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58.臆病な王子と二つ目の呪いを解く方法-2
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「悪魔の呪いはね、幾つか種類があるんだって。忘れちゃう呪いは勇者がごめんなさいをしたら解けた」
「ごめんなさい?」
「忘れてごめんなさいって、忘れちゃった人に謝るんだよ。ただ謝るんじゃなくて、その人の本当に望むことを叶えてあげなくちゃ駄目なんだって。でも何をすればいいの? って聞いちゃ駄目なんだよ」
「う……リッドの一番の望みを聞かずに叶えてやらなくちゃいけないのか。意外と難しそうだな」
「リッド? それってA級冒険者の名前だよね? すっごく強いんでしょう?」
ふぅん、怖がりでも強い冒険者には憧れるのか?
その髪色と目はあいつから思い付いたんだって言ったら喜ぶかな?
「リッドなら部屋の外にいますよ。呼びますか?」
「怖くない?」
「ちょっと怖いかもしれないけど、俺の前では大人しいから平気です」
「すごい!」
猛獣使いとして尊敬されてしまった。
俺はリッドを引き合わせ、異世界ヒーローの話を少ししてから王子の部屋を出た。
王子は実際に変身出来るようになった事ですっかり元気になっていた。
「呪いを解く方法はわかったのか?」
リッドに訊かれて溜め息を吐く。
「あんたの一番の望みを教えて貰わずに叶えなくちゃいけない。それで忘れてごめんって……謝るんだって」
口に出したら忘れたという事実がちょっと胸に迫って来た。
俺が忘れてしまったのはどうしようもない事だったと思うけど、それでもリッドに切ない思いをさせた事は悪いと思っている。
「忘れたのはお前の所為じゃない。寧ろそれをお前に押し付けたのは俺だ」
「バカ、そんな顔をするなよ。あんたが――あんたほどの男が怯んだってだけで、俺は嬉しいよ」
A級の冒険者が、自分の命の危険も顧みない男が俺を忘れる事を躊躇して悪魔を倒せなかった。それだけ愛されたってのは光栄だよ。
「あ、でも俺は忘れてもいいって思ったんだよな? あんたにこんな思いをさせるってわかってなかったのかな」
忘れた方よりも忘れられた方が辛いんじゃないかな、と思って俺は顔を顰めた。
そうしたらリッドの瞳が溶けるように滲んだ。
「ユウ、済まない。それでも俺は、お前を忘れなくて良かったと思っている。本当に済まない」
この世でそれ程の地獄はないとでも言いたげなリッドを見て目を見開く。
それ程の想いか。
「いいよ。あんたの望みを叶えるのは難しそうだけど――やってみるさ」
「頼む」
既にリッドの一番の望みは叶ってしまっているような気がするし、残されているのなんて俺があいつを思い出す事くらいだと思うが、まあやってみるよ。
もしかしたら謝るだけでいいかもしれないしな。
俺はどのように謝ったら呪いが解けるのか頭を捻った。
日本人にとって謝罪と言ったらやっぱり土下座か? ネルソン卿もしてたし。
でもリッドが納得する形でないと、奴に認められないといけない気がする。
そうしたら頭を丸刈りにするとか、そういうデモンストレーションは効かないんだろうな。
形じゃなくて気持ち。目に見えないそれをどうやって相手にわかって貰えるか。
「なぁ、リッド。気持ちなんていう見えないものを、どうしたら信じて貰えるのかな?」
「気持ちを目に見えるようにする方法ならあるぞ」
「えっ、嘘っ!?」
流石、異世界。そんな方法があるのか。
俺は勢い込んでどうやるのだと訊ねた。
「危険だから勧めたくない」
「でもっ、俺が忘れてごめんって言っても、あんたは納得しないだろう?」
「当たり前だ。お前は悪くない」
ほらな。謝罪するって、実はそう簡単な事じゃないんだ。
「なぁ、呪いを解く為には危険も仕方ねぇよ。俺は思い出したいんだってば」
グイグイと腹巻を引っ張ったらリッドが弱り顔で頷いた。
「お前が望むなら行くしかないだろうな」
「行くって何処に?」
「妖精の泉だ」
俺はファンシーな名称にちょっとだけ胸をときめかせた。
「ごめんなさい?」
「忘れてごめんなさいって、忘れちゃった人に謝るんだよ。ただ謝るんじゃなくて、その人の本当に望むことを叶えてあげなくちゃ駄目なんだって。でも何をすればいいの? って聞いちゃ駄目なんだよ」
「う……リッドの一番の望みを聞かずに叶えてやらなくちゃいけないのか。意外と難しそうだな」
「リッド? それってA級冒険者の名前だよね? すっごく強いんでしょう?」
ふぅん、怖がりでも強い冒険者には憧れるのか?
その髪色と目はあいつから思い付いたんだって言ったら喜ぶかな?
「リッドなら部屋の外にいますよ。呼びますか?」
「怖くない?」
「ちょっと怖いかもしれないけど、俺の前では大人しいから平気です」
「すごい!」
猛獣使いとして尊敬されてしまった。
俺はリッドを引き合わせ、異世界ヒーローの話を少ししてから王子の部屋を出た。
王子は実際に変身出来るようになった事ですっかり元気になっていた。
「呪いを解く方法はわかったのか?」
リッドに訊かれて溜め息を吐く。
「あんたの一番の望みを教えて貰わずに叶えなくちゃいけない。それで忘れてごめんって……謝るんだって」
口に出したら忘れたという事実がちょっと胸に迫って来た。
俺が忘れてしまったのはどうしようもない事だったと思うけど、それでもリッドに切ない思いをさせた事は悪いと思っている。
「忘れたのはお前の所為じゃない。寧ろそれをお前に押し付けたのは俺だ」
「バカ、そんな顔をするなよ。あんたが――あんたほどの男が怯んだってだけで、俺は嬉しいよ」
A級の冒険者が、自分の命の危険も顧みない男が俺を忘れる事を躊躇して悪魔を倒せなかった。それだけ愛されたってのは光栄だよ。
「あ、でも俺は忘れてもいいって思ったんだよな? あんたにこんな思いをさせるってわかってなかったのかな」
忘れた方よりも忘れられた方が辛いんじゃないかな、と思って俺は顔を顰めた。
そうしたらリッドの瞳が溶けるように滲んだ。
「ユウ、済まない。それでも俺は、お前を忘れなくて良かったと思っている。本当に済まない」
この世でそれ程の地獄はないとでも言いたげなリッドを見て目を見開く。
それ程の想いか。
「いいよ。あんたの望みを叶えるのは難しそうだけど――やってみるさ」
「頼む」
既にリッドの一番の望みは叶ってしまっているような気がするし、残されているのなんて俺があいつを思い出す事くらいだと思うが、まあやってみるよ。
もしかしたら謝るだけでいいかもしれないしな。
俺はどのように謝ったら呪いが解けるのか頭を捻った。
日本人にとって謝罪と言ったらやっぱり土下座か? ネルソン卿もしてたし。
でもリッドが納得する形でないと、奴に認められないといけない気がする。
そうしたら頭を丸刈りにするとか、そういうデモンストレーションは効かないんだろうな。
形じゃなくて気持ち。目に見えないそれをどうやって相手にわかって貰えるか。
「なぁ、リッド。気持ちなんていう見えないものを、どうしたら信じて貰えるのかな?」
「気持ちを目に見えるようにする方法ならあるぞ」
「えっ、嘘っ!?」
流石、異世界。そんな方法があるのか。
俺は勢い込んでどうやるのだと訊ねた。
「危険だから勧めたくない」
「でもっ、俺が忘れてごめんって言っても、あんたは納得しないだろう?」
「当たり前だ。お前は悪くない」
ほらな。謝罪するって、実はそう簡単な事じゃないんだ。
「なぁ、呪いを解く為には危険も仕方ねぇよ。俺は思い出したいんだってば」
グイグイと腹巻を引っ張ったらリッドが弱り顔で頷いた。
「お前が望むなら行くしかないだろうな」
「行くって何処に?」
「妖精の泉だ」
俺はファンシーな名称にちょっとだけ胸をときめかせた。
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