【完結】異世界って巨人の国ですか?【番外編だけ少し増えます】

うずみどり

文字の大きさ
上 下
35 / 181

⑬冒険者は団体旅行には向いていない-3

しおりを挟む
 怒りのままにズカズカと歩き続けたら結構な距離を来てしまい、すっかり灯りも見えなくなった。
 手に持ったランプ一つでは心許ない暗闇の中で、やっと恐怖を思い出して俺は引き返そうとした。
 けれどその時、大きな卵を見つけて足が止まった。

(うわ、でっかい卵)
 丁度ダチョウの卵がこんなサイズじゃなかったっけ?
 ダチョウの訳はないけれど、もしかしたら食べられるかもしれない。

(これだけ大きければ皆の分もあるよな)
 俺はホクホク顔で卵を持って帰り、得意気に掲げて見せた。

「ほら、卵を見つけちゃった。これって食えるんじゃね?」
「お前、それは――」
 卵を見たリッドが顔を強張らせるのを見て、ひょっとしたらやっちまったか? と焦る。

「それはガルーダの卵だ。この辺で嫌な気配を感じていたんだが、ガルーダの気配だったか!」
 ガルーダ? それってもしかしてゲームの終盤に出てくるようなボスキャラじゃね?

「えっと……卵を持ってきたのって、拙かったりする?」
「そうとも言えるし、お手柄だとも言える」
「それってどういう――」
「話は後だ。先にガルーダを始末する」
 そう言ってスラリと剣を抜いたリッドにびびる。
 奴らの持ち物は全て巨大だけど、魔剣は特に威圧感が凄い。
 俺なんて近付いただけで怪我をしそうだ。

「ユート、危ないからこっちに!」
 ニコに後ろから腕を引かれてリッドを気にしつつも下がる。
 リッドなら魔物にも負けないだろうけど――。

「怪我をするなよ」
 思わずそう声を掛けた俺に、リッドが少しだけ笑って手を上げた。
 そして心配する俺を他所に、リッドはあっさりと突進してきたガルーダを切り捨てて戻ってきた。

「おいっ! 少しくらい苦戦しねぇのかよっ!」
「そこまで強い魔物じゃない。珍しくはあるけどな」
 リッドの言葉通り、商人たちが素材を売って貰おうとガルーダにわらわらと集っている。

「ガルーダの羽根や爪も良い素材になるが、一番珍しいのはその卵だ」
「卵? そんなに旨いの?」
「バカ、食べるんじゃない。卵は特殊な魔道具になる」
「魔道具……」
 それじゃあ俺には使えないな、と卵を手放そうとしたらリッドに止められた。

「ユウトは密室創造魔法を知っているか?」
「描いたことはないけど、魔方陣帳に載っているのを見た」
「描けるか?」
「魔方陣帳を持ってきてるから、見ながらなら描けると思うけど……でもインクがないぜ?」
「俺の手を使う」
「あんたの手?」
「ユウが俺の手を動かせばいい」
 そう言われ、俺はニヤリと笑ったリッドに膝に乗せるように抱え込まれた。

「ちょ、なっ! 人に見られるっ!」
「今ならみんなガルーダのところに行ってる」
「でも……」
「いいからさっさと魔方陣を描け」
 リッドに促され、俺は小刀を握ったリッドの手をうんしょうんしょと動かした。
 久し振りに触れたリッドの身体も手も温かくて良い匂いがする。
 男の体臭なんて良い匂いの訳が無いんだけど、でも俺にはうっとりとするような胸が騒ぐような何とも言えない匂いだ。
 俺はポーッと身体を火照らせながら、卵の殻に密室創造の魔方陣を刻んだ。
 これでこの卵の中は異空間になり、卵を握って移動することが出来るらしい。

「早速使ってみよう」
 二人で卵を握ったままリッドが魔方陣を発動させ、気が付いたら俺達は白い漆喰のような壁に囲まれた室内に立っていた。

「ここが卵の中? 結構、広い――」
「ユウ。やっと二人きりになれたな」
 リッドの言葉にびくりと肩を震わせる。

「二人きりって、だって直ぐ外に皆が――」
「ここは異次元だから、外とは隔絶されてる。どんなに声を出しても聞こえないから、安心していい」
 そう言われたってちっとも安心なんて出来ない。寧ろ不安しかない。
 けれど俺は、俺もそれを望んでいたのだと心のどこかでわかっていた。
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。

石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。 実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。 そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。 血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。 この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。 扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

急に運命の番と言われても。夜会で永遠の愛を誓われ駆け落ちし、数年後ぽい捨てされた母を持つ平民娘は、氷の騎士の甘い求婚を冷たく拒む。

石河 翠
恋愛
ルビーの花屋に、隣国の氷の騎士ディランが現れた。 雪豹の獣人である彼は番の匂いを追いかけていたらしい。ところが花屋に着いたとたんに、手がかりを失ってしまったというのだ。 一時的に鼻が詰まった人間並みの嗅覚になったディランだが、番が見つかるまでは帰らないと言い張る始末。ルビーは彼の世話をする羽目に。 ルビーと喧嘩をしつつ、人間についての理解を深めていくディラン。 その後嗅覚を取り戻したディランは番の正体に歓喜し、公衆の面前で結婚を申し込むが冷たく拒まれる。ルビーが求婚を断ったのには理由があって……。 愛されることが怖い臆病なヒロインと、彼女のためならすべてを捨てる一途でだだ甘なヒーローの恋物語。 この作品は、他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(ID25481643)をお借りしています。

【完結】僕はキミ専属の魔力付与能力者

みやこ嬢
BL
【2025/01/24 完結、ファンタジーBL】 リアンはウラガヌス伯爵家の養い子。魔力がないという理由で貴族教育を受けさせてもらえないまま18の成人を迎えた。伯爵家の兄妹に良いように使われてきたリアンにとって唯一安らげる場所は月に数度訪れる孤児院だけ。その孤児院でたまに会う友人『サイ』と一緒に子どもたちと遊んでいる間は嫌なことを全て忘れられた。 ある日、リアンに魔力付与能力があることが判明する。能力を見抜いた魔法省職員ドロテアがウラガヌス伯爵家にリアンの今後について話に行くが、何故か軟禁されてしまう。ウラガヌス伯爵はリアンの能力を利用して高位貴族に娘を嫁がせようと画策していた。 そして見合いの日、リアンは初めて孤児院以外の場所で友人『サイ』に出会う。彼はレイディエーレ侯爵家の跡取り息子サイラスだったのだ。明らかな身分の違いや彼を騙す片棒を担いだ負い目からサイラスを拒絶してしまうリアン。 「君とは対等な友人だと思っていた」 素直になれない魔力付与能力者リアンと、無自覚なままリアンをそばに置こうとするサイラス。両片想い状態の二人が様々な障害を乗り越えて幸せを掴むまでの物語です。 【独占欲強め侯爵家跡取り×ワケあり魔力付与能力者】 * * * 2024/11/15 一瞬ホトラン入ってました。感謝!

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

処理中です...