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②貞操の危機!−1
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色々と調べた結果、どうやら俺の身体から出る体液が甘いのだと言うことがわかった。
けれどそれはその時に思い浮かべた物や気分で味が変わるし、恐怖によって無味無臭になる事もわかった。
「では体液を採取して、甘味としてこちらに提供して貰うのは――」
「俺から離れたらただの汗になりますからっ!」
サトウキビみたいに搾り取って加工する気かと、俺はビビりながらモリスさんに素早く釘を刺した。
「まあ、作物ではないのだから当然だな」
モリスさんはそう言って笑っているが、油断は出来ない。
こちらの植物ときたら、どれもこれも俺が知っているものとは全く違い、植物の癖に動くし鳴くし巣を作ったりもする。
動物に近いその形態を見ていると、俺も農作物に入れられたっておかしくない。
「兎に角、俺が舐められる以外で帰る方法を探して下さい。でないとロクサーン侯爵にも申し訳ないですから」
「ハハッ、あれはまだ慣れないのか」
「慣れるどころか、鼻を押さえて臭いとまで言われましたよ」
「美味しそうな匂いだがな」
「ちょ、匂いを嗅がないで下さいっ!」
俺は牧羊犬に顔の横でスンスンと鼻を鳴らされて飛び退いた。
甘い匂いは俺がその気にならなきゃ分泌されないけど、フェロモンみたいなそれは獣人を興奮させる効果もあるみたいだった。
「いっそ陛下のご寵愛を頂いてはどうだ?」
そう言われたが冗談じゃない。
一度だけ物凄く遠くから拝謁した国王陛下は鷲の顔をしていて、先端恐怖症の気がある俺はあの鋭い嘴が怖くて仕方がなかった。
相手が男だって事を抜きにしても、とてもとても鷲に突っつかれてうっとりとするなんて無理だ。
「しかしなぁ、一哉殿の匂いに当てられて、強硬手段を取ろうとするものが出てきそうなんだよなぁ」
「強硬手段って?」
俺は嫌な予感がしつつ訊ねた。
これまでも護衛のロクサーン侯爵の目を盗んで俺を押し倒そうとしたり、拐おうとした獣人はいたが更に何かするつもりか?
「一哉殿が駄目なら、子を産ませてそちらを最初から抵抗しないように育てればいいと言っているようだ」
「……乳牛みたいですね」
俺は物凄く嫌な気分になったが、そのくらいこの世界では甘い物が渇望されている。
数年に一度の召喚で運良く口に出来た者は特に忘れられないそうだ。
「勿論、硬く禁じてはいるが私達は些か本能が強い」
人間よりも獣人たちの方が身体能力が勝り、その分だけ本能に支配されやすい。
個人差はあるが、法律だけで取り締まる事はとても難しいのだという。
特に俺というしょっちゅう甘い匂いをさせている柔らかそうな獲物が目の前をうろついていたら、それは食っちまえと唆されているも同然だった。
「あの、甘い匂いをさせちゃうのは申し訳ないなーって思うんですけど、でも俺も甘い物が食べたくて食べたくて仕方がなくて、マカロンの味とか思い出して指を吸うくらいの事は許して欲しいんですよ」
自分で指を咥えて舌を擦ってるのとか変態臭くて本当に嫌なんだけど、そうでもしないと甘味なんて味わえない。もしも俺以外に甘い匂いと味のする人間がいたら、俺こそ武者振りついてしまいそうだ。
「召喚は契約の一種だから、必ず甘味を受け取る方法はあると思うのだが……」
「期待して待ってまーす」
俺はそう答えたけど、そんな呑気なことは言ってられなくなった。
俺に近付く事を禁止されていた獅子型獣人が、どうしても俺の味が忘れられずに寝室に忍び込んで来たのだ。
***
「ンッ……」
口の中にザラリとした感触を感じる。
俺は夢の中でザラメの掛かった大玉の飴を舐めていた。
「ん、ふ……」
そうそう、ザラザラしていて舌が傷付いて痛くなっちゃうんだけど、口いっぱいに広がる甘い味が美味しくてついつい舐めちゃうんだよ。
俺は特にニッキ飴が好きで、たまに泣きそうに辛いのに当たるんだけどそれがまた良くて次々と舐め続けた。
「あ、まぁいぃぃ……」
口の中に溢れる蜜をゴクゴクと飲み下して、それでも飲み切れなかったものが口の端から伝い落ちた。
口周りをベタベタにした俺を、誰かが夢中で舐め回している。
「んっ、う……」
フガフガと首筋に掛かる熱い息と濡れた感触。
鼻先をくすぐる柔らかな毛。
何処かで飼っている猫でも俺にじゃれ付いているのか?
「うぅん、やめろよぉ……。そんなにペロペロするなよぉ……」
(なんか俺、誰かに舐められてる?)
ボーッとしたまま目を開けたら、爛々とした金色の瞳と目が合った。
「ひうっ!」
俺は思わず相手を突き飛ばし、乱れた襟元を急いで掻き集めて息を呑んだ。
あの時と同じ、俺の上に四つん這いに跨った獅子型獣人が見下ろしていた。
けれどそれはその時に思い浮かべた物や気分で味が変わるし、恐怖によって無味無臭になる事もわかった。
「では体液を採取して、甘味としてこちらに提供して貰うのは――」
「俺から離れたらただの汗になりますからっ!」
サトウキビみたいに搾り取って加工する気かと、俺はビビりながらモリスさんに素早く釘を刺した。
「まあ、作物ではないのだから当然だな」
モリスさんはそう言って笑っているが、油断は出来ない。
こちらの植物ときたら、どれもこれも俺が知っているものとは全く違い、植物の癖に動くし鳴くし巣を作ったりもする。
動物に近いその形態を見ていると、俺も農作物に入れられたっておかしくない。
「兎に角、俺が舐められる以外で帰る方法を探して下さい。でないとロクサーン侯爵にも申し訳ないですから」
「ハハッ、あれはまだ慣れないのか」
「慣れるどころか、鼻を押さえて臭いとまで言われましたよ」
「美味しそうな匂いだがな」
「ちょ、匂いを嗅がないで下さいっ!」
俺は牧羊犬に顔の横でスンスンと鼻を鳴らされて飛び退いた。
甘い匂いは俺がその気にならなきゃ分泌されないけど、フェロモンみたいなそれは獣人を興奮させる効果もあるみたいだった。
「いっそ陛下のご寵愛を頂いてはどうだ?」
そう言われたが冗談じゃない。
一度だけ物凄く遠くから拝謁した国王陛下は鷲の顔をしていて、先端恐怖症の気がある俺はあの鋭い嘴が怖くて仕方がなかった。
相手が男だって事を抜きにしても、とてもとても鷲に突っつかれてうっとりとするなんて無理だ。
「しかしなぁ、一哉殿の匂いに当てられて、強硬手段を取ろうとするものが出てきそうなんだよなぁ」
「強硬手段って?」
俺は嫌な予感がしつつ訊ねた。
これまでも護衛のロクサーン侯爵の目を盗んで俺を押し倒そうとしたり、拐おうとした獣人はいたが更に何かするつもりか?
「一哉殿が駄目なら、子を産ませてそちらを最初から抵抗しないように育てればいいと言っているようだ」
「……乳牛みたいですね」
俺は物凄く嫌な気分になったが、そのくらいこの世界では甘い物が渇望されている。
数年に一度の召喚で運良く口に出来た者は特に忘れられないそうだ。
「勿論、硬く禁じてはいるが私達は些か本能が強い」
人間よりも獣人たちの方が身体能力が勝り、その分だけ本能に支配されやすい。
個人差はあるが、法律だけで取り締まる事はとても難しいのだという。
特に俺というしょっちゅう甘い匂いをさせている柔らかそうな獲物が目の前をうろついていたら、それは食っちまえと唆されているも同然だった。
「あの、甘い匂いをさせちゃうのは申し訳ないなーって思うんですけど、でも俺も甘い物が食べたくて食べたくて仕方がなくて、マカロンの味とか思い出して指を吸うくらいの事は許して欲しいんですよ」
自分で指を咥えて舌を擦ってるのとか変態臭くて本当に嫌なんだけど、そうでもしないと甘味なんて味わえない。もしも俺以外に甘い匂いと味のする人間がいたら、俺こそ武者振りついてしまいそうだ。
「召喚は契約の一種だから、必ず甘味を受け取る方法はあると思うのだが……」
「期待して待ってまーす」
俺はそう答えたけど、そんな呑気なことは言ってられなくなった。
俺に近付く事を禁止されていた獅子型獣人が、どうしても俺の味が忘れられずに寝室に忍び込んで来たのだ。
***
「ンッ……」
口の中にザラリとした感触を感じる。
俺は夢の中でザラメの掛かった大玉の飴を舐めていた。
「ん、ふ……」
そうそう、ザラザラしていて舌が傷付いて痛くなっちゃうんだけど、口いっぱいに広がる甘い味が美味しくてついつい舐めちゃうんだよ。
俺は特にニッキ飴が好きで、たまに泣きそうに辛いのに当たるんだけどそれがまた良くて次々と舐め続けた。
「あ、まぁいぃぃ……」
口の中に溢れる蜜をゴクゴクと飲み下して、それでも飲み切れなかったものが口の端から伝い落ちた。
口周りをベタベタにした俺を、誰かが夢中で舐め回している。
「んっ、う……」
フガフガと首筋に掛かる熱い息と濡れた感触。
鼻先をくすぐる柔らかな毛。
何処かで飼っている猫でも俺にじゃれ付いているのか?
「うぅん、やめろよぉ……。そんなにペロペロするなよぉ……」
(なんか俺、誰かに舐められてる?)
ボーッとしたまま目を開けたら、爛々とした金色の瞳と目が合った。
「ひうっ!」
俺は思わず相手を突き飛ばし、乱れた襟元を急いで掻き集めて息を呑んだ。
あの時と同じ、俺の上に四つん這いに跨った獅子型獣人が見下ろしていた。
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