【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

文字の大きさ
上 下
9 / 194

④お詫びのキス−2

しおりを挟む
「ンー、すげーザワザワ言ってる」
「それはザワザワ麦だからな」
 ロクは当たり前のようにそう言ったけれど、一面の麦畑がまるで喋っているようにザワザワと呟いている様子は不気味の一言に尽きた。
 しかも聞き分けようと耳を澄ませても明瞭な言葉は聞き取れない。
 麦はただザワザワ言ってるだけだった。

「なぁ、あんたたちはこれを収穫して食べるのか?」
「お前も食べただろう?」
「そっか……」
 加工されてしまえば普通の麦と変わりない。
 俺がこの世界にきてから口にしたものはこういうものばかりなんだろう。

「これって収穫される時に抵抗したりする?」
「麦はしないな。ざわめきが大きくなるくらいだ」
「じゃあ、収穫方法で味が変わったりする?」
「どういう意味だ?」
「つまり、水に漬けたり時間を掛けずに収穫したりして、余りざわつかないように収穫した時とは味が違うのかなと思って」
「チヤはおかしな事を考えるんだな。そんな事は誰も試した事がないと思うが」
「じゃあ試して貰おう」
 俺の世界でも育て方や収穫方法によって味が変わるという話を聞いたことがある。
 こっちの動物っぽい植物なら、更に影響を受けそうな気がする。

「試すのはザワザワ麦だけで良いのか?」
「他に収穫出来るものってあるの?」
「確か弾け豆もそろそろ収穫時期だったと思うが」
「ならそれも袋を被せて貰ってみよう」
 俺は農家の人に頼んで少しだけ収穫方法を変えて採ってもらった。
 勿論、ロクにお礼として十分な金を出させた。
 そうして実験してみた結果、採れたものは全て味が違った。

「ほぅ……面倒だが、この方が美味いな」
 出された豆をガリガリと噛み砕きながらロクが言った。
 袋を被せて収穫した豆は味が濃いのだと言う。

「かたっ、硬くて噛めねぇよ!」
「後で粉にして貰え」
 俺は口の中から豆を取り上げられて顎を擦った。
 そりゃあキスはしたけど、指をいきなり口の中に突っ込むのってどうなの?
 まるで拾い食いをした犬の口から取り上げるような無造作な仕草だったけどさ。

「モリスに詳細を書いて送る。細かい事はあっちで試して貰えばいい」
「そうだね。これだけで甘くなるって事は無さそうだ」
 採取方法で味は変わるけど、甘くなるって事は無いみたいだ。
 多分、元々甘味成分が含まれていないからだろう。

「もう少し、畑を見て回ってもいい? ザワザワ麦と弾け豆以外にも栽培してるんだろ?」
「それは構わないが、その格好では汚れるぞ」
「そうか?」
 俺は自分の格好を見下ろしてみた。
 単なるシャツとズボンだけど、獣人が着ているのとは違い柔らかくて薄い生地で作られている。
 それは俺には毛皮がなくて、彼らと同じ素材では肌が擦れて赤くなってしまうからだ。

「麦畑に入っただけで、もう破れてる」
 ロクに肘を取られて初めて二の腕あたりにかぎ裂きを作っている事に気付いた。

「うわ、まさか俺って植物よりも弱いんじゃ……」
 げんなりとしていたらロクのマントで包まれて抱き上げられた。

「ちょ、おいっ!」
「装備を見直してからもう一度来よう」
「装備って……」
 俺は別に植物と戦っている訳じゃないんだけど。

「お前に傷を付けたく無いんだ」
「……わかったよ」
 多分、ロクは俺がレオポルトに怪我をさせられた事を気にしているんだろう。
 付けられた傷は粘着シートみたいなもので貼り合わせていたら直ぐに塞がったけど、毛が無い俺は彼らよりも簡単に深い傷が付く。
 ロクが卵を守るくらいに気を遣ったって仕方がない。

「平気なんだけどなぁ……」
 俺は少しくらい怪我をしても平気なんだけど、でもそれは俺の常識に過ぎない。
 紙装甲の俺は呆気なく死んでしまうかもしれない。
 だからロクの言うことを聞き、彼に守られておく。
 平気なんだけどと思いつつ、その言葉は呑み込む。

(壊れ物みたいに扱われるのは嫌だし悲しいんだけど……)

「チヤ?」
「……あんたの言う通りにする」
 キュッと抱き着いたら頭をポンポンと叩かれた。
 やっぱり子供扱いをされている気がする。

(でもその方が良い。そうしたら俺も欲情しないで済む)
 俺はこいつをそういう事には巻き込みたくなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

【完結】俺はずっと、おまえのお嫁さんになりたかったんだ。

ペガサスサクラ
BL
※あらすじ、後半の内容にやや二章のネタバレを含みます。 幼なじみの悠也に、恋心を抱くことに罪悪感を持ち続ける楓。 逃げるように東京の大学に行き、田舎故郷に二度と帰るつもりもなかったが、大学三年の夏休みに母親からの電話をきっかけに帰省することになる。 見慣れた駅のホームには、悠也が待っていた。あの頃と変わらない無邪気な笑顔のままー。 何年もずっと連絡をとらずにいた自分を笑って許す悠也に、楓は戸惑いながらも、そばにいたい、という気持ちを抑えられず一緒に過ごすようになる。もう少し今だけ、この夏が終わったら今度こそ悠也のもとを去るのだと言い聞かせながら。 しかしある夜、悠也が、「ずっと親友だ」と自分に無邪気に伝えてくることに耐えきれなくなった楓は…。 お互いを大切に思いながらも、「すき」の色が違うこととうまく向き合えない、不器用な少年二人の物語。 主人公楓目線の、片思いBL。 プラトニックラブ。 いいね、感想大変励みになっています!読んでくださって本当にありがとうございます。 2024.11.27 無事本編完結しました。感謝。 最終章投稿後、第四章 3.5話を追記しています。 (この回は箸休めのようなものなので、読まなくても次の章に差し支えはないです。) 番外編は、2人の高校時代のお話。

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

光る穴に落ちたら、そこは異世界でした。

みぃ
BL
自宅マンションへ帰る途中の道に淡い光を見つけ、なに? と確かめるために近づいてみると気付けば落ちていて、ぽん、と異世界に放り出された大学生が、年下の騎士に拾われる話。 生活脳力のある主人公が、生活能力のない年下騎士の抜けてるとこや、美しく格好いいのにかわいいってなんだ!? とギャップにもだえながら、ゆるく仲良く暮らしていきます。 何もかも、ふわふわゆるゆる。ですが、描写はなくても主人公は受け、騎士は攻めです。

家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。 何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。 仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。 思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。 みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。 ※完結しました!ありがとうございました!

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい

空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。 孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。 竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。 火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜? いやいや、ないでしょ……。 【お知らせ】2018/2/27 完結しました。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

処理中です...