【完結】異世界って巨人の国ですか?【番外編だけ少し増えます】

うずみどり

文字の大きさ
上 下
99 / 181

㊹S級ダンジョン攻略-1(4/5)

しおりを挟む
 先輩の戦い方が荒くなっている。それは素人の俺にだってわかった。

「参ったな。一旦下げるか」
 ギルマスが迷いつつそう言ったが、それはちょっと待ってくれと俺が頼んだ。

「今下げられたら、先輩はきっともう立てなくなる。もう自分が立つ必要はないんだって諦めちゃう」
「う~ん、だけどな? このままじゃいずれ大怪我をする。勇者だけでなく、周りの人間も危ない」
「わかってる。わかってるけど……先輩には、何か切欠が必要なんだよ」
 人間はそういつまでも悩み続ける事は出来ない。
 何処かで打開するか諦めるのだ。
 そしてその切欠はきっとある。

「お前にそれが与えられるのか? どんなものだかわかるのか?」
「……わからない」
「じゃあ駄目だ。俺は今回のダンジョン攻略の責任者として、全体を見る必要がある」
「でも先輩を下げたからって、そんなの一時しのぎだろっ! どうせ最後にはあの人が必要になるんだ」
「それはどうかな。俺はダンジョンボスを倒すのはリッドでも良いと思ってる。リッドが戦って、討伐して、最後に仕留める役目だけを勇者が担えば良い」
「……本気で言ってんの?」
「そういうのもアリだって話だ」
 ギルマスの作り物じみた表情に急に背筋が寒くなる。
 彼が一個人としてはどんなに気の好い男でも、ギルドマスターとして下す判断は時として重く厳しい。
 大多数を活かすために個を切り捨てる、なんてことはこれまでにもしてきたんだろう。
 そういう役目だって理解してる。でも――。

「勇者は、勇者としてやってきただけで十分だって言ったじゃん。もっと信じてくれよぉ」
「泣くな。お前を泣かせたとリッドに知られたら俺が殺される」
「泣いてねえよ」
 俺はオロオロとしたギルマスの声を聞きながら、そうだ泣いている場合ではないと思った。
 泣いて哀れんで、それで誰かがどうにかしてくれる。そんな甘えが許される状況じゃねえ。
 オーケーわかった、俺がどうにかする。切欠が無ければ作ればいい。
 “わからない” も “出来ない” もナシ。俺がやる。

「ギルマス、九尾化の完全変態って見たことある?」
「いや、ないな。そもそも九尾が少ないし――って、何を考えてる?」
「俺も一緒に戦うよ。それだけの力はある」
「バカ野郎! お前は戦えないって――」
「戦える。誰かの為なら戦えるんだよ」
 そう言うと俺はギルマスが止めるのを無視してリッドたちの所へ転移した。

 ***

「ユウッ、どうした!?」
 戦いの最中だと言うのに駆け寄ってこようとするリッドを手で止め、俺はその場で九尾へと姿を変える。
 九本の尾がおどろおどろしく空にたなびき、辺りに暗雲が立ち籠めパチパチと火花が散り不吉な放電現象が起きる。
 俺は宙に浮いたまま悠然と辺りを見回し、先輩が苦戦していた小型の悪魔を前足で踏み押さえる。
 そしてケーンと一声鳴いて妖気を放出し、濃い妖気に悪魔たちが固まって動けなくなったのを機に、リッドが次々と悪魔を魔剣で斬り捨てていった。

「おいっ、呆けてねえで俺らも仕留めるぞっ!」
 B級三人が声を掛け合って残りの悪魔を片付けていく。
 間もなく一匹も悪魔がいなくなったのを確認して、俺は変態を解いた。

「ユウッ、これを羽織れ」
 素っ裸の俺にリッドがマントを掛けてくれる。
 変態を解いた後は服が消えているので困る。

「ユートも加勢に来たのか?」
 B級冒険者に訊かれて頷く。

「勇者が不調みたいだからね。戦えない俺でも九尾に変態すれば、それなりに戦力になるだろう?」
「ああ、心強いよ」
 歓迎ムードなのは階が下がって戦いが厳しくなってきたからだろう。
 九尾は魔物の中でも妖術を使う変わり種で、俺に妖術は使えないけど妖気の方はある程度操作出来る。
 広いダンジョン内をみんなを乗せて駆ける事も出来るし、一チームに一匹いると便利だ。

「ユウ、どうして来たんだ?」
 リッドに訊かれて俺は単なる気まぐれだと答えた。
「そんな筈はない」
「断言するなよ。俺はただ逃げるのを止めただけ。戦うのは好きじゃないけど、戦う事にした。それだけだよ」
 それ以上ごちゃごちゃ言うなとピシャリと態度で示したら珍しく空気を読んで黙った。
 それから九尾になるなら服をちゃんと持って来いと叱られた。

「まさか裸で歩き回るつもりじゃないだろうな」
「変態する度に脱ぐのは面倒だからそれでもいいんだけど……女性もいるし、マントくらいは身に着けるよ」
「駄目だ! 襲われたらどうする!?」
「お前、それは他の人に失礼だぞ?」
 ホイホイと九尾になるような男をお前以外に誰が襲うって言うんだよ。
 呆れてそう言ったら、何故かB級たちが揃って頬を染めた。

「襲わねえけど、尻尾を見ちゃったら……なあ?」
「プリンとしてるのに尻尾が付いてて可愛かった……。俺、今回の依頼に参加して本っ当に良かった」
「俺も襲う気はねえ。ただちょっと四つん這いになって尻尾をぴんと上げてくれれば……」
 なんかおかしな事を言い出した奴らを見て、俺は黙って卵の密室に戻りシャツとパンツを身に着けて来た。
 面倒だけど九尾になる前に服を脱ごう。
 それから尻尾は隠しておこう。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

処理中です...