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⑥酩酊する−2(R−15)
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「何故、私の名を呼ばないっ!」
大砲を打ち上げたような声で吠えられて俺は泣きながら叫び返した。
「だって来てくれないと思った! 俺の酒なんて嫌だって言った!」
「そうは言ってない! 甘い酒など造る必要はないと言ったんだ!」
「そんなこと言ってないだろっ! 俺が確かめるって……好きにすれば良いって、関係ないって言ったァァァ」
わ~んと子供のように泣いたらロクが焦って俺を腕の中に抱いた。
「チヤ、泣くな! こいつらを片付けるからちょっと待て!」
ロクは残りの二人もぽいぽいと階段から落とし、そんな事をしたら死んじゃうんじゃないかと心配する俺にこのくらいじゃ死なないとおざなりに答えた。
(そうか。こいつらは二階から落としたくらいじゃ死なないんだな。覚えておこう)
俺は酔った頭でそう思い、ロクに抱き上げられて暴れた。
「俺は悪くないっ! あんたに怒られるからや――」
「怒らないから、頼むからお前を仕舞わせろ」
「ふぁっ?」
「これ以上、お前を人目に曝したくない。早く隠したい」
「……」
大事にしたくないって意味だろうか?
俺はよくわからないけど、また迷惑を掛けているんだと思ったら急に気弱になってしまって大人しくロクの胸に額を押し付けた。
「……ごめんなさい」
「お前は本当に、急にしおらしくなるな」
ロクがキュッと俺を小さく丸めるように抱き締め、そのまま部屋へ戻ってベッドの上に座り、俺を特大ダンゴムシでも撫でるように丸く擦った。
暫く経って、俺は申し開きをしなくちゃと思って口を開いた。
「ロクの、為の酒を……飲まれたの」
「ああ」
「あんたは甘いの嫌いだから、あれば罰ゲームなの」
「おう」
「飲んだら……きっと嫌いって言うね?」
俺のことが嫌いだろう? と訊いたら嫌いじゃないと答えた。
勿論、ロクならそう答えると思った。
「嫌いなのは、知ってる。我慢させてるのも、知ってる。でも俺は……それでも、俺は」
「わかってる。お前が甘いのを欲しがるのは他に代わりがないからだ。私から欲しがるのは、私なら安全だと思っているからだ。わかってる」
(ん? ロクの言うことは正しいようでいて、ちょっと違う気がする。何がと訊かれたら答えられないけど、でも違う――違うんだ)
「ロク……我慢して、我慢しないで。俺を嫌いって言っていいけど、溜め息を吐いて傷付けないで……」
支離滅裂な俺の言葉をロクは根気よく聞き、それから鼻先をちょんと付けて口を開いた。
「溜め息は吐かない。嫌いとも言わない」
「……我慢は?」
「少しだけ、する」
よくわからなかったけど、少しで済むなら甘えても良いんだろうか?
俺はキスを強請っても良いんだろうか?
「ロク、甘いの……」
「口を開けろ」
ニュルッと舌が入ってきて、俺は目を瞑って両腕をロクの首に回した。
太くて逞しい首が頼もしい。どれだけ縋り付いてもこの首は折れない。
俺はロク自身の味がする、と思いながら舌を味わった。
ザラザラしてちょっと痛いから、唾液をいっぱい絡めて甘くする。
年代物のお酒のように、甘い葡萄から作られたお酒のように。
「チヤ……これがお前の世界の酒の味か?」
「……そう」
「悪くない」
「それだけ?」
俺が不満そうに鼻を鳴らしたら、微かに笑ったロクが耳元で『美味い』と囁いた。
俺は初めて貰った言葉にうっとりと微笑んで首を傾ける。
「もっと飲んでよ」
「酔っ払うぞ」
「酒は酔う為に飲むものだろ?」
「お前は懲りないな。酔った男は怖いんだぞ」
「ロクなら平気」
そう、ロクなら酔って理性の箍を外したって平気。
だって何をされたって嬉しいんだもん。
「お前は私を信頼しすぎだ」
困ったように笑うロクの言葉に反論したい。
そうじゃない。信頼とかじゃなくて、あんたなら良いって思ってるの。
でも上手く言えそうもないから、代わりに自分からロクの牙の間に舌を差し込む。
小さくて柔らかな俺の舌なんてロクはいつでも噛み千切れるけど、あんたはそうしない。
啜って、舌を擦り合わせて、美味しそうにしゃぶる。
まるで本当にしたくてしているみたいに。
「チヤ……もう少しだけ」
深いブルーの瞳に見つめられて魔法にかかったように頷く。
なんだって好きにすれば良い。
俺はあんたにされる事なら全部気持ちいいんだから。
「いい子だ」
ロクの深い声が身体に響いてジンと痺れた。
酒よりも酩酊する、と思いながらロクの口付けに酔いしれた。
大砲を打ち上げたような声で吠えられて俺は泣きながら叫び返した。
「だって来てくれないと思った! 俺の酒なんて嫌だって言った!」
「そうは言ってない! 甘い酒など造る必要はないと言ったんだ!」
「そんなこと言ってないだろっ! 俺が確かめるって……好きにすれば良いって、関係ないって言ったァァァ」
わ~んと子供のように泣いたらロクが焦って俺を腕の中に抱いた。
「チヤ、泣くな! こいつらを片付けるからちょっと待て!」
ロクは残りの二人もぽいぽいと階段から落とし、そんな事をしたら死んじゃうんじゃないかと心配する俺にこのくらいじゃ死なないとおざなりに答えた。
(そうか。こいつらは二階から落としたくらいじゃ死なないんだな。覚えておこう)
俺は酔った頭でそう思い、ロクに抱き上げられて暴れた。
「俺は悪くないっ! あんたに怒られるからや――」
「怒らないから、頼むからお前を仕舞わせろ」
「ふぁっ?」
「これ以上、お前を人目に曝したくない。早く隠したい」
「……」
大事にしたくないって意味だろうか?
俺はよくわからないけど、また迷惑を掛けているんだと思ったら急に気弱になってしまって大人しくロクの胸に額を押し付けた。
「……ごめんなさい」
「お前は本当に、急にしおらしくなるな」
ロクがキュッと俺を小さく丸めるように抱き締め、そのまま部屋へ戻ってベッドの上に座り、俺を特大ダンゴムシでも撫でるように丸く擦った。
暫く経って、俺は申し開きをしなくちゃと思って口を開いた。
「ロクの、為の酒を……飲まれたの」
「ああ」
「あんたは甘いの嫌いだから、あれば罰ゲームなの」
「おう」
「飲んだら……きっと嫌いって言うね?」
俺のことが嫌いだろう? と訊いたら嫌いじゃないと答えた。
勿論、ロクならそう答えると思った。
「嫌いなのは、知ってる。我慢させてるのも、知ってる。でも俺は……それでも、俺は」
「わかってる。お前が甘いのを欲しがるのは他に代わりがないからだ。私から欲しがるのは、私なら安全だと思っているからだ。わかってる」
(ん? ロクの言うことは正しいようでいて、ちょっと違う気がする。何がと訊かれたら答えられないけど、でも違う――違うんだ)
「ロク……我慢して、我慢しないで。俺を嫌いって言っていいけど、溜め息を吐いて傷付けないで……」
支離滅裂な俺の言葉をロクは根気よく聞き、それから鼻先をちょんと付けて口を開いた。
「溜め息は吐かない。嫌いとも言わない」
「……我慢は?」
「少しだけ、する」
よくわからなかったけど、少しで済むなら甘えても良いんだろうか?
俺はキスを強請っても良いんだろうか?
「ロク、甘いの……」
「口を開けろ」
ニュルッと舌が入ってきて、俺は目を瞑って両腕をロクの首に回した。
太くて逞しい首が頼もしい。どれだけ縋り付いてもこの首は折れない。
俺はロク自身の味がする、と思いながら舌を味わった。
ザラザラしてちょっと痛いから、唾液をいっぱい絡めて甘くする。
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「チヤ……これがお前の世界の酒の味か?」
「……そう」
「悪くない」
「それだけ?」
俺が不満そうに鼻を鳴らしたら、微かに笑ったロクが耳元で『美味い』と囁いた。
俺は初めて貰った言葉にうっとりと微笑んで首を傾ける。
「もっと飲んでよ」
「酔っ払うぞ」
「酒は酔う為に飲むものだろ?」
「お前は懲りないな。酔った男は怖いんだぞ」
「ロクなら平気」
そう、ロクなら酔って理性の箍を外したって平気。
だって何をされたって嬉しいんだもん。
「お前は私を信頼しすぎだ」
困ったように笑うロクの言葉に反論したい。
そうじゃない。信頼とかじゃなくて、あんたなら良いって思ってるの。
でも上手く言えそうもないから、代わりに自分からロクの牙の間に舌を差し込む。
小さくて柔らかな俺の舌なんてロクはいつでも噛み千切れるけど、あんたはそうしない。
啜って、舌を擦り合わせて、美味しそうにしゃぶる。
まるで本当にしたくてしているみたいに。
「チヤ……もう少しだけ」
深いブルーの瞳に見つめられて魔法にかかったように頷く。
なんだって好きにすれば良い。
俺はあんたにされる事なら全部気持ちいいんだから。
「いい子だ」
ロクの深い声が身体に響いてジンと痺れた。
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