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第三十六話
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暫しの沈黙を破る、不安定な笑い声。嗚咽のようにも聞こえるそれは、聞くものの心を揺さぶってくる何かがふんだんに込められていた。
『あ、ああ……そうですか、都合が悪くなったら、そうやってナガトさんを引っ張ってくるんですね。狡いなあ、そういうの……ねえ、皆もそう思うよね。ナガトさん、見る目無いよ。そんな無責任なひとをパートナーに選ぶなんて、残念だなぁ、はは』
「違うよ、違うんだ、シンくん。ずっと、黙っててごめん。レイネをやってたのは、俺なんだ。あの、炎上した一件でTOFを告発した女の子が、本当はレイネをやることになってたけど、色々あって、代役を出来るのが俺しかいなくなって……ずっと、俺が、その代わりをやって、みんなを欺き続けてた」
『はぁ……? そんな、荒唐無稽な話、誰が信じるかよ……』
「シンくんはさ、レイネの歌みたの制作を俺が全部やってて、なおかつレイネの活動が盛んになったころに俺が事務所に顔を出さなくなったから、専属マネか、もしくは交際関係にあるんじゃないかって疑ったんだよね」
『俺らが知らないことを何でシンだけ知ってんだよって思ってたら……なんだ、そういうことか』
『いや、待てって……こんな話信じるのか!? 意味わからんだろ普通に……!』
「もっと言えば、俺が八女川……代表と、レイネの引退に伴って事務所の社員も退職するって話をしてたところにシンくんが居合わせたってのが発端だね」
ブフッ、と、勢い余って吹き出した声がVCに入る。アイコンの明滅からしてロサ姉のものだ。いやまあ当事者でないものからしたら本当にギャグでしかないだろうけどね!? 今完全にそういう空気じゃなかったよね!?
『じゃ、じゃあさ、じゃあさ……今ここでレイネの声出してもらえばいいじゃん、ね! そうだ、アレ歌ってよ、ちゅーりんらぶ!』
能天気を装ったような、気遣うあまり元気が空回った声で、トンチンカンな提案をしてくるのはレディだ。一人チューリン○ラブは普通に罰ゲームだろ。流石に天然鬼畜が過ぎる。
しかしまあ、ここで断るのも何なので、思い切って息を吸い、リクエスト通りサビだけ歌ってみる。切り替えがなかなか難しく、男性パートと女性パートがゴチャゴチャになってしまったが、事実であることを知らしめるにはむしろ功を奏しただろう。
ちなみに俺が歌っている最中、シンくん以外の三人でドカンドカンと大爆笑が巻き起こっていた。VCは混迷の坩堝に叩き落とされ、完全カオス状態である。TOF黎明期を担ってきたハチャメチャな一期生らしいといえばらしいが。シンくんのことを思うと居たたまれない。
『ヤwwwバwww マジだwww これマジだぁwww』
『待ってwww 今ナガトさんどんな気持ちでそれやってるの?www サラッとやってみせるのがいっそシュールでしんどいんだけどwwwwww』
『あきまへんわwww そんな雰囲気やないって分かっててもワロてまうわwww かんにんな、シンくんwww ゲホ、ゴホッ』
俺とシンくん以外があまりに肝っ玉すぎる。俺が今どんな気持ちかって? もはや悟りを開いてるよ。レイネとしてやってきた間はずっとこんな気持ちだったよ。今更だ今更。
と言うかやってみて自分でも驚いたんだが、この程度なら痛痒にも感じなかった。何せ俺は現恋人に脅されてセンシティブボイスを録らされたことがあるんだ。それよりはずっとマシ、当たり前の話である。恥の多い人生にも程があるという話だ。
ふと、ティロン、と腑抜けたSEが響く。ボイスチャンネルの参加者欄を見てみれば、シンくんのアイコンがなくなっていた。気持ちは痛いほど分かる。いたたまれないのも分かる。
でも申し訳ないが間合いが完璧すぎて、つられて俺まで爆笑してしまった。紅艶くんはもはや声も出ないくらい呼吸困難に陥り台パンしてるし、ロサ姉も何か叫んでいるが咽すぎて人語の体を成していない。レディはレディで某大御所芸人のような堂に入った引き笑いを披露している始末だ。
「あっw、あの、ごめんね、みんな。ずっと黙ってて……w」
『ダハハハッwww ごめっ、今それどころじゃないwww もう私モス子の声聞いただけで笑っちゃうよぉwww』
『さすがにちょっとアイツが可哀想になってきたwww だってwww ブフッwww モス子とwww ナガトさんがwww けっこ、オホホッwww 同一人物なのにwww 大事故じゃんwww』
「あの……こればっかりはずっと黙ってた俺が全部悪いので……」
『それはそうなんやけどな?www そうなんやけどぉ、ゴメ、もう笑うしかないやん、だってwww』
『レディのちゅーりんらぶってチョイスがここでジワジワ効いてくるんだけどwww 確信犯?w もしかしてアイツのこと嫌い?www』
『いやいやいやいや!w まあでもシンくんのどこが好きって聞かれたら、不憫ポイント高いところではある』
『急に真顔やめてw』
示し合わせたわけでもなく、しかし同時に、4人で盛大なため息。ドッと疲労感……否、徒労感が押し寄せたのだ。実際笑っている場合ではないとようやく気付いたとも言う。
「あの……シンくん、どうしよ……ちゃんとメンケア案件だよね」
『プロの手が必要ではある』
『たぶん今SANチェック中だから一回ソッとしておこ』
『せやな……』
みるみる押し寄せてくる罪悪感。思い返せば、レイネとしての活動を始めてからというもの、思いもよらないところで拗れては大惨事に陥ってばかりな気がする。
一体、何からどう謝ればいいのか。どうしたら納得してもらえるだろうか。一生恨まれても仕方のない拗れ方である。
『ナガトさん、そもそもどうしてずっと黙ってたんですか? 同期なんだから、普通に言ってくれたらよかったし、大変な時に一言も相談してもらえなかったの、実際結構心にキましたけど』
永戸遍として数度ほど飲みに行ったこともある紅艶くんからの痛烈な問いかけが心にグサリと刺さる。ごもっともだ。特に彼は同期を大事に思ってくれていて、心配のメッセージをまめに送ってくれてたし、何度も断った一期生オフコラボの誘いを、それでもめげずに送ってくれていた。
「その節は本当にご迷惑を……何度か迷いはしたよ、でもさ……初期のころは、まさかここまで活動続けるとは思ってなかったというか……いつかフェードアウトするもんだと思って誤魔化し誤魔化しやってたから、わざわざ自分からノイズ振り撒くことないかなって思ってたんだ」
『ノイズとは……?』
「あの……まあ、普通にキモいかなって……初期のころはずっとTOF専属クリエイターとしてみんなの活動にも関わってたし、顔見知りではあったから、実は同期の女の子と思ってた相手が知り合いの成人男性でした~って言われても、ホラーでしかないじゃん」
『あっ、もしかして、あちきとかレディがてぇてぇ~みたいな絡みしようとしても一線引いてきはったのって、そういうことやってんか……!? 普通にめっちゃ凹んでたがな』
『確かに~、うわモス子のくせに清楚~とか思ってたけどね』
「くせにって何? ひどくない?」
『ほんまやで、モス子の分際でなぁ』
「分際で……!?!? 分際マジか……」
レディとロサ姉のアイコンがチカチカと明滅する。レイネのことを雑にいじって二人でキャラキャラ笑ういつものノリだ。それが今は妙に面映ゆかった。
『あのさ、ちょっとキショいこと言っていい? 今までのモス子のあれこれをさ、改めてナガトさんがやってたって思うとさ……ちょっとエロくない?』
「えっ……ちゃんとキショいじゃん、びっくりした」
『いや青月……めっちゃ分かるわ……なんかエロい。あのナガトさんが……!? ってなる。ギャップえぐい。腐女子のアレがソレでビンビンにいきり立ってる』
『レディなら分かってくれると思ってたよ』
待て待て、怖い怖い怖い怖い。あのナガトさんってどの俺だよ。キモいとエロいって実は紙一重だったりするのか? そんなはずないよな。コウガくんもなんだかんだ、俺みたいな成人男性が頑張って可愛い女性Vをやってるキショさを否定したことはないし。
『え……? なに、あちきがおかしいん? これ……モス子が実は男だったって衝撃の百億倍はこの二人の方がキショいやんか……ナガトはん、全然気にせんでええで。ナガトはんはキショないわ。しっかりしてはる。かんにんな、ホンマに』
「や……なんか、大丈夫。もっとヤバいやつ身近にもう一人いるから……エロいってのは普通に全然理解できないけど。どういう神経してる? 逆に教えてほしい」
『えっ、語らしてもらってもいいんですか……!? あのですね、ナガトさんって、とことんそういうイメージないんですよ。真面目そうだし、潔癖そうだし、清潔感あって、男性的な包容力? 安心感があるっていうか……だからこそエロいんですよ、わかります!?』
『そう、自認にキモいって感覚があるなら、絶対羞恥心抱えながらやってたはずで……ははぁ、モス子見てて、全くそういう営業してないのに妙にエロく感じる時あるなって思ってたら……なるほど、俺は常時ほのかに漂ってる恥じらいにエロさを感じてたんだな……世紀の発見だわ……』
「しんど……」
『キッツ……』
恐らく顔を覆っているんだろう、ロサ姉のうめき声がくぐもって聞こえてくる。関西弁酒乱センシティブお姉さん、シラフは意外と常識的である。
ああ、聞くんじゃなかった。なんだよ、そういうイメージないからこそエロいって。そりゃそういうイメージないだろ。そもそもこんなことするつもりなんてハナから全く無かったわけだし。恥じらいがエロいって何!? 俺これからどんな顔して引退まで毎日配信すればいいんだ!?
『まあでもさ、勇気だしてよ、ナガトさん。人類誰しも何がしかのキモポイント抱えて生きてるから。そこで常識人ぶってるロサ姉だってちょっと酒入ったらセクハラ大魔神になるわけだし』
『失敬やでホンマ……あちきは人よりちょっと女体に対するこだわりがあるだけやんか』
『アホほど酔った勢いで経産婦の肉感と妊娠線の芸術性について小一時間メン限のASMR配信で語った挙句ゲロ吐いてド炎上した女が何か言ってますけど』
「TOF一期生ってもしかしてヤバいやつしかいない?」
『『『何を今更』』』
「……そっかぁ」
何と言うか、ますます、シンくんへの罪悪感が募って仕方なかった。こんなことならさっさと同期だけにでも打ち明けておけばよかった。どれだけ後悔してもそれこそ今更だが。
「ちょっと、出てくれるかは分からないけど、一回シンくんとサシで話してくる。彼の不快感は尤もだし、こればっかりはちゃんと向き合わないと、ずっと蟠りが残るだろうし」
『おっけい! 私たちここで作業とかしながら待機しておくから、話し合いが済んだら一緒に戻って来てね。どうせだったらこの勢いで一期生コラボしたいし』
『せやな。あちき5人で一緒にマイクラのTOFサーバーにモス子のお墓建てたいと思っててん』
『いいね、てか引退するまでに一期生全員でオフコラボもしたいからその企画も3人で練っとくよ。ごゆっくり~』
懐が深いというか、何と言うか。とにかく、平謝りしながら俺はいったんVCを退出した。幸運にもシンくんはオンライン中だ。
どうか、頼むから、出てくれ。そんな思いで、俺は彼との通話ボタンをクリックしたのだった。
『あ、ああ……そうですか、都合が悪くなったら、そうやってナガトさんを引っ張ってくるんですね。狡いなあ、そういうの……ねえ、皆もそう思うよね。ナガトさん、見る目無いよ。そんな無責任なひとをパートナーに選ぶなんて、残念だなぁ、はは』
「違うよ、違うんだ、シンくん。ずっと、黙っててごめん。レイネをやってたのは、俺なんだ。あの、炎上した一件でTOFを告発した女の子が、本当はレイネをやることになってたけど、色々あって、代役を出来るのが俺しかいなくなって……ずっと、俺が、その代わりをやって、みんなを欺き続けてた」
『はぁ……? そんな、荒唐無稽な話、誰が信じるかよ……』
「シンくんはさ、レイネの歌みたの制作を俺が全部やってて、なおかつレイネの活動が盛んになったころに俺が事務所に顔を出さなくなったから、専属マネか、もしくは交際関係にあるんじゃないかって疑ったんだよね」
『俺らが知らないことを何でシンだけ知ってんだよって思ってたら……なんだ、そういうことか』
『いや、待てって……こんな話信じるのか!? 意味わからんだろ普通に……!』
「もっと言えば、俺が八女川……代表と、レイネの引退に伴って事務所の社員も退職するって話をしてたところにシンくんが居合わせたってのが発端だね」
ブフッ、と、勢い余って吹き出した声がVCに入る。アイコンの明滅からしてロサ姉のものだ。いやまあ当事者でないものからしたら本当にギャグでしかないだろうけどね!? 今完全にそういう空気じゃなかったよね!?
『じゃ、じゃあさ、じゃあさ……今ここでレイネの声出してもらえばいいじゃん、ね! そうだ、アレ歌ってよ、ちゅーりんらぶ!』
能天気を装ったような、気遣うあまり元気が空回った声で、トンチンカンな提案をしてくるのはレディだ。一人チューリン○ラブは普通に罰ゲームだろ。流石に天然鬼畜が過ぎる。
しかしまあ、ここで断るのも何なので、思い切って息を吸い、リクエスト通りサビだけ歌ってみる。切り替えがなかなか難しく、男性パートと女性パートがゴチャゴチャになってしまったが、事実であることを知らしめるにはむしろ功を奏しただろう。
ちなみに俺が歌っている最中、シンくん以外の三人でドカンドカンと大爆笑が巻き起こっていた。VCは混迷の坩堝に叩き落とされ、完全カオス状態である。TOF黎明期を担ってきたハチャメチャな一期生らしいといえばらしいが。シンくんのことを思うと居たたまれない。
『ヤwwwバwww マジだwww これマジだぁwww』
『待ってwww 今ナガトさんどんな気持ちでそれやってるの?www サラッとやってみせるのがいっそシュールでしんどいんだけどwwwwww』
『あきまへんわwww そんな雰囲気やないって分かっててもワロてまうわwww かんにんな、シンくんwww ゲホ、ゴホッ』
俺とシンくん以外があまりに肝っ玉すぎる。俺が今どんな気持ちかって? もはや悟りを開いてるよ。レイネとしてやってきた間はずっとこんな気持ちだったよ。今更だ今更。
と言うかやってみて自分でも驚いたんだが、この程度なら痛痒にも感じなかった。何せ俺は現恋人に脅されてセンシティブボイスを録らされたことがあるんだ。それよりはずっとマシ、当たり前の話である。恥の多い人生にも程があるという話だ。
ふと、ティロン、と腑抜けたSEが響く。ボイスチャンネルの参加者欄を見てみれば、シンくんのアイコンがなくなっていた。気持ちは痛いほど分かる。いたたまれないのも分かる。
でも申し訳ないが間合いが完璧すぎて、つられて俺まで爆笑してしまった。紅艶くんはもはや声も出ないくらい呼吸困難に陥り台パンしてるし、ロサ姉も何か叫んでいるが咽すぎて人語の体を成していない。レディはレディで某大御所芸人のような堂に入った引き笑いを披露している始末だ。
「あっw、あの、ごめんね、みんな。ずっと黙ってて……w」
『ダハハハッwww ごめっ、今それどころじゃないwww もう私モス子の声聞いただけで笑っちゃうよぉwww』
『さすがにちょっとアイツが可哀想になってきたwww だってwww ブフッwww モス子とwww ナガトさんがwww けっこ、オホホッwww 同一人物なのにwww 大事故じゃんwww』
「あの……こればっかりはずっと黙ってた俺が全部悪いので……」
『それはそうなんやけどな?www そうなんやけどぉ、ゴメ、もう笑うしかないやん、だってwww』
『レディのちゅーりんらぶってチョイスがここでジワジワ効いてくるんだけどwww 確信犯?w もしかしてアイツのこと嫌い?www』
『いやいやいやいや!w まあでもシンくんのどこが好きって聞かれたら、不憫ポイント高いところではある』
『急に真顔やめてw』
示し合わせたわけでもなく、しかし同時に、4人で盛大なため息。ドッと疲労感……否、徒労感が押し寄せたのだ。実際笑っている場合ではないとようやく気付いたとも言う。
「あの……シンくん、どうしよ……ちゃんとメンケア案件だよね」
『プロの手が必要ではある』
『たぶん今SANチェック中だから一回ソッとしておこ』
『せやな……』
みるみる押し寄せてくる罪悪感。思い返せば、レイネとしての活動を始めてからというもの、思いもよらないところで拗れては大惨事に陥ってばかりな気がする。
一体、何からどう謝ればいいのか。どうしたら納得してもらえるだろうか。一生恨まれても仕方のない拗れ方である。
『ナガトさん、そもそもどうしてずっと黙ってたんですか? 同期なんだから、普通に言ってくれたらよかったし、大変な時に一言も相談してもらえなかったの、実際結構心にキましたけど』
永戸遍として数度ほど飲みに行ったこともある紅艶くんからの痛烈な問いかけが心にグサリと刺さる。ごもっともだ。特に彼は同期を大事に思ってくれていて、心配のメッセージをまめに送ってくれてたし、何度も断った一期生オフコラボの誘いを、それでもめげずに送ってくれていた。
「その節は本当にご迷惑を……何度か迷いはしたよ、でもさ……初期のころは、まさかここまで活動続けるとは思ってなかったというか……いつかフェードアウトするもんだと思って誤魔化し誤魔化しやってたから、わざわざ自分からノイズ振り撒くことないかなって思ってたんだ」
『ノイズとは……?』
「あの……まあ、普通にキモいかなって……初期のころはずっとTOF専属クリエイターとしてみんなの活動にも関わってたし、顔見知りではあったから、実は同期の女の子と思ってた相手が知り合いの成人男性でした~って言われても、ホラーでしかないじゃん」
『あっ、もしかして、あちきとかレディがてぇてぇ~みたいな絡みしようとしても一線引いてきはったのって、そういうことやってんか……!? 普通にめっちゃ凹んでたがな』
『確かに~、うわモス子のくせに清楚~とか思ってたけどね』
「くせにって何? ひどくない?」
『ほんまやで、モス子の分際でなぁ』
「分際で……!?!? 分際マジか……」
レディとロサ姉のアイコンがチカチカと明滅する。レイネのことを雑にいじって二人でキャラキャラ笑ういつものノリだ。それが今は妙に面映ゆかった。
『あのさ、ちょっとキショいこと言っていい? 今までのモス子のあれこれをさ、改めてナガトさんがやってたって思うとさ……ちょっとエロくない?』
「えっ……ちゃんとキショいじゃん、びっくりした」
『いや青月……めっちゃ分かるわ……なんかエロい。あのナガトさんが……!? ってなる。ギャップえぐい。腐女子のアレがソレでビンビンにいきり立ってる』
『レディなら分かってくれると思ってたよ』
待て待て、怖い怖い怖い怖い。あのナガトさんってどの俺だよ。キモいとエロいって実は紙一重だったりするのか? そんなはずないよな。コウガくんもなんだかんだ、俺みたいな成人男性が頑張って可愛い女性Vをやってるキショさを否定したことはないし。
『え……? なに、あちきがおかしいん? これ……モス子が実は男だったって衝撃の百億倍はこの二人の方がキショいやんか……ナガトはん、全然気にせんでええで。ナガトはんはキショないわ。しっかりしてはる。かんにんな、ホンマに』
「や……なんか、大丈夫。もっとヤバいやつ身近にもう一人いるから……エロいってのは普通に全然理解できないけど。どういう神経してる? 逆に教えてほしい」
『えっ、語らしてもらってもいいんですか……!? あのですね、ナガトさんって、とことんそういうイメージないんですよ。真面目そうだし、潔癖そうだし、清潔感あって、男性的な包容力? 安心感があるっていうか……だからこそエロいんですよ、わかります!?』
『そう、自認にキモいって感覚があるなら、絶対羞恥心抱えながらやってたはずで……ははぁ、モス子見てて、全くそういう営業してないのに妙にエロく感じる時あるなって思ってたら……なるほど、俺は常時ほのかに漂ってる恥じらいにエロさを感じてたんだな……世紀の発見だわ……』
「しんど……」
『キッツ……』
恐らく顔を覆っているんだろう、ロサ姉のうめき声がくぐもって聞こえてくる。関西弁酒乱センシティブお姉さん、シラフは意外と常識的である。
ああ、聞くんじゃなかった。なんだよ、そういうイメージないからこそエロいって。そりゃそういうイメージないだろ。そもそもこんなことするつもりなんてハナから全く無かったわけだし。恥じらいがエロいって何!? 俺これからどんな顔して引退まで毎日配信すればいいんだ!?
『まあでもさ、勇気だしてよ、ナガトさん。人類誰しも何がしかのキモポイント抱えて生きてるから。そこで常識人ぶってるロサ姉だってちょっと酒入ったらセクハラ大魔神になるわけだし』
『失敬やでホンマ……あちきは人よりちょっと女体に対するこだわりがあるだけやんか』
『アホほど酔った勢いで経産婦の肉感と妊娠線の芸術性について小一時間メン限のASMR配信で語った挙句ゲロ吐いてド炎上した女が何か言ってますけど』
「TOF一期生ってもしかしてヤバいやつしかいない?」
『『『何を今更』』』
「……そっかぁ」
何と言うか、ますます、シンくんへの罪悪感が募って仕方なかった。こんなことならさっさと同期だけにでも打ち明けておけばよかった。どれだけ後悔してもそれこそ今更だが。
「ちょっと、出てくれるかは分からないけど、一回シンくんとサシで話してくる。彼の不快感は尤もだし、こればっかりはちゃんと向き合わないと、ずっと蟠りが残るだろうし」
『おっけい! 私たちここで作業とかしながら待機しておくから、話し合いが済んだら一緒に戻って来てね。どうせだったらこの勢いで一期生コラボしたいし』
『せやな。あちき5人で一緒にマイクラのTOFサーバーにモス子のお墓建てたいと思っててん』
『いいね、てか引退するまでに一期生全員でオフコラボもしたいからその企画も3人で練っとくよ。ごゆっくり~』
懐が深いというか、何と言うか。とにかく、平謝りしながら俺はいったんVCを退出した。幸運にもシンくんはオンライン中だ。
どうか、頼むから、出てくれ。そんな思いで、俺は彼との通話ボタンをクリックしたのだった。
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