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第一話
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可能性はふたつあった。
私が、彼の保険として機能できる可能性。そして、もう一つ。
私が、陣営の癌として排除される可能性。
どちらでも良かった。そう、どちらにしろ、彼の未来のためになれるのだから、私がどのように扱われようが、本望だった。
「そう、思っていたんだけどな」
堕天使の体というのは意外としぶといらしい。目の前には、先程まで私の体として機能していた首無しの肉塊が転がっている。
「首を取ったぞ!!!! 裏切者の首を取った!!!!」
いつになれば私の意識は途絶えてくれるのだろうか。折り合いは良くなかったとはいえ、かつての同僚に髪の毛を鷲掴みにされて、さらし者にされるのはあまり気分が良くない。
いや、この場合さらし首だな。正真正銘、私は首一つになって、今にもこの生涯に幕を引こうとしているのだから。
ああ、それにしても、13名いる幹部のうち、過半数以上の9名が、裏切者の討伐に雁首揃えてやってくるなんて。私も相当恨まれたものだ。
「フフ、ハハハハハハ!! ようやく、ようやくだ……これで、ヴィド様に集る目障りな蠅を駆除出来た……! ようやく、我々が正当な評価を受ける時がやってきたのだ!!」
「愚か者が……ヴィド様が魔王として即位なさるのはもう決まりきったことだというのに、今更欲目をかいたか、浅ましい堕天使め」
「そうよ、いずれ魔王として君臨なさるヴィド様のお傍に侍るのは、我々のように由緒正しき魔界の魔族であるべき。間違っても卑しい堕天使などではないわ!」
ああ、そうだな。私は、必要なくなったのだ。他でもない、彼が……ヴィドが、私のことをそのように判断して、最高戦力である幹部らを遣わしたのだ。
それが彼の処断なら、受け入れるさ。はなから、そのつもりだった。
瞼を閉じる。今もなお鮮明に脳裏に浮かぶのは、味方が互いしかいなかった頃のヴィドのこと。
たがいに、変わってしまった。変わり果ててしまった。
だから、きっと、彼なら、私の思惑を分かってくれる、受け入れてくれると、そう期待していた私が、どこまでも甘かっただけなのだ。
「見たかった、な。ヴィドが、魔王に、なるところ、を」
見届けたかった。誰からも顧みられず、孤独に瞳を曇らせていた半人半魔の少年が、魔界の頂点に君臨するさまを。
天界で罪を犯し、薄汚い鴉の姿にされて魔界に堕とされ、踏みつぶされて息絶える寸前だった私を拾ってくれた、唯一の貴方を、私が、魔王にしたかった。
でももう、いいのだ。彼はもう寂しくなんてならない。
こんなにも、彼のことを信じて、どこまでも付いてきてくれる臣下たちが出来た。
もう二度と、彼が孤独に苦しむことはない。
そうだ、思い出した。
ひとりは、こんなにも辛いものだった。
ああ、よかった。彼は、もう、こんな思いをせずにすむんだ。
私が、彼の保険として機能できる可能性。そして、もう一つ。
私が、陣営の癌として排除される可能性。
どちらでも良かった。そう、どちらにしろ、彼の未来のためになれるのだから、私がどのように扱われようが、本望だった。
「そう、思っていたんだけどな」
堕天使の体というのは意外としぶといらしい。目の前には、先程まで私の体として機能していた首無しの肉塊が転がっている。
「首を取ったぞ!!!! 裏切者の首を取った!!!!」
いつになれば私の意識は途絶えてくれるのだろうか。折り合いは良くなかったとはいえ、かつての同僚に髪の毛を鷲掴みにされて、さらし者にされるのはあまり気分が良くない。
いや、この場合さらし首だな。正真正銘、私は首一つになって、今にもこの生涯に幕を引こうとしているのだから。
ああ、それにしても、13名いる幹部のうち、過半数以上の9名が、裏切者の討伐に雁首揃えてやってくるなんて。私も相当恨まれたものだ。
「フフ、ハハハハハハ!! ようやく、ようやくだ……これで、ヴィド様に集る目障りな蠅を駆除出来た……! ようやく、我々が正当な評価を受ける時がやってきたのだ!!」
「愚か者が……ヴィド様が魔王として即位なさるのはもう決まりきったことだというのに、今更欲目をかいたか、浅ましい堕天使め」
「そうよ、いずれ魔王として君臨なさるヴィド様のお傍に侍るのは、我々のように由緒正しき魔界の魔族であるべき。間違っても卑しい堕天使などではないわ!」
ああ、そうだな。私は、必要なくなったのだ。他でもない、彼が……ヴィドが、私のことをそのように判断して、最高戦力である幹部らを遣わしたのだ。
それが彼の処断なら、受け入れるさ。はなから、そのつもりだった。
瞼を閉じる。今もなお鮮明に脳裏に浮かぶのは、味方が互いしかいなかった頃のヴィドのこと。
たがいに、変わってしまった。変わり果ててしまった。
だから、きっと、彼なら、私の思惑を分かってくれる、受け入れてくれると、そう期待していた私が、どこまでも甘かっただけなのだ。
「見たかった、な。ヴィドが、魔王に、なるところ、を」
見届けたかった。誰からも顧みられず、孤独に瞳を曇らせていた半人半魔の少年が、魔界の頂点に君臨するさまを。
天界で罪を犯し、薄汚い鴉の姿にされて魔界に堕とされ、踏みつぶされて息絶える寸前だった私を拾ってくれた、唯一の貴方を、私が、魔王にしたかった。
でももう、いいのだ。彼はもう寂しくなんてならない。
こんなにも、彼のことを信じて、どこまでも付いてきてくれる臣下たちが出来た。
もう二度と、彼が孤独に苦しむことはない。
そうだ、思い出した。
ひとりは、こんなにも辛いものだった。
ああ、よかった。彼は、もう、こんな思いをせずにすむんだ。
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