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第二章 転生するにしても、これは無いだろ!
第三十六話
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俺はまだ全て覚えていられる今晩のうちに、対策を立てることにした。
まず、一日の行動のプログラムをあらかじめ完璧に立てておくこと。そして、その日あったことを寝る前にすべて書き記し、引き継ぎ書を毎日作ることに決めた。
これを継続できる知能がある限りは必ず続けることが今後の俺の課題というわけだ。
もう殆ど内容はうろ覚えだが、小説のストーリー上に、ジルラッドが魔術の腕を磨くキーアイテムとして登場した、記憶を保管できる魔法道具なる存在があったような気がする。
学園の図書館でその作り方を調べ、失くしたくない記憶はそこにぶち込んでいこうと思う。
俺に潔さなんて皆無だ。出来ることはやってから死にたい。タイムリミットがあるなら、尚更だ。
記憶が残らないから、友達なんかは絶対作れないけど、そこはもう割り切るしかないだろう。
これほどまでに眠るのが怖い日は無かった。いつまでも明日が来なければいいと何度思ったか。
これからの俺には一日しかない。次第にその一日すら奪われ、奪われたことすら忘れた廃人になるのだ。そんなの、死んだも同然ではないか。
でも、だからって、あの母親にすべて奪われるのはものすごく業腹だ。
あの子との思い出だけは、あの子と一緒に過ごした時間をかけがえなく大事に思っていた俺の想いだけは、奪われてなるものか。
最早学園において勉強の目的は果たせないと見ていいだろう。それでも俺が学園へ行くのは、せめて少しの間だけでも、あの母親と距離を置いて、全てを忘れてしまう俺の頭から、失くしたくない大切な記憶を切り離して大切に保管する方法を探し出すためだ。
入学までの間、俺は「一日で全てを忘れる」生活に順応することに専念した。
信じたくなかったが、見事に昨日あったことが思い出せない……と言うか、感覚としては、今日は〇日のはずなのに、実際はその翌日で……みたいな感じ。まるで俺だけ時間が止まったみたいだ。
あの薬を飲まされた晩に考えたプログラムをただひたすら機械的に実行し、寝る前に今日あった重要なことを全て書き出し、翌日の計画を出来れば分刻みで立ててから、眠れない夜を寝る。その繰り返し。
なんだか、俺には一日しかない、と思うと、すごく必死になる。「明日やろう」が絶対に通じないから、今日できることは全て今日やらなければならない。自然忙しくて、あまり考えても辛いことは考えないようになった。
そんなこんなで過ごしていれば、いつの間にか入学の日がやってきていた。入学式と、入寮式、学校案内などなど、みっちり凝縮された一日。
俺は取り立てて優秀でも何でもないのに王子だからって色々な新入生挨拶を押し付けられたので、なかなか大変だった。
学園は全寮制で、寮は2人部屋だ。しかし、王族と言うこともあってか、俺には一人部屋があてがわれた。
いつまでもルームメイトの名前を覚えない奴なんて失礼以外の何物でもないので非常に助かった。
魔法を使って、俺だけにしか見えない字で、毎朝毎朝知らない天井になるそこに、「今日は○月〇日、ここは王立学園の寮の自分の部屋、引き継ぎ書は机の上」と刻む。
それからは、引き継ぎ書と計画書に書かれたことを只管機械的にこなしていく。
そんな単調な日々を繰り返す学園生活が始まった。授業に出たって仕方がないので、俺は朝から学園の大きな図書館に籠って、閉館まで調べものをして過ごす。
正直単位に関してはどうとでもなれ、って感じだ。一応テストだけは一夜漬けで挑んでみるつもりだが(睡眠を挟まなければ記憶は翌日まで持続するのだ)。
記憶を保管できる魔法道具と、その作成方法については、比較的すぐわかった。
魔法道具の名前は「リラの箱庭」。魔力を注ぎながら育てたライラックで羊皮紙を染め、ノートを作り、そこに自分の血液と育てたライラックの花の蜜を混ぜたインクで記憶を書き込んでいくのだ。
なんだか呪術じみているし、花を育てるなんてガラじゃなさすぎるが、仕方がない。
リラの箱庭に入れた記憶は、以降自分の中に残らない。しかし、そのかわり、ノートを読み返せばその記憶が追体験できる。
これがひどく魅力的だった。下手したら、このノートに一日中かじりついて戻ってこれないかもしれない。
それはそれでいいか。どうせ俺廃人からの断頭エンドまっしぐらだし! 廃人にさせられるより自分から廃人になる方がマシだ、多分な。
ただひたすら目的のために単調なルーティンを熟すだけだから、一日が短い事と、夜考えることが多いこと以外にこれといった悩みは無い。
勿論夜は沢山沢山悩むし、眠ることはずっと怖いが、殆どの悩みは次の日の朝目覚めれば消えている。
それが怖くなくなった自分が一番怖いけどね。きっとこうやって色々消えていくんだろうな。うわー、嫌すぎ。
全く実感なんて無いけど、こんな風に毎日毎日を消費していたら、いつの間にか1年くらい経っていた。俺にとっちゃあの日から一日たりとも進んでないんだけど。
そして、実感もなく出来上がったリラの箱庭に、思いつく限りの記憶を全て書き入れていっている。これが滅茶苦茶楽しい。
ノートを前にして、ペンを手に取り、特製のインクをペン先に付けて目を閉じれば、夢みたいにジルラッドとの思い出を追体験するのだ。
大体目を覚ました時にはボロ泣きしてる。過去の俺の日々光り輝きすぎ。
記憶はリラの箱庭の中に仕舞われて俺の頭からは消えるけど、感情が消えるわけではなかった。これは、惜しみつつ仕方なく寝て目覚めた後も同じことだった。
なんか知らんけどあの子との時間が恋しい。なんか知らんけど滅茶苦茶会いたい。そんな感じだ。
あの子ともう二度と会わない、と決めた最後の日。その記憶は、最後に仕舞う。だってそうじゃないと普通に会いに行っちゃうだろうし。全寮制という環境に感謝だ。
あとの課題は、この記憶がいっぱいに詰まったリラの箱庭を、どうするかだよな。マジでどうしたもんか。俺が持っておくのが一番危ないからな……。
あ、あるじゃん、俺の大切なもの全部託してるところ。
申し訳ないけど、あの子に頼むしかなさそうだな。
あとは……あと……あれ?
もう、やること無い?
じゃあ、なんだっけ。
俺が生きてる意味って。
まず、一日の行動のプログラムをあらかじめ完璧に立てておくこと。そして、その日あったことを寝る前にすべて書き記し、引き継ぎ書を毎日作ることに決めた。
これを継続できる知能がある限りは必ず続けることが今後の俺の課題というわけだ。
もう殆ど内容はうろ覚えだが、小説のストーリー上に、ジルラッドが魔術の腕を磨くキーアイテムとして登場した、記憶を保管できる魔法道具なる存在があったような気がする。
学園の図書館でその作り方を調べ、失くしたくない記憶はそこにぶち込んでいこうと思う。
俺に潔さなんて皆無だ。出来ることはやってから死にたい。タイムリミットがあるなら、尚更だ。
記憶が残らないから、友達なんかは絶対作れないけど、そこはもう割り切るしかないだろう。
これほどまでに眠るのが怖い日は無かった。いつまでも明日が来なければいいと何度思ったか。
これからの俺には一日しかない。次第にその一日すら奪われ、奪われたことすら忘れた廃人になるのだ。そんなの、死んだも同然ではないか。
でも、だからって、あの母親にすべて奪われるのはものすごく業腹だ。
あの子との思い出だけは、あの子と一緒に過ごした時間をかけがえなく大事に思っていた俺の想いだけは、奪われてなるものか。
最早学園において勉強の目的は果たせないと見ていいだろう。それでも俺が学園へ行くのは、せめて少しの間だけでも、あの母親と距離を置いて、全てを忘れてしまう俺の頭から、失くしたくない大切な記憶を切り離して大切に保管する方法を探し出すためだ。
入学までの間、俺は「一日で全てを忘れる」生活に順応することに専念した。
信じたくなかったが、見事に昨日あったことが思い出せない……と言うか、感覚としては、今日は〇日のはずなのに、実際はその翌日で……みたいな感じ。まるで俺だけ時間が止まったみたいだ。
あの薬を飲まされた晩に考えたプログラムをただひたすら機械的に実行し、寝る前に今日あった重要なことを全て書き出し、翌日の計画を出来れば分刻みで立ててから、眠れない夜を寝る。その繰り返し。
なんだか、俺には一日しかない、と思うと、すごく必死になる。「明日やろう」が絶対に通じないから、今日できることは全て今日やらなければならない。自然忙しくて、あまり考えても辛いことは考えないようになった。
そんなこんなで過ごしていれば、いつの間にか入学の日がやってきていた。入学式と、入寮式、学校案内などなど、みっちり凝縮された一日。
俺は取り立てて優秀でも何でもないのに王子だからって色々な新入生挨拶を押し付けられたので、なかなか大変だった。
学園は全寮制で、寮は2人部屋だ。しかし、王族と言うこともあってか、俺には一人部屋があてがわれた。
いつまでもルームメイトの名前を覚えない奴なんて失礼以外の何物でもないので非常に助かった。
魔法を使って、俺だけにしか見えない字で、毎朝毎朝知らない天井になるそこに、「今日は○月〇日、ここは王立学園の寮の自分の部屋、引き継ぎ書は机の上」と刻む。
それからは、引き継ぎ書と計画書に書かれたことを只管機械的にこなしていく。
そんな単調な日々を繰り返す学園生活が始まった。授業に出たって仕方がないので、俺は朝から学園の大きな図書館に籠って、閉館まで調べものをして過ごす。
正直単位に関してはどうとでもなれ、って感じだ。一応テストだけは一夜漬けで挑んでみるつもりだが(睡眠を挟まなければ記憶は翌日まで持続するのだ)。
記憶を保管できる魔法道具と、その作成方法については、比較的すぐわかった。
魔法道具の名前は「リラの箱庭」。魔力を注ぎながら育てたライラックで羊皮紙を染め、ノートを作り、そこに自分の血液と育てたライラックの花の蜜を混ぜたインクで記憶を書き込んでいくのだ。
なんだか呪術じみているし、花を育てるなんてガラじゃなさすぎるが、仕方がない。
リラの箱庭に入れた記憶は、以降自分の中に残らない。しかし、そのかわり、ノートを読み返せばその記憶が追体験できる。
これがひどく魅力的だった。下手したら、このノートに一日中かじりついて戻ってこれないかもしれない。
それはそれでいいか。どうせ俺廃人からの断頭エンドまっしぐらだし! 廃人にさせられるより自分から廃人になる方がマシだ、多分な。
ただひたすら目的のために単調なルーティンを熟すだけだから、一日が短い事と、夜考えることが多いこと以外にこれといった悩みは無い。
勿論夜は沢山沢山悩むし、眠ることはずっと怖いが、殆どの悩みは次の日の朝目覚めれば消えている。
それが怖くなくなった自分が一番怖いけどね。きっとこうやって色々消えていくんだろうな。うわー、嫌すぎ。
全く実感なんて無いけど、こんな風に毎日毎日を消費していたら、いつの間にか1年くらい経っていた。俺にとっちゃあの日から一日たりとも進んでないんだけど。
そして、実感もなく出来上がったリラの箱庭に、思いつく限りの記憶を全て書き入れていっている。これが滅茶苦茶楽しい。
ノートを前にして、ペンを手に取り、特製のインクをペン先に付けて目を閉じれば、夢みたいにジルラッドとの思い出を追体験するのだ。
大体目を覚ました時にはボロ泣きしてる。過去の俺の日々光り輝きすぎ。
記憶はリラの箱庭の中に仕舞われて俺の頭からは消えるけど、感情が消えるわけではなかった。これは、惜しみつつ仕方なく寝て目覚めた後も同じことだった。
なんか知らんけどあの子との時間が恋しい。なんか知らんけど滅茶苦茶会いたい。そんな感じだ。
あの子ともう二度と会わない、と決めた最後の日。その記憶は、最後に仕舞う。だってそうじゃないと普通に会いに行っちゃうだろうし。全寮制という環境に感謝だ。
あとの課題は、この記憶がいっぱいに詰まったリラの箱庭を、どうするかだよな。マジでどうしたもんか。俺が持っておくのが一番危ないからな……。
あ、あるじゃん、俺の大切なもの全部託してるところ。
申し訳ないけど、あの子に頼むしかなさそうだな。
あとは……あと……あれ?
もう、やること無い?
じゃあ、なんだっけ。
俺が生きてる意味って。
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