じていなかった。
なので俺は改めて平たく言い直した。
「ロクにたぁ~っぷり可愛がられてプリプリになった! 美味しく食べてくれてありがとう!」
「畜生!」
床に突っ伏して泣いたレオポルトが面白い。
こいつはこいつで嫌いじゃない。
「チヤ、そいつに構っていないで出掛けよう」
「わかった!」
朝寝をして元気いっぱいの俺は足取りも軽い。
ロクとレオポルトと三人で目的の森へと向かった。
「こういうジメついた森にはいい思い出が無いんだよな……」
爆弾魔に追い掛けられているかもと思いながら森を駆け抜けたのは(俺は背負われていただけだけど)ついこの間の事だ。
「あ、そう言えば不法侵入者の正体ってわかったの?」
捕まったという話は聞いていないが、正体くらいは掴んでいるかもしれないと思って訊ねてみた。
「ヨカナーンの話では、反乱組織の一つだと言っていた」
「反乱組織……」
「この国の王族は獣人だし、要職も獣人で占められている。人間に対する表立った差別はないが、それでも不満を抱く人間は多い」
「つまり、人間の組織なんだ?」
「同調したり不遇な立場にある獣人も含まれるが、主要メンバーは人間だな。獣人よりも人間の方が呪術に長けているし、爆発物も彼らの仕業だろう」
「人間は卑怯なんだよ」
ケッと吐き捨てるようにレオポルトが言ったので、俺は首を傾げながら訊ねる。
「種族による特性はあるにしても、卑怯は関係ないだろ?」
「いいや、獣人ならば呪術になど頼らない」
「そうかな?」
前に俺に絡んできた三人組は、酒に指を漬けているのを見てマジナイかと言った。
その様子からも特に禁忌を感じているようには見えなかった。
「レオポルト、獣人よりも人間の方が呪術が得意だというだけだ。勇気があるから頼らないのではない」
「だよね。使えたら別に使うと思うよ」
大体、正攻法しか使わない奴が宮廷で生き残れるとも思えないし。
「俺は使わない!」
「それはレオポルトの意見であって、獣人全体の意見じゃないでしょう?」
だって俺を飲むのだってドーピングだよ?
俺を飲んだら鍛えなくてもムキムキの身体になれる、と言われて断る獣人がさてどのくらいいるのかな?
「獣人は……使わない」
むっつりと口をへの字に曲げたレオポルトを見て苦笑する。
レオポルトはちょっとばかり頭が硬くて思い込みが激しくて頑固だな。
「俺が甘いのも呪術だったらどうするんだよ?」
他に甘い人間なんていないし、マジナイが掛かっていると思った方が理解しやすい。
「それは……イチヤは違う。きっと元から甘いんだ」
「いやいや、そんな人間はいないから。俺が甘くなったのはこの世界に召喚されてからだからね?」
「本当に呪術なのか?」
「わからない。呪術師がいたら一度見て貰うのも良いかもね」
「ならそれまでは呪術じゃない。イチヤはイチヤだから甘いんだ」
ハハハ、もうなんでも良いや。
俺が苦笑していたらそれまで知らんぷりをしていたロクが割って入ってきた。
「恐らく、呪術師が見た所でわからないだろう。聖なる泉の謎を解き明かしていないのだからな」
「聖なる泉?」
俺が聞き返したら、ロクが洞窟の入り口を指し示して言った。
「この洞窟の奥に泉が湧いている。元は万病を治すエリクサーが湧いていたのだが、独り占めをしようとした領主の悪しき行いによってただの聖水になってしまったという言い伝えがある」
「ただの聖水?」
「ちょっとした身体の不調や疲れに効く水だが、それが自然と湧いている事も十分に不思議だからな。色々な学者や呪術師が原因を解き明かそうとしたが、未だに聖水が湧く理由はわかっていない」
「へぇ……」
っていうか、聖水なんてものがあるのも初耳だよ。
俺はロクにこっそりと聖水と俺ならどちらが効くかと訊いてみた。
「間違いなくお前だ」
「そっか」
だとしてもその聖水には興味がある。
「それって甘いの?」
「いいや、ただの水だな」
「聖水をただの水って言うなよ」
「獣人には胃薬程度にしか効かない」
わぁお、頑強な種族だから聖水も胃薬レベルなのか。
だとしたら獣人に効く俺って本当に強いんだな、と変に感心してしまった。
そして薄暗い洞窟をテクテクと歩いていき、辿り着いた泉を見てちょっとだけガッカリとする。
見た感じは何の変哲もない湧き水だったからだ。
「誰も管理していないんだね」
「人の手が入ったら効能が消えると言われている」
「言い伝えも悪くないね」
そう言って、俺は泉に手を付けて透き通った水を掬い上げた。
冷たくてよく澄んだ水はそのまま飲んでも問題が無さそうだった。
俺は手に掬った水に唇を付け、ゴクゴクと飲み干してみた。
「……甘い」
「え?」
「ちょっと甘い、炭酸泉って感じ」
それは俺には懐かしい温泉の味がした。
「そうか? いつもと変わらないが」
「このっ!」
ロクに抗議を聞き流されて悔しそうな顔をするレオポルトに、俺は割りと真面目に言い聞かせる。
「あのさ、俺と付き合うってこういう事だよ? 俺は体力がないし、色々と面倒臭いし、常識だって習慣だってあんたたちとは大きく違う。そりゃあそんなの全部無視して甘いのだけ持っていけばいいじゃんって思うかもしれない。或いは薬でも飲ませてずっと寝かせとけばいいじゃんって思うかもしれない。でもさ、それじゃあ俺はこんな風にならなかったと思うんだ。誰かの為の食べ物みたいな、こんな身体にはならなかったよ」
「……そうか?」
「そうだよ」
レオポルトに話しかける体で自分に言われていると気付いたロクが応じ、俺は力強く頷いた。
「何の事を言っているんだ?」
レオポルトには全く話が通じていなかった。
なので俺は改めて平たく言い直した。
「ロクにたぁ~っぷり可愛がられてプリプリになった! 美味しく食べてくれてありがとう!」
「畜生!」
床に突っ伏して泣いたレオポルトが面白い。
こいつはこいつで嫌いじゃない。
「チヤ、そいつに構っていないで出掛けよう」
「わかった!」
朝寝をして元気いっぱいの俺は足取りも軽い。
ロクとレオポルトと三人で目的の森へと向かった。
「こういうジメついた森にはいい思い出が無いんだよな……」
爆弾魔に追い掛けられているかもと思いながら森を駆け抜けたのは(俺は背負われていただけだけど)ついこの間の事だ。
「あ、そう言えば不法侵入者の正体ってわかったの?」
捕まったという話は聞いていないが、正体くらいは掴んでいるかもしれないと思って訊ねてみた。
「ヨカナーンの話では、反乱組織の一つだと言っていた」
「反乱組織……」
「この国の王族は獣人だし、要職も獣人で占められている。人間に対する表立った差別はないが、それでも不満を抱く人間は多い」
「つまり、人間の組織なんだ?」
「同調したり不遇な立場にある獣人も含まれるが、主要メンバーは人間だな。獣人よりも人間の方が呪術に長けているし、爆発物も彼らの仕業だろう」
「人間は卑怯なんだよ」
ケッと吐き捨てるようにレオポルトが言ったので、俺は首を傾げながら訊ねる。
「種族による特性はあるにしても、卑怯は関係ないだろ?」
「いいや、獣人ならば呪術になど頼らない」
「そうかな?」
前に俺に絡んできた三人組は、酒に指を漬けているのを見てマジナイかと言った。
その様子からも特に禁忌を感じているようには見えなかった。
「レオポルト、獣人よりも人間の方が呪術が得意だというだけだ。勇気があるから頼らないのではない」
「だよね。使えたら別に使うと思うよ」
大体、正攻法しか使わない奴が宮廷で生き残れるとも思えないし。
「俺は使わない!」
「それはレオポルトの意見であって、獣人全体の意見じゃないでしょう?」
だって俺を飲むのだってドーピングだよ?
俺を飲んだら鍛えなくてもムキムキの身体になれる、と言われて断る獣人がさてどのくらいいるのかな?
「獣人は……使わない」
むっつりと口をへの字に曲げたレオポルトを見て苦笑する。
レオポルトはちょっとばかり頭が硬くて思い込みが激しくて頑固だな。
「俺が甘いのも呪術だったらどうするんだよ?」
他に甘い人間なんていないし、マジナイが掛かっていると思った方が理解しやすい。
「それは……イチヤは違う。きっと元から甘いんだ」
「いやいや、そんな人間はいないから。俺が甘くなったのはこの世界に召喚されてからだからね?」
「本当に呪術なのか?」
「わからない。呪術師がいたら一度見て貰うのも良いかもね」
「ならそれまでは呪術じゃない。イチヤはイチヤだから甘いんだ」
ハハハ、もうなんでも良いや。
俺が苦笑していたらそれまで知らんぷりをしていたロクが割って入ってきた。
「恐らく、呪術師が見た所でわからないだろう。聖なる泉の謎を解き明かしていないのだからな」
「聖なる泉?」
俺が聞き返したら、ロクが洞窟の入り口を指し示して言った。
「この洞窟の奥に泉が湧いている。元は万病を治すエリクサーが湧いていたのだが、独り占めをしようとした領主の悪しき行いによってただの聖水になってしまったという言い伝えがある」
「ただの聖水?」
「ちょっとした身体の不調や疲れに効く水だが、それが自然と湧いている事も十分に不思議だからな。色々な学者や呪術師が原因を解き明かそうとしたが、未だに聖水が湧く理由はわかっていない」
「へぇ……」
っていうか、聖水なんてものがあるのも初耳だよ。
俺はロクにこっそりと聖水と俺ならどちらが効くかと訊いてみた。
「間違いなくお前だ」
「そっか」
だとしてもその聖水には興味がある。
「それって甘いの?」
「いいや、ただの水だな」
「聖水をただの水って言うなよ」
「獣人には胃薬程度にしか効かない」
わぁお、頑強な種族だから聖水も胃薬レベルなのか。
だとしたら獣人に効く俺って本当に強いんだな、と変に感心してしまった。
そして薄暗い洞窟をテクテクと歩いていき、辿り着いた泉を見てちょっとだけガッカリとする。
見た感じは何の変哲もない湧き水だったからだ。
「誰も管理していないんだね」
「人の手が入ったら効能が消えると言われている」
「言い伝えも悪くないね」
そう言って、俺は泉に手を付けて透き通った水を掬い上げた。
冷たくてよく澄んだ水はそのまま飲んでも問題が無さそうだった。
俺は手に掬った水に唇を付け、ゴクゴクと飲み干してみた。
「……甘い」
「え?」
「ちょっと甘い、炭酸泉って感じ」
それは俺には懐かしい温泉の味がした。
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