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⑦騙しやすい奴は異世界でもやっぱり騙される-3
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「名前を貸せ?」
こっちの世界にしてはやや背の低い優男にそう言われ、俺は思い切り不審そうに眉を顰めた。
男は俺の態度を気にせず笑顔のままグイグイと迫って来る。
「いえ、名前を貸して欲しいと言っても、あなたが作ったものだと嘘を吐くつもりはありませんよ? 本家本元のあなたが私の商品を見て、これなら名前を出しても良いと思ったら商品保証みたいな感じで名前を使わせて頂きたいんです」
「でも、どんなに良く出来た物でも魔法効果の無い物は認められない」
「勿論、同じ商品としては販売しません。商品名も変えます」
「だったら俺の名前はいらないんじゃないか?」
「粗悪な類似品より、良く出来たランク落ちが出回る方が良いと思いませんか? 世間がこんなに求めているのに、それを作るあなたは一人しかいないんですから」
ハイエンドなメインブランドに手が出せないなら、良く出来たセカンドラインで購入して欲を満たす。
それは向こうの世界なら一般的な事で、俺としても自分が目で見て確認した商品が別のラインとして出回るなら良いような気がした。
(でもライセンシーとは揉め事が付き物だったからな。慎重にいかないと)
俺はとにかく品物を見せてくれと言ってみた。
男が出してきたものはなかなか良く出来ていて、これならもう少し手を入れたら売れそうな気がする。
「もう少し改良した方が良いと思うし、素材もこれじゃダメだけど……」
「ご教授を頂ければ直ぐに直します。この為だけにお時間を頂戴するのは申し訳ないので、食事をしながら話しませんか?」
「まあ、食事くらいなら」
リッドとルスカは長期の依頼でいなかったし、ギルマスは忙しいから暫く人と一緒に食事をしていなかった。つまり俺は人恋しい気分だった。
「レッドホーンブルのシチューはもう召し上がりましたか? この街の隠れた名物で、ワインとも良く合いますよ」
「ワインかぁ……」
暫くそんな上品なものは飲んでいない。
そもそも俺の見た目が子供っぽい所為か、周りが余り酒を飲ませてくれない。
「たまには飲んでもいいかな」
「ええ。ちゃんと帰りは家までお送りします」
「そこまでしなくていいけどさ」
「いえ、是非そうさせて下さい」
熱心に言い募られてちょっと前の世界の接待を思い出してしまった。
あの時はする側だったけど俺も接待される立場になったのか、じゃあちょっとくらいチヤホヤされたっていいよな、なんて思ったのが拙かった。
診療所まで送って来た男に部屋に押し入られ、ブランドロゴを発行する魔道具を出せと言われた。
「ハァ、詐欺師だったのかよ」
「あんたはどうやら引っ掛かりそうもないから、ブランドロゴを頂いて売り払う事にした」
まあ俺のブランドロゴを売ったら小銭くらいは稼げるのかもしれないけど。
「ないよ」
「はぁ?」
「俺は魔力が無いから、ブランドロゴを発行する魔道具が使えなかったんだ。だから代わりにギルマスに押して貰っている」
「そんな、嘘だろう!?」
勿論嘘だった。
俺には魔力はないけど、リッドに貰った大きな魔石がある。
「このまま大人しく帰ればあんたの事は忘れてやる」
「仕方がない、手間だがコイツ自身を売っ払うか」
「聞けよっ!」
「うるさいっ! 手ぶらで帰れるかっ!」
そう言うと男が俺に手を伸ばしてきた。
(しまった! 自分自身の御守りを作っていないなんて。俺はバカだ)
襟首を掴まれて引き寄せられ、吊り上げられてから小柄だと思っていた男が自分よりは大きかった事に気付く。
俺はバカバカだ。リッドと比べたら小さいなんて当たり前じゃないか。あいつは超一級の、A級冒険者なんだから。
「人が、来るぞっ!」
「他に入ってるのは爺さんが一人だけ。調べ済みだ」
完全にターゲットにされてたのに気付かなかったなんて、俺のバカバカバカ。大ピンチ。
「おい、暴れるなっ! 大人しくしてたら可愛がってやるよ」
(ちっとも嬉しくないっ!)
俺は誰もいないとわかっていたけど叫ばずにはいられなかった。
「リッド! 助けろ!」
直後にドカン! という大きな音がして扉が開き、呆れたような声が聴こえてくる。
「『助けて』じゃなくて『助けろ』ってところがお前らしいな」
「リッド!」
「本当に目が離せない奴だ」
そう言うとリッドは無造作に近付いてきてあっという間に詐欺師を当て落とした。
こっちの世界にしてはやや背の低い優男にそう言われ、俺は思い切り不審そうに眉を顰めた。
男は俺の態度を気にせず笑顔のままグイグイと迫って来る。
「いえ、名前を貸して欲しいと言っても、あなたが作ったものだと嘘を吐くつもりはありませんよ? 本家本元のあなたが私の商品を見て、これなら名前を出しても良いと思ったら商品保証みたいな感じで名前を使わせて頂きたいんです」
「でも、どんなに良く出来た物でも魔法効果の無い物は認められない」
「勿論、同じ商品としては販売しません。商品名も変えます」
「だったら俺の名前はいらないんじゃないか?」
「粗悪な類似品より、良く出来たランク落ちが出回る方が良いと思いませんか? 世間がこんなに求めているのに、それを作るあなたは一人しかいないんですから」
ハイエンドなメインブランドに手が出せないなら、良く出来たセカンドラインで購入して欲を満たす。
それは向こうの世界なら一般的な事で、俺としても自分が目で見て確認した商品が別のラインとして出回るなら良いような気がした。
(でもライセンシーとは揉め事が付き物だったからな。慎重にいかないと)
俺はとにかく品物を見せてくれと言ってみた。
男が出してきたものはなかなか良く出来ていて、これならもう少し手を入れたら売れそうな気がする。
「もう少し改良した方が良いと思うし、素材もこれじゃダメだけど……」
「ご教授を頂ければ直ぐに直します。この為だけにお時間を頂戴するのは申し訳ないので、食事をしながら話しませんか?」
「まあ、食事くらいなら」
リッドとルスカは長期の依頼でいなかったし、ギルマスは忙しいから暫く人と一緒に食事をしていなかった。つまり俺は人恋しい気分だった。
「レッドホーンブルのシチューはもう召し上がりましたか? この街の隠れた名物で、ワインとも良く合いますよ」
「ワインかぁ……」
暫くそんな上品なものは飲んでいない。
そもそも俺の見た目が子供っぽい所為か、周りが余り酒を飲ませてくれない。
「たまには飲んでもいいかな」
「ええ。ちゃんと帰りは家までお送りします」
「そこまでしなくていいけどさ」
「いえ、是非そうさせて下さい」
熱心に言い募られてちょっと前の世界の接待を思い出してしまった。
あの時はする側だったけど俺も接待される立場になったのか、じゃあちょっとくらいチヤホヤされたっていいよな、なんて思ったのが拙かった。
診療所まで送って来た男に部屋に押し入られ、ブランドロゴを発行する魔道具を出せと言われた。
「ハァ、詐欺師だったのかよ」
「あんたはどうやら引っ掛かりそうもないから、ブランドロゴを頂いて売り払う事にした」
まあ俺のブランドロゴを売ったら小銭くらいは稼げるのかもしれないけど。
「ないよ」
「はぁ?」
「俺は魔力が無いから、ブランドロゴを発行する魔道具が使えなかったんだ。だから代わりにギルマスに押して貰っている」
「そんな、嘘だろう!?」
勿論嘘だった。
俺には魔力はないけど、リッドに貰った大きな魔石がある。
「このまま大人しく帰ればあんたの事は忘れてやる」
「仕方がない、手間だがコイツ自身を売っ払うか」
「聞けよっ!」
「うるさいっ! 手ぶらで帰れるかっ!」
そう言うと男が俺に手を伸ばしてきた。
(しまった! 自分自身の御守りを作っていないなんて。俺はバカだ)
襟首を掴まれて引き寄せられ、吊り上げられてから小柄だと思っていた男が自分よりは大きかった事に気付く。
俺はバカバカだ。リッドと比べたら小さいなんて当たり前じゃないか。あいつは超一級の、A級冒険者なんだから。
「人が、来るぞっ!」
「他に入ってるのは爺さんが一人だけ。調べ済みだ」
完全にターゲットにされてたのに気付かなかったなんて、俺のバカバカバカ。大ピンチ。
「おい、暴れるなっ! 大人しくしてたら可愛がってやるよ」
(ちっとも嬉しくないっ!)
俺は誰もいないとわかっていたけど叫ばずにはいられなかった。
「リッド! 助けろ!」
直後にドカン! という大きな音がして扉が開き、呆れたような声が聴こえてくる。
「『助けて』じゃなくて『助けろ』ってところがお前らしいな」
「リッド!」
「本当に目が離せない奴だ」
そう言うとリッドは無造作に近付いてきてあっという間に詐欺師を当て落とした。
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