【完結】異世界って巨人の国ですか?【番外編だけ少し増えます】

うずみどり

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㊽誰の為に作るのか、誰の為に祈るのか-1

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 三日三晩に渡って二人で引き籠ってヤりまくって、俺がやっと落ち着いて卵から出て来た頃にはすっかりダンジョンの後始末が終わっていた。

「当たり前だろ。あれから五日も経ってんだぞ!」
 ギルマスに呆れたようにそう言われた。
 どうやら三日三晩ではなく五日だったらしい。

「お前はもう大丈夫なのか?」
「うん。妖気も漏れなくなったし、なり損ないにもなってない」
「そりゃあ良かった。あれが他の奴に見つかるとまずいからな」
「うん」
 なり損ないになると激しく発情してしまい、それは我慢してどうにかなるようなものじゃない。
 こっちの人たちの巨人兵器みたいなブツだって受け入れられる身体になっちゃうし、何よりナカに子種を注いで欲しくて堪らなくなる。
 本物の九尾がそうやって個体数を増やすからなんだけど、九尾化しているだけで人間の俺は幾らナカ出しされたって妊娠なんてしない。
 それでもナカで出されて嬉しいとか気持ちいいとか幸せだぁ~って気分が舞い上がっちゃって、ふわふわとした気持ちになるんだからオメデタイよな。
 俺も出される度にそうなると勘違いしそうになるし、半獣化しなくなって良かったよ。

「お前がいない間に素材は粗方分けちまったけど、イーサンに聞いて欲しがりそうなものを取っておいた。これから確認するか?」
「するっ!」
 俺の関心はあっという間にエンシェントドラゴンの素材に引き寄せられる。
 ほらね、妖気がちゃんとコントロールされてれば副作用なんて平気なんだって。
 S級ダンジョンを攻略したからもう完全変態をする機会も無いだろうし、冒険者でもない俺が無理をする場面なんてやってこないだろう。
 俺は生産職としてこれまで通り、御守りやブローチを作って、新しい魔道具を考え出して試作して暮せば良い。それは楽しい筈なんだけれど……どういう訳か自分の中に白けた気持ちがある。
 だって誰の為に作るの? 何の為に作るの? そこがわからないと楽しさ半減っていうか、途端に熱が冷めるっていうか……ちょっとつまらない。

「ユート? どうした、気が散ってるな」
「そ、そんな事ないよっ! 俺に取っておいてくれた素材ってなに? 余り大きい物だと持って帰るのが大変なんだけど」
「でかいのはしようがねぇよ。エンシェントドラゴンの石だからな」
 ギルマスの部屋に布を被せて置いてあった物を見て言葉を失う。
 俺が両手を拡げてやっと抱えきれるかどうかって大きさなんだけど。

「魔石じゃないから、大きさの割に含有する魔力は少ない。それでも見た目だけで間違いなく国が買える」
 ぱさりと布を払われて出てきたのは目にも綾な真珠色の光沢で、一目でこれはヤバイと思った。

「ギルマスーッ! あんた、まさかこれを俺に譲る気か!?」
 こんなものが個人所有になるなんておかしい。
 こっちの常識に疎い俺だってわかる。

「そうだ。これはお前のものだ」
「でも――」
「ユート。大悪魔の呪いを受けると知っていて倒したのはお前だ。俺たちはお前に報いなきゃならねえ」
 底光りするような目で見られて怖くて逃げ出したくなる。
 俺はそこまでの覚悟があって倒した訳じゃない。あの場の空気に当てられていたし、必死だったからそんなに深く考えていなかった。或いは万能感ってやつに酔っていたのかもしれない。

「正直に言って、そこら辺の記憶はちょっとあやふやなんだ。俺が倒したのは覚えているけど、どうしてそうなったのかよく覚えてなくて……。だから気にしなくていいよ」
 俺がなるべく軽い調子でそう言ったら、ギルマスはくしゃくしゃと髪を掻き回しながら溜め息を吐いた。

「逃げるな。お前がでっかい権力とか力から逃げたい奴だってわかってるけど、そろそろちゃんと自覚をした方が良い。お前は能力も器もこの先の可能性も含めて大した奴だよ。下手な身の処し方は周囲に混乱と被害を招く」
 ひでぇ。俺って災害獣なみの扱いなの?

「ユート、真剣に考えろ!」
「ひゃいっ!」
 うおぉ、吃驚して噛んじまったぜ。
 なんだかんだと俺に甘いギルマスがここまで言うって事は、本当に深刻なんだろう。

「あ~俺はさぁ、器用貧乏って奴で、小手先の誤魔化しだけで生きてきたからさ、今さらそんな評価をされても身に余るっていうか、腰が引けるんだよ。こっちの世界に来て、興味のある事を見つけてあんた達のサポートを受けて上手くいって、ちょっと上手くいき過ぎっていうか信じらんないっていうか……俺は大した事をしてるつもりはねぇんだよ」
 上手く言えないけれど俺はなるべく正直に自分の気持ちを伝えてみた。
 ギルマスはフッと口元を綻ばせ、仕方がねぇなぁと言った。

「俺らからすれば、新人冒険者がいきなりトップクラスに祭り上げられるようなものなんだろう。お前が戸惑う気持ちもわからなくはない。力に溺れても困るしな。だがこれだけは覚えておいてくれ。お前には計り知れない価値がある。そのエンシェントドラゴンの石でも買えない程の価値がだ」
「……わかった」
 俺はちっとも納得できないけど頷いておいた。
 だって俺自身がどう思っていようと、周りが俺を有用だって判断するならちゃんとその事はわかってないと怖い目に遭う。
 無防備なまま拐われて、俺は自分の価値を知らなかったんだなんて言ったって通らない。幼児じゃないんだから、身に降りかかる火の粉は自分で払わなきゃいけない。
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