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65.これが職人というものです-1
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三つ目の呪いの解き方を聞きに、エックハルト王子を訊ねた。
けれど前回とは違い、王子は不貞腐れた顔で俺に文句を言ってきた。
「酷いではないかっ! 何故わたしだけこのような逃げる事しか出来ない道具なのだ? ヒースは変身できるし、双子たちは雷を呼び悪漢の姿を溶かすと聞いた。わたしだけつまんないっ!」
つまんないつまんないと子供みたいに騒ぐ王子を見て呆れつつも、彼がまだ九歳の子供に過ぎない事を思い出す。
偉そうな口を利き、こまっしゃくれた態度を取った所で他の子のオモチャを羨ましがるお子様なのだ。
「う~ん、そうしたらエックハルト王子は他にどんな機能が欲しいですか?」
「付けてくれるのかっ!」
「俺が出来る範囲でなら」
元々は彼らの命が守られたらいいと思った道具だった。
そこにちょっとした遊び心を加えて、なるべく愛用してくれたら安心だよな~って安易に思っただけで。
まさかこんなに目を輝かせてくれているとは思ってなかったんだ。
「あのな、わたしはヒースの事も双子の事も、それから乳母や教育係りや皆の事を守りたい。危険には駆け付けて、こうやって腕を拡げて守ってやりたいのだ!」
マントの裾を両手で持って、バサァッと拡げた王子がヒーローみたいで本当に格好良かった。
この子は王になる器を持っているな、と思ったらその願いを叶えたくなった。
「リッド、あのさ、呪いを解くのも大事なんだけど……」
「わかってる。お前のしたいようにすればいい。お前が誰かの為に損をしたり傷付きそうになっても、俺が全力で守るからお前はお前の走りたいように走れ」
「……うん」
(あぁぁぁ、どうしよう! 俺の彼氏が男前過ぎる!)
大好き、最高、今直ぐ抱かれたい、ってポーッとしていたら王子に袖を引かれた。
「守るものが多過ぎるか? わたしの手は小さ過ぎるだろうか?」
(あっ、こっちも可愛い!)
俺は王子の前に片膝を付いてニコリと笑った。
「王子のマントに太陽のマークを描き足したいと思います。少しの間、お預かりしても宜しいですか?」
「うむ、良いぞ!」
「代わりにこの御守りをお持ち下さい。王子の身を護るものだから、手放しては駄目ですよ?」
「わかった!」
俺は王子の首に自分の御守りを掛け、代わりにマントを預かって部屋へ戻った。
***
「そういう訳で、俺は暫くこれに掛かり切りになる」
偉そうに宣言した俺に向かい、リッドが何をするつもりだと訊ねた。
「さっきも言ったけど、太陽のマークに似た範囲結界の魔法陣がある。それを古竜の髭から取った糸で刺繍しようと思う」
「……それは神話級のアイテムなんじゃないか?」
「そうだな。成功したら聖剣でも破れないような範囲結界を張れるようになると思う」
「ユウト、それはこの国の王族が勇者に対抗できる手段を持ってしまうという事だぞ? 場合によっては勇者や聖女の立場が悪くなるが、わかっているのか?」
「うん。わかってる」
大きな力はそれだけで脅迫じみた権力を持つ。
異世界からきた余所者という不利な立場の勇者の絶対的な優位性を揺らがす事は、後々の厄介ごとになるかもしれない。信仰の流れすら変わるかもしれない。
それでも世界の危機に対して勇者に頼り切りだったこの国の人達が、自分達でどうにかしようという気概を持つ一端になる可能性が見えたんだ。俺はそれに賭けるよ。
「カイトが軽んじられる事になるかもしれない」
リッドの言葉に俺はフフッと笑う。
「先輩はね、勇者を辞めたいんだって。務めを果たしたから、後は俺の呪いさえ解ければ商人でもしようかなって言ってたよ。俺が作ったものを売ってくれるんだってさ」
所詮俺たちは戦争のない平和な世界から来たんだから、この世界に平和的な手段で貢献したいと思っている。
戦いとか権力争いに巻き込まれないで、楽しく平穏に暮らしていきたい。
そんな能天気じゃやっていけないぞって言われたらまぁその通りなんだけど、でも俺にはリッドがいるから。
「俺の望みを叶えてくれるんだろう?」
そう聞いたら呆れつつも頷いてくれた。
「お前が平穏にとは何の冗談かと思うが、勿論全力で叶える」
「だと思った。あんたは俺の守り人だもん」
「そこは恋人と言って欲しいな」
「恋人だけど、えっちは当分お預けな?」
「……先にするのは――」
「駄目。俺は全身全霊を傾けてこの仕事に挑みたい」
「わかった。邪魔はしない」
大人しく引き下がった男の唇に背伸びをして口付ける。
大好き、愛してる、記憶を取り戻したら今度こそ二度と忘れないからな。
だから今は――
「イイコで待ってろ」
俺はニコリと笑ってマントを拡げた。
けれど前回とは違い、王子は不貞腐れた顔で俺に文句を言ってきた。
「酷いではないかっ! 何故わたしだけこのような逃げる事しか出来ない道具なのだ? ヒースは変身できるし、双子たちは雷を呼び悪漢の姿を溶かすと聞いた。わたしだけつまんないっ!」
つまんないつまんないと子供みたいに騒ぐ王子を見て呆れつつも、彼がまだ九歳の子供に過ぎない事を思い出す。
偉そうな口を利き、こまっしゃくれた態度を取った所で他の子のオモチャを羨ましがるお子様なのだ。
「う~ん、そうしたらエックハルト王子は他にどんな機能が欲しいですか?」
「付けてくれるのかっ!」
「俺が出来る範囲でなら」
元々は彼らの命が守られたらいいと思った道具だった。
そこにちょっとした遊び心を加えて、なるべく愛用してくれたら安心だよな~って安易に思っただけで。
まさかこんなに目を輝かせてくれているとは思ってなかったんだ。
「あのな、わたしはヒースの事も双子の事も、それから乳母や教育係りや皆の事を守りたい。危険には駆け付けて、こうやって腕を拡げて守ってやりたいのだ!」
マントの裾を両手で持って、バサァッと拡げた王子がヒーローみたいで本当に格好良かった。
この子は王になる器を持っているな、と思ったらその願いを叶えたくなった。
「リッド、あのさ、呪いを解くのも大事なんだけど……」
「わかってる。お前のしたいようにすればいい。お前が誰かの為に損をしたり傷付きそうになっても、俺が全力で守るからお前はお前の走りたいように走れ」
「……うん」
(あぁぁぁ、どうしよう! 俺の彼氏が男前過ぎる!)
大好き、最高、今直ぐ抱かれたい、ってポーッとしていたら王子に袖を引かれた。
「守るものが多過ぎるか? わたしの手は小さ過ぎるだろうか?」
(あっ、こっちも可愛い!)
俺は王子の前に片膝を付いてニコリと笑った。
「王子のマントに太陽のマークを描き足したいと思います。少しの間、お預かりしても宜しいですか?」
「うむ、良いぞ!」
「代わりにこの御守りをお持ち下さい。王子の身を護るものだから、手放しては駄目ですよ?」
「わかった!」
俺は王子の首に自分の御守りを掛け、代わりにマントを預かって部屋へ戻った。
***
「そういう訳で、俺は暫くこれに掛かり切りになる」
偉そうに宣言した俺に向かい、リッドが何をするつもりだと訊ねた。
「さっきも言ったけど、太陽のマークに似た範囲結界の魔法陣がある。それを古竜の髭から取った糸で刺繍しようと思う」
「……それは神話級のアイテムなんじゃないか?」
「そうだな。成功したら聖剣でも破れないような範囲結界を張れるようになると思う」
「ユウト、それはこの国の王族が勇者に対抗できる手段を持ってしまうという事だぞ? 場合によっては勇者や聖女の立場が悪くなるが、わかっているのか?」
「うん。わかってる」
大きな力はそれだけで脅迫じみた権力を持つ。
異世界からきた余所者という不利な立場の勇者の絶対的な優位性を揺らがす事は、後々の厄介ごとになるかもしれない。信仰の流れすら変わるかもしれない。
それでも世界の危機に対して勇者に頼り切りだったこの国の人達が、自分達でどうにかしようという気概を持つ一端になる可能性が見えたんだ。俺はそれに賭けるよ。
「カイトが軽んじられる事になるかもしれない」
リッドの言葉に俺はフフッと笑う。
「先輩はね、勇者を辞めたいんだって。務めを果たしたから、後は俺の呪いさえ解ければ商人でもしようかなって言ってたよ。俺が作ったものを売ってくれるんだってさ」
所詮俺たちは戦争のない平和な世界から来たんだから、この世界に平和的な手段で貢献したいと思っている。
戦いとか権力争いに巻き込まれないで、楽しく平穏に暮らしていきたい。
そんな能天気じゃやっていけないぞって言われたらまぁその通りなんだけど、でも俺にはリッドがいるから。
「俺の望みを叶えてくれるんだろう?」
そう聞いたら呆れつつも頷いてくれた。
「お前が平穏にとは何の冗談かと思うが、勿論全力で叶える」
「だと思った。あんたは俺の守り人だもん」
「そこは恋人と言って欲しいな」
「恋人だけど、えっちは当分お預けな?」
「……先にするのは――」
「駄目。俺は全身全霊を傾けてこの仕事に挑みたい」
「わかった。邪魔はしない」
大人しく引き下がった男の唇に背伸びをして口付ける。
大好き、愛してる、記憶を取り戻したら今度こそ二度と忘れないからな。
だから今は――
「イイコで待ってろ」
俺はニコリと笑ってマントを拡げた。
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