【完結】俺の身体の半分は糖分で出来ている!? スイーツ男子の異世界紀行

うずみどり

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①甘味が無い!−1

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 甘いものが病的に好きなのは多分、遺伝だ。
 お祖父ちゃんがおはぎを食べながら日本酒を呑むような人だったと聞いている。
 俺は酒はそんなに飲めないけど甘いものなら幾らでも食べられる大の甘党で、食事は我慢できても毎食のデザートは欠かせない。
 だから異世界に召喚されたと告げられた時よりも、獣の顔をした獣人に囲まれた時よりも、この世界にはと聞かされた時の方がショックだった。
 殆ど打ちのめされたと言ってもいい。

「嘘だろっ!? ケーキもあんこもゼリーもプリンも無いのか!?」
「けーき? それは異界の食べ物か?」
 朴訥そうな牧羊犬の獣人に聞かれて俺はコクコクと頷いた。

「ふわふわしたクリームが乗っていて、洋酒を含んでしっとりとしたスポンジ生地と一緒に食べると蕩けるようで、酸味のあるフルーツや香りの良いナッツがアクセントになっていると幾らでも食べられちゃいます」
「それは美味そうだな」
 ごくりと喉を鳴らした獣人に、俺はそうです美味しいんですと答えた。

「だがそのような食べ物は存在しない。そもそも甘味が殆ど無いのだ」
「えっ? えっ? どういう事? 意味がわかりません」
 俺は途方に暮れて縋るように訊ねた。
 そんな俺を見て獣人が同情するように言った。

「この世界で採れる食物には、ほぼ甘味成分が含まれていない。従って “砂糖” という甘味だけを抜き集めた食物は存在しないのだよ」
「っ!」
 俺は倒れそうになった。
 砂糖が存在しない? 甘味がほぼ含まれていないって、果物とか糖度の高い野菜も無いってこと?
 そんなの、そんなの……。

「死んでいるのも同然じゃ無いかよ~っ!」
 俺は思い切り叫んで髪を掻き毟った。

 ***

 そもそも一介の大学生である俺・柚木ゆのき一哉いちやがどうして異世界になんて転移したのかと言うと、こっちの人達に召喚されたからだ。
 こちらの世界では甘味が手に入らない。ならば他の世界からお取り寄せをしよう、という事で数年に一度だけ異世界から召喚して甘味を手に入れてきた。
 人物の召喚しか出来ないので、“甘味を持っている人” を呼び出して対価と交換にその甘味を譲って貰う。
 召喚は一種の契約なので、甘味と対価の交換さえ成ればちゃんと元の世界に帰ることが出来る。それで俺も呑気に構えていたんだけど……俺は持っていたコンビニの袋ごとお菓子を渡しても帰ることが出来なかった。

「対価が不足だったのでは?」
 そう言われて眩い金貨を積み足されたけれど、そもそも板チョコやら駄菓子に金貨なんて貰えないよ。
 俺は慌てて辞退した。

「では他に甘味を隠し持っているのでは……」
「今はそれで全部ですっ!」
 そう言って証拠を見せようと上着やズボンのポケットを引っ繰り返したら、キャラメルの包みがポロポロと出てきて俺の顔が赤くなった。
 否、隠してた訳じゃなくって、口寂しい時に摘むように持ってただけだし。

「えっと、それで本当に全部です」
 俺はキャラメルも残さず渡したけれど、それでも帰ることは出来なかった。

「こんな事は前代未聞だ! 一哉殿、なんとしても原因を究明するので、暫く時間を貰えないだろうか?」
「はい、それは――宜しくお願いします」
 一方的に呼び出された俺は思うところもないではなかったけど、そう言うしかなかった。
 だって完全にアウェイだし、獣の顔をした獣人たちは二足歩行だけれど筋肉モリモリでめっちゃ強そうだし。
 人間に見える人たちも、よく見たら瞳孔が縦長だったり爪が長かったりする。
 恐る恐る聞いたら獣人と人間の混血化が進んでいて、もうどちらも純血種は殆どいないんだって。
 つまり人間なら俺の味方だろうなんて単純な思い込みは危険だって事だ。

「城内には召喚者を傷付ける者はいないし、自由に過ごして貰って構わない。不足するものがあれば侍女に言ってくれ」
 そう言って牧羊犬――モリスさんは賓客扱いをしてくれたけど、原因を突き止める為に色々な実験にも付き合わされた。
 身体を見られた時は恥ずかしかったし、女性の研究者がこっそりと『ツルツルなのはちょっと引くわね。男はやっぱりモサモサしてないと』と笑っているのを聞いて傷付きもした。
 畜生、俺の国では男も脱毛をするってのに。
 俺は余り生えないけれど、髭だって毎日わざわざ剃っているのに。

 “ツルツルはダメ”
 その価値観は割りと根強く俺の中に刷り込まれた。

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