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プロローグ
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「ああ、やだなあ……」
情けないほど震えた声が、俺しかいない部屋に虚しく響く。つい力を籠めてしまって、グシャリと、ひとり暮らし用の物件資料が歪んだ。にわかに、説明を受けた時までは確かに感じていたはずの魅力が、めっきりと精彩を失ったように感じた。
大学生になって地元を出た俺は、同じ大学に進学することになった親友とシェアハウスして、家賃を折半することで、それなりにいい条件のマンションに住んでいる。
立地も良く、最寄り駅も繁華街も近いが治安が荒れているわけでもない、コンビニがすぐ近くにあり、大学には徒歩5分で行ける、これ以上ないほど好条件の物件。
しかし、俺はそんな勿体ないほどのところに住んでおきながら、このシェアハウスに限界を感じていた。
理由は簡単。俺は、シェアハウスしている親友に片想いなんかしているのだ。なおかつ、それは墓場まで持っていこうと思っている秘密。後ろ暗さは折り紙付きの隠し事だろう。
その上、大学に入ってから、輪をかけてモテ始めた親友に、遂にカップル当確の女性が現れたらしいのだ。それも、去年のミスコンでグランプリを獲った文句なしの高嶺の花を射止めたのだと。
大学で出来た友達に飲みに誘われると、専らその話で何か知ってることはないかと、うんざりするほど問いただされた。もはやコミュニティでは公然の事実なのだろう。いい加減、何も知らないと繰り返すのも飽き飽きしている。
大好きなやつに彼女が出来るのだ。8年弱の付き合いがある親友として、盛大に祝福して、邪魔にならないように適切な距離を取るべきだ。やましい思いを抱えながら、彼女もちの男と共同生活するなんて、不純極まりない。
何より、このままずるずるとシェアハウスを続けて、親友の生活に彼女の存在が食い込むのを目の当たりにしたくない。
恋愛感情を自覚してから6年以上、みるみる恋心を拗らせ続けた俺のことだ、きっと、そう間もなく発狂してしまうことだろう。その時に自分が何をしでかすか分からないのだ。
間違っても、アイツに迷惑をかけるわけにはいかない。本懐を果たせなくとも、親友として、出来る限りアイツの人生に存在していたいのだ。
本人の口から、カップル成立を知らされた日が、シェアハウス解消の瞬間だ。それまでに、いつでも引っ越しできるよう、備えを万全にしておかなければ。
ああ、まさか、こんなに拗らせる事になろうとは。
だって、仕方ないじゃないか。誰も気づいていなかった時から、俺は親友の魅力を知っていたのに。今だって、誰よりもアイツのことを理解してる自信がある。
ルックスとスペックで、今更アイツに目をつけたような節穴に、負けが決まり切ってるなんて、ああ、これほど悔しいことはない。
まあでも、仕方ない。俺のアドバンテージなんて、それくらいなのだから。
ルックスもスペックも、性格も品性もカリスマも、アイツには遠く及ばない。つり合いなんて取れるはずが無いし、そもそも俺はアイツと同性の男なのだから、土俵にすら上がれないなんて体たらく。
親友でいられるだけで、十分だ。満足するべきなのだ。
それなのに、物分かりの悪い涙腺が、何度目か分からない涙をボロボロと零してやまない。
ああ、惨めだ。みっともない。いやだ。馬鹿みたいだ。
「やだよ、マジで……っ」
この期に及んで、まだも諦めきれない、往生際の悪い自分が、本当に、嫌で嫌でたまらなかった。
情けないほど震えた声が、俺しかいない部屋に虚しく響く。つい力を籠めてしまって、グシャリと、ひとり暮らし用の物件資料が歪んだ。にわかに、説明を受けた時までは確かに感じていたはずの魅力が、めっきりと精彩を失ったように感じた。
大学生になって地元を出た俺は、同じ大学に進学することになった親友とシェアハウスして、家賃を折半することで、それなりにいい条件のマンションに住んでいる。
立地も良く、最寄り駅も繁華街も近いが治安が荒れているわけでもない、コンビニがすぐ近くにあり、大学には徒歩5分で行ける、これ以上ないほど好条件の物件。
しかし、俺はそんな勿体ないほどのところに住んでおきながら、このシェアハウスに限界を感じていた。
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大学で出来た友達に飲みに誘われると、専らその話で何か知ってることはないかと、うんざりするほど問いただされた。もはやコミュニティでは公然の事実なのだろう。いい加減、何も知らないと繰り返すのも飽き飽きしている。
大好きなやつに彼女が出来るのだ。8年弱の付き合いがある親友として、盛大に祝福して、邪魔にならないように適切な距離を取るべきだ。やましい思いを抱えながら、彼女もちの男と共同生活するなんて、不純極まりない。
何より、このままずるずるとシェアハウスを続けて、親友の生活に彼女の存在が食い込むのを目の当たりにしたくない。
恋愛感情を自覚してから6年以上、みるみる恋心を拗らせ続けた俺のことだ、きっと、そう間もなく発狂してしまうことだろう。その時に自分が何をしでかすか分からないのだ。
間違っても、アイツに迷惑をかけるわけにはいかない。本懐を果たせなくとも、親友として、出来る限りアイツの人生に存在していたいのだ。
本人の口から、カップル成立を知らされた日が、シェアハウス解消の瞬間だ。それまでに、いつでも引っ越しできるよう、備えを万全にしておかなければ。
ああ、まさか、こんなに拗らせる事になろうとは。
だって、仕方ないじゃないか。誰も気づいていなかった時から、俺は親友の魅力を知っていたのに。今だって、誰よりもアイツのことを理解してる自信がある。
ルックスとスペックで、今更アイツに目をつけたような節穴に、負けが決まり切ってるなんて、ああ、これほど悔しいことはない。
まあでも、仕方ない。俺のアドバンテージなんて、それくらいなのだから。
ルックスもスペックも、性格も品性もカリスマも、アイツには遠く及ばない。つり合いなんて取れるはずが無いし、そもそも俺はアイツと同性の男なのだから、土俵にすら上がれないなんて体たらく。
親友でいられるだけで、十分だ。満足するべきなのだ。
それなのに、物分かりの悪い涙腺が、何度目か分からない涙をボロボロと零してやまない。
ああ、惨めだ。みっともない。いやだ。馬鹿みたいだ。
「やだよ、マジで……っ」
この期に及んで、まだも諦めきれない、往生際の悪い自分が、本当に、嫌で嫌でたまらなかった。
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