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第四十五話
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ズッ、と、鼻の奥にくぐもったような音が、不意に響く。追って気まずそうな咳払い。
おい、分かってるからな。こういう時我慢できずに吹き出すのは、だいたいロサ姉だって相場が決まってるんだ。しっかりしてくれよ。
「……っw、リアルでは、はじめまして~。レイネです~!」
シンくん以外が一斉に撃沈。逆にシンくんが何もかもをそぎ落としたような真顔で立ち尽くしているのが余計に絵面のシュールさに拍車をかけている。
ああ、そりゃ、こんな成人男性が、いかにもキャピっとした女の子の声を頑張ってひり出してるところなんか、傍から見たらギャグにしか見えないだろうな。
「駄目だwww」
「死ぬwww」
「おほっwww これ今日のコラボ、アカンかもwww 笑って無理やわwww」
「じゃあレイネだけ別室隔離で」
「うそうそうそうそ!! 冗談やんか、もう! そんなケッタイなこと言わんとって、ナガトさん! ンフッ……w」
おい、笑いが隠しきれてないぞ。マジで大丈夫か? 配信開始予定時間まであと2時間ほど。それまでにどうにか慣れてくれよ。
さて、引退ライブを明後日に控えた今日だが、最初で最後の一期生オフコラボを決行しようということで、同期のみんなと事務所のスタジオに集まっているところである。
まあつまり、みんなには、顔見知りの成人男性が目の前で女の子の声を出して自分に話しかけてくるとか言う苦行を強いることになるわけで。
「こうなることは分かってたけどね……」
「大丈夫、大丈夫! 配信始まったらちゃんと切り替えるから、ねっ!」
「てかシンはよく笑わずにいられるよな」
「ほっとけよ……心のどっかではまだ信じてなかったんだよ……」
「かわいそw」
「黙ってくれ……」
「一生ネタにして擦ってやるからさw 元気出せよw」
「誰か殺せコイツを」
「はいはいアビスてぇてぇ」
とまあ、こんな調子で、スタッフさんにも手伝ってもらいながら、配信の設営などを全員で協力してやっていく。結局、抵抗も虚しく、配信内容は地獄の闇鍋パーティーになってしまった。全員でとっておきの具材を持ち込む形式である。
「青月が何持って来たか、だよね、問題は……アイツ、ナチュラルにゲテモノ食いだし」
「この前配信でゆえめあに蜂の幼虫食べさせてたよね」
「最悪。パワハラだろ」
「言っとくけど、あれ取り寄せて持ち込んだの結驛の方だからね。俺をダシにして虫食って悦に浸ってるドマゾだから、あの女」
「あれ? ゆえめあってドSキャラで売ってなかったっけ」
「ドマゾだから他人にも同じ事で喜んでもらえるって信じて疑わない自他境界ゆるふわ女だよ」
「ヤバ~、お似合いですやん」
「シームレス悪口やめてくれるか。実は俺も傷つく心というものを持っててですね」
「マジか、知らなかった」
「知らなかったやめて。みんな俺のこと何だと思ってる?」
「クレイジーサイコパス芸人」
間髪入れずに鋭い返しをするレディ。実に容赦がない。しかして実際紅艶くんは、常識知らずというわけではないが、常識のことを逆張りするためのマニュアルだと思っている節があるので、この評価は残当である。
鍋の調理についてはスタッフさんが全部やってくれた。しかし、調理班の方から時折不穏な声が上がっているのが聞こえたので、不安が止まらない。
さて、配信はぬるりと始まった。案の定、俺がチャンネル主として最初に挨拶を始めると、笑ってはいけない闇鍋オフコラボ24時が幕を開け、ロサ姉は顔を真っ赤にしながら震えて挨拶もままならないし、紅艶くんは笑わないように大口を開けてシンプル変顔を披露するわ、そのせいで何とか持ちこたえていたレディもツボるわ、シンくんはシンくんで乾杯前に一人で酒を飲み始めるわ、あっという間に、まともに進行できるのがレイネしかいなくなってしまった。
「さて、みなさん、ほら、しっかりして! 進めますよ!! ルール説明から! まあ闇鍋なので、入ってる具材を当てるのはそうなんですけど、その上で、誰がその具材を持って来たのかまで言い当ててもらいます! いいですか!?」
「www はいw」
「ところで鍋なのになんでこんなゲロ甘い匂いしてるんですかね!?」
「この中に誰かトロールがいるなぁ……w」
「大体一人しか思い浮かばないですけど、ねえ青月」
「は? ひど、流石にド偏見botでしょそれは」
「ハッシュタグ日頃の行いやあらしまへんかねぇ」
「僕占い師だけど紅艶が黒。初手吊りでFA」
「闇鍋人狼始まったってw 闇鍋人狼って何……?w」
「「「「wwwwww」」」」
そうこうしているうちに、さっさとしろというスタッフさんからの圧によって照明が消される。グダグダしていても仕方がないので、全員で小学生の給食みたいに手と声を合わせた。
「……なにこれ」
「ヤバイ、なんかどろどろのつぶつぶがもちもちしてる……もしかしてタピオカ……?」
「もう最悪……w 誰だよゴ○チャ持参した奴w」
「なんやこれ!? 食べたこと無い食感なのに食べたことある味してる未知の食べもの入ってへん!? えっ、なんやこれぇ」
「あの~、誰ですか、芋けんぴ入れた人……トロール一人だけじゃないの、もしかして」
「ねえこれ何!?!? プチプチしてるつぶつぶ何!?!? やだもう泣きそう!」
「おいクエン酸やったなお前」
「流石に冤罪、今回はマジで冤罪。あとゲロ甘い味に紛れて伊勢海老っぽい食感と風味感じたんだけど、持って来た人やる気ある? 闇鍋だぜ?」
「あっ、いた、いたわ伊勢海老、普通に伊勢海老が可哀想」
「マジそれな……」
さて、具材5種類が出そろったところで、ひとまず小皿の中のものを間食するようスタッフさんから指示が出される。俺たちはヒイヒイ言いながらどうにかゲロ甘くてつぶつぶしたプチプチの入った鍋のようなナニカを飲み干した。
全員が食べ終わったと声を上げたところで証明が復活。紅艶くんと、すでに出来上がったシンくんは平気そうな顔をしていたが、対照的に女子組と俺はげっそりだった。
「ええ、と……総括すると? タピオカと、未知の食べものと、芋けんぴと、謎のツブツブと、伊勢海老か。先に誰がどれを持って来たかだけ議論しますか?」
「とりあえず謎のツブツブは青月で」
「異議なし」
「えぇ……じゃあタピオカは?」
「それも紅艶だろ」
「おい、ゲテモノは全部俺に押し付けようったってそうは問屋が卸さねえぞ。俺以外にもキチガイがいるんだよ、現実見ろ」
「タピオカはでも女子組っぽくない?」
「ほなロサ姉かぁ」
「なんでやw モス子って手もあるんとちゃうのん」
「モス子はチキンだから何だかんだ伊勢海老じゃね」
「モスチキンな」
「やめて、商標に引っ掛かる」
ひとまず全員で出した結論としては、タピオカがロサ姉で、未知の食べものがシンくんで、芋けんぴがレディ、謎のツブツブが紅艶くん、伊勢海老がレイネということになった。
なお、正解は、タピオカがシンくんで、未知の食べものが紅艶くん、芋けんぴが正解でレディ、謎のツブツブはまさかのロサ姉、そして伊勢海老が正解のレイネであった。
「あの、伊勢海老の人。とりあえず供述を聞かせてもらえますか? 闇鍋の趣旨分かってます?」
「だって、オフコラボ最初で最後だし……みんなに美味しいもの食べてほしいなって……」
「申し訳なくなってきた」
「すみませんでした」
伊勢海老を台無しにした主犯であるタピオカの人と芋けんぴの人が謝ってくる。しかしまあ、取れ高的にはそちらの方が正解なので何とも言えない。
「あの、ところであの未知の食材、結局なんですか紅艶さん」
「え? 知らない? ガキのころばあちゃんちでよく食べさしてもらってたんだけど、ローカルなんかな、これ」
「……あ!! 思い出した! なんか知ってると思ったら、鳥のキンカンだこれ!! もつ煮で食べたことある!!」
「そうそう、それ!! 食感面白いし、混乱するかなって思ってさ」
「実際卵っぽいなとは思ってた。あまりに食感になじみが無さすぎて頭バグッたわ」
さて、問題は、謎のプチプチしたツブツブだ。まさかのロサ姉の持参品ということで、ひとまず彼女以外の全員が想起したであろう虫の卵という線は消えたのだが。
「あの……皆さん、驚かしてすんまへん。チアシードってご存知です?」
「ああ~!! 聞いたことある!! 美容にいいと噂の!」
「そうそうw 個人的に一番舌触りがキショいの選んだらそうなりましてん」
「なるほどね~、ロサの姉御もなかなかいい趣味してるねぇ」
「いやぁ、オモロいもんやで、みんながアタフタしてはるの。たまらんわ」
ケラケラと笑いながら、アングラ臭漂う二人がほくそ笑む。芋けんぴとタピオカよりはマシなチョイスの二人のはずなのに、どうしてかこの二人が一番悪く思えてくる。不思議だ。
さて、闇鍋企画が終了したところで、スタッフさんが気を回してくれ、闇鍋ではなく、俺が持ち寄った食材(せっかくなので伊勢海老以外にも牡蠣や良さげな肉を持って来たのだ)と、八女川の差し入れで構成されたまともな鍋を囲む会になった。
俺は明日リハと最後の配信があるため遠慮したが、他の4人は八女川が持って来たお酒も片手に、絶品鍋を堪能した。
「まさかさあ、私たちの中で最初に引退するのがモス子になるとは思ってなかったよね」
「ああ~……初期からさ、TOFと言えばモス子、みたいな感じで、ずっと先頭に立って引っ張ってくれてたからね。結構……なんだろ、精神的支柱にしてたところあったよ」
「モス子が同期にいてくれはったおかげで、TOFの将来性に確信が持てたもんなぁ。大船に乗ったつもりで伸び伸びやらしてもらって」
「……超えるべき目標がすぐ近くにあったから、がむしゃらになれたよ、僕も」
ついグッときてしまい、俺は俯いて黙り込んだ。初めの頃は、どうして自分は今こんなことをやっているのだろうと、虚無感に苛まれる瞬間も幾度となくあった。
自分の恥部を切り売りして、必死こいて自分にそぐわない無理なキャラを演じて。リスナーを欺いている、という罪悪感も常に付き纏った。
それでも、途中で投げ出さずにいられたのは、彼らのおかげなのだ。彼らが、めいいっぱい、この世界で夢を見て、その夢を羽ばたかせる手伝いができたらと、そう願うことで、この心は、すんでのところで保っていた。
それが、まさか、俺の方が、こんなにも大きな夢を見せてもらうことになるなんて。それもこれも、彼らの存在が、レイネの活動の原動力になってくれていたおかげだ。
「それが、私にとっては、何よりの答えだよ……途中で投げ出さずに、ここまでふんばってきて、本当によかった。支えてもらってたのは、私の方です。みんながいなかったら、本当の意味で、自分が何者であってもいいって思えること、なかったと思うから」
活動を続けることに意味を見出せていなきゃ、コウガくんに出会うこともなかった。俺の心が救われることだって、きっと。
「モス子はさ、この世界で見つけるべきもの、見つけちゃったんだね」
「はい、見つかりました。本当に、大事なものを」
「ホンマに満足そうな顔してはるわ……ほんなら、引き留めるとか、今更そういうのは似合わへんな」
「まあでもさ、また何か見つけたくなったら、実家みたいにいつでも戻ってきてよ。ひとつなぎの大秘宝でも、ちょっとした失くしものとかでもいいからさ」
「リアルが物足りなくなったら、いつでも僕が迎え撃つよ。どんな伝説残しても追いつけないくらいのビッグネームになってやるから。夢に果てなんか無いってこと、どこまでも証明してやる」
「いままでありがとう、モス子。これからも大好きだよ」
レディの、飾りっ気のない言葉が、トドメだった。配信であることすら忘れて、みんなを笑わせてしまうくらい、盛大に涙が溢れて止まらなかったのだった。
おい、分かってるからな。こういう時我慢できずに吹き出すのは、だいたいロサ姉だって相場が決まってるんだ。しっかりしてくれよ。
「……っw、リアルでは、はじめまして~。レイネです~!」
シンくん以外が一斉に撃沈。逆にシンくんが何もかもをそぎ落としたような真顔で立ち尽くしているのが余計に絵面のシュールさに拍車をかけている。
ああ、そりゃ、こんな成人男性が、いかにもキャピっとした女の子の声を頑張ってひり出してるところなんか、傍から見たらギャグにしか見えないだろうな。
「駄目だwww」
「死ぬwww」
「おほっwww これ今日のコラボ、アカンかもwww 笑って無理やわwww」
「じゃあレイネだけ別室隔離で」
「うそうそうそうそ!! 冗談やんか、もう! そんなケッタイなこと言わんとって、ナガトさん! ンフッ……w」
おい、笑いが隠しきれてないぞ。マジで大丈夫か? 配信開始予定時間まであと2時間ほど。それまでにどうにか慣れてくれよ。
さて、引退ライブを明後日に控えた今日だが、最初で最後の一期生オフコラボを決行しようということで、同期のみんなと事務所のスタジオに集まっているところである。
まあつまり、みんなには、顔見知りの成人男性が目の前で女の子の声を出して自分に話しかけてくるとか言う苦行を強いることになるわけで。
「こうなることは分かってたけどね……」
「大丈夫、大丈夫! 配信始まったらちゃんと切り替えるから、ねっ!」
「てかシンはよく笑わずにいられるよな」
「ほっとけよ……心のどっかではまだ信じてなかったんだよ……」
「かわいそw」
「黙ってくれ……」
「一生ネタにして擦ってやるからさw 元気出せよw」
「誰か殺せコイツを」
「はいはいアビスてぇてぇ」
とまあ、こんな調子で、スタッフさんにも手伝ってもらいながら、配信の設営などを全員で協力してやっていく。結局、抵抗も虚しく、配信内容は地獄の闇鍋パーティーになってしまった。全員でとっておきの具材を持ち込む形式である。
「青月が何持って来たか、だよね、問題は……アイツ、ナチュラルにゲテモノ食いだし」
「この前配信でゆえめあに蜂の幼虫食べさせてたよね」
「最悪。パワハラだろ」
「言っとくけど、あれ取り寄せて持ち込んだの結驛の方だからね。俺をダシにして虫食って悦に浸ってるドマゾだから、あの女」
「あれ? ゆえめあってドSキャラで売ってなかったっけ」
「ドマゾだから他人にも同じ事で喜んでもらえるって信じて疑わない自他境界ゆるふわ女だよ」
「ヤバ~、お似合いですやん」
「シームレス悪口やめてくれるか。実は俺も傷つく心というものを持っててですね」
「マジか、知らなかった」
「知らなかったやめて。みんな俺のこと何だと思ってる?」
「クレイジーサイコパス芸人」
間髪入れずに鋭い返しをするレディ。実に容赦がない。しかして実際紅艶くんは、常識知らずというわけではないが、常識のことを逆張りするためのマニュアルだと思っている節があるので、この評価は残当である。
鍋の調理についてはスタッフさんが全部やってくれた。しかし、調理班の方から時折不穏な声が上がっているのが聞こえたので、不安が止まらない。
さて、配信はぬるりと始まった。案の定、俺がチャンネル主として最初に挨拶を始めると、笑ってはいけない闇鍋オフコラボ24時が幕を開け、ロサ姉は顔を真っ赤にしながら震えて挨拶もままならないし、紅艶くんは笑わないように大口を開けてシンプル変顔を披露するわ、そのせいで何とか持ちこたえていたレディもツボるわ、シンくんはシンくんで乾杯前に一人で酒を飲み始めるわ、あっという間に、まともに進行できるのがレイネしかいなくなってしまった。
「さて、みなさん、ほら、しっかりして! 進めますよ!! ルール説明から! まあ闇鍋なので、入ってる具材を当てるのはそうなんですけど、その上で、誰がその具材を持って来たのかまで言い当ててもらいます! いいですか!?」
「www はいw」
「ところで鍋なのになんでこんなゲロ甘い匂いしてるんですかね!?」
「この中に誰かトロールがいるなぁ……w」
「大体一人しか思い浮かばないですけど、ねえ青月」
「は? ひど、流石にド偏見botでしょそれは」
「ハッシュタグ日頃の行いやあらしまへんかねぇ」
「僕占い師だけど紅艶が黒。初手吊りでFA」
「闇鍋人狼始まったってw 闇鍋人狼って何……?w」
「「「「wwwwww」」」」
そうこうしているうちに、さっさとしろというスタッフさんからの圧によって照明が消される。グダグダしていても仕方がないので、全員で小学生の給食みたいに手と声を合わせた。
「……なにこれ」
「ヤバイ、なんかどろどろのつぶつぶがもちもちしてる……もしかしてタピオカ……?」
「もう最悪……w 誰だよゴ○チャ持参した奴w」
「なんやこれ!? 食べたこと無い食感なのに食べたことある味してる未知の食べもの入ってへん!? えっ、なんやこれぇ」
「あの~、誰ですか、芋けんぴ入れた人……トロール一人だけじゃないの、もしかして」
「ねえこれ何!?!? プチプチしてるつぶつぶ何!?!? やだもう泣きそう!」
「おいクエン酸やったなお前」
「流石に冤罪、今回はマジで冤罪。あとゲロ甘い味に紛れて伊勢海老っぽい食感と風味感じたんだけど、持って来た人やる気ある? 闇鍋だぜ?」
「あっ、いた、いたわ伊勢海老、普通に伊勢海老が可哀想」
「マジそれな……」
さて、具材5種類が出そろったところで、ひとまず小皿の中のものを間食するようスタッフさんから指示が出される。俺たちはヒイヒイ言いながらどうにかゲロ甘くてつぶつぶしたプチプチの入った鍋のようなナニカを飲み干した。
全員が食べ終わったと声を上げたところで証明が復活。紅艶くんと、すでに出来上がったシンくんは平気そうな顔をしていたが、対照的に女子組と俺はげっそりだった。
「ええ、と……総括すると? タピオカと、未知の食べものと、芋けんぴと、謎のツブツブと、伊勢海老か。先に誰がどれを持って来たかだけ議論しますか?」
「とりあえず謎のツブツブは青月で」
「異議なし」
「えぇ……じゃあタピオカは?」
「それも紅艶だろ」
「おい、ゲテモノは全部俺に押し付けようったってそうは問屋が卸さねえぞ。俺以外にもキチガイがいるんだよ、現実見ろ」
「タピオカはでも女子組っぽくない?」
「ほなロサ姉かぁ」
「なんでやw モス子って手もあるんとちゃうのん」
「モス子はチキンだから何だかんだ伊勢海老じゃね」
「モスチキンな」
「やめて、商標に引っ掛かる」
ひとまず全員で出した結論としては、タピオカがロサ姉で、未知の食べものがシンくんで、芋けんぴがレディ、謎のツブツブが紅艶くん、伊勢海老がレイネということになった。
なお、正解は、タピオカがシンくんで、未知の食べものが紅艶くん、芋けんぴが正解でレディ、謎のツブツブはまさかのロサ姉、そして伊勢海老が正解のレイネであった。
「あの、伊勢海老の人。とりあえず供述を聞かせてもらえますか? 闇鍋の趣旨分かってます?」
「だって、オフコラボ最初で最後だし……みんなに美味しいもの食べてほしいなって……」
「申し訳なくなってきた」
「すみませんでした」
伊勢海老を台無しにした主犯であるタピオカの人と芋けんぴの人が謝ってくる。しかしまあ、取れ高的にはそちらの方が正解なので何とも言えない。
「あの、ところであの未知の食材、結局なんですか紅艶さん」
「え? 知らない? ガキのころばあちゃんちでよく食べさしてもらってたんだけど、ローカルなんかな、これ」
「……あ!! 思い出した! なんか知ってると思ったら、鳥のキンカンだこれ!! もつ煮で食べたことある!!」
「そうそう、それ!! 食感面白いし、混乱するかなって思ってさ」
「実際卵っぽいなとは思ってた。あまりに食感になじみが無さすぎて頭バグッたわ」
さて、問題は、謎のプチプチしたツブツブだ。まさかのロサ姉の持参品ということで、ひとまず彼女以外の全員が想起したであろう虫の卵という線は消えたのだが。
「あの……皆さん、驚かしてすんまへん。チアシードってご存知です?」
「ああ~!! 聞いたことある!! 美容にいいと噂の!」
「そうそうw 個人的に一番舌触りがキショいの選んだらそうなりましてん」
「なるほどね~、ロサの姉御もなかなかいい趣味してるねぇ」
「いやぁ、オモロいもんやで、みんながアタフタしてはるの。たまらんわ」
ケラケラと笑いながら、アングラ臭漂う二人がほくそ笑む。芋けんぴとタピオカよりはマシなチョイスの二人のはずなのに、どうしてかこの二人が一番悪く思えてくる。不思議だ。
さて、闇鍋企画が終了したところで、スタッフさんが気を回してくれ、闇鍋ではなく、俺が持ち寄った食材(せっかくなので伊勢海老以外にも牡蠣や良さげな肉を持って来たのだ)と、八女川の差し入れで構成されたまともな鍋を囲む会になった。
俺は明日リハと最後の配信があるため遠慮したが、他の4人は八女川が持って来たお酒も片手に、絶品鍋を堪能した。
「まさかさあ、私たちの中で最初に引退するのがモス子になるとは思ってなかったよね」
「ああ~……初期からさ、TOFと言えばモス子、みたいな感じで、ずっと先頭に立って引っ張ってくれてたからね。結構……なんだろ、精神的支柱にしてたところあったよ」
「モス子が同期にいてくれはったおかげで、TOFの将来性に確信が持てたもんなぁ。大船に乗ったつもりで伸び伸びやらしてもらって」
「……超えるべき目標がすぐ近くにあったから、がむしゃらになれたよ、僕も」
ついグッときてしまい、俺は俯いて黙り込んだ。初めの頃は、どうして自分は今こんなことをやっているのだろうと、虚無感に苛まれる瞬間も幾度となくあった。
自分の恥部を切り売りして、必死こいて自分にそぐわない無理なキャラを演じて。リスナーを欺いている、という罪悪感も常に付き纏った。
それでも、途中で投げ出さずにいられたのは、彼らのおかげなのだ。彼らが、めいいっぱい、この世界で夢を見て、その夢を羽ばたかせる手伝いができたらと、そう願うことで、この心は、すんでのところで保っていた。
それが、まさか、俺の方が、こんなにも大きな夢を見せてもらうことになるなんて。それもこれも、彼らの存在が、レイネの活動の原動力になってくれていたおかげだ。
「それが、私にとっては、何よりの答えだよ……途中で投げ出さずに、ここまでふんばってきて、本当によかった。支えてもらってたのは、私の方です。みんながいなかったら、本当の意味で、自分が何者であってもいいって思えること、なかったと思うから」
活動を続けることに意味を見出せていなきゃ、コウガくんに出会うこともなかった。俺の心が救われることだって、きっと。
「モス子はさ、この世界で見つけるべきもの、見つけちゃったんだね」
「はい、見つかりました。本当に、大事なものを」
「ホンマに満足そうな顔してはるわ……ほんなら、引き留めるとか、今更そういうのは似合わへんな」
「まあでもさ、また何か見つけたくなったら、実家みたいにいつでも戻ってきてよ。ひとつなぎの大秘宝でも、ちょっとした失くしものとかでもいいからさ」
「リアルが物足りなくなったら、いつでも僕が迎え撃つよ。どんな伝説残しても追いつけないくらいのビッグネームになってやるから。夢に果てなんか無いってこと、どこまでも証明してやる」
「いままでありがとう、モス子。これからも大好きだよ」
レディの、飾りっ気のない言葉が、トドメだった。配信であることすら忘れて、みんなを笑わせてしまうくらい、盛大に涙が溢れて止まらなかったのだった。
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感想ありがとうございます!! メイン3人だけでなく、作者としても思い入れのある一期生たちに着目してくださり、本当に嬉しいです! 完結までもうすぐとなりますが、引き続きお付き合いくださると幸いです!
更新ありがとうございます!主人公が色んな意味で男らしくてかっこいいです⟡.·
1話からとても面白くて何回も読んでしまうくらい大好きです。
感想いただきありがとうございます! 主人公の人柄には作者としましても力を入れているところですので、着目していただけて嬉しいです! その上何度も読み返してくださるなんて……! これほど執筆冥利に尽きることはございません! よろしければ、今後とも完結まで見守ってくださると嬉しいです!
わ〜情緒がジェットコースター。
しんどいところは地面の下までぶち込まれましたが、後はもう昇るのみ。
更新ありがとうございます!
ワクワクお待ちしています!
再び感想をいただけるとは……!! ここまで読んでくださり本当にありがとうございます!! よろしければ大団円までお付き合い頂けますと幸いです!