推しの悪役令息が嫌々結婚させられる田舎貴族の冴えない中年モブに転生してしまったので、せめて無害な紳士になろうと思います。

槿 資紀

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第七話

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 シリルは一度出しても俺と繋がったまま、むくりと上体を起こした。そして、俺の決壊してしまった涙腺からとめどなく溢れる涙をシーツでごしごしと拭った。妙に躍起になって表情を歪めており、癇癪を起した子どものように幼気だった。

 いくら拭いても涙が止まらないと分かるや、シリルは一触即発の野良猫のようながなり声で喉を唸らせ、俺のナカからズルリと彼のモノを抜き取った。

 気が済んだかと安堵したのも束の間、彼は泣いている俺の顔など見たくないとばかりに、強引な力技で俺の体をうつ伏せにした。フウフウと荒い息遣いと、くちゅくちゅ、と性急な手つきを思わせる水音が聞こえてくる。

 まさか、と思った時には遅く、シリルはふたたび後ろから俺のナカに自身を深く埋め、昂った神経を慰撫するように息を吐いた。

 ジン、と、またもや、脳の奥が痺れる。それを皮切りに、やっとの思いで落ち着かせた快楽の波が押し戻ってやってくる。俺は枕に顔を押し付けて首を振った。

「っふ、ふ、ぅふ……♡ むり、もうむり……っ♡ だめぁ゛♡ シル……っ♡」

 シリルは返答代わりに、抜ける寸前まで自身を引き抜き、ばちゅ、と強く腰を打ち付ける。俺はたまらず背中をしならせて痙攣し、力の入らない体でモロに感じ入った。

 ほぼ死に体の老体に鞭うつが如く、シリルは容赦なく抽挿を続ける。全身を駆け巡る、熱湯をかけられたみたいに壮絶な快感が、壊れかけの心身をさらに蝕んでいく。

「ぅう゛……♡ んぅ゛ッ♡♡ かひッ……♡ ひぃ゛……♡♡ ひぎュ゛ぅ゛♡♡」

「っ、わけが、わからない……どうして、そうも、強情になる? なあ、ロディ、何が気に入らない? 僕がここまで欲しているのに。すべてを捧げると宣った口で、どうして肝心のお前自身は僕のものになることを拒むんだ?」

「……っ♡ う゛ぅ゛~~~~~~♡♡ ぉご……♡♡ んお゛……♡♡ お゛ぉ゛♡♡」

 だって。何も持たないただの俺が、傍に居座り続けて、いったい貴方にとって何の益がある? 人生の盛りを過ぎて、後はただ衰えていくだけの中年が、どうして、無限大の可能性を秘めた宝石のような貴方に、未練たらしく縋りつくことなどできようか。

 引き換え、王弟殿下は聡明ながらまだ年若く、闊達とした秀麗な美丈夫だ。ようやく、貴方につり合いの取れる相手を見つけることができたというのに、こんな出涸らしの中年が出しゃばってどうする?

 この切実な思いを分かってもらおうと、どうにか口を開くものの、まるで分かったように俺を揺さぶって言葉を遮ってくるシリル。問いかけておいて、聞き入れる気など全く持ち合わせていない。いつものことだが、今日に限ってはたまらなく心細かった。

「ロディ、なあ……何が駄目なんだ? この僕に愛玩されて、ただ快楽に溺れているだけで、何不自由なく、死ぬまでの余生を過ごせるんだぞ? お前がどんなに老いさらばえて、僕のことすら忘れても、最後まで面倒を見てやる。僕がここまでするのはお前だけだ。お前が頼れるのも僕だけに違いない……それなのに、どうして、僕から離れようとするんだよ!」

 ぴちゃ、と、腰に、温かい雫がひとつ、弾ける。ひく、と、引き絞るような嗚咽が、彼の喉から零れ落ちた。うう、と、掠れた声で呻いて、グスグスと鼻の奥を鳴らし、思い出したように俺の奥を穿つ、その繰り返し。あからさま、錯乱し始めているのが分かった。

 錯乱していても彼の腰使いは凶悪で、容赦なく俺を乱してくる。息も絶え絶えに、どうにか彼の心を宥めてやりたい一心で身を捩るものの、それを抵抗と取られて更に呵責がヒートアップしてしまう……そんな、負のスパイラルに足を取られて、俺は途方に暮れた。

「頼んでもいないのに、全てを失った僕に忠誠を誓ったくせ、どうして僕が求めることには応えない⁉ 勝手に駆けずり回って、僕に何もかもを与えてきたくせに、どうして僕が一番欲しているものに気付かないんだ、なあ、ロディ、何とか言えよぉっ!」

「ふ~~~~ッ♡♡ ぅ゛……ッ♡♡ しぅ……ッ♡♡ おねぁ゛……っ♡♡ ぉお゛♡♡♡ いっか、やめっ、ぇ゛う゛ッッ♡♡♡」

「王太子には唾を吐かれて、そんな僕を実家は簡単に切り捨てた……! みんな侯爵令息の外面に騙されて自分から寄ってたかるのに、僕の本性を知った途端離れていく、両親も僕のことを面倒がって都合のいいように躾けようとして、思い通りにならないと、僕の全部を否定してきた! 僕の気持ちなんか、考えてくれさえしなかった……お前だけだった、どんなに悪態をついても、僕から離れていかず、受け入れたのは、お前だけ……っ」

 えぐえぐと苦しそうに泣いて、悲壮な声で捲し立てるシリル。俺の体を押しつぶすみたいに体を密着させ、ぐっぽりと奥に嵌めたまま、グッグッと腰を押し付けて揺らす。その度、バチバチと脳裏に火花が散り、気力がゴリゴリと削られていく。

 彼の刺々しさの核心がさらけ出されようとしているのに、誠心誠意向き合いたいのに、そんな思いもむなしく、力が入らない体。彼のことを抱きしめたいと思っているのに、びくとも動かない腕がもどかしくてならない。次第と意識も朦朧としてきたが、しかし、これだけは手放すわけにはいかないと、奥歯が軋んで痛むくらい噛み締めた。

「あの日……祭典の祝賀パーティーのあと、僕に呆気なくやり込められ、惨めを晒した連中のあのザマを見て、込み上げたのは、達成感でも愉悦でも何でもなかった。こんなものか、って……僕は、こんな取るに足らない連中を見返してやるために、お前を手放さなければならなかったのかと、ただただ虚しくてならなかったんだ。急に、足が竦んで、前に進まなくなった。きっと、これから何を手に入れても、同じことを思うだろうと思った……お前を引き換えにして得るに値するものなど、この世には無いと。理解した瞬間、僕は気が狂いそうになった。手元に残る全てが、ただ下らなくて、何もかも、許せなくなったんだ……っ」

 惨めだと、シリルは零した。途端、彼は壊れたように、笑っているのか、泣いているのか、嗚咽と笑いがまじりあったような、悲痛な声を上げて、しゃくりあげた。そしてそのまま、ナカに奥深く突きいれた自身でガツガツと最奥を穿ち、ぐぽ、と、拓いてはいけないところを押し開いた。

「~~~~~~ッッ♡♡♡♡ ギッ……♡♡♡♡ ぉごッッ♡♡♡♡ オ゛~~~~ッ♡♡♡♡」

 五感で感じる全てが一掃され、瞬く間に意識が漂白された。追って、ガチガチと奥歯が擦れる音が耳奥を揺らす。自分の中で、何かが終わってしまったことを自覚し、いっそ清々しいとすら思った。完全に頭がおかしくなっていた。

「ロディ、ロディ……! 頼む、おねがい、なんでもする、どこにもいかないでくれ。ずっと僕の傍にいてくれ、僕の人生を、僕を壊さないで、生きる価値を奪わないでくれよ……」

 俺のことを壊しながら、シリルはか細い声で壊さないでと繰り返した。なんて壊滅的で、気持ちいいのだろうと思った。今まで大事に守ってきたプライドが、笑えるくらいくだらないもののように思えて、何もかもどうでもいいな、と、夢見心地にそう思った。

「ふ……ッ♡♡♡ はへ……♡♡♡ へッ……♡♡♡ ぁへ……♡♡♡ しぅ♡♡♡ シルぅ゛♡♡♡ ふぅう~~~~~~♡♡♡♡」

「おねがい、ロディ、ロディってば……ごめん、ゆるしてよ、ごめん、ひどいこと沢山言ってごめん、僕、ちゃんと直すから、ね、おねがい、ずっと一緒にいてよぉ、うぅ、グスッ」

 思わせぶりな言葉を巧みに操り、容易く相手の心を手玉に取って見せる彼からは、到底考えられないような拙い言葉遣い。刺々しい悪態の奥底に隠していたのだろう、彼の幼気な等身大が、すっかりさらけ出されていた。

 きっとずっと、彼は孤独に泣いていた。誰も、彼の弱みなど顧みず、彼の心に立ち入っては、不用意に踏みにじった。だから、彼はとげとげしく周囲を拒絶して、自分を守るしかなかったのだろう。これで、どうして素直になどなれようか。

 彼のためだなんて思いあがって、気持ちよく彼の前から去ろうとしていた自分が、いかに無神経だったかを思い知った。彼の悪辣なふるまいにばかり酔いしれて、その脆さを顧みなかった自分もまた、彼を傷つけた連中と同じではないか。

「……ッ♡♡♡ ぅふ……♡♡ しぅ、しりゅ……♡♡♡ ごぇんれ♡♡♡ おぇ、おれ、しあわせ……♡♡♡ うれひっ♡♡♡ うれしぃ♡♡♡ しゅき、らよ♡♡♡」

「……! ロディ? ほんと? いなくならない?」

「ぅんっ♡♡ うんッ♡♡♡ ずっと♡♡♡ いっしょ♡♡♡ ふふ♡♡♡」

「~~~~~~~~ッ‼ ロディ、ロディ! 約束、絶対だよ⁉」

 俺は最後の力を振り絞ってガクガクと何度も頷いてみせた。するとシリルはきゅう、と喉奥を甲高く鳴らし、興奮を露わに、ガツガツと腰を激しく揺すった。意識が遠のいていくのを、俺は最早惜しまなかった。

「すき、ぼくも、だいすき、あいしてる、ロディ……‼」

 嬉しそうに何度もそう言って、シリルはぎゅう、と俺を抱きしめ、後頭部に頬ずりしながら勢いよく吐精した。すでに絶頂のピークに達して久しかった俺も、ガクガクと震えながらそれを受け入れる。

 そして、萎え切って真っ赤に震えていたペニスから、じゅわ、と何かが勢いよく溢れる感覚を最後に、俺の意識はパッタリ途絶えたのだった。
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