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第十八話

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 ふと、コウガ君が「シャワー浴びてくる」と言って、何故か家から出て行ってから、数分。

 今からシャワー浴びるってそういうことだよな、そんな考えで悶々としつつ、ひとつも頭に入ってこないショート動画をひたすらスクロールしてやり過ごした時間である。

 流石に電話しようか、なんて思い立ったところ、ふたたび、玄関ドアの錠が開く音が鳴る。ガサガサと、ビニール袋の擦れる音も響いてきた。

 寝室に入って来るかと思いきや、ドアの前に何か置かれた音を最後に、遠のいていく足音。おそらく、今からシャワーを浴びてくるのだろう。ふと、指の背で頬を触った。たちまち、今の自分がどんな顔色をしているかを悟り、首を横に振った。

 ややあって、コウガくんは素っ裸のまま部屋に戻ってきた。片手にはタオル、もう片手には件のビニール袋。生唾を飲みこんで動向を見守る。

 どこか落ち着かない様子の大股歩きで歩み寄ってきたコウガくんは、おもむろにビニール袋をひっくり返し、ベッドの上に、内容物をぶちまけた。

 コンドーム。それも、おそらく、店舗のありったけ。

 俺は顔を覆った。指の間から、目だけでコウガくんの表情を窺えば、いっそ清々しいほどやる気に満ち溢れた顔をしていた。それにしても直球すぎる。男同士で繕うものは殆ど無いとはいえ、もう少し手加減してくれ。こっちは慣れてないんだ。

「どんな顔してレジ打ってもらってたんだよ……」

「ナガトさんとヤることしか考えてなかったから覚えてない」

「えぐ……」

「いっぱいシたい」

「うん、なんか、見ればわかるかも」

「足りなかったらどうしよ」

「死ぬかもぉ……」

 社会の薄汚さとか全く知らなそうな無邪気な顔で恐ろしいこと言わないでくれ。腹上死とか洒落にならん。それこそ両親に顔向けできない。今更だけど。

 とりあえず、ベッドの上に散らばった、向こう3カ月ぶんくらいはありそうなコンドームをかき集め、ひとつ以外はベッド脇の手に届く場所へ積んでおく。その間にコウガくんはノソノソとベッドに乗り上げ、ベッド上に残しておいた一つを手に取り、ピリリと包装を破いて床に放り投げていた。

 ひとつ、深呼吸。何だかんだ、すっかりディルドで気持ちよくなれる体にはなったが、それでも、ボトムとして生身の人間とセックスするのはこれが初めて。

 コウガくんだって、おそらく、男を抱くのは初めてのことだろう。そう思うと、やはり緊張して身構えてしまう。

「最初は、とりあえず、後ろからがいいか」

「……顔、見たいんだけどな」

「まあ、また、追々な。ほら」

 俺は四つん這いになり、尻を突き上げて、片手で尻たぶを広げて見せた。少し前までディルドが入ってた穴だから、まだ柔らかいはずだ。

 コウガくんは、加減を確かめるように、指を突っ込んでぐにぐにと出し入れした。その慣れた手つきが、今日ばかりは妙に気恥ずかしくて、いちいち肩がびくつく。

「やぁらか……すっかりえっちになっちゃったねぇ、ナガトさん」

「しみじみするのやめろマジで」

「時間経ってちょっと乾いてるからローション足すわ」

「あ、ハイ」

 緩急が凄すぎる。ジェットコースターかよ。妙にゾクゾクして、俺は枕に顔を埋めた。

 ぴちゃ、ちゃぷ、と、ローションを人肌の温度に慣らす音。別に、直接ブチこんでくれればいいのに、なんて、じれったい気持ちが燻る。そんなことで委縮するようなヤワな穴じゃないし。

 しかし、今日のコウガくんの手つきはいつにも増して冗長だった。少し盛り上がっているだろうアナルのふちを、ローションのたっぷり塗れた指先でクルクルと撫でてから、少しずつ、少しずつ、ナカに塗り広げていく。

 みるみる、全身の力が弛緩していく。丁寧に、ていねいに、自分の体の主導権が掌握されていっているような、たまらない感覚だ。脳の奥がジンと痺れて、意識の輪郭がぼやける。それなのに、体の感覚だけは研ぎ澄まされていく。

「……っ、ひ、ぃ゛♡ う゛♡ ぅ゛♡ お゛♡ お゛……♡」

 穴を慣らしていく、どこか事務的のようであった指が、突如、いたずらに前立腺をぐりぐりと刺激した。チュクチュクと揺らされるようにやわく揉まれ、つい、節操のない嗚咽が口から漏れ出す。不意打ちだったものだから、反応が遅れて、つい地声が混じってしまった。

「ぁ、ご、ごめ……♡ へんな、声っ、混じっちゃ……」

「ちょっと漏れた低い声、なに? えっろ」

「……っ!? あ゛♡ はっ♡ うぅ゛♡ や、やら゛♡ そこばっか、ぁあ゛ッ♡♡」

 コウガくんの指が動くたび、まんまと跳ねる体。おそらく、ヒクヒクと指を食むアナルも、彼の視界に晒されていることだろう。鼻の奥がツンと痛んだ。

「ん、そろそろイきそ?」

「んっ♡♡ うんっ♡♡ イ゛く、も、イッ♡♡ う゛……っ♡」

「じゃあ、そろそろ挿れるか」

「へ……♡」

 コウガくんは、そんな言葉とともに、容赦なく指を引き抜いた。ほんとうに、あと一撫ででイくだろう、といったタイミングだった。あまりに信じられなくて、見開いた目から生理的な涙がボロボロと溢れた。腰もみっともなくカクカク揺れる。

「痛かったら言って、ゆっくりやるから」

「い、いいからっ……♡ はや、はやくぅ゛……♡♡」

「んふ、ゆっくり、ね」

 腰を掴まれ、ぐい、と持ち上げられる。足が長いにも程があるだろう。殆ど力の入らない体勢に冷や汗をかいていれば、ひと、と、アナルのふちに、先っぽが宛がわれる。みるみる、背骨を溶かしてしまいそうな熱が伝播し、情けない吐息が零れた。

 そして、その感触だけで分かった。さっきまで使っていた、うちで一番デカいディルドよりも、コウガくんのがちゃんとデカい。泣きそうだ。早く、なんて口走った自分を助走付きでブン殴りたい。

「ん゛ぅ゛……っ♡ はぁ……♡♡ ぁ、あつ……♡♡ やば、アハッ、ふふ、でっかぁ……♡♡ ふへへぇ……♡♡」

「ねぇ~~……やっぱ顔見たいよ、ナガトさぁん……」

「いっ、いい、からぁ……♡♡ もっと、おく、こいって……♡♡」

「もぉ~~~~~~~~っ」

 ずぷ、ぬぷ、と、ゆっくり、やや押し広げるように、みるみる挿入ってくるコウガくんの竿。正直、ディルドとの違いまでは、今のところ分からない。しかし、無機物でない、生きているモノと繋がっているという感慨で、ことのほか、心が満たされるような気がした。

「ぜんぶ、はいった……?」

「……まだ、半分」

「アハハハッ……やばぁ、すご……♡♡」

 なんだか、笑いが止まらない。何か変なスイッチが入ったか、妙にハイだった。さっさとコウガくんにもトんでほしい。俺がどんなに泣こうがトぼうが気絶しようが、関係なく、貪欲に腰を振って、俺のナカで思う存分イってほしい。

 しかし、裏腹、コウガくんは浅いところを擦るように腰を動かし始めた。自分が気持ちよくなるためではない、俺のための動きだ。

「ぅお゛っ♡♡ う゛♡ ふっ♡ ん゛♡♡ ふぅ゛♡♡ あ゛ッ♡♡♡ ヤバ……っ♡♡♡ そぇ゛♡♡ ヤバ、ぁア゛ッ♡♡ イ゛く♡♡ い、っ~~~~~~~~♡♡♡♡」

 膝がガクガクと痙攣する。あっけない絶頂だった。コウガくんにかかれば、こんなにも簡単にイかされてしまう事実。恐ろしくて仕方ない。

 コウガくんは、高揚した様子で息を荒げつつも、動きをピタリと止め、俺が落ち着くのを待ってくれている。ああ、いいのに。俺なんかほっとけばいくらでもイくんだから、好きに動けばいいのに。

「はぁ……♡♡ ね……♡♡ も、と♡♡ もっと、きて♡♡ いっぱい、ちょーだい♡♡」

「……っ、あんま、焦んなって……ガバ穴になっても知らねえぞ……」

「いいっ♡♡ なって、いいから♡♡ あんま、チキんな……♡♡ さっさと、奥までっ♡♡ ブチこめってぇ♡♡」

「クッソ……! ナガトさんが言ったんだからな!? 覚えとけよマジで」

 ズルリ、と、抜けるギリギリまで引き抜かれ、切なさで腰がへこへこと揺れる。同時、期待感で頭の中がいっぱいになり、溢れ出した生唾をゴクリと飲んだ。この格好も相まって、息を荒げるさまは、きっと犬みたいで滑稽だろう。

「っお゛♡♡ ご……♡♡ ほぉ゛……っ♡♡ キ、たぁ……っ♡♡♡ んふっ♡♡♡ ふふ♡♡♡ はちゅ、あつぃ……♡♡♡ お゛ォ゛♡♡♡♡」

 イッたばかりでグズグズのナカに、ビキビキの剛直がズッポリとハマる。ジンジンと熱い痺れが腰全体に広がり、強烈な多幸感で脳が満たされていく。ヤバい、と直感的に思ったが、それ以上に、ブッ壊れてもいいから、この先にある快楽をとことん味わいたいという、強烈な高揚感で、自然と笑みが零れた。

「アハ……ッ♡ ナガトさんのナカ、めっちゃイイんだけどぉ……♡ アツアツふわふわでねっとりしてて最高……♡ 搾り取られそ~♡」

 ナカの具合を堪能するように、ゆらゆらと緩慢に腰を動かすコウガくん。むずがゆくて、喉奥を絞ったような呻き声が漏れる。発情期の猫のようで恥ずかしい。

「大丈夫? キツくない?」

「ん……♡♡ だいじょぶ……っ♡♡ へへぇ……♡♡ コウガくんはぁ……?♡♡ ぁんか、へんじゃ、ない?♡♡」

「うん、すげぇイイよ、でも、今はコウガ、じゃなくて、カイな」

 ぱちゅ、と、彼の腰が、俺の尻とぶつかる音。それを皮切りに、ストロークがみるみる早まって、強くなっていく。腕だけでは支えきれなくなり、俺は枕に額を埋めて思いっきり尻を突き上げながら善がった。

「おぅ゛……っ♡♡ ん゛っ♡♡ ア゛♡♡ はッ♡♡♡ カイッ♡♡♡ カイくん♡♡♡ あ♡♡♡ あぅ゛♡♡ う、う゛♡♡♡ ん゛……♡♡♡」

「ふふ、そうそう、うまい、うまい♡ きもちいい?」

「ふっ♡♡♡ う゛♡♡♡ きもちいぃ゛♡♡♡ やばい……っ♡♡♡ ぜんぜん、ちがっ♡♡♡ あつぃ♡♡♡ ああ゛ッ♡♡♡」

「アハハ……今、オレのチンコとディルド比べた? ねえ、どっちがイイ? 教えて♡」

「カイくんのっ♡♡♡ カイくんのが、いいッ♡♡♡ カイくん♡♡♡」

 俺は間髪入れず即答した。口走ってから自分でもびっくりした。あんまり気持ちよくて、たまらなくて、頭がパッパラパーになっている。フウフウと、自分を確かめるように息をした。流石に即レス過ぎて引かれるレベルかも、これ。まあいいか。だって事実だし。

「んははははッ♡ わかった、わかったから……ふふふ、そっかぁ、かわいいね、ナガトさん♡」

「あひッ♡♡♡♡ ヒッ♡♡♡ い゛♡♡♡♡ う゛♡♡♡ やば♡♡♡ も、イ゛ッ♡♡♡♡ まってぇ゛♡♡♡♡ イっちゃう゛♡♡♡ ヤバいぃ゛♡♡♡」

「またぁ? も~、いいよ、イきな♡」

 呆れたような、甘い声が降り注ぎ、脳みその芯をぎゅう、と締め付けられるような心地がした。ああ、どうしよう、俺のが年上なのに、すっかり彼にリードを任せっぱなしだ。

「ごぇらしゃ♡♡♡ ごめんねぇ♡♡♡ イッちゃう♡♡♡ おればっか、ごぇんね♡♡♡ イく、イぐぅ゛♡♡♡ ふ、ぅ~~~~~~~~~~ッ♡♡♡♡」

 ぽた、ぽた、と、シーツに何か液体が垂れる音。涙で滲む視界を、何度も瞬きしながら確かめる。触られてもいないのに、俺のぶらぶらと揺れる真っ赤な先っぽから、精液が滴っていた。取り返しがつかないくらい無様に思えて、噛み締めた奥歯の隙間から、引き攣った笑い声が漏れた。

「あへっ♡♡♡ えへぇ♡♡♡ んふふ……♡♡♡ ヤバいよぉ゛♡♡♡ カイくん、おれ、もう、こわれちゃったぁ♡♡♡ どうしよ……♡♡♡ ふふふっ♡♡♡」

 コウガくんからは、興奮しきったような息遣いだけが返ってきた。よかった、と、しみじみ感じ入る。こんな体でも、彼が気持ちよくなるために使ってもらえるなら、たまらなく嬉しい。

 すっかり弛緩しきった身体を、ガンガン揺らされる。脳の奥でガンガンと警鐘が鳴るも、そんなことはどうでもいいと、すっかり身を任せて、息も絶え絶えにひたすらアヘアヘ喘いだ。雷に打たれたみたいに強烈で、ただただ愉快だった。

 ぐちゅ、と、思いっきり、奥までハマり、ぐりぐりと押し付けられる。勢い余って、俺も悶絶しながら思いっきりイッた。痙攣する腰を、それでも強く押さえつけられる。彼の震えがはっきり伝わって来て、恍惚のため息が零れた。

 ぬぽ、と、ゆっくり、ナカから彼の剛直が引き抜かれる。コウガくんは、なおもビクビク震えて余韻に浸る俺のぐったりした身体を仰向けにひっくり返し、膝立ちで、これ見よがしに、自身が装着したコンドームを外して、フウ、と息をついた。

 慣れた手つきで口を結び、俺に覆いかぶさって、顔に近づけてユラユラと揺らしながら、ニンマリと笑う。俺も反射的に笑いが込み上げてきて、鼻の奥でくぐもったようにフフンと笑った。こんな超絶イケメンが、せっせこ腰振って俺のナカで出した精液か、と思えば、なんだか無性に面白くて仕方なかった。

「後悔した? 俺のナカで出しちゃって」

「全然。初めてオレの精液搾り取った気分はどう?」

「最高」

 はちきれるように爆笑しながら、バカみたいなキスをした。こうなったら、振り返っても何も見えないところまで突き進んでやろうと思った。

 つまりはまあ、吹っ切れた、というやつだ。

 深夜なのに、久々に青空を見たような気分がして、たまらなく清々しかった。きっと明日は、これまでになく、スカッと目が覚めることだろう。
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