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④お詫びのキス−2
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「ンー、すげーザワザワ言ってる」
「それはザワザワ麦だからな」
ロクは当たり前のようにそう言ったけれど、一面の麦畑がまるで喋っているようにザワザワと呟いている様子は不気味の一言に尽きた。
しかも聞き分けようと耳を澄ませても明瞭な言葉は聞き取れない。
麦はただザワザワ言ってるだけだった。
「なぁ、あんたたちはこれを収穫して食べるのか?」
「お前も食べただろう?」
「そっか……」
加工されてしまえば普通の麦と変わりない。
俺がこの世界にきてから口にしたものはこういうものばかりなんだろう。
「これって収穫される時に抵抗したりする?」
「麦はしないな。ざわめきが大きくなるくらいだ」
「じゃあ、収穫方法で味が変わったりする?」
「どういう意味だ?」
「つまり、水に漬けたり時間を掛けずに収穫したりして、余りざわつかないように収穫した時とは味が違うのかなと思って」
「チヤはおかしな事を考えるんだな。そんな事は誰も試した事がないと思うが」
「じゃあ試して貰おう」
俺の世界でも育て方や収穫方法によって味が変わるという話を聞いたことがある。
こっちの動物っぽい植物なら、更に影響を受けそうな気がする。
「試すのはザワザワ麦だけで良いのか?」
「他に収穫出来るものってあるの?」
「確か弾け豆もそろそろ収穫時期だったと思うが」
「ならそれも袋を被せて貰ってみよう」
俺は農家の人に頼んで少しだけ収穫方法を変えて採ってもらった。
勿論、ロクにお礼として十分な金を出させた。
そうして実験してみた結果、採れたものは全て味が違った。
「ほぅ……面倒だが、この方が美味いな」
出された豆をガリガリと噛み砕きながらロクが言った。
袋を被せて収穫した豆は味が濃いのだと言う。
「かたっ、硬くて噛めねぇよ!」
「後で粉にして貰え」
俺は口の中から豆を取り上げられて顎を擦った。
そりゃあキスはしたけど、指をいきなり口の中に突っ込むのってどうなの?
まるで拾い食いをした犬の口から取り上げるような無造作な仕草だったけどさ。
「モリスに詳細を書いて送る。細かい事はあっちで試して貰えばいい」
「そうだね。これだけで甘くなるって事は無さそうだ」
採取方法で味は変わるけど、甘くなるって事は無いみたいだ。
多分、元々甘味成分が含まれていないからだろう。
「もう少し、畑を見て回ってもいい? ザワザワ麦と弾け豆以外にも栽培してるんだろ?」
「それは構わないが、その格好では汚れるぞ」
「そうか?」
俺は自分の格好を見下ろしてみた。
単なるシャツとズボンだけど、獣人が着ているのとは違い柔らかくて薄い生地で作られている。
それは俺には毛皮がなくて、彼らと同じ素材では肌が擦れて赤くなってしまうからだ。
「麦畑に入っただけで、もう破れてる」
ロクに肘を取られて初めて二の腕あたりにかぎ裂きを作っている事に気付いた。
「うわ、まさか俺って植物よりも弱いんじゃ……」
げんなりとしていたらロクのマントで包まれて抱き上げられた。
「ちょ、おいっ!」
「装備を見直してからもう一度来よう」
「装備って……」
俺は別に植物と戦っている訳じゃないんだけど。
「お前に傷を付けたく無いんだ」
「……わかったよ」
多分、ロクは俺がレオポルトに怪我をさせられた事を気にしているんだろう。
付けられた傷は粘着シートみたいなもので貼り合わせていたら直ぐに塞がったけど、毛が無い俺は彼らよりも簡単に深い傷が付く。
ロクが卵を守るくらいに気を遣ったって仕方がない。
「平気なんだけどなぁ……」
俺は少しくらい怪我をしても平気なんだけど、でもそれは俺の常識に過ぎない。
紙装甲の俺は呆気なく死んでしまうかもしれない。
だからロクの言うことを聞き、彼に守られておく。
平気なんだけどと思いつつ、その言葉は呑み込む。
(壊れ物みたいに扱われるのは嫌だし悲しいんだけど……)
「チヤ?」
「……あんたの言う通りにする」
キュッと抱き着いたら頭をポンポンと叩かれた。
やっぱり子供扱いをされている気がする。
(でもその方が良い。そうしたら俺も欲情しないで済む)
俺はこいつをそういう事には巻き込みたくなかった。
「それはザワザワ麦だからな」
ロクは当たり前のようにそう言ったけれど、一面の麦畑がまるで喋っているようにザワザワと呟いている様子は不気味の一言に尽きた。
しかも聞き分けようと耳を澄ませても明瞭な言葉は聞き取れない。
麦はただザワザワ言ってるだけだった。
「なぁ、あんたたちはこれを収穫して食べるのか?」
「お前も食べただろう?」
「そっか……」
加工されてしまえば普通の麦と変わりない。
俺がこの世界にきてから口にしたものはこういうものばかりなんだろう。
「これって収穫される時に抵抗したりする?」
「麦はしないな。ざわめきが大きくなるくらいだ」
「じゃあ、収穫方法で味が変わったりする?」
「どういう意味だ?」
「つまり、水に漬けたり時間を掛けずに収穫したりして、余りざわつかないように収穫した時とは味が違うのかなと思って」
「チヤはおかしな事を考えるんだな。そんな事は誰も試した事がないと思うが」
「じゃあ試して貰おう」
俺の世界でも育て方や収穫方法によって味が変わるという話を聞いたことがある。
こっちの動物っぽい植物なら、更に影響を受けそうな気がする。
「試すのはザワザワ麦だけで良いのか?」
「他に収穫出来るものってあるの?」
「確か弾け豆もそろそろ収穫時期だったと思うが」
「ならそれも袋を被せて貰ってみよう」
俺は農家の人に頼んで少しだけ収穫方法を変えて採ってもらった。
勿論、ロクにお礼として十分な金を出させた。
そうして実験してみた結果、採れたものは全て味が違った。
「ほぅ……面倒だが、この方が美味いな」
出された豆をガリガリと噛み砕きながらロクが言った。
袋を被せて収穫した豆は味が濃いのだと言う。
「かたっ、硬くて噛めねぇよ!」
「後で粉にして貰え」
俺は口の中から豆を取り上げられて顎を擦った。
そりゃあキスはしたけど、指をいきなり口の中に突っ込むのってどうなの?
まるで拾い食いをした犬の口から取り上げるような無造作な仕草だったけどさ。
「モリスに詳細を書いて送る。細かい事はあっちで試して貰えばいい」
「そうだね。これだけで甘くなるって事は無さそうだ」
採取方法で味は変わるけど、甘くなるって事は無いみたいだ。
多分、元々甘味成分が含まれていないからだろう。
「もう少し、畑を見て回ってもいい? ザワザワ麦と弾け豆以外にも栽培してるんだろ?」
「それは構わないが、その格好では汚れるぞ」
「そうか?」
俺は自分の格好を見下ろしてみた。
単なるシャツとズボンだけど、獣人が着ているのとは違い柔らかくて薄い生地で作られている。
それは俺には毛皮がなくて、彼らと同じ素材では肌が擦れて赤くなってしまうからだ。
「麦畑に入っただけで、もう破れてる」
ロクに肘を取られて初めて二の腕あたりにかぎ裂きを作っている事に気付いた。
「うわ、まさか俺って植物よりも弱いんじゃ……」
げんなりとしていたらロクのマントで包まれて抱き上げられた。
「ちょ、おいっ!」
「装備を見直してからもう一度来よう」
「装備って……」
俺は別に植物と戦っている訳じゃないんだけど。
「お前に傷を付けたく無いんだ」
「……わかったよ」
多分、ロクは俺がレオポルトに怪我をさせられた事を気にしているんだろう。
付けられた傷は粘着シートみたいなもので貼り合わせていたら直ぐに塞がったけど、毛が無い俺は彼らよりも簡単に深い傷が付く。
ロクが卵を守るくらいに気を遣ったって仕方がない。
「平気なんだけどなぁ……」
俺は少しくらい怪我をしても平気なんだけど、でもそれは俺の常識に過ぎない。
紙装甲の俺は呆気なく死んでしまうかもしれない。
だからロクの言うことを聞き、彼に守られておく。
平気なんだけどと思いつつ、その言葉は呑み込む。
(壊れ物みたいに扱われるのは嫌だし悲しいんだけど……)
「チヤ?」
「……あんたの言う通りにする」
キュッと抱き着いたら頭をポンポンと叩かれた。
やっぱり子供扱いをされている気がする。
(でもその方が良い。そうしたら俺も欲情しないで済む)
俺はこいつをそういう事には巻き込みたくなかった。
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