【完結】異世界って巨人の国ですか?【番外編だけ少し増えます】

うずみどり

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⑮王都観光、またの名を王都ラブラブデート編−2

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 朝からたっぷりと出された肉料理を平らげ、俺とリッドは主要な観光スポット巡りに出掛ける。
 広場の時計塔とか石造りの魔物から水が流れ落ちる泉とか、どっかで見たことがあるようなものはもしかしたら異世界人が齎したものかもしれない。

「屋台で何か買うか?」
「それって絶対に観光客目当てだよな。食べ歩きするには丁度良いけど、今はいいや」
「なら城を見に行くか?」
「お城って一般公開されてんの?」
「されてないが、外から見るくらいは出来る」
 ふむ、とリッドの提案を考えてみる。
 聖女や勇者の痕跡なら城に一番残っていそうだけど、俺なんかに見せてくれる筈がない。
 それに自分の存在が国にバレるのも嫌だ。どうせギルドから報告が行ってるとは思うけど……。

「今日は目的を決めずに街中をぶらつこうぜ。見て回るだけでも俺には物珍しいからさ」
「ユウがそれでいいなら構わない」
「あんたは武器とか見たいものはないの?」
「そうだな、手持ちの投げナイフは補充したいが今日でなくてもいい」
「じゃあ通りかかったら入ろうな?」
 俺は遠慮なく目に付いた店に片っ端から入り、俺が手に取ったものを一々買おうとするリッドを止め、草鞋のパチモノを見つけて笑った。
 昼飯はリッドの薦める定食屋に入り、久し振りに魚を食べてご機嫌になる。

「街だと余り魚を食べられないからな~。その点、王都は食い物屋もバラエティに富んでる」
「王城があるからな。全ての品物は王都に集まってくる」
 そう言った後、王都に住みたいかと心配そうに聞かれて思わず噴き出した。

「遊びに来るならいいけど、住むのは落ち着かねぇよ。俺は程々に便利で、人の出入りが激しくないあの街がいい」
「なら良かった。王都はしがらみが多いから、お前にも苦労を掛ける」
 ん? って事は、俺が王都に住みたいって言ったら一緒に移住してくるつもりだったのか?
 仕事の事もあるってのに、簡単に考え過ぎだろ。

「俺の事は気にしなくていいぞ。この世界にも大分慣れたからな」
「俺はもう必要ないか?」
「そうは言ってない。お前は俺に縛られる必要はないんだって言ってる」
 A級冒険者を俺一人に縛り付けておくのは畏れ多いだろ?
 本当なら買った家にだって殆ど帰らないって、自分で言ってたじゃないか。

「縛られてる訳じゃない。単に俺がしたいからしてる」
 リッドは淡々とそう言ったけど、どうしても俺がリッドの邪魔をしているんじゃないかって気持ちが消えない。
 傍にいてくれるのが嬉しくて目を瞑っていたけど、本当は俺が突き放すべきなんじゃないか。俺から離れるべきなんじゃないか。そんな風にも思う。

「ユウト、また難しく考えているな?」
 キュッと鼻を抓まれて俺は眉間に皴を寄せる。
 最初は鼻の付け根から全部塞がれて、死ぬかと思ったそれも今は加減を覚えてそれほど苦しくない。

「お前は、A級冒険者だから……」
 だから俺なんかの世話を焼くよりもっと大事な仕事があるだろう。
 そう言ったら鼻で笑われた。

「力があるからってそれを役立てなきゃいけない訳じゃない。義務や世間体に縛られないのが冒険者だからな」
「でもA級になりたがってただろ?」
「A級にならないと入れないダンジョンがあるんだ」
「……それだけ?」
「ああ、それだけだ」
 俺は何だか騙されたような気分で唇を尖らせた。
 それを見てリッドが苦笑しながら頭に手を乗せてくる。

「頼られるのも、魔物と戦うのも嫌いじゃない。だが剣を揮うだけが人生じゃないって、お前に出会って気付いた。冒険は楽しい。だがお前と街で過ごす日々もまた楽しいんだ。それじゃ駄目か?」
「……駄目じゃない」
「よし、もう俺に悪いなんて思うなよ?」
「思わねーよ」
 ケッ! と悪態を吐きながらも俺はどうしよう、と思っていた。

(どうしよう、独り占めしていいなんて言われたら、元々甘ったれた性格の俺は際限なく甘えちまう)
 リッドと対等でいよう、大人らしく振る舞おう、子ども扱いされないように気を張らなくちゃって頑張っていたのに、コイツ自身が頑張らなくていいと言う。
 甘えてもきっと男の癖になんて言われない。

「リッド、やっぱりさっきの帽子買って」
「いいぞ。揃いの手袋も買おう」
「あと、傷に付ける軟膏も」
「それは俺が持っている方が効くぞ?」
「そうだけど、あれはちょっと匂いが……。あとオイルも入ってる方がいい」
「わかった。イイ匂いのを探そう」
 大真面目な顔でそう言った男からそっと目線を逸らす。
 リッドのバカは他の使い途なんて考え付きもしないんだろうけど、俺はそれをリッドの指に付けたらイイ感じなんじゃないかって思ってる。
 あいつが俺の後ろに触れる時のその指先に。

「ユウ? 顔が赤いがどうした? 疲れたか?」
「平気。軟膏は絶対に買って帰る」
「そうか。そんなに欲しいならもっと早く言えば良かったのに」
「今、欲しくなったんだよ」
 ちょっと前まではそんなものを買う気はなかった。
 使わせる気も、二人でそれを選ぶなんて恥ずかしい真似をする気も無かった。

(たった今、その気になったんだ)
 俺は火照る身体をどうにも鎮める術を知らず、ずっとふわふわと夢見心地で歩いた。
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