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前編
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アイツとマトモにコンタクトを果たしたのは、中学に入ってから半年くらい経った時のことだった。
「家に、届ける……? 俺が、ですか?」
「ああ、先生な、ちょっと今から職員会議があるんだ。たまにはクラスメイトの顔を見た方が、ミサワも刺激になって良いだろうし」
担任は俺に手書きの地図とファイルを押し付け、悪いけど、なんて微塵も悪びれずに言った。
何のことはない。運が良かったのか、悪かったのか、その日は俺が日直で、暇な自転車通学の帰宅部で、担任が忙しかった。ただそれだけのこと。
それだけのことで、俺は、入学してまもなく不登校になったクラスメイト、御澤 孝文の家に、週報やら課題やらのプリントを届けに行くことになったわけだ。
手書きの地図のカスみたいな情報を頼りに、マップアプリのナビ機能を使って、どうにかたどり着いた御澤の家は、世間知らずの中学生ですら悟って余りあるくらい、底知れない財力を感じさせるような、古式ゆかしい日本家屋のお屋敷だった。
荘厳な門構えに圧倒されつつインターホンを押すと、実に人当たりのよさそうな女性の軽やかな声がした。要件を告げると、暫くして、着物に割烹着を着た、年かさながら上品な女性が迎えに来てくれた。その人は御澤の母親でも祖母でもなく、お手伝いさんだった。あいた口がふさがらなかったのをよく覚えている。
御澤のことは名前ばかり知ってるだけで顔も覚えていなかったが、まさかこんな立派なお屋敷に住む、いかにもな良家のボンボンだったとは。そんな衝撃で、俺はミヨさんと名乗るお手伝いさんの後を付いていくことしか出来なかった。
ただプリントを渡して帰るだけでよかったことに気付いたのは、あれよあれよと離れに連れて来られてからで。今更引き返すことも出来ず、実に気まずい思いをしながらの対面。
「孝文ぼっちゃま、クラスメイトの方がお見えでしたので、お連れしましたよ」
「え……!?」
ふすまの奥から、そんな素っ頓狂な声が聞こえてくる。確かに、アポなしのクラスメイト凸は驚くよなあ、なんて、罪悪感と親近感が喉を突き上げた。恨むなら思いつきで日直をパシッた担任を恨んでくれ、なんて思いつつ。
「開けますね」
「ちょっ、待っ」
制止の声もむなしく、ガラリと開け放たれた先にいた御澤。予想よりずっと身だしなみはきっちりしていて、流石はボンボン、と思いはしたが。
何より先んじた印象は、ふとましい、だった。
そう、出会った頃の御澤は、結構なレベルでぽちゃっとしていたのだ。頬は雪見だいふくみたいにプクプクしていて、首が殆ど顎肉に埋もれ、色白なことと、白い服を着ていたことから、失礼にも雪だるまみたいだな、なんて思ったくらいだった。
しかし、その顔立ちはいかにも温和で、そのつぶらな瞳はどこか気弱そうに、落ち着きなく泳いでいた。頼りなさげだが、甘やかされてわがまま放題ってことではなさそうだ、と直感的に分かった。
ミヨさんは無慈悲にも、お茶と付け合わせをご用意いたしますね、と一言言い残し、ハタハタと駆けて行った。お気遣いなく、すぐ帰りますと、何度も頭の中で復唱したセリフをまたもや言い損ねてしまい、俺は所在を無くして立ち尽くした。
「あ、ご、ごめん……! よかったら、座って! 散らかってるけど」
「いや……それは全然……それじゃ、お言葉に甘えて……スマセン」
シツレイシマァス、と裏返った声を出しつつ、俺は恐る恐る敷居をまたいだ。散らかってるなんて言っても、本やら上着やらが少々床に落ちているくらいで、俺からすれば奇跡みたいに整然とした部屋だった。これが散らかってるというなら俺の部屋なんて地獄だろう。足の踏み場があるだけまだマシなのだから。
俺はちゃぶ台を挟んで向かいに座り、ペコと頭を下げた。
「なんつーか、こっちこそ、急にごめんな。ヨッシー先生に頼まれて、俺が日直だったから、プリント届けに来ただけなんだ。上げてもらうつもりは無かったんだけど」
「ああ……きっとミヨさんがはしゃいだんだよね。クラスメイトがうちに来るなんて初めてだから、張り切ってるんだと思う」
「そ、そっか……」
俺は顔を引きつらせながら、おずおずとファイルを差し出した。遠慮がちに受け取る御澤のありがとう、を最後に、実に気まずい沈黙が流れる。
せめてミヨさんが来るまでは話を繋げなければ、と思い、俺は恐る恐る口を開いた。
「あ、そう言えば、俺名乗ってなかったよな、えと……一応同じクラスの」
「あ、田島くん、だよね。田島、直樹くん。出席番号17番」
「ウェッ!?!?」
今度は俺が素っ頓狂な声を出す番だった。面識なんて殆どなかったはずだ。それなのに、顔と名前が一致するだけじゃなく、まさか出席番号まで把握されてるなんて。
中学が始まって半年たつが、御澤の出席日数は二桁にも満たないはずだ。それも、殆どが保健室登校。今までに2度あった定期テストだって、保健室で受けていた。
それなのに、地味で存在感のない俺のことすら認知しているとは。
「もしかして、だけど……クラス全員のこと覚えてたりする……?」
「あ、うん、一応……入学式の時に、同学年までは頭に入れた……ごめん、気持ち悪かったよね」
「いやいやいやいやいやいや!! 天才でしょ!!!! そりゃテストでも10位以内に入るはずだよ!! すげえ!!!!」
俺は思わず膝立ちになって、ちゃぶ台に上半身を乗り上げ、興奮気味に捲し立てた。そう。名前だけはしっかり印象に残っていた理由がこれだ。
この御澤という同級生は、全く授業を受けていないにも関わらず、自宅学習と課題提出だけでテストの上位にしれっと入るような成績優秀者なのである。
頭がいいのは十分知っていたが、まさかここまでとは。純粋に感動してテンションが上がってしまった。すげえ奴に名前覚えられてたらそりゃ嬉しくもなる。
しかし、御澤は俺のテンションについていけず、目を白黒させて呆気に取られていた。にわかに気まずくなり、俺は顔を真っ赤にして引き下がった。いかにも品行方正な居ずまいの御澤が相手だったから、余計、自分の行儀の悪さが際立つようで、いたたまれなかった。
ややあって、俯いた御澤は、絞り出すような声で独白した。
「全然、僕なんか、出来損ないだよ。全然登校できないし、閉じこもってばっかりで、両親にも呆れられてる。何でそんなに虚弱なんだって。ちゃんと学校に行ってる人の方が、ずっとすごい」
「そんなもんかなあ……俺なんか中学に入ってから平気で授業中寝てるし、宿題なんて出さねえし、テストも一夜漬けでボロボロだし、部活にも入って無いからソッコーで家帰ってゲームばっかしてんだぜ。ちゃんと学校行ってるったって、母さんに叩き起こされて家から叩き出されるから仕方なくって感じ。実際はこんなもんだよ。それだけ頭いいんだからさ、もっと気楽でいてもいいと思うけど」
「気楽、に……」
「そうそう! それだけ真面目なのに学校来れねえってことはさ、何かのっぴきならない事情があるんだろ? まあなくても別にいいと思うけど。期末学年6位の君が危機感持ってたら、100位以下の俺なんかもっと焦んなきゃじゃんか。大丈夫だって、きっとなんとかなるよ。俺が今のところ何とかなってんだからさ! アッ、安心できないか!」
ワハハ、と笑って、やがて少し虚しくなったので、両手を背後の床について仰け反り、天井を仰いでため息をついた。なんだか気遣いが空回りしたような気がしてならなかったのだ。
事情なんてよく知らない癖に、デリカシーのないこと言いまくったかもしれない。俺社会的に死ぬかも、人生終わった? もしかして。ごめん親父、母さん。先立つ不孝を許してメンゴ。
そこまで発想を飛躍させたところで、俺は跳ね起きるみたいに姿勢を直し、更に顔を真っ青にした。予期せず、すすり泣く声が聞こえ始めたのである。
「あ、うわ、すみません、マジで無神経でした殺してください!! 何も知らない部外者が知ったような口をきいてしまって、オワーッ」
俺は取り乱しながらとりあえず畳に額をこすりつけて土下座した。俺の首は刎ねても、AKBのことは嫌いにならないでください!! ついでに家族の命もできれば勘弁してくれ!!
しかし、無様を晒した甲斐なく、御澤の涙は更に勢いを増した。俺はガチモンの死を覚悟した。こんな場面をミヨさんに見られでもしたら、きっと彼女は豹変して薙刀とか持ち出してくるに違いない。大事な坊ちゃんを虐めた不届き者はきっと刀のサビになって挙句庭の鯉の餌になるのだ。知ってるんだおれは。サマー○ォーズで見たもん。
涙を堪えてスンスンと鼻を啜っていると、失礼します、の一声とともに、スウと襖が開く。思いつく限り最悪のタイミングだ。俺には軽やかなミヨさんの声が死神のそれに思えた。
「まあまあまあ!! 坊ちゃまがた、いったいどうなさったのです! あらあらもう孝文坊ちゃまったらこんなにお涙を召されて……! お客さまの方は、まさかお腹の具合が……!?」
「いえ……俺が無神経なことを言ってしまって……」
「まあ、お客さま! うちの孝文坊ちゃまが、それしきのことで涙を流されるなんて、ミヨはとても思えません。ささ、坊ちゃま、こちらでお拭きを。いったい、どうなさったのですか?」
俺は恐る恐る顔を上げ、御澤の顔色をうかがった。雪見だいふくがいちご大福みたいになっていたが、そこに悲痛なものは浮かんでいないように見えた。希望的観測かもしれないが。
「ごっ、ごめんなさい……田島くんは何も悪くない。ただ、心が急に軽くなって、自分でも驚いたというか……訳も分からず勝手に涙が溢れてきて、どうしていいか分からなくて、こんなこと初めてだから、一層混乱で頭が真っ白になったんだ」
「や、でもマジでごめん、配慮が足らんかったと思う。俺のことなんか庇わなくっても」
「違うんだよ、本当に、どうしたら信じてくれるかな……とりあえず姿勢を戻してよ、いたたまれない……急に泣き出したりなんかしてごめん。悲しいとか、悔しいとか、そういうことで涙が出たわけじゃないからね」
御澤はそう言いながら、俺の肩を恐る恐るといったような手つきで掴み、押し返すように起こしてきた。なんだかこの言葉を嘘だと思う方が気の毒な気がしたので、俺はそれ以上何も言わなかった。
「ウフフ、心配することは何も無かったようで、安心いたしましたわ。ささ、こちら粗茶ですが、よろしければおあがりくださいませ。お邪魔虫はこの辺でお暇いたします」
ふくふくとご機嫌そうに笑って、ミヨさんはあっという間にお茶と、見るからに高級そうな和菓子を付け合わせに配膳し、去っていった。
俺はお茶の作法なんて全く分からなくて冷や汗をかいた。御澤の真似をしようと思いジッ……と凝視したが、当の本人はこっちの気も知らないで眉を下げて首を傾げるだけ。一向に手を付けようとしないので、結局普通に白状することにしたのだった。
「あー、その、ごめん。俺、こんなふうにちゃんとしたお茶とかお菓子とか出してもらうの初めてでさ……マナーとか全然分からんのよ」
「マナー? ここには僕しかいないし、誰も気にしないよ。好きなように嗜もう、ね」
「たっ、たしな、む」
なんか言われたこと全部高度なものに思えてしまい、見るからにカチコチになって、未調教のボイスロイドみたいに声が裏返った。すると、御澤はプッと吹き出し、プルプルと震え始めた。馬鹿にされた感じは全くしなくて、寧ろ少し警戒心を緩めてくれたようで面映ゆかった。
そんなことで、思いがけず打ち解ける事が出来た俺たちは、その後面白いくらい会話が弾み、外が暗くなったことに気付かないほどまで話し込んだ。
何よりうれしかったことは、御澤の部屋にTRPGのルールブックが沢山あり、御澤自身も造詣が深かったことだ。俺は両親の影響で昔からボドゲとかTRPGが大好きで、今も熱中しているのだが、これまで同じ趣味の友達なんて一人としていなかったのだ。
クトゥルフ神話の話ができるタメなんていないと思っていただけに、これが飛び上がるくらい嬉しくて、絶対にこの場限りの縁にしたくないと思った。
「あ、あのさ! もし、迷惑じゃなければ、また、俺がプリント届けに来てもいいかな。もっと君と話がしたいし、ゲームも一緒にやりたい、なんて」
「……! 勿論!! プリントなんて無くても、いつでも来て!! 絶対一緒にやろう!」
俺たちは固い握手を交わし、ついでにLINEも交換した。そして、その口約束通り、俺はそれから頻繁に御澤の家を訪ねるようになり、御澤の体調が良ければ、休日も日がな一日入り浸った。
御澤とボドゲをするのはもちろん、ただ駄弁っているだけでも本当に楽しかった。御澤の知識と知能はどこまでもずば抜けていて、なんの話をさせても息を飲むほど面白かったし、御澤も御澤で学校での他愛のないことを話すと嬉しそうに聞いてくれた。
その上、御澤はテスト前になると俺の勉強を親身になって見てくれた。それも、御澤の教え方は本当に分かりやすくて、腰を抜かすくらい成績が急上昇したのだ。
他愛もない低次元な俺の疑問も、真剣に取り合って考えてくれる御澤のことが、みるみる大好きになった。こんなに尊敬すべき凄い奴が仲良くしてくれることが本当に誇らしくて、クラスの連中は御澤がどんなに凄い奴か知らないんだ、なんて優越感を抱く始末だった。
御澤の素晴らしさを世間に知らしめたい、という気持ちはもちろんあったが、少しでも長く俺が独占していたい、と思っていたのも事実で。
だから、御澤と仲良くなってから1年と少し経った時、御澤からその言葉を聞かされて、俺は心から喜んで祝福すべきだったのに、それが上手くできなかった。
「手術を受けることになったよ。だから、来月からしばらく入院するんだ」
御澤の不登校の原因は、とある難病だった。小学五年生の時に発症したというその病気のせいで、少し運動をするだけですぐに体調を崩す体質になってしまい、立って何か活動をすることすら避けなければならなかったのだ。
俺の頭じゃ詳しいことは殆ど理解出来なかったが、とにかく、最先端の医療が受けられる大病院で手術と治療を受ける手筈がようやく整い、成功すれば普通の健康な人と変わらないレベルまで活動強度を上げても大丈夫になるらしかった。
「あ、お、お見舞いって、行っても……?」
「勿論! 暇なときでいいから、顔を見せに来てくれるとうれしい。ナオキくんといると不安なんて吹き飛ぶからさ」
「おお、任してくれよ、能天気だけが取り柄の俺だぜ」
なにそれ、と言ってクスクス笑う御澤の笑顔に、たまらなく、胸がドキドキした。そうだ、彼の笑顔に胸が高鳴るのは、これが初めてではない。
ボドゲで俺を嵌めた時の、してやったりな笑顔。ファンブルに打ちひしがれる俺のリアクションを見て、心底愉快そうに笑う、不敵なまなざし。暇だからといってTRPGのシナリオを書き上げてくれて、そのあんまりな出来の良さに、興奮のまま褒めたたえた時に見せてくれた照れくさそうな微笑み。
テスト勉強を教えてくれた日、俺が応用問題を自力で解いてみせた時の、なぜか誇らしげな笑顔。俺の他愛ないギャグで吹き出した時の、無邪気で屈託ない笑顔。
俺はこの時ようやく自覚した。御澤が笑ってくれた時が一番うれしくて、幸せで。
親友としてではなく、恋愛的な意味で、彼のことが好きになってしまっていたのだ、と。
彼を笑わせるのは俺だけであってほしい。彼の唯一は俺でありたい。誰にも、この魅力を知られたくない。そう、思ってしまったのだ。
でも、俺と一緒に学校に行きたいから、と嬉しそうに笑う御澤を見てしまったら、そんな自分勝手で汚れた感情が許せなかった。だから、決して御澤にだけはバレてはいけないと、隠し通すことを決めた。
こんな自分を知られたら、きっと困らせてしまうだろうから。俺のせいで御澤の表情が曇るところだけは、絶対に見たくなかった。
結局、御澤の入院期間は半年にも及んだ。難しい大手術だったようで、しばらくは寝たきりから起き上がることも出来なくて。俺は受験勉強もなおざりで毎日のようにお見舞いに通った。
入院期間で、御澤は別人のようにやつれてしまった。そんな姿を目の当たりにするのは本当に辛くて、だからこそ、御澤の必死のリハビリで、みるみる元気な姿を取り戻していくのが、我が事のように嬉しかった。
御澤は、夏休みの終盤ごろ、無事に退院した。見違えるほど元気になって、人が変わったように生き生きとしていた。俺としては、もっと食べて太ってもらわないと気が休まらない姿だったけれど。
「中学はもう今更って感じするし、高校から本格的に通うことにするよ。なんとか間に合わせるから、絶対一緒の高校行こうね! 因みに、受験勉強の進捗はどう? 判定は?」
退院して早々、御澤は実に痛いところをクリティカルに突いてきて、俺は冷や汗をかいた。何せ、受験勉強なんて殆ど手につかなくて、勉強なんて教えてもらうどころの話じゃなかったから、滅茶苦茶成績が落ち込んでいたのだ。
「あ、あの、えっと、ですね」
「……ナオちゃん、模試の結果、見せてくれるよね」
「はい」
一応、入院前に二人で示し合わせていた、県内で一番の進学校を第一志望にはしているものの、現状DからC判定を行ったり来たりしているような始末で。
「……一緒に頑張ろうか」
「はい」
それから受験までの期間は果てしない勉強地獄だった。結果、御澤のおかげで俺は予備合格からの追加合格、御澤にいたっては主席合格だった。ちょっと前まで入院生活を送っていたのにこれだ。もしかしなくても、元気に3年間中学で勉強できていれば、平気で全国でも最高峰の高校に行けたのではないだろうか。
俺に合わせてくれた、という後ろめたさもありつつ、一緒の高校で、今度は御澤と一緒に学校生活を謳歌できると思うと、たまらなく嬉しかったことに違いはない。
最初は不安がって俺のそばから頑なに離れようとしなかった御澤。身長も俺より低かったから、小さくてぽちゃぽちゃした生命体が俺の後ろに隠れて常についてくるのがたまらなく愛おしかった。そんな気弱な奴が、実はすごい奴ってことを俺だけが知っているという優越感もあったことは否定できない。
しかし、高校に入学して3カ月ほど経った頃から、そんな御澤に異変が起こり始めた。
やや遅れてきた成長期か。身長がメキメキと大きくなっていき、更には、あの愛らしいぽっちゃり体型が、みるみるスリムになっていくのである。
クラスメイトは全く気付かなかったが、常に御澤のことを見ている俺には一目瞭然だった。
必死で購買のハイカロリーな菓子パンを休み時間ごとに差し入れたり、週に3回くらいスイパラに連れて行ったり、田舎のばあちゃんよりも口うるさく「ちゃんと食え」と言い含めたにも関わらず、その努力もむなしく、俺の愛の面積は減少していった。
そして、一学期が終わり、夏休みに入ってしばらくすれば、その異変は決定的なものとして俺の目の前に現れた。
「……え? モデル?」
「なにが? と言うか聞いてよ! せっかく初めての海外だったのに、関節がずっと痛くてさあ、全然楽しめなかった……ナオキくんがいないからつまらないし、兄さんたちはずっとカジノに入り浸ってるし……次は一緒に行こうね、マリーナベイサンズ」
一週間のシンガポールでのバカンスから帰ってきたと連絡が来た次の日、家を訪ねた俺を出迎えた御澤は、まるで別人になっていた。
俺は泣いた。玄関先で文字通り崩れ落ちた。
どんな姿になっても御澤のことは好きでたまらないが、御澤の愛おしい一部である贅肉がどこかへ消えてしまったことが、切なくてならなかったのだ。シンガポールに落ちているなら今すぐ取り戻しに行きたいと本気で思った。
「ナオキくん!?!? 何、どうしたの!?」
「いや、え……? どうしたのはこっちのセリフだが……シンガポールの飯はそんなに合わなかったのか? だからサッポロ一番を日数分持って行けって言ったじゃんか……こんなに痩せて帰って来るなんて、そうだと分かっていれば、俺、俺……」
「あ、ああ! そう言えば、ミヨさんも見違えたって言ってたなぁ。もしかして、痩せたらだめだった?」
「駄目なんてことは無いけどさあ……健康ならそれが一番だし……でもなあ、寂しいなあ、頑張って食べさせたつもりだったのになぁ」
今日も今日とて差し入れとしてコンビニで買って来たアイスやらスナック菓子やらを掲げ、俺はフラフラと立ち上がる。そして、改めて、その姿をまじまじと直視した。
俺の身長に迫りつつあった背は、タメかそれ以上にまで伸び、もしかすれば更に伸びるかもしれない。顔つきも、昔の愛嬌が殆どそぎ落とされ、代わりにどこか色っぽさもある、上品で落ち着いた正統派美男子にメタモルフォーゼ。嘘みたいな本当の話だ。
腰の位置が高く、足がスラリと長い、まさにモデル体型だ。惚れ惚れするほど抜群のプロポーションである。だが、敢えてこう言わせてもらおう。どうしてこうなった。ただでさえ魅力満点なのに、更に魅力が増えるなんて聞いてない。
「元気になってからさ、ナオキくんと一緒に動き回れるのが嬉しくて、すごい楽しいんだ。シンガポールでも毎日ジムに行って運動してた。それに、昔の僕、副作用で代謝が悪くなる薬を飲んでたから、太りやすかったみたいで。今から体型戻すのはちょっと大変かも」
「そ、っか。なら、不満を持つのは違うな。いい変化なんだもんな」
「うん。でも、ナオキくんが前の僕の見た目まで気に入ってくれてたのは嬉しいよ。体型のせいで自信持てない部分もあったし……ナオキくんが気にしてないのは分かってたんだけどね」
「外見なんか気にしなくてもいいくらい、お前は凄くてかっこいい奴じゃんか。それに俺、お前の雪見だいふく見たいな頬を突くのが好きだったんだよ。なんか……おっぱいみたいでさぁ」
「うわ最低、流石にキショい」
「ごめんって」
ああ、そうだ。御澤が更にすごくなればすごくなるほど、俺はついていけなくなる。隣に立てなくなってしまいそうで、たまらなく怖いのだ。今でも、学業のことを色々と面倒を見てもらってようやく食いついてるような体たらくなのに。
振り落とされないように、頑張らなければ。俺はこの瞬間、一念発起した。せめて御澤には及ばずとも、御澤に次ぐ席だけは譲らないようにしなければ、あっという間に置いていかれてしまう。
勉強も、部活も、その他もろもろも。
さて、俺の危惧した通り、夏休み明けの教室は騒然とした。成績はトップだけど引っ込み思案で目立たないぽっちゃりくんの御澤が、少し見ないうちに、少女漫画の登場人物もかくやのイケメンに大変身していたのだ。注目されないはずがなかった。
俺しか知らなかったみたいだけど、御澤はもともと身だしなみに対する意識が高い人間だったから、清潔感も洒落た雰囲気も文句なし。その上、話しかけてみれば、やや遠慮がちながらも、痒い所に手が届く小気味いい返答が返ってくる。しかも決して人のことを不快にさせないよう、気遣いを徹底している隙の無さまで兼ね備えている。トドメとばかりに家は地元で他に類を見ない名士。
ただの路傍の石だと思ってたクラスメイトが実はダイヤモンドの原石だったのだと今更気付いたクラスメイト達、特に女子たちの間で、俺の親友は瞬く間に人気を獲得していった。
大人しくて目立たない、は、大人っぽくてミステリアス、という評価に様変わり。その評判はクラスにおさまらず、年内には学科の全学年に知れ渡った。
つまり、たったの半年で、御澤は、学年トップで家がお金持ちで人格者のイケメンという、非の打ち所がないカリスマ的存在にまで大躍進したのだ。
俺は内心、とことんこれが気に食わなかった。何も面白くなかったのだ。
結局、人は見た目からでしか人を見ようとしない。それが間違いだと言うつもりはない。しかし、俺が中学の時から知っていたさまざまな人間的魅力が、イケメンの副次的要素として扱われるのが癪で仕方なかった。ああ、そうだ、厄介古参オタクだ。どうとでも言え。
俺はこのフラストレーションを、自分磨きへと昇華させた。今更御澤を見つけても、隣はすでに俺の特等席ですが何か、と、十把一絡げの節穴たちを見返すために。
自分でも本当に性格が悪いと思う。俺の愛すべき親友がようやく本人に相応しい脚光を浴びたのだ。ようやく世間にも見つかったと喜び、この一大ムーブメントを歓迎するのが、親友としてあるべき姿だろう、もちろん重々承知である。
だがしかし、簡単にそうと納得できるほど、俺は奥ゆかしい人間ではない。むしろ、おそらく国内でも稀に見るほど浅ましい人間だ。
俺はいつかこうなることが分かっていた。
御澤の兄二人とは何度か顔を合わせたことがあるし、家族写真も何度か見たことがある。故に、御澤が約束されしグッドルッキングの系譜であることは、ほぼ確信的に予感していたのだ。
自分以外の家族の容姿が優れていたからこそ、御澤が自分の外見に対して深刻な劣等感を抱えていたことも知っていた。
それなのに、御澤にはそのままでいて欲しい、なんて。最悪のエゴだ。
自覚していてなお、俺はどうにかして御澤のシェイプアップを食い止めようと足掻くことをやめられなかった。そんな人間である。
恋で人は美しくなる、なんて言うけれど。俺は全くの逆だ。俺の恋心は、俺の性根をみるみる歪めて、直視に堪えないほど醜いものに変えていっている。
無駄だと分かっているのに、足掻くことをやめられない。自分磨きもその一環だ。
俺は必死こいて勉強して(御澤にも教えてもらいながら)御澤に次ぐ学年次席の成績を獲得し、更には部活のサッカーでもスタメン入りを果たした。毎朝5時に起きてランニングと自己流ながら筋トレのルーティンをこなし、クリーンな食事と十分な睡眠、そしてスキンケアや体臭ケアなど、手あたり次第、欠点と思わしき部分を潰していった。
せめて、御澤の隣から追い落とされないように。出来れば、周りから御澤の隣に立つことを僻まれないように。不純な動機ではあったけど、自分なりに頑張って、ある程度結果も出せたと思う。それでも御澤の隣に立つと全部霞むような取るに足らない成果だが。
そう、みるみる自分に自信をつけていったらしい御澤の快進撃は凄まじかった。俺が頑張って学年次席を死守している間に、御澤は全国模試の理数系科目で満点を取り、文句なしの全国一位に君臨した。その上、何となく興が乗ったからとか言うボンヤリした理由で司法試験予備試験に一発合格、ゴールデンウイークの間にフランス語と中国語をマスター(なお英語については中学時点で既にネイティブレベルだった)、日商簿記一級取得、入学してから二人で立ち上げたTRPG同好会でなぜか出場することになった、大学生も参加するビジコンやプレゼン大会で最優秀賞乱獲などなど、明らかに高校生レベルではない能力をいかんなく発揮し始めたのだ。
難病の軛から解放された天才の面目躍如である。正直意味が分からなかった。日本の地方都市に留まっていていい人材ではない。普通に世界進出すべきレベルだ。
俺はとにかく目を血走らせて奥歯ガチガチ言わせながらついていき、必要があれば補佐をするのでやっとだった。パワポでプレゼンのスライド作成とか、雑務とか、スケの管理とかな。殆ど欠点のない御澤だけど、たまに付き合いの長い俺にしか分からない言い回しとか、言葉足らずがあるから、それをフォローする役回りだ。役得である。
「お前、将来的にはジョブズとかゲイツとかそういうレベルの実業家になれるんじゃね? それかノーベル賞レベルの研究者とか。とにかくすげえビッグな存在にさ」
部室で二人、次の日に他のメンバーとも集まって遊ぶためのCoCシナリオを練りながら、俺はふとそんな本音を漏らした。すると御澤は、やや面食らったように顔を上げ、しばらく考え込んでから、あっけらかんと言い放つ。
「そうなってほしいなら頑張るけど」
俺はパソコンの画面から目を離さないまま、しっかり3秒ほどフリーズした。そうなってほしい、なんて発想は、思いつきもしなかったのだ。俺が望もうと望むまいと、御澤には全く関係ない。俺はいつまで御澤の親友を名乗っていられるのだろうな、という悲観から来る呟きだったからだ。
「そうなってほしい、って……俺が、そう思うってこと?」
「え、うん。なんか変?」
「あ、いや……変って言うか。お前の将来設計に俺の意志なんか介在しないだろ」
「なんで?」
「なんで!? お前の人生だぞ!? 俺の意志がお前の人生を左右しちゃダメじゃん流石に……」
「え、今更?」
「ん!? 俺なんかした!? え……世界の損失……? 死、ってコト?」
「フフ、またSANチェック失敗してない? 大丈夫?」
「目の前にAPP24の超越存在がいるもんで」
「小学生が欲望のままに作ったキャラシでも見ないよそんなステ振り」
ぼくのかんがえたさいきょうの能力値人間が何か言ってやがる。もし俺が御澤のステ振りでRPやらされたら10分で崩壊するだろう。そもそもCoC卓に参加する小学生の方がよほど見ないと思うが。
御澤はたまに変なことを平然と言う。俺がそれでどんなことを思うかも知らずに。御澤の理解ある親友RPは常に崩壊の危機にさらされている。俺はよく頑張っていると思う。
そんなことで、御澤のおかげで俺には過分すぎるほど充実した高校生活は、あっという間に過ぎ去り、サッカー部での活動を県大会ベスト4という結果で締めて、夏から本格的に受験勉強に取り掛かった俺は、県外の国立大の法学部を受験し、合格した。
御澤は前期で赤門の理科Ⅱ類を受けて当然のように合格。ニコイチもここで解消か、と内心泣きむせびながらも我が事のように喜んでいたのだが。
御澤は何故か、後期で俺と同じ大学の薬学部を受け、こっちを進学先に選んだ。前代未聞である。最高学府の合格を蹴って地方国立を選んだのだ。
マジで意味が分からなかった。列島のどこを探してもこんな酔狂な人間は二人といないだろう。教師陣もこぞって俺に事情を聴いてくるし、いや本人に聞けよと思いつつ、どういうつもりか問いただしたら、御澤はあっけらかんと答えた。
「それ、先生たちに聞けって言われたでしょ。おかしいよね。僕に直接聞くんじゃなくてナオキくんに聞きに行かせてる時点で、先生たちも理由なんか分かってるんだよ。だから、先生たちは理由を聞きたいんじゃなくて、君の言葉を使って、最高学府の進学を蹴るなって説得したい。そうじゃないと僕は聞く耳持たないから」
「いや……当の俺が理由分かってないから聞きに来たんだけど? 勿体ないじゃんか、だって東大だぞ……日本中から頭のいい連中が集まって、切磋琢磨する場所だ。お前にピッタリの大学だよ。まあお前ならケンブリッジとかハーバードとかにも平気で行けるとは思うけどさあ」
「どんな理由ならナオキ君は納得してくれる? そもそも東大に集まる学生だって相当バイアスかかった集団から抽出されてる場合が殆どだよ。多少の外れ値はあれ、家庭の教育投資がものを言う世界だからね。面白い人と出会うことを目的に進学するような場所じゃないだろうし。少なくとも、僕の大学生活に対する目的意識のなかに学歴獲得っていう観点はあまりないんだ」
「やっぱり、俺のせいなのか」
「ナオキ君はさ、僕の価値観と、世間一般の価値観なら、どっちを重要視したい? 僕は君の価値観を尊重したいと思ってるよ。もし、どうしてもナオキ君が納得できないなら、一緒に浪人すればいい。二人だけで一年間も勉強に専念できるなんて楽しそうだし。一年もあれば、それこそ海外の大学も目指せるでしょ」
「あのー、俺と違う大学に進むって選択肢は……?」
「あるにはあるけど、普通に嫌かなあ。それとも、ナオキ君は、僕が大学まで付いてくる方が嫌だったりする? その場合は最大限考慮して方針転換するけど」
「俺の存在がお前のレベルを下げるのが嫌なんだよ。俺はお前の隣にいればいるほど、お前の足を引っ張ってる。お前の可能性を、俺が狭めてるじゃんか。高校まではお前が満足ならって思ってたけど、それって実際は俺の能力の低さから目を逸らす方便でしかないだろ。お前の眼前には、俺では計り知れないほど広い世界が広がってる。せっかく元気になったんだからさ……人間関係にも、新陳代謝って必要だと思うわけ」
「脳細胞も心筋細胞も神経細胞も、一度傷ついたら再生しないよね。実際、失っても何とかなるとは思うよ。でも失わないように大事にしたいと思うのはおかしいことかな」
「その考え自体はおかしくない。ただ、お前の人生における俺の存在価値を見誤ってるとは思う」
「それって誰が決めたこと?」
「誰が決めたことなら納得するんだ?」
「誰が決めても納得しない」
「じゃあそれを明らかにしたって意味無いだろ」
「君にとってはそうだろうね。僕は明らかにしておきたいんだ。だって、誰の何を変えたらこの話が決着するかが分からないとどうしようもないでしょ」
「お前の心が変われば済むんじゃないか」
「僕と同じ大学に行きたくないってナオキ君に言いきられたら、仕方ないかなって思うよ。ナオキ君は思ってもないことを言えるような人じゃないって知ってるし」
見事に俺は黙らされた。実際、大学まで御澤と同じところに行けるのは嬉しかったのだ。それこそ中学の頃、大学のことなんかよく分かっていなかったときに、「大学生になったらシェアハウスするのいいな」って話したことを、きっと覚えていてくれたんだろうから。
たとえそれが御澤のためなのだと分かっていても、自分から、御澤との今の関係を手放すことが出来なかったのだ。どこまで自分本位になったら気が済むのだろう。
きっと、御澤のことだから、俺の心なんかお見通しだったのだろう。いつだって御澤は、その卓越した頭脳で、まるで自分のことのように、俺の心の中を見抜くのだ。
そうして、俺たちのルームシェアは始まった。ともすれば、気の強い妹二人が幅を利かせる肩身の狭い実家よりも、御澤との暮らしは居心地が良く、嫌なところが見えてくるどころか、輪をかけて御澤の虜になっていった。
御澤は当然お手伝いさんがいるような金持ちの家で生まれ育ったため、初めのうちこそ生活能力が皆無だったが、一通り教えれば問題なくこなせるようになった。俺は感激のあまり内心御澤を崇め奉った。
なにせ、両親共働きの上実家ではバスケ部に所属する上の妹とバレー部に所属する下の妹(いずれも強豪)に完全マネージャー扱いでこき使われていた身の上だ。あの二人は兄貴を顎で使って悪びれもしなければ、家事をやってみよう、覚えてみようなんて素振りすら見せなかった。過酷な練習でヘトヘトになって帰ってきているのは理解できるし、何か言えば10倍になって返ってくるから何も言わなかったが、流石にレンジで作り置きを温める事すら碌にできないのはヤバいことだと気づいてほしかった。
引き換え、御澤は俺が思いついて着手する前にいつの間にかタスクを終わらせているし、報連相は欠かさないし、食費管理に留まらず食材や消耗品のストック管理までしてくれるし、俺が基本的な炊事洗濯掃除を請け負う代わりに、どうしても忘れがちになる定期的に点検が必要な箇所の清掃(家電の一部部品や換気扇や排水溝やコンロ回りの五徳etc…)をすべて網羅してくれるし、日々の家事が円滑になるよう最大限配慮してくれるのだ。
脳裏に結婚の二文字が過って仕方ないくらいには、俺にとって都合の良すぎる共同生活だった。御澤は自分の仕事ぶりが完璧であることをまったく鼻にかけない。当然のことをしたまでだ、という顔で、なおもまだ何か不足はないかと、常に気配りを欠かさない。向上心に溢れた謙虚なハイスペックイケメン、あまりに非の打ち所がなさすぎる、理想そのものの姿だろう。
俺の人生における最大の幸運は御澤と出会ったことに違いないという確信は日々強くなっていくばかりだ。同時、必ずやってくるだろう喪失の時を思えば、気が遠くなるほどに憂鬱でもあった。
こんなにも出来過ぎた最高の好青年である御澤のことだ。ありとあらゆるハイスペ美男美女が自ずと集まってくるだろうし、いつかは彼のお眼鏡にかなう素敵な恋人が現れるに違いない。
その時になれば、俺は物分かりの良い理解ある親友として潔く身を引かなくてはならない。
そもそも恋愛感情を隠したまま好きな相手と同じ家に住んで共同生活を送っていること自体、極め付きの不誠実だ。御澤が恋人持ちになれば尚更である。
いうなれば、安全レバーのないジェットコースターの頂上でいつまでも止められているみたいな気分だ。滑落の時がいつまでも来てほしくない気持ちと、いつか死ぬならさっさと殺してほしいなどという気持ちが絶えずせめぎ合っている。
そんな日々が2年と2カ月ほど過ぎた頃のこと……3回生、ちょうど梅雨が明けて夏の気配が迫っていることを悟らせるような晴天の日である。
俺は、ついに、その時が来てしまったことを悟ったのだった。
「家に、届ける……? 俺が、ですか?」
「ああ、先生な、ちょっと今から職員会議があるんだ。たまにはクラスメイトの顔を見た方が、ミサワも刺激になって良いだろうし」
担任は俺に手書きの地図とファイルを押し付け、悪いけど、なんて微塵も悪びれずに言った。
何のことはない。運が良かったのか、悪かったのか、その日は俺が日直で、暇な自転車通学の帰宅部で、担任が忙しかった。ただそれだけのこと。
それだけのことで、俺は、入学してまもなく不登校になったクラスメイト、御澤 孝文の家に、週報やら課題やらのプリントを届けに行くことになったわけだ。
手書きの地図のカスみたいな情報を頼りに、マップアプリのナビ機能を使って、どうにかたどり着いた御澤の家は、世間知らずの中学生ですら悟って余りあるくらい、底知れない財力を感じさせるような、古式ゆかしい日本家屋のお屋敷だった。
荘厳な門構えに圧倒されつつインターホンを押すと、実に人当たりのよさそうな女性の軽やかな声がした。要件を告げると、暫くして、着物に割烹着を着た、年かさながら上品な女性が迎えに来てくれた。その人は御澤の母親でも祖母でもなく、お手伝いさんだった。あいた口がふさがらなかったのをよく覚えている。
御澤のことは名前ばかり知ってるだけで顔も覚えていなかったが、まさかこんな立派なお屋敷に住む、いかにもな良家のボンボンだったとは。そんな衝撃で、俺はミヨさんと名乗るお手伝いさんの後を付いていくことしか出来なかった。
ただプリントを渡して帰るだけでよかったことに気付いたのは、あれよあれよと離れに連れて来られてからで。今更引き返すことも出来ず、実に気まずい思いをしながらの対面。
「孝文ぼっちゃま、クラスメイトの方がお見えでしたので、お連れしましたよ」
「え……!?」
ふすまの奥から、そんな素っ頓狂な声が聞こえてくる。確かに、アポなしのクラスメイト凸は驚くよなあ、なんて、罪悪感と親近感が喉を突き上げた。恨むなら思いつきで日直をパシッた担任を恨んでくれ、なんて思いつつ。
「開けますね」
「ちょっ、待っ」
制止の声もむなしく、ガラリと開け放たれた先にいた御澤。予想よりずっと身だしなみはきっちりしていて、流石はボンボン、と思いはしたが。
何より先んじた印象は、ふとましい、だった。
そう、出会った頃の御澤は、結構なレベルでぽちゃっとしていたのだ。頬は雪見だいふくみたいにプクプクしていて、首が殆ど顎肉に埋もれ、色白なことと、白い服を着ていたことから、失礼にも雪だるまみたいだな、なんて思ったくらいだった。
しかし、その顔立ちはいかにも温和で、そのつぶらな瞳はどこか気弱そうに、落ち着きなく泳いでいた。頼りなさげだが、甘やかされてわがまま放題ってことではなさそうだ、と直感的に分かった。
ミヨさんは無慈悲にも、お茶と付け合わせをご用意いたしますね、と一言言い残し、ハタハタと駆けて行った。お気遣いなく、すぐ帰りますと、何度も頭の中で復唱したセリフをまたもや言い損ねてしまい、俺は所在を無くして立ち尽くした。
「あ、ご、ごめん……! よかったら、座って! 散らかってるけど」
「いや……それは全然……それじゃ、お言葉に甘えて……スマセン」
シツレイシマァス、と裏返った声を出しつつ、俺は恐る恐る敷居をまたいだ。散らかってるなんて言っても、本やら上着やらが少々床に落ちているくらいで、俺からすれば奇跡みたいに整然とした部屋だった。これが散らかってるというなら俺の部屋なんて地獄だろう。足の踏み場があるだけまだマシなのだから。
俺はちゃぶ台を挟んで向かいに座り、ペコと頭を下げた。
「なんつーか、こっちこそ、急にごめんな。ヨッシー先生に頼まれて、俺が日直だったから、プリント届けに来ただけなんだ。上げてもらうつもりは無かったんだけど」
「ああ……きっとミヨさんがはしゃいだんだよね。クラスメイトがうちに来るなんて初めてだから、張り切ってるんだと思う」
「そ、そっか……」
俺は顔を引きつらせながら、おずおずとファイルを差し出した。遠慮がちに受け取る御澤のありがとう、を最後に、実に気まずい沈黙が流れる。
せめてミヨさんが来るまでは話を繋げなければ、と思い、俺は恐る恐る口を開いた。
「あ、そう言えば、俺名乗ってなかったよな、えと……一応同じクラスの」
「あ、田島くん、だよね。田島、直樹くん。出席番号17番」
「ウェッ!?!?」
今度は俺が素っ頓狂な声を出す番だった。面識なんて殆どなかったはずだ。それなのに、顔と名前が一致するだけじゃなく、まさか出席番号まで把握されてるなんて。
中学が始まって半年たつが、御澤の出席日数は二桁にも満たないはずだ。それも、殆どが保健室登校。今までに2度あった定期テストだって、保健室で受けていた。
それなのに、地味で存在感のない俺のことすら認知しているとは。
「もしかして、だけど……クラス全員のこと覚えてたりする……?」
「あ、うん、一応……入学式の時に、同学年までは頭に入れた……ごめん、気持ち悪かったよね」
「いやいやいやいやいやいや!! 天才でしょ!!!! そりゃテストでも10位以内に入るはずだよ!! すげえ!!!!」
俺は思わず膝立ちになって、ちゃぶ台に上半身を乗り上げ、興奮気味に捲し立てた。そう。名前だけはしっかり印象に残っていた理由がこれだ。
この御澤という同級生は、全く授業を受けていないにも関わらず、自宅学習と課題提出だけでテストの上位にしれっと入るような成績優秀者なのである。
頭がいいのは十分知っていたが、まさかここまでとは。純粋に感動してテンションが上がってしまった。すげえ奴に名前覚えられてたらそりゃ嬉しくもなる。
しかし、御澤は俺のテンションについていけず、目を白黒させて呆気に取られていた。にわかに気まずくなり、俺は顔を真っ赤にして引き下がった。いかにも品行方正な居ずまいの御澤が相手だったから、余計、自分の行儀の悪さが際立つようで、いたたまれなかった。
ややあって、俯いた御澤は、絞り出すような声で独白した。
「全然、僕なんか、出来損ないだよ。全然登校できないし、閉じこもってばっかりで、両親にも呆れられてる。何でそんなに虚弱なんだって。ちゃんと学校に行ってる人の方が、ずっとすごい」
「そんなもんかなあ……俺なんか中学に入ってから平気で授業中寝てるし、宿題なんて出さねえし、テストも一夜漬けでボロボロだし、部活にも入って無いからソッコーで家帰ってゲームばっかしてんだぜ。ちゃんと学校行ってるったって、母さんに叩き起こされて家から叩き出されるから仕方なくって感じ。実際はこんなもんだよ。それだけ頭いいんだからさ、もっと気楽でいてもいいと思うけど」
「気楽、に……」
「そうそう! それだけ真面目なのに学校来れねえってことはさ、何かのっぴきならない事情があるんだろ? まあなくても別にいいと思うけど。期末学年6位の君が危機感持ってたら、100位以下の俺なんかもっと焦んなきゃじゃんか。大丈夫だって、きっとなんとかなるよ。俺が今のところ何とかなってんだからさ! アッ、安心できないか!」
ワハハ、と笑って、やがて少し虚しくなったので、両手を背後の床について仰け反り、天井を仰いでため息をついた。なんだか気遣いが空回りしたような気がしてならなかったのだ。
事情なんてよく知らない癖に、デリカシーのないこと言いまくったかもしれない。俺社会的に死ぬかも、人生終わった? もしかして。ごめん親父、母さん。先立つ不孝を許してメンゴ。
そこまで発想を飛躍させたところで、俺は跳ね起きるみたいに姿勢を直し、更に顔を真っ青にした。予期せず、すすり泣く声が聞こえ始めたのである。
「あ、うわ、すみません、マジで無神経でした殺してください!! 何も知らない部外者が知ったような口をきいてしまって、オワーッ」
俺は取り乱しながらとりあえず畳に額をこすりつけて土下座した。俺の首は刎ねても、AKBのことは嫌いにならないでください!! ついでに家族の命もできれば勘弁してくれ!!
しかし、無様を晒した甲斐なく、御澤の涙は更に勢いを増した。俺はガチモンの死を覚悟した。こんな場面をミヨさんに見られでもしたら、きっと彼女は豹変して薙刀とか持ち出してくるに違いない。大事な坊ちゃんを虐めた不届き者はきっと刀のサビになって挙句庭の鯉の餌になるのだ。知ってるんだおれは。サマー○ォーズで見たもん。
涙を堪えてスンスンと鼻を啜っていると、失礼します、の一声とともに、スウと襖が開く。思いつく限り最悪のタイミングだ。俺には軽やかなミヨさんの声が死神のそれに思えた。
「まあまあまあ!! 坊ちゃまがた、いったいどうなさったのです! あらあらもう孝文坊ちゃまったらこんなにお涙を召されて……! お客さまの方は、まさかお腹の具合が……!?」
「いえ……俺が無神経なことを言ってしまって……」
「まあ、お客さま! うちの孝文坊ちゃまが、それしきのことで涙を流されるなんて、ミヨはとても思えません。ささ、坊ちゃま、こちらでお拭きを。いったい、どうなさったのですか?」
俺は恐る恐る顔を上げ、御澤の顔色をうかがった。雪見だいふくがいちご大福みたいになっていたが、そこに悲痛なものは浮かんでいないように見えた。希望的観測かもしれないが。
「ごっ、ごめんなさい……田島くんは何も悪くない。ただ、心が急に軽くなって、自分でも驚いたというか……訳も分からず勝手に涙が溢れてきて、どうしていいか分からなくて、こんなこと初めてだから、一層混乱で頭が真っ白になったんだ」
「や、でもマジでごめん、配慮が足らんかったと思う。俺のことなんか庇わなくっても」
「違うんだよ、本当に、どうしたら信じてくれるかな……とりあえず姿勢を戻してよ、いたたまれない……急に泣き出したりなんかしてごめん。悲しいとか、悔しいとか、そういうことで涙が出たわけじゃないからね」
御澤はそう言いながら、俺の肩を恐る恐るといったような手つきで掴み、押し返すように起こしてきた。なんだかこの言葉を嘘だと思う方が気の毒な気がしたので、俺はそれ以上何も言わなかった。
「ウフフ、心配することは何も無かったようで、安心いたしましたわ。ささ、こちら粗茶ですが、よろしければおあがりくださいませ。お邪魔虫はこの辺でお暇いたします」
ふくふくとご機嫌そうに笑って、ミヨさんはあっという間にお茶と、見るからに高級そうな和菓子を付け合わせに配膳し、去っていった。
俺はお茶の作法なんて全く分からなくて冷や汗をかいた。御澤の真似をしようと思いジッ……と凝視したが、当の本人はこっちの気も知らないで眉を下げて首を傾げるだけ。一向に手を付けようとしないので、結局普通に白状することにしたのだった。
「あー、その、ごめん。俺、こんなふうにちゃんとしたお茶とかお菓子とか出してもらうの初めてでさ……マナーとか全然分からんのよ」
「マナー? ここには僕しかいないし、誰も気にしないよ。好きなように嗜もう、ね」
「たっ、たしな、む」
なんか言われたこと全部高度なものに思えてしまい、見るからにカチコチになって、未調教のボイスロイドみたいに声が裏返った。すると、御澤はプッと吹き出し、プルプルと震え始めた。馬鹿にされた感じは全くしなくて、寧ろ少し警戒心を緩めてくれたようで面映ゆかった。
そんなことで、思いがけず打ち解ける事が出来た俺たちは、その後面白いくらい会話が弾み、外が暗くなったことに気付かないほどまで話し込んだ。
何よりうれしかったことは、御澤の部屋にTRPGのルールブックが沢山あり、御澤自身も造詣が深かったことだ。俺は両親の影響で昔からボドゲとかTRPGが大好きで、今も熱中しているのだが、これまで同じ趣味の友達なんて一人としていなかったのだ。
クトゥルフ神話の話ができるタメなんていないと思っていただけに、これが飛び上がるくらい嬉しくて、絶対にこの場限りの縁にしたくないと思った。
「あ、あのさ! もし、迷惑じゃなければ、また、俺がプリント届けに来てもいいかな。もっと君と話がしたいし、ゲームも一緒にやりたい、なんて」
「……! 勿論!! プリントなんて無くても、いつでも来て!! 絶対一緒にやろう!」
俺たちは固い握手を交わし、ついでにLINEも交換した。そして、その口約束通り、俺はそれから頻繁に御澤の家を訪ねるようになり、御澤の体調が良ければ、休日も日がな一日入り浸った。
御澤とボドゲをするのはもちろん、ただ駄弁っているだけでも本当に楽しかった。御澤の知識と知能はどこまでもずば抜けていて、なんの話をさせても息を飲むほど面白かったし、御澤も御澤で学校での他愛のないことを話すと嬉しそうに聞いてくれた。
その上、御澤はテスト前になると俺の勉強を親身になって見てくれた。それも、御澤の教え方は本当に分かりやすくて、腰を抜かすくらい成績が急上昇したのだ。
他愛もない低次元な俺の疑問も、真剣に取り合って考えてくれる御澤のことが、みるみる大好きになった。こんなに尊敬すべき凄い奴が仲良くしてくれることが本当に誇らしくて、クラスの連中は御澤がどんなに凄い奴か知らないんだ、なんて優越感を抱く始末だった。
御澤の素晴らしさを世間に知らしめたい、という気持ちはもちろんあったが、少しでも長く俺が独占していたい、と思っていたのも事実で。
だから、御澤と仲良くなってから1年と少し経った時、御澤からその言葉を聞かされて、俺は心から喜んで祝福すべきだったのに、それが上手くできなかった。
「手術を受けることになったよ。だから、来月からしばらく入院するんだ」
御澤の不登校の原因は、とある難病だった。小学五年生の時に発症したというその病気のせいで、少し運動をするだけですぐに体調を崩す体質になってしまい、立って何か活動をすることすら避けなければならなかったのだ。
俺の頭じゃ詳しいことは殆ど理解出来なかったが、とにかく、最先端の医療が受けられる大病院で手術と治療を受ける手筈がようやく整い、成功すれば普通の健康な人と変わらないレベルまで活動強度を上げても大丈夫になるらしかった。
「あ、お、お見舞いって、行っても……?」
「勿論! 暇なときでいいから、顔を見せに来てくれるとうれしい。ナオキくんといると不安なんて吹き飛ぶからさ」
「おお、任してくれよ、能天気だけが取り柄の俺だぜ」
なにそれ、と言ってクスクス笑う御澤の笑顔に、たまらなく、胸がドキドキした。そうだ、彼の笑顔に胸が高鳴るのは、これが初めてではない。
ボドゲで俺を嵌めた時の、してやったりな笑顔。ファンブルに打ちひしがれる俺のリアクションを見て、心底愉快そうに笑う、不敵なまなざし。暇だからといってTRPGのシナリオを書き上げてくれて、そのあんまりな出来の良さに、興奮のまま褒めたたえた時に見せてくれた照れくさそうな微笑み。
テスト勉強を教えてくれた日、俺が応用問題を自力で解いてみせた時の、なぜか誇らしげな笑顔。俺の他愛ないギャグで吹き出した時の、無邪気で屈託ない笑顔。
俺はこの時ようやく自覚した。御澤が笑ってくれた時が一番うれしくて、幸せで。
親友としてではなく、恋愛的な意味で、彼のことが好きになってしまっていたのだ、と。
彼を笑わせるのは俺だけであってほしい。彼の唯一は俺でありたい。誰にも、この魅力を知られたくない。そう、思ってしまったのだ。
でも、俺と一緒に学校に行きたいから、と嬉しそうに笑う御澤を見てしまったら、そんな自分勝手で汚れた感情が許せなかった。だから、決して御澤にだけはバレてはいけないと、隠し通すことを決めた。
こんな自分を知られたら、きっと困らせてしまうだろうから。俺のせいで御澤の表情が曇るところだけは、絶対に見たくなかった。
結局、御澤の入院期間は半年にも及んだ。難しい大手術だったようで、しばらくは寝たきりから起き上がることも出来なくて。俺は受験勉強もなおざりで毎日のようにお見舞いに通った。
入院期間で、御澤は別人のようにやつれてしまった。そんな姿を目の当たりにするのは本当に辛くて、だからこそ、御澤の必死のリハビリで、みるみる元気な姿を取り戻していくのが、我が事のように嬉しかった。
御澤は、夏休みの終盤ごろ、無事に退院した。見違えるほど元気になって、人が変わったように生き生きとしていた。俺としては、もっと食べて太ってもらわないと気が休まらない姿だったけれど。
「中学はもう今更って感じするし、高校から本格的に通うことにするよ。なんとか間に合わせるから、絶対一緒の高校行こうね! 因みに、受験勉強の進捗はどう? 判定は?」
退院して早々、御澤は実に痛いところをクリティカルに突いてきて、俺は冷や汗をかいた。何せ、受験勉強なんて殆ど手につかなくて、勉強なんて教えてもらうどころの話じゃなかったから、滅茶苦茶成績が落ち込んでいたのだ。
「あ、あの、えっと、ですね」
「……ナオちゃん、模試の結果、見せてくれるよね」
「はい」
一応、入院前に二人で示し合わせていた、県内で一番の進学校を第一志望にはしているものの、現状DからC判定を行ったり来たりしているような始末で。
「……一緒に頑張ろうか」
「はい」
それから受験までの期間は果てしない勉強地獄だった。結果、御澤のおかげで俺は予備合格からの追加合格、御澤にいたっては主席合格だった。ちょっと前まで入院生活を送っていたのにこれだ。もしかしなくても、元気に3年間中学で勉強できていれば、平気で全国でも最高峰の高校に行けたのではないだろうか。
俺に合わせてくれた、という後ろめたさもありつつ、一緒の高校で、今度は御澤と一緒に学校生活を謳歌できると思うと、たまらなく嬉しかったことに違いはない。
最初は不安がって俺のそばから頑なに離れようとしなかった御澤。身長も俺より低かったから、小さくてぽちゃぽちゃした生命体が俺の後ろに隠れて常についてくるのがたまらなく愛おしかった。そんな気弱な奴が、実はすごい奴ってことを俺だけが知っているという優越感もあったことは否定できない。
しかし、高校に入学して3カ月ほど経った頃から、そんな御澤に異変が起こり始めた。
やや遅れてきた成長期か。身長がメキメキと大きくなっていき、更には、あの愛らしいぽっちゃり体型が、みるみるスリムになっていくのである。
クラスメイトは全く気付かなかったが、常に御澤のことを見ている俺には一目瞭然だった。
必死で購買のハイカロリーな菓子パンを休み時間ごとに差し入れたり、週に3回くらいスイパラに連れて行ったり、田舎のばあちゃんよりも口うるさく「ちゃんと食え」と言い含めたにも関わらず、その努力もむなしく、俺の愛の面積は減少していった。
そして、一学期が終わり、夏休みに入ってしばらくすれば、その異変は決定的なものとして俺の目の前に現れた。
「……え? モデル?」
「なにが? と言うか聞いてよ! せっかく初めての海外だったのに、関節がずっと痛くてさあ、全然楽しめなかった……ナオキくんがいないからつまらないし、兄さんたちはずっとカジノに入り浸ってるし……次は一緒に行こうね、マリーナベイサンズ」
一週間のシンガポールでのバカンスから帰ってきたと連絡が来た次の日、家を訪ねた俺を出迎えた御澤は、まるで別人になっていた。
俺は泣いた。玄関先で文字通り崩れ落ちた。
どんな姿になっても御澤のことは好きでたまらないが、御澤の愛おしい一部である贅肉がどこかへ消えてしまったことが、切なくてならなかったのだ。シンガポールに落ちているなら今すぐ取り戻しに行きたいと本気で思った。
「ナオキくん!?!? 何、どうしたの!?」
「いや、え……? どうしたのはこっちのセリフだが……シンガポールの飯はそんなに合わなかったのか? だからサッポロ一番を日数分持って行けって言ったじゃんか……こんなに痩せて帰って来るなんて、そうだと分かっていれば、俺、俺……」
「あ、ああ! そう言えば、ミヨさんも見違えたって言ってたなぁ。もしかして、痩せたらだめだった?」
「駄目なんてことは無いけどさあ……健康ならそれが一番だし……でもなあ、寂しいなあ、頑張って食べさせたつもりだったのになぁ」
今日も今日とて差し入れとしてコンビニで買って来たアイスやらスナック菓子やらを掲げ、俺はフラフラと立ち上がる。そして、改めて、その姿をまじまじと直視した。
俺の身長に迫りつつあった背は、タメかそれ以上にまで伸び、もしかすれば更に伸びるかもしれない。顔つきも、昔の愛嬌が殆どそぎ落とされ、代わりにどこか色っぽさもある、上品で落ち着いた正統派美男子にメタモルフォーゼ。嘘みたいな本当の話だ。
腰の位置が高く、足がスラリと長い、まさにモデル体型だ。惚れ惚れするほど抜群のプロポーションである。だが、敢えてこう言わせてもらおう。どうしてこうなった。ただでさえ魅力満点なのに、更に魅力が増えるなんて聞いてない。
「元気になってからさ、ナオキくんと一緒に動き回れるのが嬉しくて、すごい楽しいんだ。シンガポールでも毎日ジムに行って運動してた。それに、昔の僕、副作用で代謝が悪くなる薬を飲んでたから、太りやすかったみたいで。今から体型戻すのはちょっと大変かも」
「そ、っか。なら、不満を持つのは違うな。いい変化なんだもんな」
「うん。でも、ナオキくんが前の僕の見た目まで気に入ってくれてたのは嬉しいよ。体型のせいで自信持てない部分もあったし……ナオキくんが気にしてないのは分かってたんだけどね」
「外見なんか気にしなくてもいいくらい、お前は凄くてかっこいい奴じゃんか。それに俺、お前の雪見だいふく見たいな頬を突くのが好きだったんだよ。なんか……おっぱいみたいでさぁ」
「うわ最低、流石にキショい」
「ごめんって」
ああ、そうだ。御澤が更にすごくなればすごくなるほど、俺はついていけなくなる。隣に立てなくなってしまいそうで、たまらなく怖いのだ。今でも、学業のことを色々と面倒を見てもらってようやく食いついてるような体たらくなのに。
振り落とされないように、頑張らなければ。俺はこの瞬間、一念発起した。せめて御澤には及ばずとも、御澤に次ぐ席だけは譲らないようにしなければ、あっという間に置いていかれてしまう。
勉強も、部活も、その他もろもろも。
さて、俺の危惧した通り、夏休み明けの教室は騒然とした。成績はトップだけど引っ込み思案で目立たないぽっちゃりくんの御澤が、少し見ないうちに、少女漫画の登場人物もかくやのイケメンに大変身していたのだ。注目されないはずがなかった。
俺しか知らなかったみたいだけど、御澤はもともと身だしなみに対する意識が高い人間だったから、清潔感も洒落た雰囲気も文句なし。その上、話しかけてみれば、やや遠慮がちながらも、痒い所に手が届く小気味いい返答が返ってくる。しかも決して人のことを不快にさせないよう、気遣いを徹底している隙の無さまで兼ね備えている。トドメとばかりに家は地元で他に類を見ない名士。
ただの路傍の石だと思ってたクラスメイトが実はダイヤモンドの原石だったのだと今更気付いたクラスメイト達、特に女子たちの間で、俺の親友は瞬く間に人気を獲得していった。
大人しくて目立たない、は、大人っぽくてミステリアス、という評価に様変わり。その評判はクラスにおさまらず、年内には学科の全学年に知れ渡った。
つまり、たったの半年で、御澤は、学年トップで家がお金持ちで人格者のイケメンという、非の打ち所がないカリスマ的存在にまで大躍進したのだ。
俺は内心、とことんこれが気に食わなかった。何も面白くなかったのだ。
結局、人は見た目からでしか人を見ようとしない。それが間違いだと言うつもりはない。しかし、俺が中学の時から知っていたさまざまな人間的魅力が、イケメンの副次的要素として扱われるのが癪で仕方なかった。ああ、そうだ、厄介古参オタクだ。どうとでも言え。
俺はこのフラストレーションを、自分磨きへと昇華させた。今更御澤を見つけても、隣はすでに俺の特等席ですが何か、と、十把一絡げの節穴たちを見返すために。
自分でも本当に性格が悪いと思う。俺の愛すべき親友がようやく本人に相応しい脚光を浴びたのだ。ようやく世間にも見つかったと喜び、この一大ムーブメントを歓迎するのが、親友としてあるべき姿だろう、もちろん重々承知である。
だがしかし、簡単にそうと納得できるほど、俺は奥ゆかしい人間ではない。むしろ、おそらく国内でも稀に見るほど浅ましい人間だ。
俺はいつかこうなることが分かっていた。
御澤の兄二人とは何度か顔を合わせたことがあるし、家族写真も何度か見たことがある。故に、御澤が約束されしグッドルッキングの系譜であることは、ほぼ確信的に予感していたのだ。
自分以外の家族の容姿が優れていたからこそ、御澤が自分の外見に対して深刻な劣等感を抱えていたことも知っていた。
それなのに、御澤にはそのままでいて欲しい、なんて。最悪のエゴだ。
自覚していてなお、俺はどうにかして御澤のシェイプアップを食い止めようと足掻くことをやめられなかった。そんな人間である。
恋で人は美しくなる、なんて言うけれど。俺は全くの逆だ。俺の恋心は、俺の性根をみるみる歪めて、直視に堪えないほど醜いものに変えていっている。
無駄だと分かっているのに、足掻くことをやめられない。自分磨きもその一環だ。
俺は必死こいて勉強して(御澤にも教えてもらいながら)御澤に次ぐ学年次席の成績を獲得し、更には部活のサッカーでもスタメン入りを果たした。毎朝5時に起きてランニングと自己流ながら筋トレのルーティンをこなし、クリーンな食事と十分な睡眠、そしてスキンケアや体臭ケアなど、手あたり次第、欠点と思わしき部分を潰していった。
せめて、御澤の隣から追い落とされないように。出来れば、周りから御澤の隣に立つことを僻まれないように。不純な動機ではあったけど、自分なりに頑張って、ある程度結果も出せたと思う。それでも御澤の隣に立つと全部霞むような取るに足らない成果だが。
そう、みるみる自分に自信をつけていったらしい御澤の快進撃は凄まじかった。俺が頑張って学年次席を死守している間に、御澤は全国模試の理数系科目で満点を取り、文句なしの全国一位に君臨した。その上、何となく興が乗ったからとか言うボンヤリした理由で司法試験予備試験に一発合格、ゴールデンウイークの間にフランス語と中国語をマスター(なお英語については中学時点で既にネイティブレベルだった)、日商簿記一級取得、入学してから二人で立ち上げたTRPG同好会でなぜか出場することになった、大学生も参加するビジコンやプレゼン大会で最優秀賞乱獲などなど、明らかに高校生レベルではない能力をいかんなく発揮し始めたのだ。
難病の軛から解放された天才の面目躍如である。正直意味が分からなかった。日本の地方都市に留まっていていい人材ではない。普通に世界進出すべきレベルだ。
俺はとにかく目を血走らせて奥歯ガチガチ言わせながらついていき、必要があれば補佐をするのでやっとだった。パワポでプレゼンのスライド作成とか、雑務とか、スケの管理とかな。殆ど欠点のない御澤だけど、たまに付き合いの長い俺にしか分からない言い回しとか、言葉足らずがあるから、それをフォローする役回りだ。役得である。
「お前、将来的にはジョブズとかゲイツとかそういうレベルの実業家になれるんじゃね? それかノーベル賞レベルの研究者とか。とにかくすげえビッグな存在にさ」
部室で二人、次の日に他のメンバーとも集まって遊ぶためのCoCシナリオを練りながら、俺はふとそんな本音を漏らした。すると御澤は、やや面食らったように顔を上げ、しばらく考え込んでから、あっけらかんと言い放つ。
「そうなってほしいなら頑張るけど」
俺はパソコンの画面から目を離さないまま、しっかり3秒ほどフリーズした。そうなってほしい、なんて発想は、思いつきもしなかったのだ。俺が望もうと望むまいと、御澤には全く関係ない。俺はいつまで御澤の親友を名乗っていられるのだろうな、という悲観から来る呟きだったからだ。
「そうなってほしい、って……俺が、そう思うってこと?」
「え、うん。なんか変?」
「あ、いや……変って言うか。お前の将来設計に俺の意志なんか介在しないだろ」
「なんで?」
「なんで!? お前の人生だぞ!? 俺の意志がお前の人生を左右しちゃダメじゃん流石に……」
「え、今更?」
「ん!? 俺なんかした!? え……世界の損失……? 死、ってコト?」
「フフ、またSANチェック失敗してない? 大丈夫?」
「目の前にAPP24の超越存在がいるもんで」
「小学生が欲望のままに作ったキャラシでも見ないよそんなステ振り」
ぼくのかんがえたさいきょうの能力値人間が何か言ってやがる。もし俺が御澤のステ振りでRPやらされたら10分で崩壊するだろう。そもそもCoC卓に参加する小学生の方がよほど見ないと思うが。
御澤はたまに変なことを平然と言う。俺がそれでどんなことを思うかも知らずに。御澤の理解ある親友RPは常に崩壊の危機にさらされている。俺はよく頑張っていると思う。
そんなことで、御澤のおかげで俺には過分すぎるほど充実した高校生活は、あっという間に過ぎ去り、サッカー部での活動を県大会ベスト4という結果で締めて、夏から本格的に受験勉強に取り掛かった俺は、県外の国立大の法学部を受験し、合格した。
御澤は前期で赤門の理科Ⅱ類を受けて当然のように合格。ニコイチもここで解消か、と内心泣きむせびながらも我が事のように喜んでいたのだが。
御澤は何故か、後期で俺と同じ大学の薬学部を受け、こっちを進学先に選んだ。前代未聞である。最高学府の合格を蹴って地方国立を選んだのだ。
マジで意味が分からなかった。列島のどこを探してもこんな酔狂な人間は二人といないだろう。教師陣もこぞって俺に事情を聴いてくるし、いや本人に聞けよと思いつつ、どういうつもりか問いただしたら、御澤はあっけらかんと答えた。
「それ、先生たちに聞けって言われたでしょ。おかしいよね。僕に直接聞くんじゃなくてナオキくんに聞きに行かせてる時点で、先生たちも理由なんか分かってるんだよ。だから、先生たちは理由を聞きたいんじゃなくて、君の言葉を使って、最高学府の進学を蹴るなって説得したい。そうじゃないと僕は聞く耳持たないから」
「いや……当の俺が理由分かってないから聞きに来たんだけど? 勿体ないじゃんか、だって東大だぞ……日本中から頭のいい連中が集まって、切磋琢磨する場所だ。お前にピッタリの大学だよ。まあお前ならケンブリッジとかハーバードとかにも平気で行けるとは思うけどさあ」
「どんな理由ならナオキ君は納得してくれる? そもそも東大に集まる学生だって相当バイアスかかった集団から抽出されてる場合が殆どだよ。多少の外れ値はあれ、家庭の教育投資がものを言う世界だからね。面白い人と出会うことを目的に進学するような場所じゃないだろうし。少なくとも、僕の大学生活に対する目的意識のなかに学歴獲得っていう観点はあまりないんだ」
「やっぱり、俺のせいなのか」
「ナオキ君はさ、僕の価値観と、世間一般の価値観なら、どっちを重要視したい? 僕は君の価値観を尊重したいと思ってるよ。もし、どうしてもナオキ君が納得できないなら、一緒に浪人すればいい。二人だけで一年間も勉強に専念できるなんて楽しそうだし。一年もあれば、それこそ海外の大学も目指せるでしょ」
「あのー、俺と違う大学に進むって選択肢は……?」
「あるにはあるけど、普通に嫌かなあ。それとも、ナオキ君は、僕が大学まで付いてくる方が嫌だったりする? その場合は最大限考慮して方針転換するけど」
「俺の存在がお前のレベルを下げるのが嫌なんだよ。俺はお前の隣にいればいるほど、お前の足を引っ張ってる。お前の可能性を、俺が狭めてるじゃんか。高校まではお前が満足ならって思ってたけど、それって実際は俺の能力の低さから目を逸らす方便でしかないだろ。お前の眼前には、俺では計り知れないほど広い世界が広がってる。せっかく元気になったんだからさ……人間関係にも、新陳代謝って必要だと思うわけ」
「脳細胞も心筋細胞も神経細胞も、一度傷ついたら再生しないよね。実際、失っても何とかなるとは思うよ。でも失わないように大事にしたいと思うのはおかしいことかな」
「その考え自体はおかしくない。ただ、お前の人生における俺の存在価値を見誤ってるとは思う」
「それって誰が決めたこと?」
「誰が決めたことなら納得するんだ?」
「誰が決めても納得しない」
「じゃあそれを明らかにしたって意味無いだろ」
「君にとってはそうだろうね。僕は明らかにしておきたいんだ。だって、誰の何を変えたらこの話が決着するかが分からないとどうしようもないでしょ」
「お前の心が変われば済むんじゃないか」
「僕と同じ大学に行きたくないってナオキ君に言いきられたら、仕方ないかなって思うよ。ナオキ君は思ってもないことを言えるような人じゃないって知ってるし」
見事に俺は黙らされた。実際、大学まで御澤と同じところに行けるのは嬉しかったのだ。それこそ中学の頃、大学のことなんかよく分かっていなかったときに、「大学生になったらシェアハウスするのいいな」って話したことを、きっと覚えていてくれたんだろうから。
たとえそれが御澤のためなのだと分かっていても、自分から、御澤との今の関係を手放すことが出来なかったのだ。どこまで自分本位になったら気が済むのだろう。
きっと、御澤のことだから、俺の心なんかお見通しだったのだろう。いつだって御澤は、その卓越した頭脳で、まるで自分のことのように、俺の心の中を見抜くのだ。
そうして、俺たちのルームシェアは始まった。ともすれば、気の強い妹二人が幅を利かせる肩身の狭い実家よりも、御澤との暮らしは居心地が良く、嫌なところが見えてくるどころか、輪をかけて御澤の虜になっていった。
御澤は当然お手伝いさんがいるような金持ちの家で生まれ育ったため、初めのうちこそ生活能力が皆無だったが、一通り教えれば問題なくこなせるようになった。俺は感激のあまり内心御澤を崇め奉った。
なにせ、両親共働きの上実家ではバスケ部に所属する上の妹とバレー部に所属する下の妹(いずれも強豪)に完全マネージャー扱いでこき使われていた身の上だ。あの二人は兄貴を顎で使って悪びれもしなければ、家事をやってみよう、覚えてみようなんて素振りすら見せなかった。過酷な練習でヘトヘトになって帰ってきているのは理解できるし、何か言えば10倍になって返ってくるから何も言わなかったが、流石にレンジで作り置きを温める事すら碌にできないのはヤバいことだと気づいてほしかった。
引き換え、御澤は俺が思いついて着手する前にいつの間にかタスクを終わらせているし、報連相は欠かさないし、食費管理に留まらず食材や消耗品のストック管理までしてくれるし、俺が基本的な炊事洗濯掃除を請け負う代わりに、どうしても忘れがちになる定期的に点検が必要な箇所の清掃(家電の一部部品や換気扇や排水溝やコンロ回りの五徳etc…)をすべて網羅してくれるし、日々の家事が円滑になるよう最大限配慮してくれるのだ。
脳裏に結婚の二文字が過って仕方ないくらいには、俺にとって都合の良すぎる共同生活だった。御澤は自分の仕事ぶりが完璧であることをまったく鼻にかけない。当然のことをしたまでだ、という顔で、なおもまだ何か不足はないかと、常に気配りを欠かさない。向上心に溢れた謙虚なハイスペックイケメン、あまりに非の打ち所がなさすぎる、理想そのものの姿だろう。
俺の人生における最大の幸運は御澤と出会ったことに違いないという確信は日々強くなっていくばかりだ。同時、必ずやってくるだろう喪失の時を思えば、気が遠くなるほどに憂鬱でもあった。
こんなにも出来過ぎた最高の好青年である御澤のことだ。ありとあらゆるハイスペ美男美女が自ずと集まってくるだろうし、いつかは彼のお眼鏡にかなう素敵な恋人が現れるに違いない。
その時になれば、俺は物分かりの良い理解ある親友として潔く身を引かなくてはならない。
そもそも恋愛感情を隠したまま好きな相手と同じ家に住んで共同生活を送っていること自体、極め付きの不誠実だ。御澤が恋人持ちになれば尚更である。
いうなれば、安全レバーのないジェットコースターの頂上でいつまでも止められているみたいな気分だ。滑落の時がいつまでも来てほしくない気持ちと、いつか死ぬならさっさと殺してほしいなどという気持ちが絶えずせめぎ合っている。
そんな日々が2年と2カ月ほど過ぎた頃のこと……3回生、ちょうど梅雨が明けて夏の気配が迫っていることを悟らせるような晴天の日である。
俺は、ついに、その時が来てしまったことを悟ったのだった。
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