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㊳冒険者だってお洒落がしたい-1
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俺は九尾の尻尾をほぼ誰にも見られること無く消す事に成功した。
完全変態を出来るようになったのだ。
「俺の前では尻尾を出していていいのに」
そう言って未練がましく俺の尻を撫でるリッドの手を叩き落とした。
「尻尾を出したらお前が触るだろっ!」
尻尾は相変わらず感じやすく、特に生えている付け根を擦られると骨抜きになってしまう。
尻尾を消せるようになるまで俺は何度リッドに抱き潰されたかわからない。
「それより代わりの素材って見つかった?」
俺は九尾の尻尾を女魔法使いさんの装備に使おうと思っていたので、代わりになる素材探しをリッドに頼んでいた。
「ああ、見つかったぞ。鬼女の腰巻き。これなら相当のスピードアップが見込める」
意気揚々と告げたリッドの手にしたものを見て俺は溜息を吐いた。
(ふぅ……。これだから冒険者は)
「あのなぁ、幾らレアだってそんなきったねぇ腰巻きを身に付けたい女の人はいねえよ! もっとこう綺麗で気分が上がるようなのがいいんだって!」
「そうか? 戦いの最中にそんな事を考える冒険者はいないだろう」
ダメだこいつはちっともわかっていない。
戦いの最中は気にしなくたって、普段身に付けるものなら気遣いたいのが女性だろうに。
「わかった。じゃああんたがいいと思ってるその鬼女の腰巻きと、俺が推せるラブリーな装備のどっちを付けたいか本人に選ばせよう」
「らぶりぃ?」
目を白黒とさせるリッドの表情がちょっと面白い。
でもここで甘い顔をしては俺の主張が認められないので、敢えて真剣な表情を繕って言う。
「そろそろギルドにも顔を出そうと思っていたところだ。何か良い素材がないか探してくる」
「ギルドで売られているものに大したものは無いと思うが――」
「いいのっ! 掘り出し物ってのはどこに転がってるかわかんねーんだからな」
死んだスライムだってこっちの人から見たら核にしか価値がない(核は燃料に使える)。
でも俺は人をダメにするスライムクッションを物凄く気に入っているし、プレゼントした受け付けのお姉さんも食堂のお姉さんも愛用してくれている。
価値なんて最初からあるんじゃなくて見出すものだ。
「お前がそう言うならまだ見つかってない価値があるんだろう。俺も楽しみにしてる」
ふわりと笑ったリッドに頭をポンと叩かれてふわふわとした気持ちになる。
俺はリッドの腕をそっと押さえて顔を上げた。
「行く前に、ちょっとだけキスしよ?」
勿論、キスはちょっとでは済まなかった。
***
ギルドの買い取り窓口には気の良いゴリラみたいな男がいて、俺を見て歯を剥き出して笑った(決して威嚇している訳ではない)。
「ユート、久し振りだな! またスライムか?」
「やあ。今日は面白い素材があるかと思って、見せて貰いに来た」
「う~ん、生憎だが大したものはねぇよ」
コングは申し訳無さそうにそう言ったが、俺は一通り見せて貰う事にする。
ついでに知らないものは片っ端から訊ねた。
「オークの皮、ゴブリンの皮、ビッグボアの牙――」
「これは?」
俺は胃袋みたいな生々しい袋を見て訊ねた。
ここにある以上はそんなに珍しいものじゃないんだろうが、俺は見たことがない。
「ああ、それはタランチュラの硬化液が入ってる」
「硬化液?」
「窓に嵌ってる透明な板だよ。あれはこいつから作るんだ」
コングの説明によると、硬化液は袋から出すまでは液状で、出してから暫く経つと透明な石のように固まるそうだ。
「でも石ほど硬くないし、建材や食器なんかにするのが一般的だな」
「へぇ……」
それって元の世界でいうアポキシ樹脂みたいじゃね? 或いはレジンとか?
「少しは魔力も含まれてるんじゃないの?」
「ほんの少しな。建築業界では断熱の魔法陣を刻んで使うなんてこともしているようだが、見た目が悪くて不人気だ」
見た目……。それは透明の窓ガラスに魔法陣が刻まれていたらお洒落では無いだろう。でもお洒落だったら?
「それ、一袋売って貰える? あと昆虫系の魔物の翅で綺麗なのがあったら欲しい」
「そんなものをどうするんだ?」
「ちょっとアクセサリーを作ろうと思って」
「アクセサリー?」
そんなものは見た事も聞いた事もないとばかりに首を傾げるコングに溜め息を吐く。
どうしてこれで可愛い嫁さんを貰えたんだろう?
「試作品が出来たらコングにも一つあげるからさ、たまには奥さんにプレゼントしてみたら?」
「それはありがたい!」
満面の笑みを浮かべた大男が無邪気でちょっと可愛い。
(いかんいかん、俺ってば感覚がおかしくなってるよ。コレが可愛いってナシだろう)
そう思いつつ買い取り倉庫内を探し回ってくれるコングはやっぱり可愛い。
奥さんには素敵なアクセサリーを作ってあげよう。
俺は細々とした素材をいっぱい抱えて家に帰った。
完全変態を出来るようになったのだ。
「俺の前では尻尾を出していていいのに」
そう言って未練がましく俺の尻を撫でるリッドの手を叩き落とした。
「尻尾を出したらお前が触るだろっ!」
尻尾は相変わらず感じやすく、特に生えている付け根を擦られると骨抜きになってしまう。
尻尾を消せるようになるまで俺は何度リッドに抱き潰されたかわからない。
「それより代わりの素材って見つかった?」
俺は九尾の尻尾を女魔法使いさんの装備に使おうと思っていたので、代わりになる素材探しをリッドに頼んでいた。
「ああ、見つかったぞ。鬼女の腰巻き。これなら相当のスピードアップが見込める」
意気揚々と告げたリッドの手にしたものを見て俺は溜息を吐いた。
(ふぅ……。これだから冒険者は)
「あのなぁ、幾らレアだってそんなきったねぇ腰巻きを身に付けたい女の人はいねえよ! もっとこう綺麗で気分が上がるようなのがいいんだって!」
「そうか? 戦いの最中にそんな事を考える冒険者はいないだろう」
ダメだこいつはちっともわかっていない。
戦いの最中は気にしなくたって、普段身に付けるものなら気遣いたいのが女性だろうに。
「わかった。じゃああんたがいいと思ってるその鬼女の腰巻きと、俺が推せるラブリーな装備のどっちを付けたいか本人に選ばせよう」
「らぶりぃ?」
目を白黒とさせるリッドの表情がちょっと面白い。
でもここで甘い顔をしては俺の主張が認められないので、敢えて真剣な表情を繕って言う。
「そろそろギルドにも顔を出そうと思っていたところだ。何か良い素材がないか探してくる」
「ギルドで売られているものに大したものは無いと思うが――」
「いいのっ! 掘り出し物ってのはどこに転がってるかわかんねーんだからな」
死んだスライムだってこっちの人から見たら核にしか価値がない(核は燃料に使える)。
でも俺は人をダメにするスライムクッションを物凄く気に入っているし、プレゼントした受け付けのお姉さんも食堂のお姉さんも愛用してくれている。
価値なんて最初からあるんじゃなくて見出すものだ。
「お前がそう言うならまだ見つかってない価値があるんだろう。俺も楽しみにしてる」
ふわりと笑ったリッドに頭をポンと叩かれてふわふわとした気持ちになる。
俺はリッドの腕をそっと押さえて顔を上げた。
「行く前に、ちょっとだけキスしよ?」
勿論、キスはちょっとでは済まなかった。
***
ギルドの買い取り窓口には気の良いゴリラみたいな男がいて、俺を見て歯を剥き出して笑った(決して威嚇している訳ではない)。
「ユート、久し振りだな! またスライムか?」
「やあ。今日は面白い素材があるかと思って、見せて貰いに来た」
「う~ん、生憎だが大したものはねぇよ」
コングは申し訳無さそうにそう言ったが、俺は一通り見せて貰う事にする。
ついでに知らないものは片っ端から訊ねた。
「オークの皮、ゴブリンの皮、ビッグボアの牙――」
「これは?」
俺は胃袋みたいな生々しい袋を見て訊ねた。
ここにある以上はそんなに珍しいものじゃないんだろうが、俺は見たことがない。
「ああ、それはタランチュラの硬化液が入ってる」
「硬化液?」
「窓に嵌ってる透明な板だよ。あれはこいつから作るんだ」
コングの説明によると、硬化液は袋から出すまでは液状で、出してから暫く経つと透明な石のように固まるそうだ。
「でも石ほど硬くないし、建材や食器なんかにするのが一般的だな」
「へぇ……」
それって元の世界でいうアポキシ樹脂みたいじゃね? 或いはレジンとか?
「少しは魔力も含まれてるんじゃないの?」
「ほんの少しな。建築業界では断熱の魔法陣を刻んで使うなんてこともしているようだが、見た目が悪くて不人気だ」
見た目……。それは透明の窓ガラスに魔法陣が刻まれていたらお洒落では無いだろう。でもお洒落だったら?
「それ、一袋売って貰える? あと昆虫系の魔物の翅で綺麗なのがあったら欲しい」
「そんなものをどうするんだ?」
「ちょっとアクセサリーを作ろうと思って」
「アクセサリー?」
そんなものは見た事も聞いた事もないとばかりに首を傾げるコングに溜め息を吐く。
どうしてこれで可愛い嫁さんを貰えたんだろう?
「試作品が出来たらコングにも一つあげるからさ、たまには奥さんにプレゼントしてみたら?」
「それはありがたい!」
満面の笑みを浮かべた大男が無邪気でちょっと可愛い。
(いかんいかん、俺ってば感覚がおかしくなってるよ。コレが可愛いってナシだろう)
そう思いつつ買い取り倉庫内を探し回ってくれるコングはやっぱり可愛い。
奥さんには素敵なアクセサリーを作ってあげよう。
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